2011年7月7日木曜日

東京大学地震研究所教授古村孝志氏――地震・津波予測を可視化

動画なら直感的に理解
 国内観測史上最大のマグニチュード(M)9・0を記録した東日本大震災。東京大学地震研究所教授の古村孝志は、コンピューターを使ったシミュレーション(模擬実験)技術を生かして巨大地震や津波の発生過程を分析、可視化した。この技術を紀伊半島や四国沖で想定される東海・東南海・南海の連動地震の予測にも役立てる。
 古村研究室のパソコンの画面には、関西以西の西日本の立体地図が表示されている。古村がキーボードを操作すると、紀伊半島から四国沖南方にかけての広い海域で巨大地震が発生、10メートル超の津波が現れ、高知や和歌山の沿岸に押し寄せた。
 これはすべて古村が自作した動画。東日本大震災後の学会で公開し、注目された。「ただ予測データを示すだけでなく、動画を作って見せれば、自分もほかの人も地震・津波の現実を実感して理解できる」と古村は話す。
 北海道大学の学生だったころ、パソコンが流通し始めた。プログラムを作る技術を持っていた古村はパソコンと運動方程式を駆使し、地震などの自然現象を模擬することに興味を持った。研究者になって最初の5年間は、このシミュレーション技術の高度化に取り組んだ。当時はコンピューターの性能が低かったこともあり、なかなか実用レベルの研究が難しかったが「地味でも独自の楽しさはあった」という。
 そんな下積み時代に終止符を打ったのが、1995年の阪神大震災。高速道路の高架が倒壊するなど悲惨な被害を目の当たりにした古村は「不完全でもいい。とにかく、人々に地震が起きた仕組みを説明しないといけない」と奮起。東大地震研の研究者と共同で地震波のデータを分析。阪神大震災のシミュレーションに取り組んだ。
 阪神大震災では、震源の活断層帯の分布と震度7を記録した地域が食い違った。古村らのシミュレーションでは、六甲山脈の固い地盤と、南方の海面下で急激に深くなる地形の影響で、震度7の「震災の帯」が神戸市の市街地に出現した様子がはっきりと示された。コンピューターの性能向上も、研究を後押しした。
 それから16年後、今度は東北沖で「想定外」の巨大地震が起き、多くの人命や財産が失われた。M9の巨大地震を想定できなかった多くの地震学者と同様、古村も「自然が残したメッセージを謙虚に見る必要がある」と話す。例えば、津波が陸地に運んだ堆積物などを調べることで過去の巨大地震を知り、予測に生かすという試みだ。
 今、古村が主に取り組んでいるのが東海、東南海、南海地震が連動して起こる巨大地震の研究だ。文科省の委託を受け、地震、津波の規模や被害を予測する。この巨大地震についても古村は「より南方の海溝寄りで津波地震が起き、4連動になるのでは」とみている。東日本大震災でも宮城県沖や福島県沖などの沿岸部に加え、沖合で大きな津波を伴う地震が起きたためだ。
 4連動の地震が起きれば、3連動に比べ1・5~2倍の最大12メートル程度の津波が西日本を襲う可能性がある。予想浸水域などのハザードマップも見直しも必至だ。政府の中央防災会議の専門委員会の委員も務める古村は震災後、多忙を極めるが「今仕事をせずにいつやるのか」と自らを励まし、地震・津波との戦いに挑む。
=敬称略
(草塩拓郎)
主な業績
地下モデル修正 異分野とも協力
 地震動データを解析し、強い揺れや津波を模擬することが専門。2002年以降は地球シミュレータなどのスーパーコンピューターを使い、東南海、南海地震などを予測。得た知見を地下構造モデルの修正に生かした。
 08年以降は文科省の委託を受け、東北大や京大、名大と共同で東海、東南海、南海地震の揺れや津波の規模、被害の予測研究を実施。防災に生かすため、堆積物や建築といった異分野の研究者や、ガス・水道などのライフライン関連の事業者と協力して研究を進めている。
 ふるむら・たかし 1963年、富山県出身。92年北海道大学大学院博士課程修了。96年北海道教育大学助教授、2000年東京大学地震研究所助教授、08年から現職。

JAXA、電波天文衛星、開発中止へ

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6日までに、2012年の打ち上げを目指していた電波天文衛星「アストロG」の開発中止を決めた。巨大ブラックホールなどから来る電波をとらえるアンテナの精度を高めることが難しくなったため。近く、文部科学省の宇宙開発委員会に報告して正式決定する。
 アストロGは1997年に打ち上げた電波天文衛星「はるか」の後継機。ブラックホールの構造の解明や、高速のガスがブラックホールから吹き出す「ジェット」の詳細な観測を目指していた。
 開発研究を進めていたが、口径約10メートルの大型アンテナの開発が難航していた。目標の観測精度を達成するためには大幅な追加予算が必要とわかり、開発の継続は難しいと判断した。総開発費は143億円。

豊橋技科大、粒子混合で新技術、透明な樹脂を導電体に

 豊橋技術科学大学の武藤浩行准教授は6日、絶縁体の樹脂を電気が流れるよう改良する新技術を開発したと発表した。樹脂の粒子と導電体の粒子をそれぞれ正と負に帯電させて混ぜる。成形すると透明性を保ったままどの方向にも電気が流れる材料を作れる。様々な異種原料同士の組み合わせに応用できるという。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトの成果。電機や食品メーカー6社と応用に向けた共同開発に着手した。
 今回、電気がよく流れるアクリル樹脂を作ることに成功した。樹脂の微粒子を陽イオンの分散剤、導電性があるカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)を陰イオンの分散剤に入れてそれぞれを正と負に帯電させた。両者を純水中で混ぜると樹脂の表面にナノチューブが均質に付着した。
 この粒子を型に入れて加熱圧縮すると導電性材料になる。黒色のナノチューブの配合量は、樹脂に対して1万分の1以下と少ないため透明性を保つ。新技術は他の粒子同士にも応用でき、例えば砂糖を塩で覆ったような調味料の作製も可能だという。

有機エレ、実用化の研究拠点、山形大、基礎と両輪体制

山形大学は、山形県米沢市内に有機エレクトロニクス分野の実用化研究拠点を建設する。2013年春の本格稼働を見込む。同大は今春、基礎研究を担う「有機エレクトロニクス研究センター」を開設したばかり。結城章夫学長は会見で「基礎研究から産業化まで踏み込むことで世界的戦略拠点づくりが大きく前進する」と強調した。
 新拠点は「有機エレクトロニクスイノベーションセンター」(仮称)。米沢オフィス・アルカディア(米沢市)内に整備する。約1万平方メートルの敷地に延べ床面積約3800平方メートルの研究棟を建設。空気清浄度が極めて高い「クラス10000」のクリーンルームを核に、実験室や事業化支援室などを設ける。土地代も含めた総投資額は約16億円。
 主な研究テーマは同大が強みとする有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)のほか、有機太陽電池、有機トランジスタなど。従来の真空蒸着方式に代わり、量産に向く印刷技術を応用した次世代有機デバイスの製造プロセスの確立などに取り組む。
 昨年来構想を詰めてきたが、経済産業省の「イノベーション拠点立地支援事業」に今月1日付で採択された。施設整備費の約3分の2の補助が確定し、早ければ年内にも着工する見通し。
 今春開設の有機エレクトロニクス研究センターには有機EL研究の第一人者、城戸淳二教授ら国内外の一流研究者が結集している。同大は両センターを車の両輪と位置付け、基礎研究から実用化研究まで一貫した体制づくりを目指す。

セメントから半導体ガラス、東工大、低エネルギーで電子放出――太陽電池に利用も

有機EL・太陽電池に利用も
 東京工業大学の細野秀雄教授と金聖雄特任准教授らは、電気を通さないセメントから電気が流れる半導体のガラスを作ることに成功した。低いエネルギーで電子を放出する特徴がある。ガラス粉末を溶剤に溶かしたインクを金属の表面に塗ることで、大画面の有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)や太陽電池の電極に利用できると期待している。
 原料は強化セメントの一種であるアルミナセメント。セメントは絶縁体だが、真空装置に入れて結晶を構成するカルシウムとアルミニウム、酸素からなる直径約0・44ナノ(ナノは10億分の1)メートルのカゴの中の酸素イオンを電子に置換。さらに1230度以上で液体にし、急冷することで半導体のガラスができた。
 細野教授らは2003年、セメントから金属と同様に電気が流れる結晶を作ることに成功。昨年は旭硝子と共同で、消費電力が従来より約3割低い蛍光灯の開発に成功している。今回は結晶を高温で溶かした液体に電気が流れる性質を確認し、さらに急冷すると結晶化せずガラス化することを突き止めた。
 このガラスはアルミなど一般の金属より低いエネルギーで電子が外に飛び出す。この性質を利用すれば、少ない電気で光る有機ELのテレビや照明、電気をより多く取り出せる太陽電池を作れ、省エネルギーや創エネルギーに役立つとみられる。
 ガラスを粉砕した微粒子を溶かしたインクを基板に塗布後、熱処理して性能を高める。ガラスは結晶に比べて低温で処理できる。軽量だが熱に弱いプラスチック基板で大画面のテレビや太陽電池を作るのに適している。