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2015年4月21日火曜日

髪は細胞に宿る、理研、マウスで発毛、資生堂、自分の頭皮から移植、杏林大、iPS使い毛包作る

 髪の毛が抜ける脱毛症状を抱える成人男性は全国で1200万人超ともいわれる。身近な症状だが、なかなか治療法もないのが現状だ。ただ最近では先端の医療技術を駆使、生活を変えていけば髪の毛を再生できることが分かってきた。実現すればビジネスパーソンのメンタル面の健全性が向上するなど「再生」できる経済面の効果も大きい。
 理化学研究所多細胞システム形成研究センターのある研究室。その研究室の飼育箱のなかで動き回る1匹の毛のないマウスに異変が起きた。毛が生えてきたのだ。
 このマウスを育てたのは同研究所の辻孝チームリーダー。同リーダーはマウスの背中にちょっとした仕掛けを施したマウスで、毛のタネを植え付けている。同じやり方で「あと4~5年あれば人の髪の毛も再生できるようになるかもしれない」(辻リーダー)。
 ではこの発毛のタネの正体とは――。
 髪の毛を作る力は毛包組織にある。辻リーダーのタネはこの毛包組織のもととなる「毛包原基」と呼ばれるものだ。胎児の体でこの毛包原基が作られていく過程を調べ、再生のメカニズムを解明した。
 毛包原基は上皮性幹細胞と間葉性の幹細胞と呼ばれる2種類の組織からなる。この組織をマウスから抽出しくっつけコラーゲンゲルで培養する。毛包原基に仕上がった後はこれを皮膚表面に移植、マウスなら1週間程度で毛が生えてくる。
 ただ、簡単ではない。上皮性幹細胞と間葉性の幹細胞をくっつける際、極めて熟練された技術が必要になる。隙間ができないよう高密度に接着しなければならないが、かといって混じり合ってもいけない。ここをうまくコントロールできれば脱毛症の治療が身近なものになるかもしれない。
拒絶反応なく
 JR横浜駅から地下鉄を乗り継ぎ20分余り。横浜市郊外の住宅街の一角に、資生堂リサーチセンターは位置する。約500人の研究者らが勤務する資生堂グループ最大の研究開発拠点だ。
 ここで今、急ピッチで進むのが毛髪研究だ。資生堂はこの分野で1世紀の歴史を持つ。1915年に頭髪向け香水「フローリン」を発売、以来、ヘアケア製品「アデノバイタル」など商品の幅を広げてきた。
 ライフサイエンス研究センターで再生医療開発室長を務める岸本治郎氏が取り組むテーマは、再生医療の技術を使った毛髪の復活だ。脱毛症は最も多い男性型脱毛症や円形脱毛症などいくつかの種類があるが「完全には解明されていない」(岸本氏)。
 そこで資生堂はカナダのベンチャー企業、レプリセルライフサイエンス社と提携。毛根に含まれる髪の毛を伸ばす細胞を増殖し、再び頭皮に戻す取り組みを進めている。
 髪の毛を復活するうえでポイントになるのは、「毛球部毛根鞘(しょう)細胞」と呼ばれる毛根の先端部分だ。この「毛球部毛根鞘細胞」こそが、髪の毛を伸ばすための司令塔としての役割を担っていることを、約10年前にレプリセル社が突き止めたのだという。
 具体的には元気な髪の毛の周囲5ミリの頭皮をカットし、「毛球部毛根鞘細胞」を分離して培養する。増殖した細胞は注射器に入れて脱毛した頭皮に再び注入する。岸本氏は「髪の毛を伸ばす力を失わずに細胞を増殖するにはノウハウが必要」と語る。
 毛髪再生に使う細胞は、自分の頭皮から採取し増殖させる。注射器で頭皮に注入しても、拒否反応を起こす心配がない。欧州ではレプリセル社が既に初期段階の治験を実施し、安全性を確認している。同時に治験を実施した16人のうち10人が、髪の毛の本数が5%以上増えたという。
 資生堂は昨年5月、細胞を培養するために使う細胞加工培養センターを神戸市内に開設。厚生労働省の認可を待って、本格稼働する予定だ。医療機関と連携し国内治験に向けた準備も進める。
コストがネック
 杏林大学皮膚科学教室の大山学教授は、iPS細胞を用いた毛髪の作成を目指す。大山教授は毛包の組織に育つ前の前駆細胞をつくることに成功している。
 ヒトのiPS細胞からまず前駆細胞をつくり、毛の育成を促すマウスの細胞と混ぜる。これをマウスに移植して育てて毛包にし、この毛包から細いながら毛が生えることが確認された。
 毛髪を形作る毛包の元の組織や、毛の育成を促す毛乳頭細胞は単純に培養してしまうと組織を作る力を失う。だが、iPS細胞を用いて作成した毛包の元の組織から少なくとも毛包を形づくることができた。
 問題は毛包をつくる際、今の研究レベルでは生体内と同じ環境にする必要があることだ。「マウスを使うしかないが、生きたマウスの体内で作った毛を移植したいという人は決して多くないはず」(大山教授)という。
 ただ実用化までは少なくとも10年かかる。そもそも「iPS細胞を用いて作成する毛髪はコストが高く、一般的に利用できるものではない」(大山教授)。このため大山教授はiPS細胞を用いた毛髪を直接移植するのではなく、育毛剤などの創薬研究の材料にできないか、研究を進めている。
脱毛症とは
抜け毛と生成
不均衡が原因
 毛が抜けて毛の本数が少なくなる状態をいう。毛の本数が同じでも、太く長い毛が細く短い毛に置き換わることで、髪の毛全体が少なく見えるようになる状態も脱毛症に入る。
 人には約10万本の髪の毛がある。毛には成長期や退行期、休止期があり、数年間伸びた後は抜け落ち新しく生まれかわる。通常は1日に百本程度の髪の毛が抜け、新しい毛もほぼ同数生まれる。
 最も多いのは「男性型脱毛症」だ。病気ではないが男性ホルモンの影響により頭頂部から前頭部の髪の毛が薄くなるのが特徴だ。日本人の成人男性の約3人に1人に現れる自然現象で、早ければ20歳代後半から症状が現れ年齢とともに進行する。前頭部から頭頂部にかけて全般的に髪の毛が薄くなる。
 このほかコインのように円形の脱毛が頭部に生じる円形脱毛症が知られており、病気として治療できる。複数発生することもある。またケガの傷痕から毛が生えなくなる症状や抗がん剤などの副作用で、毛が生えなくなる症状もある。

2015年4月17日金曜日

iPS細胞、実用化段階へ、京大・東大、特許活用に動く、供与方式、企業利益に配慮。

 再生医療の重要な鍵を握るiPS細胞が研究段階から実用化の領域に進みつつある。研究段階の基本特許では京都大学が世界に先行してきたが、実用化に近づくにつれて東京大学も存在感を高めている。両大学がiPS細胞の実用化を推し進めるため、知財戦略にどのように取り組もうとしているのか。それぞれの動きを探った。(松田省吾)
 「場合によっては1社に特許を独占的にライセンスすることを認める」。京大のiPS細胞関連特許の管理会社、iPSアカデミアジャパン(京都市)は最近、知財戦略を転換した。iPS細胞を使った再生医療事業を企業に促すには、1社に独占的にライセンスして利益を確保しやすくすることも必要になるとみるからだ。
 これまでは特許を1社だけに独占的にライセンスすると他の企業と連携する大学などの研究者が研究できなくなる恐れがあるため、認めてこなかった。iPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥・京大iPS細胞研究所長による多くの研究者に研究の機会を提供したいとの意向が反映している。
ビジネスを意識
 方針を改めたのは、ビジネスを意識する段階に入ったからだ。これまで京大にはiPS細胞そのものの作製に関する特許を世界中で早期に取得することが最重要課題だった。京大は約30カ国・地域でiPS細胞の作製にかかわる基本特許を取得する成果を収めた。
 いまの課題はiPS細胞から目や心臓など再生医療に利用する細胞をつくる特許の取得と活用だ。京大はiPS細胞から心臓や骨格筋などの細胞をつくる特許を日米欧で計6件取得済み。現在、京大iPS細胞研では、再生医療につながる細胞をつくる技術の出願が全体の4割を占めており、主戦場と捉えている。
 これらの特許を使った再生医療の実用化には「企業の力が必要で、事業面で利益がでるようにしなければならない」と白橋光臣社長は話す。ただし、1社に独占させると多くの研究者の研究を妨げる恐れのある特許は引き続き独占的なライセンスは認めない方針だ。
 もっとも、具体的にどうライセンス方式を使い分けるかは簡単ではない。京大は日本製薬工業協会などとも相談しているが、特許の保護と活用を巧みに使い分ける例に挙がるのは米アップルなどIT(情報技術)関連企業ばかり。iPS細胞研の高尾幸成・知財管理室長は「バイオ関連では我々が成功例を作らなければならない」と話す。
 東大も動き出した。東大医科学研究所の中内啓光教授らは東大から独占的ライセンスを受けた、iPS細胞からすい臓や肝臓などの臓器を再生する特許の管理会社、iCELL(東京・港)を09年に設立。さらに昨年には米国での事業開始を視野に臓器再生にかかわる技術の実用化を目指す子会社も設立した。
 今年1月には中内研究室から生まれたiPS細胞を使った臓器再生技術にかかわる基本特許が国内で成立した。ヒトや動物のiPS細胞を動物の体内に入れて、ヒトの移植に使える臓器をつくる技術だ。これまでネズミやブタなどの細胞で成功しており、ヒトの細胞でも期待されている。
 両社を率いる三輪玄二郎社長は「iCELLは中内教授による発明の実用化を目指す技術移転機関(TLO)として設立した」と話す。中内研究室からは再生医療にかかわる10件以上の特許が生まれ、米国企業などからライセンスの依頼が届き始めている。
日米ですみ分け
 iCELLの知財戦略の基本は、競合他社などと相互に特許を利用できるようにするクロスライセンスだ。米ベンチャー企業などが求める特許を供与する代わりに相手からも有望な技術を導入し、日米など地域ですみ分けできるようにする狙いだ。臓器再生などに利用する家畜は輸送の問題があるため、国ごとに企業が分かれるとみる。
 東大と京大はiPS細胞の研究で競争するだけではなく、協力関係にもある。iCELLのグループ会社、メガカリオン(京都市)は中内教授と京大iPS細胞研の江藤浩之教授らの研究成果の事業化を目指す企業。iPS細胞から血小板を量産しようとしており、iPSアカデミアジャパンも出資している。
 メガカリオンでも社長を務める三輪社長は「京大はiPS細胞の基本特許で多くの研究者が利用できる広い土台を作った。我々はその上に乗っており恩恵を受けている」と話す。京大と東大がそれぞれの知財戦略に磨きをかければ、企業が連携できる場がさらに広がることが期待される。

「iPS発明国」の面目、富士フイルムの米社買収――山中教授のライバル創業、医療応用巻き返しなるか

 富士フイルムホールディングスが3月30日に買収を発表した米セルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI、ウィスコンシン州)は、iPS細胞製品のデファクト・スタンダード(事実上の標準)を握る可能性があると注目されている存在だ。山中伸弥京都大学教授のライバルが創業者に名を連ね、同社からiPS細胞製品を調達する国内企業も多い。「iPS細胞発明国」の日本だが、医療応用でCDIに後れを取り市場を握られる懸念もあった。買収はその流れを変え、巻き返しの機会となる可能性がある。
 CDIの創業者の一人、ウィスコンシン大学のジェームズ・トムソン教授は、2007年には京都大の山中教授と同じタイミングで、別の科学雑誌にヒトiPS細胞が作製できたと発表した。2人はiPS細胞研究を巡る競争の激しさを象徴するライバルとして、米メディアなどにも取り上げられた。12年に山中教授と英国のジョン・ガードン英ケンブリッジ大学名誉教授はiPS細胞の成果でノーベル生理学・医学賞を受賞したが、トムソン教授は逃した。「なぜ」と疑問を口にする研究者もいた。
がんになりにくい細胞
 しかしビジネスの世界では、トムソン教授のノウハウを引き継いだCDIが事業を大きく広げた。同社の14年通期の売上高(販売協力を含む)は前年比40%増の約1670万ドル(約20億円)。巨額の研究開発費などのために純損益は3000万ドル(約36億円)の赤字だが、iPS細胞から作った心筋細胞や神経の細胞など製品群は豊富で受注は順調という。注目されるのは積極的な特許戦略とデファクト・スタンダードの構築だ。
 CDIがもつ特許の範囲は体の様々な細胞からiPS細胞を作製する技術、iPS細胞から心筋を作る技術など幅広い。中でもウイルスではなくプラスミドと呼ばれる環状DNAを使ってiPS細胞を作る技術は、がんになりにくい安全なiPS細胞を得るのに不可欠とされる。
 日本でも再生医療用のiPS細胞は、プラスミドを使って作るのが当然になっている。患者のiPS細胞から作った細胞で薬の副作用や効き目を調べる用途でも、CDI製品は世界で使われている。このままでは「iPS細胞発明国」の日本が事業化で米国にのみ込まれる――。そんな危機感が強まるなかで、富士フイルムが買収を発表した。iPS細胞の医療応用でCDIに技術、国際標準、供給網などの面で日本勢が包囲網を敷かれるのを防げるかもしれない。
「ストック」どう位置付け
 もっとも、これですべて安泰というわけではない。富士フイルムはCDIの技術や、昨年、子会社化したジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J―TEC)の細胞シート作製のノウハウなどをフル活用すれば、再生医療用の細胞製品の一大供給インフラを手中にできる可能性がある。その時、山中教授が中心となって治療用のiPS細胞の備蓄を進めている「iPS細胞ストック」の位置づけはどうなるのか、心配する声もある。
 iPS細胞ストックは日本人の多くに共通する免疫タイプの細胞を集め、できるだけ多くの人に少ない拒絶反応で利用できるようにするのが狙いだ。国の巨額の支援を受けたiPS関連の最重要プロジェクトの一つでもある。目の難病治療にiPS細胞を使う臨床研究に取り組む理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーも、iPS細胞ストックの細胞の使用を計画している。しかし、今後の治療用製品としての本格的な普及ではCDI製品がリードする可能性もある。CDIは既に、米国人の計19%に移植用として使える免疫タイプのiPS細胞2株を樹立した。
 iPS細胞ストックと、事業化の実績があるCDIの細胞をどう使い分けるか。医療現場のニーズをくみつつ、iPS細胞技術を最大限に安全かつ有効に使うにはどうしたらよいのか、国と産業界、患者団体などが連携して考えていかなければならない。

2013年5月16日木曜日

iPSから造血幹細胞、東大、マウスで治療効果。

 東京大学の中内啓光教授らはマウスの体内を使い、人間のiPS細胞から血液のもとになる造血幹細胞を作ることに成功した。別のマウスへの移植で治療効果があることも確認した。白血病など血液の難病の治療法研究に役立つ。米科学誌(電子版)で14日発表した。
 iPS細胞をマウスに移植するとできるテラトーマ(奇形腫)という良性腫瘍に着目。細胞の増殖を促すたんぱく質などとともに人のiPS細胞をマウスの皮下に投与し、腫瘍の中で造血幹細胞が育ちやすくした。
 腫瘍から骨髄に集まった造血幹細胞を採取し、人為的に造血幹細胞を壊した別のマウスに移植した。マウスは致死量の放射線を浴びていたが、移植後も生き延びた。骨髄に集まった造血幹細胞はリンパ球などすべての血液細胞を生産していた。
 iPS細胞を体外で人工的に培養する従来の手法では十分に働く造血幹細胞を作るのが難しかった。ただ、今回の成果を治療に生かすにはブタなどの大きな動物で造血幹細胞を大量に作る技術などの確立が必要になる。
 テラトーマを人間の体内で作るのは倫理的に問題がある。当面はiPS細胞から病態を再現した造血幹細胞を作り、血液難病の発症の仕組みや治療法の研究に生かす。

2013年1月31日木曜日

再生医療に法規制―iPS細胞など承認制に、厚労省、今国会提出へ



 厚生労働省は人の幹細胞などを使った再生医療の規制を法制化する方針を決めた。人体へのリスクが大きい治療は医療機関が国の承認を受けることなどを義務づける。iPS細胞をもとに作った細胞などを移植する場合に規制を適用する考えで、iPS細胞の実用化に備える。
 30日に開いた有識者らの専門委員会で議論した。2月に開く次回会合で取りまとめ、今国会に提出、成立を目指す。
 導入する規制は3種類で、使う細胞の種類や人体へのリスクに応じて分類する方針。臨床で使われたことがないiPS細胞などは厚労相の事前承認が必要となる。体性幹細胞を使う手法など、安全性がある程度確立したとみなされた治療は第三者委員会の審査を受け、届け出る。
 患者に健康被害が生じた場合は補償する。細胞の培養や加工を担う施設の基準なども定める。
 現在、大学などが実施する再生医療の臨床研究には国の指針がある。一方で、クリニックなどが自由診療で独自の再生医療を実施。安全性や高額費用などが問題視されるケースもある。厚労省は再生医療に法規制を導入し、不信感の広がりを食い止める。
 日本再生医療学会の岡野光夫理事長は、細胞を使う再生医療は高い技術が必要だと指摘。規制法は「安全で効果的な治療法を患者に届けるために前進だ」と評価している。

2013年1月30日水曜日

オリエンタル酵母、広がる領域――iPS研究や動物園に貢献

 パン作りに欠かせないイースト(酵母)の最大手、オリエンタル酵母工業は1929年に発足した日本初のイースト製造会社。80年余りを経て、いくつもの事業領域を持つ企業に進化した。
 たとえば、2012年のノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥氏が所長を務める京都大学のiPS細胞研究所が使う研究用マウスは3年前から同社が提供している。iPS細胞関連では培養に使えるたんぱく質なども販売している。
 上野動物園(東京・台東)、東武動物公園(埼玉県宮代町)などには飼料も納めている。年商は数億円に上る。東日本大震災のときには被災地の動物園に飼料を配って回り、話題になった。
 何の脈絡もなさそうに見えるこれらの事業はすべてイーストから派生している。イーストの発酵技術を生かし、1951年に実験動物用の飼料に参入し、80年代にはバイオテクノロジーを本格的に開始した。
 同社の主力事業はイーストや「フラワーペースト」と呼ばれる菓子パン向けクリーム。10年12月の上場廃止以降、業績の詳細は公開していないが、バイオ事業などの副業は年商約600億円のうち、4分の1程度とみられる。50年以上を費やし、イーストから派生した堅実な多角化路線が国内の食品市場が縮小するいま、業績を下支えしている。
 事業の多角化は難しい。国内の食品、飲料メーカーでも事業領域を広げるM&A(合併・買収)が活発だが、「大きな相乗効果が出た成功事例はあまり見かけない」(食品メーカー幹部)のが現状だ。
 味の素はアミノ酸を応用して食品や飼料、医薬品、半導体用フィルムまで生産している。昨年10月、アサヒグループホールディングスにカルピスを920億円で売却した。カルピスは乳酸菌が中核技術の会社。思うように相乗効果が出せず、見切った格好だ。カルピス売却はコア技術であるアミノ酸への「特化」を意味する。
 中核技術に磨きをかけることは、時間がかかる。ただ、その道の「オンリーワン」になれば得られる果実は少なくない。デフレ、原材料高など厳しい時代だからこそ、地道な戦略が必要だ。

2013年1月29日火曜日

リプロセル、アルツハイマー薬、開発用神経細胞、iPSから2種生産。


新薬候補探索、効率的に
 バイオベンチャーのリプロセル(横浜市、横山周史社長)はアルツハイマー病の治療薬開発に使う神経細胞のうち、「グルタミン酸」で神経伝達するものをiPS細胞から安定生産する技術を確立した。4月から製薬会社や大学に供給を始める。もう1つのiPS由来神経細胞と合わせると、アルツハイマー病治療薬候補の探索に必要な神経細胞がそろうことになり、新薬開発の効率が高まるという。
 アルツハイマー病の患者は、アセチルコリンという物質の刺激によって神経伝達をする「コリン作動性神経細胞」と、アミノ酸の一種であるグルタミン酸で神経伝達する「グルタミン酸作動性神経細胞」の両方の細胞に異常が見られることが知られている。
 リプロセルは2010年に、iPS細胞から作り出したコリン作動性神経細胞を発売した。今回発売するグルタミン酸作動性神経細胞と同時に使用すれば、より詳細にかつ迅速にアルツハイマー病の治療薬候補が探索できるようになるという。
 両細胞ともに、正常なヒト神経細胞の特徴を持つ通常型と、アルツハイマー病の患者の神経細胞と同じように細胞内に「アミロイドベータ」というたんぱく質が蓄積しやすい特徴を持つ「アルツハイマー病モデル神経細胞」を品ぞろえする。
 グルタミン酸作動性神経細胞は96サンプル分の試験ができる細胞1セットが20~30万円になる予定。年間売上高としては約2000万円を目指す。

2013年1月24日木曜日

ヒトiPSで毛包再生、慶大、マウス実験、男性脱毛症の治療に期待。

 慶応義塾大学の大山学専任講師と岡野栄之教授らはヒトのiPS細胞を使い、毛を作り出す「毛包」と呼ぶ組織の一部を再生することにマウス実験で成功した。男性の脱毛症などの治療に役立つ可能性がある。成果は米科学誌ジャーナル・オブ・インベスティゲイティブ・ダーマトロジー(電子版)に発表した。
 研究チームはヒトのiPS細胞から、毛包を形成する細胞「ケラチノサイト」になる一歩手前の前駆細胞を育てた。これを毛の作製を促すマウスの線維芽細胞と混ぜ、実験用マウスの皮膚に植えた。2~3週間後に毛包の一部が体内で再生し、毛髪も作られていた。
 ヒトのiPS細胞から作った細胞が、毛包の構造を担っているのも確認した。今後は、マウスの細胞を使わずに、毛包を再生する技術の開発を目指す。再生した毛包は発毛剤などの開発にも役立つと期待している。
 脱毛症に対しては、自分の毛包を採取して植毛する手法などがあるが、毛包の数を増やすことはできず限界があった。

2011年7月19日火曜日

iPS細胞の特許出願、米国が半数超す、日本は2位。

 新型万能細胞(iPS細胞)に関する国際特許の出願は、米国が半数以上を占め、日本は米国の半数ながら2位に付けていることが、札幌医科大学の石埜正穂准教授らの分析で分かった。大学や公的研究機関からの出願が約7割とiPS細胞は基礎研究段階にあるが、治療に関する出願も約1割あり、研究の裾野の広がりがみてとれる。
 国際特許を出願し2010年10月~11年4月に公開された123件の動向を分析した。国別では米国が70件。iPS細胞の「生みの親」である京都大学の山中伸弥教授を含む日本勢は32件だった。ほかに韓国とドイツが各4件でシンガポールは3件。フランス、イスラエル、中国、英国はいずれも2件だった。
 機関別では大学や公的研究機関が89件で、企業は28件。出願特許の半数はiPS細胞の作製や選別、培養の工夫など。肝臓や神経など目的の細胞への分化や、がんをもたらす不完全な細胞をどう取り除くかなど、再生医療の実現に欠かせないテーマも16件あった。
 「米国ほど研究資金が豊富ではない日本も健闘している」(石埜准教授)という。

京大のiPS細胞特許戦略、取得絞り込みに転換、保有のコスト抑える。

 京都大学iPS細胞研究所は、再生医療へ応用を目指す新型万能細胞(iPS細胞)の特許戦略を見直す。研究成果を幅広く特許にしてきたが、取得特許を絞り込む方針に転じる。特許の保有などにかかるコスト負担を一大学で担うのは重すぎるためだ。日本発の成果をどう生かすのか国や企業を含めた日本全体で考える時期に来ている。
 京大は山中伸弥京大教授ら先端研究者を集め、出願した特許を所持し続けるかどうかを判断する基準の策定づくりに着手した。11日には作製技術の特許が欧州で初めて成立したと発表したが、拡大一辺倒の戦略を改める。
 iPS細胞の特許は、再生医療に不可欠と分かれば価値が高まる。ところが現在の研究水準ではまだ治療までの道のりは長く、どの技術が主流になるのかを見通すのは非常に難しい。
 iPS細胞の特許は作製法関連が多い。細胞に加える遺伝子の種類が違うと特許の権利は及ばない。特許をいくつか押さえるだけで将来の臨床応用を有利に運べるほど簡単ではない。
 そうなると相当数の特許を押さえなければならない。だが、大学が膨大な特許を囲い込む戦略は長くは続かない。
 京大は約70件の特許を出願済み。成立した特許権は国内3件。海外は欧州の1件のほか、ロシアなど旧ソ連9カ国で効力を持つユーラシア特許や南アフリカ、シンガポールでそれぞれ1件取得。出願や保有に年間の出費が数千万円にもなる。
 松本紘総長は「特許の維持や申請などの費用は大きい。国などに支援を受けたい」と訴える。山中教授は「知財の専門家をどう(継続して)雇用するのかも今後の課題」と話す。
 iPS細胞ほどの最先端研究となると進歩が早く、技術はすぐに時代遅れになる。今回取得した欧州の特許は2005年の国内出願がもとになったが、権利成立までには長い歳月がかかる。主流から外れた技術を持っているのは無駄だ。必要な特許の絞り込みなどコスト削減が急務となっている。
 京大が特許取得に力を入れてきたのは「企業ではなく大学が特許を保有すれば、誰にでも安価に実施権を提供できる。研究者が安心して研究でき、(結果的に)京大発のiPS細胞の治療応用の実現が近づく」との思いからだった。
 それでも実用化が近づいたときには海外などで特許を巡る訴訟も予想される。京大の特許は米国でも成立する可能性が高いが、権利の抵触や無効を訴えられるリスクが指摘される。特許訴訟1件で数億円の負担が予想されており、大学が対処するには限界が見えている。
 再生医療の普及時は、企業や研究機関は互いのiPS細胞特許を自由に使えるようにする現実的な対応を探るとみられる。
 そのときまでに本当に必要な特許をどれだけそろえておけるのか。特許取得を絞り込む京大は、研究成果の将来の価値を見極めるという新たな課題と向き合う。

2011年7月12日火曜日

iPS細胞、欧州で特許、京大の作製技術、企業に広く使用権

 京都大学は11日、新型万能細胞(iPS細胞)の作製技術に関する特許が欧州で初めて成立したと発表した。皮膚細胞などに3種類の遺伝子を入れてiPS細胞を作製する基本的な技術が対象。京大は企業に広く特許使用権を供与する方針だ。iPS細胞の研究が活発な欧州で有力技術を1社に独占されずにすみ、再生医療や創薬など関連産業の成長を後押しする。
 特許は2005年の国内出願をもとに08年に欧州特許庁に出願、今月7日に正式に成立の通知を受けた。今後、英国やドイツ、フランスなど17カ国で国ごとの特許登録手続きを進める。
 今後、企業などとのライセンス契約は京大関連の特許管理会社、iPSアカデミアジャパン(京都市)を通して結ぶ。京大は海外勢が有力な特許を持つ場合に、クロスライセンス交渉などに使える有力な武器を手に入れたことになる。
 開発者の山中伸弥・京大教授は記者会見し、「成立した特許の対象は基盤的な技術。今後も(1社に独占されず)多くの企業が(iPS細胞の研究に)参入できるよう知財の確保を進めたい」と述べた。
 今回成立したのは「Oct類、Klf類、Myc類の遺伝子などの初期化因子」に関する特許。これら3種の遺伝子や、遺伝子が作るたんぱく質などを使ってiPS細胞を作るかなり広い範囲の技術が対象だ。
 京大の松本紘総長は「大学が特許を取得すれば研究者が安心して研究に取り組める」と指摘する。昨年1月には米ベンチャー企業のiPS細胞作製技術の特許が英国で成立。米国でも同社の特許出願が京大の特許成立を阻むとの懸念が出ていた。その後、事業戦略を転換した同社から京大が特許権を譲り受けた経緯がある。
 iPS細胞の特許動向を調べる札幌医科大学の石埜正穂・准教授は「今回、広い範囲(の技術)で特許を取得できたことは評価できる」と指摘する。ただ「iPS細胞を応用する治療が実現する際に、どの技術が使われるかは不明。取得した特許の経済価値はまだ分からない」という。
 京大はiPS細胞の作製技術などに関する特許を約70件出願済み。国内では3件が成立した。海外では南アフリカ、シンガポールで成立したほかロシアなど旧ソ連9カ国で効力を持つユーラシア特許も取得済みだ。
 しかしiPS細胞を応用した創薬や再生医療で将来、大きな市場が見込める米国や欧州では成立していなかった。山中教授と研究競争を繰り広げてきた米国の大学や企業に加え、中国の研究機関なども将来の関連産業の成長を見込み米欧などでの特許取得を狙っている。

ES細胞、多能性維持の仕組み発見、埼玉医大、がん化回避に期待

 埼玉医科大学の奥田晶彦教授らは、胚性幹細胞(ES細胞)で特定のがん関連遺伝子が働かなくても、様々な細胞に分化できる能力を保てることを突き止めた。細胞培養の条件を工夫すればよいという。この遺伝子は、新型万能細胞(iPS細胞)をがん化させる危険性が指摘されている。万能細胞の医療応用時の安全性向上などに役立つ可能性がある。
 成果は米科学誌「セル・ステムセル」(電子版)に掲載された。ES細胞やiPS細胞の特徴である多能性の維持には、c―Mycというがん関連遺伝子の働きが不可欠と考えられてきた。
 研究チームはマウスES細胞を操作し、この遺伝子が働けない状態にした。通常の方法で培養すると、多能性などES細胞の特性を失って細胞死に至る。
 そこでES細胞に、分化を抑える薬剤を加え培養すると、遺伝子が働かなくても多能性を失わなかった。この遺伝子は分化を抑える役割があり、それを薬剤が代替していた。人のES細胞やiPS細胞でも同様の結果が得られるとみている。
 山中伸弥京都大学教授が開発したiPS細胞作製法では、皮膚細胞などに入れる遺伝子の1つにc―Mycを使う。しかしがん化をもたらす危険性があり、この遺伝子を使わない作製法も開発されている。
 ただ完成したiPS細胞やES細胞の内部ではc―Mycが働いており、細胞が本来持つがん化のリスクはなくせない。今回の手法を応用すれば、がん化を回避して安全性を高められると期待している。