遺伝子の働きが老化やストレスなどの周辺環境によって変わるエピゲノム。がん発症の仕組みなどを調べる中で、その働きが分かってきた。最新の研究では国民病といわれる糖尿病による腎臓機能低下などとの関わりも明らかになりつつある。
糖尿病による合併症で多いのが腎症だ。一定以上進行してしまうと、薬で血糖値を下げていてもさらに悪化するケースが多いという。東京大学先端科学技術研究センターの藤田敏郎特任教授と丸茂丈史特任講師は、その原因が腎臓の細胞のエピゲノム変化にあるとにらんでいる。 藤田特任教授らは科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)として研究を実施。糖尿病性腎症が、腎臓細胞の特定の遺伝子にメチル基という分子がくっつきにくくなって起こる可能性が高いことを突き止めた。 病気のモデルマウスの腎臓を調べると、尿細管の細胞の遺伝子に通常くっついているはずのメチル基がなかった。この結果、遺伝子が過剰に働き、尿細管の機能を破壊していると考えられるという。マウスに血糖値を下げる薬を投与すると、メチル基がくっつき、遺伝子の働きも抑制できた。 糖尿病では血液中の血糖が増えメチル基が外れてしまうらしい。そこで東大病院と協力し、糖尿病の患者の尿にわずかに混じる腎臓細胞を採取し、エピゲノムの変化を調べる研究を始めた。 病気進行との関係が分かれば、変化したエピゲノムを元の状態に戻す薬や血糖値を下げる薬などを使い、腎症の治療や予防につながる可能性がある。「将来は患者の尿からエピゲノムの状態を調べて腎症の進行度を判定し、患者にあった薬を選べるようにしたい」と藤田特任教授は意気込む。 エピゲノムの仕組みを治療に役立てる試みはがん分野で先行した。がん化を抑える遺伝子にメチル基がくっついて機能を抑制するのを薬で妨げる。既に、白血病の前段階である骨髄異形成症候群向けの薬が日米欧などで使われている。 今注目されているのが精神疾患の分野だ。理化学研究所の加藤忠史チームリーダーらは双極性障害(そううつ病)の患者を対象に、情報伝達物質のセロトニンを正しく運ぶ遺伝子のエピゲノムと発症との関連を調べた。 もともと持っている遺伝子がまったく同じ一卵性の双子で、一方だけが双極性障害を発症しているケースに着目。リンパ球の一種のDNAを解析し、両者の違いをみつけた。 患者ではセロトニンを運ぶ遺伝子の働きが低下していた。メチル基がこの遺伝子の関連箇所にくっついていたためだった。ストレスなどの影響で、メチル基の付き方に差が生じた結果、双子でも発症に違いが起きたと研究チームはみている。 糖尿病や精神疾患などは根治が難しい。エピゲノムに焦点を当てた研究ががん以外でも実を結べば、治療に大きな進歩をもたらしそうだ。 |
2013年1月30日水曜日
CRESTエピゲノムの診断・治療技術
2013年1月29日火曜日
CRESTエピゲノムの診断・治療技術
食生活や老化、ストレスなどの後天的な要因で遺伝子の働きが変わる「エピゲノム」。様々な病気と関係すると考えられ、世界で診断や治療に関する技術の研究が活発になってきた。日本で先頭を走るのが、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」だ。
「ようやく肝臓のエピゲノムの解読にメドがたった」。国立がん研究センター研究所の金井弥栄・分子病理分野長はこう話す。正常な人の組織ごとにエピゲノムを調べる作業に取り組んでいる。肝臓や胃、大腸、腎臓を担当し、プロジェクト開始から1年余りで肝臓をほぼ解読し終えた。
がんの手術で摘出された組織の一部を執刀医と患者から提供してもらって解析する。シーケンサーなど専用の解析装置をいくつも使いながら、ゲノムを構成する30億個の塩基にくっつくメチル基やアセチル基など分子の有無を調べる。
さらに、メチル基やアセチル基が約2万2000個あるといわれる遺伝子のどの部分にくっついているのか、それとも外れているのかを確かめる。メチル基やアセチル基はついたりはずれたりしやすく、どの結合・離脱状態なら正常なのかがはっきりとわかっていない。「かなり高度な解析技術が必要となる」と金井分野長は指摘する。
プロジェクトの目的のひとつは正常な細胞のエピゲノムを決めることだ。2011年に本格始動した国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(IHEC)にも参加している。
IHECには日本のほか、欧州連合(EU)、米国、カナダ、韓国などが参加。健康と病気に関係するエピゲノムのうち1000種類の解読を5年間で終えることを目指している。
日本は肝臓や大腸、胃などの消化器と、血管内皮、胎盤や子宮内膜などを担当する予定。他の国は血液の細胞などが主体だ。IHECの臓器分担のワーキンググループリーダーを務める牛島俊和・同研究所上席副所長は「ユニークな組織の解読に挑んでいるため、注目されているようだ」と話す。
IHECが取り組んでいるエピゲノム解読手法の国際標準作りでも貢献を目指す。東京大学の白髭(しらひげ)克彦教授らは大阪大学などと共同で、DNAが巻きついているたんぱく質のしっぽの部分に結合するアセチル基やメチル基を高い精度で特定する技術を開発した。ドイツやカナダ、米国のチームに提供し、評価を受けている。
さらに、ひとつの細胞からDNAをまんべんなく増やして塩基配列を解読する手法も開発中だ。エピゲノム解読に必要な細胞を、現在の1千万~100万個から、1万個程度に引き下げることを狙っている。
1万個程度の細胞で検査できないと、実際の医療現場では使いづらいという。新技術はIHECが進める国際標準の手法に採用される可能性もあるとみている。白髭教授は「日本発のエピゲノム解析技術が世界中で使われれば、将来、医療応用される場合に有利になる」と意気込む。
2013年1月24日木曜日
遺伝子のスイッチ役「エピゲノム」研究――がん治療薬も登場、創薬競争が本格化。
エピゲノムはDNAに刻まれたゲノム(全遺伝情報)から生命活動に必要な情報を引き出す仕組みだ。人の体を構成する約60兆個の細胞のゲノムがすべて同じにもかかわらず、皮膚や神経、筋肉などの違いがあるのは、エピゲノムによって遺伝子が「オン」「オフ」になるから。具体的には遺伝子の特定の場所にメチル基などの分子がくっついたり外れたりする化学変化によって起こる。
ヒトのエピゲノムは、約200種類ある細胞ごとに異なる。このため医学応用につなげるには膨大な情報量を解析しなければならない。シーケンサーと呼ぶ最先端の解析装置などが普及した2000年代半ばから研究が国内外で急速に進んだ。
まず、がんの分野で先行した。白血病の前段階である骨髄異形成症候群では、がん抑制遺伝子にメチル基がくっつくのを防ぐ薬が開発され、日本を含めて欧米で治療薬として使われている。
糖尿病などの生活習慣病やうつ病などの精神疾患でも、発症や再発とエピゲノムとの関係が明らかになるにつれ、今後、治療薬の開発競争が本格化する見通し。
「エピゲノム薬」では目的の臓器や組織にだけ薬剤が到達するようにしなくてはならない。ほかの臓器や組織に作用してしまうと正常なエピゲノムを狂わすことになりかねないからだ。実用化にはドラッグ・デリバリーシステム(DDS)の活用なども欠かせない。
ヒトのエピゲノムは、約200種類ある細胞ごとに異なる。このため医学応用につなげるには膨大な情報量を解析しなければならない。シーケンサーと呼ぶ最先端の解析装置などが普及した2000年代半ばから研究が国内外で急速に進んだ。
まず、がんの分野で先行した。白血病の前段階である骨髄異形成症候群では、がん抑制遺伝子にメチル基がくっつくのを防ぐ薬が開発され、日本を含めて欧米で治療薬として使われている。
糖尿病などの生活習慣病やうつ病などの精神疾患でも、発症や再発とエピゲノムとの関係が明らかになるにつれ、今後、治療薬の開発競争が本格化する見通し。
「エピゲノム薬」では目的の臓器や組織にだけ薬剤が到達するようにしなくてはならない。ほかの臓器や組織に作用してしまうと正常なエピゲノムを狂わすことになりかねないからだ。実用化にはドラッグ・デリバリーシステム(DDS)の活用なども欠かせない。
三井情報事業戦略推進部パーソナルゲノム事業準備室長菊池紀広氏
がん治療に特化したゲノム(全遺伝情報)解析の商用サービスを2014年にも始める三井情報。ゲノム解析情報を基に個人に最適な薬や治療方法をそろえる「オーダーメード医療」を将来的には5万円という低価格で提供することを目指し、20年に100億円規模のビジネスに育てる。
この新事業の旗振り役が事業戦略推進部パーソナルゲノム事業準備室長の菊池紀広(39)だ。菊池は遺伝子配列をはじめとする生物に関する膨大な情報をコンピューターで扱う「バイオインフォマティクス」分野の専門家。企業システム開発事業がメーンの同社で異彩を放つ存在だ。
菊池の得意分野はゲノムやたんぱく質といった大量のデータをどういった順序で解析すれば目的の成果が得られるかを考え、ソフトにその手順を反映し、シミュレーションの結果をわかりやすくまとめること。今をときめくビッグデータ分析の生物版といえる。
菊池は「生物はどうやって生まれてきたのか」という根源的な疑問に突き動かされて、大学と大学院で応用生物科学を専攻。分子進化というゲノムやたんぱく質を使って生物の進化を解き明かす研究に没頭した。コンピューターを使ったシミュレーションの技術はここで身につけた。
そんな菊池が就職先として選んだのが三井情報だ。当時は日米欧でヒトのゲノムの全塩基配列を解析する「ヒトゲノム計画」が盛り上がり、菊池は「大量データを解析できる人材が必要になる」と考えたからだ。三井情報は1975年からバイオ事業を手掛けていた。
入社早々に専門家としての腕を買われ、2001年から06年まで、バイオ関連の2つの国家プロジェクトに参加。この一環で06年には医学の博士号も取得している。「世界的に有名な権威あるリーダーたちが次々と新しい領域の解明に挑戦する仕事ぶりを見て、何でもこだわり無くチャレンジすることを学んだ」
08年にバイオ関連を取り仕切るようになったが、「解析ソフトの販売や関連システムの受託開発だけでは先がない」と判断。10年に自身のスキルを最大限に生かせるパーソナルゲノム事業を企画し、12年にビジネスとして始動するまでこぎ着けた。
そんな菊池に対する周囲の見方は「物静かだが熱い」。得意の解析技術を封印して、目下は9月に控えた事業計画の完成に向け、毎月1週間は海外を飛び回る。
米国の遺伝子解析装置(シーケンサー)メーカーやゲノム解析サービスを手掛けるベンチャー企業、ドイツの大手IT(情報技術)企業や病院、海外の様々なゲノム関連カンファレンス――。ゲノム解析サービスのパートナー企業を固めるためだ。
入社した1999年の海外出張で「一言も話せなかった」という英語を克服。出張先では面談した相手に他社のキーマンを紹介してもらったり、カンファレンスで隣り合った参加者のつてでベンチャー企業を訪問したり、精力的にコネクションを作る。国内でも医者や大学教授、医薬関連企業とのアポイントがぎっしりだ。
ゲノム解析サービスにおいて、三井情報はビッグデータ技術を使って大量のゲノムデータから患者にとって最も効果的ながん治療薬を見つけ出す高速処理部分を担当する。菊池の得意分野だ。とはいえ患者から遺伝子をもらって解析し、実際に治療するという前後の工程はパートナーに任せるしかない。
「直接の治療はできないが、人の健康に貢献できる仕事だ。やりがいは大きい」。将来的にはシンガポールなど海外への事業展開も視野に入れ、綿密に事業計画を練る。「長丁場になる」とする菊池の手腕に期待を寄せる関係者や患者は少なくない。
この新事業の旗振り役が事業戦略推進部パーソナルゲノム事業準備室長の菊池紀広(39)だ。菊池は遺伝子配列をはじめとする生物に関する膨大な情報をコンピューターで扱う「バイオインフォマティクス」分野の専門家。企業システム開発事業がメーンの同社で異彩を放つ存在だ。
菊池の得意分野はゲノムやたんぱく質といった大量のデータをどういった順序で解析すれば目的の成果が得られるかを考え、ソフトにその手順を反映し、シミュレーションの結果をわかりやすくまとめること。今をときめくビッグデータ分析の生物版といえる。
菊池は「生物はどうやって生まれてきたのか」という根源的な疑問に突き動かされて、大学と大学院で応用生物科学を専攻。分子進化というゲノムやたんぱく質を使って生物の進化を解き明かす研究に没頭した。コンピューターを使ったシミュレーションの技術はここで身につけた。
そんな菊池が就職先として選んだのが三井情報だ。当時は日米欧でヒトのゲノムの全塩基配列を解析する「ヒトゲノム計画」が盛り上がり、菊池は「大量データを解析できる人材が必要になる」と考えたからだ。三井情報は1975年からバイオ事業を手掛けていた。
入社早々に専門家としての腕を買われ、2001年から06年まで、バイオ関連の2つの国家プロジェクトに参加。この一環で06年には医学の博士号も取得している。「世界的に有名な権威あるリーダーたちが次々と新しい領域の解明に挑戦する仕事ぶりを見て、何でもこだわり無くチャレンジすることを学んだ」
08年にバイオ関連を取り仕切るようになったが、「解析ソフトの販売や関連システムの受託開発だけでは先がない」と判断。10年に自身のスキルを最大限に生かせるパーソナルゲノム事業を企画し、12年にビジネスとして始動するまでこぎ着けた。
そんな菊池に対する周囲の見方は「物静かだが熱い」。得意の解析技術を封印して、目下は9月に控えた事業計画の完成に向け、毎月1週間は海外を飛び回る。
米国の遺伝子解析装置(シーケンサー)メーカーやゲノム解析サービスを手掛けるベンチャー企業、ドイツの大手IT(情報技術)企業や病院、海外の様々なゲノム関連カンファレンス――。ゲノム解析サービスのパートナー企業を固めるためだ。
入社した1999年の海外出張で「一言も話せなかった」という英語を克服。出張先では面談した相手に他社のキーマンを紹介してもらったり、カンファレンスで隣り合った参加者のつてでベンチャー企業を訪問したり、精力的にコネクションを作る。国内でも医者や大学教授、医薬関連企業とのアポイントがぎっしりだ。
ゲノム解析サービスにおいて、三井情報はビッグデータ技術を使って大量のゲノムデータから患者にとって最も効果的ながん治療薬を見つけ出す高速処理部分を担当する。菊池の得意分野だ。とはいえ患者から遺伝子をもらって解析し、実際に治療するという前後の工程はパートナーに任せるしかない。
「直接の治療はできないが、人の健康に貢献できる仕事だ。やりがいは大きい」。将来的にはシンガポールなど海外への事業展開も視野に入れ、綿密に事業計画を練る。「長丁場になる」とする菊池の手腕に期待を寄せる関係者や患者は少なくない。
2013年1月22日火曜日
遺伝子のスイッチ役「エピゲノム」研究、慢性疾患治療に的、東大、糖尿病で成果。
理研は精神疾患
最先端の遺伝子研究である「エピゲノム」を、糖尿病などの生活習慣病や精神疾患といった慢性化しやすい病気の治療に活用する医学研究が盛んになってきた。遺伝子の働きを「オン」「オフ」にするエピゲノムが、加齢やストレス、食生活の影響を受けやすいことがわかってきたからだ。薬で遺伝子を正常な状態に戻せると専門家はみており、新たな治療法開発を目指す。
高血糖状態が続くことで腎臓の機能が損なわれてしまう糖尿病性腎症。腎臓の細胞の特定遺伝子にブレーキ役の「メチル基」がくっつきにくくなることが発症のきっかけになっている可能性が高いことを、東京大学先端科学技術研究センターの研究チームが突き止めた。
藤田敏郎特任教授と丸茂丈史特任講師は血糖値が高い糖尿病性腎症のモデルマウスを使って研究した。腎臓の細胞のDNAを調べたところ、腎機能を衰えさせる遺伝子に、働きを止めるメチル基がくっついておらず、異常に働いていた。
糖尿病のように血液中の血糖が増えることでメチル基が外れやすくなるとみている。血糖値を下げる薬を与えるとくっつくようになり、遺伝子の働きが止まった。
藤田特任教授は「メチル基を外さない薬剤があれば、腎症を治すことができるかもしれない」と話す。
星薬科大学の成田年教授らは、外傷などをきっかけに傷が治った後も激しい痛みが続く神経障害性疼(とう)痛の治療研究に取り組む。マウスの実験では、脊髄の細胞で炎症たんぱく質を作る遺伝子の一部に本来つくはずのメチル基が存在しないことがわかった。神経が傷ついた後に痛みを起こす物質が出てメチル基を外し、痛みを長期化させているとみている。
成田教授は「傷ができた直後から医療用麻薬などを使い痛みを取れば、メチル基が外れずに痛みが慢性化しない」とみており、動物実験を進めている。
理化学研究所の加藤忠史チームリーダーらは、双極性障害(そううつ病)を対象に、神経伝達物質セロトニンを正しく運ぶ遺伝子と発症との関連性を調べた。
片方だけが双極性障害を患う一卵性の双子を対象に、血液細胞のDNAを解析した。患者の「セロトニン運搬遺伝子」の一部にメチル基がくっつき、遺伝子が働いていなかった。発症していない人ではほとんどついておらず、遺伝子は通常通り機能していた。
子どものころに受けたストレスなどの環境要因が、変化を引き起こした可能性があるという。
2011年7月19日火曜日
DNAの脱メチル化、神経幹細胞を形成、生理研がメカニズム。
自然科学研究機構生理学研究所の等誠司准教授らは脳神経のもととなる神経幹細胞が作られる詳細なメカニズムを突き止めた。特定の遺伝子の働きを抑え込むDNA(デオキシリボ核酸)のメチル化という化学作用を解除する「脱メチル化」と呼ばれるシステムが存在し、幹細胞への成長を促していた。新型万能細胞(iPS細胞)から神経を効率よく作る技術の開発の足がかりになる可能性がある。
ハエの実験で神経の形成に関係しているのが見つかった「GCM」という遺伝子に着目した。この遺伝子はマウスの体内にもある。初期胚などを使い実験した。
遺伝子操作でGCMを働かなくすると、胚から神経幹細胞ができる量が10分の1以下に減った。神経幹細胞の形成を促す「Hes5」という遺伝子の働きが抑えられていた。詳しく調べると、Hes5はある時期まで働かないようにメチル化によってブロックされており、脱メチル化するのがGCMだった。人でも同様の仕組みが存在するとみている。
研究チームはiPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)から神経幹細胞を作る際も似た仕組みがあると推定。今回の成果を活用し、万能細胞から効率よく神経が作れれば、脳の再生医療などにも役立つという。成果は米科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス(電子版)に18日掲載された。
ハエの実験で神経の形成に関係しているのが見つかった「GCM」という遺伝子に着目した。この遺伝子はマウスの体内にもある。初期胚などを使い実験した。
遺伝子操作でGCMを働かなくすると、胚から神経幹細胞ができる量が10分の1以下に減った。神経幹細胞の形成を促す「Hes5」という遺伝子の働きが抑えられていた。詳しく調べると、Hes5はある時期まで働かないようにメチル化によってブロックされており、脱メチル化するのがGCMだった。人でも同様の仕組みが存在するとみている。
研究チームはiPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)から神経幹細胞を作る際も似た仕組みがあると推定。今回の成果を活用し、万能細胞から効率よく神経が作れれば、脳の再生医療などにも役立つという。成果は米科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス(電子版)に18日掲載された。
イネ、土壌から鉄有効利用、東大が遺伝子解明。
東京大学の西沢直子特任教授らはイネが土壌から吸収し、細胞壁に沈着している鉄を溶かして有効利用する際に欠かせない遺伝子を突き止めた。この遺伝子が強くなるよう改良すると、アルカリ性が強くて植物が育ちにくい土壌でもイネがよく育つことも確認した。成果は米専門誌ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(電子版)に掲載された。
東大のバシル・クーラム特任研究員、東北大の石丸泰寛助教らとの共同研究成果。鉄は植物の生育に不可欠な元素。イネは土壌中の鉄を溶かして吸収するため、ムギネ酸類という物質を根から分泌しているが、いったん吸収した鉄を有効利用する仕組みも存在している。
研究チームはイネが根などの細胞壁に沈着した鉄を溶かすのに「フェノール性酸」という物質を利用しているのを突き止めた。この物質を細胞の外側に分泌する際に働くのが「PEZ」遺伝子で、細胞膜に存在していた。
この遺伝子を壊したイネは、フェノール性酸が細胞外に出ていけず、細胞壁に沈着した鉄を溶かし出せなくなった。栄養や水分を運ぶ導管の中の鉄濃度が下がり、地上部に鉄が十分運ばれなくなり、生育も悪くなった。逆にPEZを強く働かせると、本来は育ちにくいアルカリ性の土壌でもよく生育した。
フェノール性酸はイネ以外でも鉄の利用に重要なことが知られている。ムギやトウモロコシ、人でも働いているという。今回の成果が、イネ以外でPEZに相当する新たな遺伝子の発見につながると期待している。
東大のバシル・クーラム特任研究員、東北大の石丸泰寛助教らとの共同研究成果。鉄は植物の生育に不可欠な元素。イネは土壌中の鉄を溶かして吸収するため、ムギネ酸類という物質を根から分泌しているが、いったん吸収した鉄を有効利用する仕組みも存在している。
研究チームはイネが根などの細胞壁に沈着した鉄を溶かすのに「フェノール性酸」という物質を利用しているのを突き止めた。この物質を細胞の外側に分泌する際に働くのが「PEZ」遺伝子で、細胞膜に存在していた。
この遺伝子を壊したイネは、フェノール性酸が細胞外に出ていけず、細胞壁に沈着した鉄を溶かし出せなくなった。栄養や水分を運ぶ導管の中の鉄濃度が下がり、地上部に鉄が十分運ばれなくなり、生育も悪くなった。逆にPEZを強く働かせると、本来は育ちにくいアルカリ性の土壌でもよく生育した。
フェノール性酸はイネ以外でも鉄の利用に重要なことが知られている。ムギやトウモロコシ、人でも働いているという。今回の成果が、イネ以外でPEZに相当する新たな遺伝子の発見につながると期待している。
抗がん剤開発に拍車、遺伝子の後天的制御を標的に、米社が日本で承認。
国内勢も導入へ
7月1日、米メルク社の日本法人であるMSDが、日本における皮膚T細胞リンパ腫の治療薬「ゾリンザ」の販売承認を獲得した。単なる希少疾患薬(オーファンドラッグ)ではない。最近急速に解明されつつある新しい生命現象、エピジェネティックス(遺伝子の後天的制御)と呼ばれる新たな創薬標的を射抜く、画期的な抗がん剤である。
エピジェネティックスはバイオテクノロジーにおけるポストゲノム研究の有望株。例えば国立がん研究センターのグループが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染による胃の慢性炎症がエピジェネティックス異常を蓄積し、胃がんを生じることを解明するなど、エピジェネティックスの異常ががんを引き起こすことが続々と報告されている。
従来の化学抗がん剤はがん細胞が増殖するために必要なたんぱく質や酵素を標的にしてきた。最近では、がん細胞にだけ特異的に生産されるたんぱく質を標的にした抗体医薬や、がんが増殖するために必要なリン酸化酵素を阻害する標的医薬、そして細胞内で老廃物となったたんぱく質を分解する酵素を阻害する新規の抗がん剤まで現れた。
こうした厳しい抗がん剤開発競争で、ゾリンザが標的とするのは、遺伝子のスイッチを調節するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)だ。ゲノムDNAと結合し、染色体の構造を緩めたり、締めたりする働きがある。これを阻害すると、がんで盛んにスイッチが入っていた増殖関連遺伝子などをオフにし、最終的には細胞死を誘導する。米国では既に2種類の医薬品が発売されており、ゾリンザは日本初のHDAC阻害剤となった。
今年1月には日本新薬がビダーザというエピジェネティックス新薬を発売している。これは日本で発売されたDNAメチル化酵素阻害剤の第1号だ。前がん状態とも言える骨髄異形成症候群の治療薬である。
エーザイはMGIファーマを買収し、DNAメチル化阻害剤のダコジェンを獲得、急性骨髄性白血病治療薬として米国で開発を進めていた。今年6月に発表したフェーズ3臨床試験の初期の解析成績は失望に終わったが、投薬した患者を1年間追跡した結果、薬効を証明でき、近く米国で販売申請を行う計画だ。
こうした実用化の成功がエピジェネティックス抗がん剤開発に拍車を掛ける。今や抗体医薬や標的医薬の次の戦場と言われるまでになった。
実際、2008年4月、武田薬品工業が抗がん剤開発のベンチャー企業、ミレニアム・ファーマスーティカルズを88億ドルで買収したが、ミレニアムの旧経営陣はその資金でエピジェネティック抗がん剤開発のベンチャー企業、コンステレーション・ファーマシューティカルズを創設した。
1周遅れが許されないことに気付いた武田やエーザイなど国内大手製薬企業も現在、エピジェネティックス抗がん剤導入に走っている。抗がん剤だけでなく、精神疾患に至る幅広い治療薬開発の可能性も秘めている。エピジェネティックス医薬は、企業の今後の成長性を占う試金石となる。
7月1日、米メルク社の日本法人であるMSDが、日本における皮膚T細胞リンパ腫の治療薬「ゾリンザ」の販売承認を獲得した。単なる希少疾患薬(オーファンドラッグ)ではない。最近急速に解明されつつある新しい生命現象、エピジェネティックス(遺伝子の後天的制御)と呼ばれる新たな創薬標的を射抜く、画期的な抗がん剤である。
エピジェネティックスはバイオテクノロジーにおけるポストゲノム研究の有望株。例えば国立がん研究センターのグループが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染による胃の慢性炎症がエピジェネティックス異常を蓄積し、胃がんを生じることを解明するなど、エピジェネティックスの異常ががんを引き起こすことが続々と報告されている。
従来の化学抗がん剤はがん細胞が増殖するために必要なたんぱく質や酵素を標的にしてきた。最近では、がん細胞にだけ特異的に生産されるたんぱく質を標的にした抗体医薬や、がんが増殖するために必要なリン酸化酵素を阻害する標的医薬、そして細胞内で老廃物となったたんぱく質を分解する酵素を阻害する新規の抗がん剤まで現れた。
こうした厳しい抗がん剤開発競争で、ゾリンザが標的とするのは、遺伝子のスイッチを調節するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)だ。ゲノムDNAと結合し、染色体の構造を緩めたり、締めたりする働きがある。これを阻害すると、がんで盛んにスイッチが入っていた増殖関連遺伝子などをオフにし、最終的には細胞死を誘導する。米国では既に2種類の医薬品が発売されており、ゾリンザは日本初のHDAC阻害剤となった。
今年1月には日本新薬がビダーザというエピジェネティックス新薬を発売している。これは日本で発売されたDNAメチル化酵素阻害剤の第1号だ。前がん状態とも言える骨髄異形成症候群の治療薬である。
エーザイはMGIファーマを買収し、DNAメチル化阻害剤のダコジェンを獲得、急性骨髄性白血病治療薬として米国で開発を進めていた。今年6月に発表したフェーズ3臨床試験の初期の解析成績は失望に終わったが、投薬した患者を1年間追跡した結果、薬効を証明でき、近く米国で販売申請を行う計画だ。
こうした実用化の成功がエピジェネティックス抗がん剤開発に拍車を掛ける。今や抗体医薬や標的医薬の次の戦場と言われるまでになった。
実際、2008年4月、武田薬品工業が抗がん剤開発のベンチャー企業、ミレニアム・ファーマスーティカルズを88億ドルで買収したが、ミレニアムの旧経営陣はその資金でエピジェネティック抗がん剤開発のベンチャー企業、コンステレーション・ファーマシューティカルズを創設した。
1周遅れが許されないことに気付いた武田やエーザイなど国内大手製薬企業も現在、エピジェネティックス抗がん剤導入に走っている。抗がん剤だけでなく、精神疾患に至る幅広い治療薬開発の可能性も秘めている。エピジェネティックス医薬は、企業の今後の成長性を占う試金石となる。
2011年7月13日水曜日
ヒト染色体の中心、構造を詳細に解明、早大教授ら。
早稲田大学理工学術院の胡桃坂仁志教授と立和名博昭助教らは、人の染色体の中心部分の構造を世界で初めて詳細に解明した。中心部分は、細胞が分裂するときに染色体が分離する要となる。ダウン症などの病気に深く関わるため、発症メカニズムの解明などに役立つ。成果は英科学誌ネイチャー(電子版)にこのほど掲載された。
研究チームは、染色体の中心部にある4種類のたんぱく質に注目。遺伝子組み換え技術で大腸菌に人工的に作らせ、DNAと一緒に試験管の中で反応させ結晶を作ることに成功した。結晶を専用施設で解析したところ、DNAが4種類のたんぱく質を包みながら両腕を広げた基本構造をとっていることがわかった。
両腕があることで、染色体の分離に必要なたんぱく質がくっつき、正常に分離できると考えられるという。これまで染色体の末端の構造はわかっていたが、中心部はわかっていなかった。
研究チームは、染色体の中心部にある4種類のたんぱく質に注目。遺伝子組み換え技術で大腸菌に人工的に作らせ、DNAと一緒に試験管の中で反応させ結晶を作ることに成功した。結晶を専用施設で解析したところ、DNAが4種類のたんぱく質を包みながら両腕を広げた基本構造をとっていることがわかった。
両腕があることで、染色体の分離に必要なたんぱく質がくっつき、正常に分離できると考えられるという。これまで染色体の末端の構造はわかっていたが、中心部はわかっていなかった。
C型肝炎から肝がん移行、遺伝子変異、発症率2倍、理研など発見。
理化学研究所などの共同チームは、C型肝炎が悪化して肝がんになるリスクを高める遺伝子の変異を発見した。日本人のC型肝炎患者を解析し、変異を持つ人は持たない人に比べ肝がんの発症率が約2倍になることが分かった。肝がん発症の仕組みの解明や、新しい診断法の開発につながる可能性がある。
理研と広島大学、大日本住友製薬などの共同研究成果。詳細は米科学誌ネイチャー・ジェネティクス(電子版)に掲載された。
肝がんによる死者数は日本で年間約3万人で、うち7割はC型肝炎が原因で発症するといわれる。ただ、C型肝炎が肝がんを引き起こす仕組みは詳しく分かっていない。
共同チームは、日本人のC型肝炎患者と肝がん患者3312人の遺伝子を解析し、「DEPDC5」という遺伝子に注目。この遺伝子の塩基配列に変異がある人は、変異を持たない人に比べ肝がんの発症率が1・96倍高かった。遺伝子の解析で肝がんの発症のしやすさを予測できるようになる。
肝がんの組織の中ではDEPDC5遺伝子が活性化していることも確認した。ただ、遺伝子の機能は詳しく分かっていない。今後の解析で機能が分かれば、肝がん発症の仕組みの解明につながる可能性がある。
理研と広島大学、大日本住友製薬などの共同研究成果。詳細は米科学誌ネイチャー・ジェネティクス(電子版)に掲載された。
肝がんによる死者数は日本で年間約3万人で、うち7割はC型肝炎が原因で発症するといわれる。ただ、C型肝炎が肝がんを引き起こす仕組みは詳しく分かっていない。
共同チームは、日本人のC型肝炎患者と肝がん患者3312人の遺伝子を解析し、「DEPDC5」という遺伝子に注目。この遺伝子の塩基配列に変異がある人は、変異を持たない人に比べ肝がんの発症率が1・96倍高かった。遺伝子の解析で肝がんの発症のしやすさを予測できるようになる。
肝がんの組織の中ではDEPDC5遺伝子が活性化していることも確認した。ただ、遺伝子の機能は詳しく分かっていない。今後の解析で機能が分かれば、肝がん発症の仕組みの解明につながる可能性がある。
2011年7月12日火曜日
米エモリー大学ワクチンセンター、ワクチン効果示す遺伝子
米エモリー大学ワクチンセンターの研究グループは、ワクチンの接種効果を示す指標になる遺伝子を発見した。個人差がある接種効果を予測するのに活用できる可能性があるという。
研究グループは効果が確認されている2種類のインフルエンザワクチンを用いた。それぞれを接種した成人の遺伝子の発現の変化を網羅的に調べた。「CAMK4」という遺伝子の発現が強まっている人は、ワクチンによる免疫反応が乏しく、効きにくい傾向があったという。ワクチンの効果は免疫の反応の程度によって個人差があると考えられており、効果の有無を確認する手法が求められている。
研究グループは効果が確認されている2種類のインフルエンザワクチンを用いた。それぞれを接種した成人の遺伝子の発現の変化を網羅的に調べた。「CAMK4」という遺伝子の発現が強まっている人は、ワクチンによる免疫反応が乏しく、効きにくい傾向があったという。ワクチンの効果は免疫の反応の程度によって個人差があると考えられており、効果の有無を確認する手法が求められている。
ライス大ナノフォトニクス研、電子顕微鏡、微小製造装置に
米ライス大学ナノフォトニクス研究所のN・ハラス所長らは、既存の電子顕微鏡を改良してナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズの微細構造物の作製や評価ができる装置を開発した。揮発性材料や環境の変化で性能が劣化しやすい微小素子を装置から出さないで済む。全米科学財団(NSF)から約100万ドル(約8080万円)の研究助成金を受けた。
電子顕微鏡の中で特に普及している走査型電子顕微鏡(SEM)を改良した。SEMは観察専用の装置だが、真空容器内を改良して電子線で材料の堆積やエッチング、複雑な配線加工をできるようにした。さらに超小型のマニピュレーターを取り付け、らせん構造のDNA(デオキシリボ核酸)より小さい物をつかんで移動させることが可能。電子線が物質に当たって発生する光を使う光学測定もできるという。
電子顕微鏡の中で特に普及している走査型電子顕微鏡(SEM)を改良した。SEMは観察専用の装置だが、真空容器内を改良して電子線で材料の堆積やエッチング、複雑な配線加工をできるようにした。さらに超小型のマニピュレーターを取り付け、らせん構造のDNA(デオキシリボ核酸)より小さい物をつかんで移動させることが可能。電子線が物質に当たって発生する光を使う光学測定もできるという。
自己抗体の生産抑えるたんぱく質、筑波大など、Bリンパ球上で発見
筑波大学の渋谷彰教授らの研究グループは、関節リウマチなど自己免疫病の原因となる自己抗体ができるのを抑えるたんぱく質をマウスの実験で発見した。抗体をつくるBリンパ球の細胞膜上にあり、これに異常があると自己抗体が多くできる。発症の仕組み解明や治療薬開発に役立つと期待している。
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校、東北大学、大阪大学との共同研究成果で、米科学誌ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(電子版)に掲載された。
発見したのは「DAP12」と「MAIR―II」という2つのたんぱく質の複合体で、細胞外からの刺激を受け、細胞内に信号物質を伝える役目をしている。これまで別の細胞で見つかっていたが、今回Bリンパ球にあることを初めて明らかにした。
さらに、これらのたんぱく質のどちらかに異常があるマウスは、自己抗体のできる量が5倍多くなることなどを突き止めた。正常な場合は、複合体の信号物質が抗体生産を促す別の信号物質を遮断していると考えられる。
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校、東北大学、大阪大学との共同研究成果で、米科学誌ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(電子版)に掲載された。
発見したのは「DAP12」と「MAIR―II」という2つのたんぱく質の複合体で、細胞外からの刺激を受け、細胞内に信号物質を伝える役目をしている。これまで別の細胞で見つかっていたが、今回Bリンパ球にあることを初めて明らかにした。
さらに、これらのたんぱく質のどちらかに異常があるマウスは、自己抗体のできる量が5倍多くなることなどを突き止めた。正常な場合は、複合体の信号物質が抗体生産を促す別の信号物質を遮断していると考えられる。
人の染色体、早大、中心構造詳細に、ダウン症など解明に道
早稲田大学理工学術院の胡桃坂仁志教授と立和名博昭助教らは11日、人の染色体の中心部分の構造を世界で初めて詳細に解明したと発表した。中心部分は、細胞が分裂するときに染色体分離の要となる部位。ダウン症やターナー症候群などの病気に深く関わるため、発症メカニズムの解明などに役立つ。成果は11日に英科学誌ネイチャー(電子版)に掲載された。
胡桃坂教授らが構造を解明したのは、染色体の中央にあるくびれの部分で「セントロメア」と呼ばれる領域の基本構造。DNA(デオキシリボ核酸)が4種類のたんぱく質を包み込んで、両端を広げているような構造をとっていた。この基本構造が30個ぐらい集まってセントロメアを形成していると考えられるという。
セントロメアを構成するたんぱく質は量が少ないため、人の染色体から精製して解析することができなかった。研究チームはセントロメアを構成する4種類のたんぱく質に注目。遺伝子組み換え技術で大腸菌に人工的に作らせ、DNAと一緒に試験管の中で反応させ、できた結晶を大型放射光施設「Spring―8」で解析した。
人の染色体はセントロメアのくびれに紡錘糸がくっつき2つに分離されて、細胞分裂が進む。これまで染色体の末端「テロメア」の構造はわかっていたが、セントロメアはわかっていなかった。
胡桃坂教授らが構造を解明したのは、染色体の中央にあるくびれの部分で「セントロメア」と呼ばれる領域の基本構造。DNA(デオキシリボ核酸)が4種類のたんぱく質を包み込んで、両端を広げているような構造をとっていた。この基本構造が30個ぐらい集まってセントロメアを形成していると考えられるという。
セントロメアを構成するたんぱく質は量が少ないため、人の染色体から精製して解析することができなかった。研究チームはセントロメアを構成する4種類のたんぱく質に注目。遺伝子組み換え技術で大腸菌に人工的に作らせ、DNAと一緒に試験管の中で反応させ、できた結晶を大型放射光施設「Spring―8」で解析した。
人の染色体はセントロメアのくびれに紡錘糸がくっつき2つに分離されて、細胞分裂が進む。これまで染色体の末端「テロメア」の構造はわかっていたが、セントロメアはわかっていなかった。
遺伝子特許、有効性争点に、米の「知財高裁」で近く判決――範囲狭まる動き
「自然の産物」司法省が意見
遺伝子に特許を与えるのは妥当か――。バイオテクノロジー大国の米国で、こんな裁判が大詰めを迎えている。ここ数年、バイオ分野で「プロパテント(特許重視)」を修正する判決が続いており、関係者の注目は高い。特許に縛られない自由な研究が進むとの期待もあり、裁判の行方は日本や欧州の知的財産政策にも影響を及ぼしそうだ。
この裁判は研究者や人権団体が有力ベンチャー企業のミリアド・ジェネティック・ラボラトリーズ(ユタ州)をニューヨーク連邦地裁に訴えたことで始まった。同社が保有する乳がんや子宮がんの発症を促す2つの遺伝子「BRCA1」と「同2」の特許としての有効性が争われている。
原告の主張はこうだ。「遺伝子やDNA(デオキシリボ核酸)は自然の産物で、法律が定める特許の対象にはならない」。米国では、病気の治療などに役立つ機能が分かっていれば遺伝子やその断片にも特許を与えている。これは日本や欧州でもほぼ同様だ。
同地裁は昨年3月、関連する特許すべてについて「特許として認められない」と判断。これまでの米特許商標庁の方針を根本から否定した。現在、日本の知財高裁に当たる連邦巡回控訴裁判所(CAFC)で審理中で、近く判決が出るとみられている。
「遺伝子特許の保護を弱める判決が出るのではないか」(米国の特許事務所に勤める弁理士の吉田哲氏)。知財関係者の間では、こんな見方が浮上している。ひとつは、バイオ企業に有利な判決を出してきたプロパテント派の判事が審理から外されたこと。
もうひとつは司法省が昨年10月、一審の判決をほぼ支持する意見書をCAFCに提出したことだ。「組み換えられていないDNAは自然の産物で特許の対象ではない」とし、それらの遺伝子を分離することも「発明には当たらない」と主張し、関係者に衝撃を与えた。バイオ企業は反発しているが、法律学者や研究者など司法省を支持する動きも広がっている。
実は今回の裁判の前から、プロパテントの行き過ぎを修正する動きが強まっていた。
例えば、特許商標庁は昨年4月、ウィスコンシン大学の技術移転機関が保有するヒト胚性幹細胞(ES細胞)の作製法など3つ特許のうち、1つを無効とした。過去に発表された技術から容易に思いつく発明で「進歩性がない」と判断したためだ。
他の2つについても権利範囲が大幅に狭められた。知財に詳しい政策研究大学院大学の隅蔵康一准教授は「技術的な進歩まで否定され、特許権者にとって厳しい判決だ」と評する。
バイオ分野でも、技術革新を起こすには複数の特許を組み合わせることが不可欠になっている。権利範囲の広い特許は技術革新の妨げになり、研究者の間では不満が根強い。プロパテントからの軌道修正は、こうした米政府の認識を表しているようだ。
「今や、世界で最もバイオ特許が取りにくいのは米国」。札幌医科大学の石埜正穂准教授はこう指摘する。石埜准教授によると、再生医療分野の特許は認められにくい傾向にあるという。
遺伝子特許を巡るCAFCの判決はバイオ関連特許全体に及ぶ可能性が高い。日本の企業や大学の特許戦略にも影響する。米国の知財政策が大きな節目を迎えている様子を予感させる。
遺伝子に特許を与えるのは妥当か――。バイオテクノロジー大国の米国で、こんな裁判が大詰めを迎えている。ここ数年、バイオ分野で「プロパテント(特許重視)」を修正する判決が続いており、関係者の注目は高い。特許に縛られない自由な研究が進むとの期待もあり、裁判の行方は日本や欧州の知的財産政策にも影響を及ぼしそうだ。
この裁判は研究者や人権団体が有力ベンチャー企業のミリアド・ジェネティック・ラボラトリーズ(ユタ州)をニューヨーク連邦地裁に訴えたことで始まった。同社が保有する乳がんや子宮がんの発症を促す2つの遺伝子「BRCA1」と「同2」の特許としての有効性が争われている。
原告の主張はこうだ。「遺伝子やDNA(デオキシリボ核酸)は自然の産物で、法律が定める特許の対象にはならない」。米国では、病気の治療などに役立つ機能が分かっていれば遺伝子やその断片にも特許を与えている。これは日本や欧州でもほぼ同様だ。
同地裁は昨年3月、関連する特許すべてについて「特許として認められない」と判断。これまでの米特許商標庁の方針を根本から否定した。現在、日本の知財高裁に当たる連邦巡回控訴裁判所(CAFC)で審理中で、近く判決が出るとみられている。
「遺伝子特許の保護を弱める判決が出るのではないか」(米国の特許事務所に勤める弁理士の吉田哲氏)。知財関係者の間では、こんな見方が浮上している。ひとつは、バイオ企業に有利な判決を出してきたプロパテント派の判事が審理から外されたこと。
もうひとつは司法省が昨年10月、一審の判決をほぼ支持する意見書をCAFCに提出したことだ。「組み換えられていないDNAは自然の産物で特許の対象ではない」とし、それらの遺伝子を分離することも「発明には当たらない」と主張し、関係者に衝撃を与えた。バイオ企業は反発しているが、法律学者や研究者など司法省を支持する動きも広がっている。
実は今回の裁判の前から、プロパテントの行き過ぎを修正する動きが強まっていた。
例えば、特許商標庁は昨年4月、ウィスコンシン大学の技術移転機関が保有するヒト胚性幹細胞(ES細胞)の作製法など3つ特許のうち、1つを無効とした。過去に発表された技術から容易に思いつく発明で「進歩性がない」と判断したためだ。
他の2つについても権利範囲が大幅に狭められた。知財に詳しい政策研究大学院大学の隅蔵康一准教授は「技術的な進歩まで否定され、特許権者にとって厳しい判決だ」と評する。
バイオ分野でも、技術革新を起こすには複数の特許を組み合わせることが不可欠になっている。権利範囲の広い特許は技術革新の妨げになり、研究者の間では不満が根強い。プロパテントからの軌道修正は、こうした米政府の認識を表しているようだ。
「今や、世界で最もバイオ特許が取りにくいのは米国」。札幌医科大学の石埜正穂准教授はこう指摘する。石埜准教授によると、再生医療分野の特許は認められにくい傾向にあるという。
遺伝子特許を巡るCAFCの判決はバイオ関連特許全体に及ぶ可能性が高い。日本の企業や大学の特許戦略にも影響する。米国の知財政策が大きな節目を迎えている様子を予感させる。
燃料電池用新素材、耐酸化性能2倍に、日立金属、長寿命化に貢献
日立金属は11日、耐酸化性能を2倍に高めた燃料電池セパレーター用の新素材を開発したと発表した。燃料電池の寿命を延ばし、普及の後押しとなる部材として電池メーカーに売り込む。2011年度中に量産を始め、15年度の売り上げは5億円をめざす。 開発したのは鉄とクロムを主成分とした金属板。鉄を主成分とするため、従来はニッケルやアルミニウムを主成分とする競合品に比べてさびやすいのが弱点だった。合金の比率見直しや内部組織の改良で、1平方センチ当たりのさびの発生量を3000時間で2ミリグラムと従来品の半分に抑えた。導電性や強度も改善した。 燃料電池はセルと呼ばれる電気をつくり出す部品を積層した構造で、セパレーターはセルを支えるとともにセル同士を電気的に接続する役割を果たす。さびると電気を通さなくなるため、素材の耐酸化性能は燃料電池の寿命に直結する。燃料電池は15年以降に普及期に入るとされているが、長寿命化が課題だった。 日立金属は金属板だけでなくセパレーターに加工した製品も供給する。既にサンプル出荷を開始しており、顧客に採用を呼び掛けている。 |
2011年7月11日月曜日
iPS万能性維持、重要なたんぱく質、理研が発見
理化学研究所のグループは11日、新型万能細胞(iPS細胞)があらゆる細胞に分化できる能力を保つのに重要なたんぱく質を見つけたと発表した。iPS細胞の安定培養などに役立つ成果で、米科学誌ステムセルズ(電子版)に掲載された。 iPS細胞は通常の培養では万能性が失われてしまうため、特殊な細胞の上で培養する。この細胞から分泌されるたんぱく質「LIF」などの作用で、万能性を保てるのが分かっている。 理研オミックス基盤研究領域の鈴木治和プロジェクトディレクターらは、マウスのiPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)で実験。LIFのほかに「CCL2」というたんぱく質も、同様の作用があることを突き止めた。iPS細胞ではこの2つのたんぱく質が一緒に働いていた。CCL2は一定の濃度があれば単独でも万能性を維持できる。ヒトのiPS細胞でも同じ仕組みが働いているとみている。 神経や骨などあらゆる細胞に分化できるiPS細胞は、再生医療への応用が見込まれている。 |
カイコガのオス、遺伝子が性行動支配、東大、フェロモンDB化へ
東京大学先端科学技術研究センターの神崎亮平教授と桜井健志特任助教らのグループは、カイコガのオスの交尾行動がひとつの遺伝子で引き起こされることを発見した。メスが放つ性フェロモンとくっつく受容体(たんぱく質)を作る遺伝子が交尾行動まで支配していた。研究グループは、昆虫のフェロモンのデータベース化などを進める計画だ。
同定した遺伝子は「BmOR1」。オスの触覚の細胞の中に受容体を作る。神崎教授らは、メスが放つ性フェロモン、ボンビコールと受容体がくっつくと、オスがダンスをしてメスに近づき交尾をすると考えた。
受容体を作るひとつの遺伝子で交尾行動を引き起こすことを確認するため、カイコガにコナガという別のガのフェロモンとくっつく受容体を作る遺伝子を入れ、触覚の細胞に発現させた。遺伝子操作したカイコガのオスとコナガのメスを一緒の容器に入れると、カイコガのオスはコナガのメスに対してダンスをし交尾行動をした。
オスが同じ種類のメスに交尾行動をするのは、フェロモン受容体の種類で決められているからだと考えられるという。
昆虫のフェロモンは約200種類ほどある。これらをデータベース化し、薬物などと結合しやすい受容体を遺伝子操作で発現させれば、目的の薬物を見つける生物センサーとして使える可能性がある。
同定した遺伝子は「BmOR1」。オスの触覚の細胞の中に受容体を作る。神崎教授らは、メスが放つ性フェロモン、ボンビコールと受容体がくっつくと、オスがダンスをしてメスに近づき交尾をすると考えた。
受容体を作るひとつの遺伝子で交尾行動を引き起こすことを確認するため、カイコガにコナガという別のガのフェロモンとくっつく受容体を作る遺伝子を入れ、触覚の細胞に発現させた。遺伝子操作したカイコガのオスとコナガのメスを一緒の容器に入れると、カイコガのオスはコナガのメスに対してダンスをし交尾行動をした。
オスが同じ種類のメスに交尾行動をするのは、フェロモン受容体の種類で決められているからだと考えられるという。
昆虫のフェロモンは約200種類ほどある。これらをデータベース化し、薬物などと結合しやすい受容体を遺伝子操作で発現させれば、目的の薬物を見つける生物センサーとして使える可能性がある。
2011年7月5日火曜日
遺伝子組み換え植物栽培の工場、ノーステック財団が建設
北海道科学技術総合振興センター(ノーステック財団)は、遺伝子組み換え植物などを人工的に栽培できる「植物工場」を札幌市内に建設する。建設費は10億円で、約6億円を国が補助する。企業に開放し、道産農産物を原料にした医薬品開発に役立ててもらう。
11月から産業技術総合研究所北海道センターの敷地内で植物工場を建設し、2012年6月に完成させる。延べ床面積は910平方メートル。工場を密閉し、実験的に栽培する植物の花粉が外部に出ないようにする。
植物工場では、遺伝子組み換え作物の開発や、水耕栽培の収量拡大技術、植物から効率的に医薬成分を抽出する技術を研究する。
11月から産業技術総合研究所北海道センターの敷地内で植物工場を建設し、2012年6月に完成させる。延べ床面積は910平方メートル。工場を密閉し、実験的に栽培する植物の花粉が外部に出ないようにする。
植物工場では、遺伝子組み換え作物の開発や、水耕栽培の収量拡大技術、植物から効率的に医薬成分を抽出する技術を研究する。
糖尿病や動脈硬化、肥満でも進行せず、東大、たんぱく質の働き抑制
東京大学の宮崎徹教授らは、体の脂肪を溶かすたんぱく質の働きを抑えると、太っていても糖尿病や動脈硬化に進行しないことをマウス実験で突き止めた。肥満に伴う慢性炎症が起こらないため、病気を発症しない。既に発症していても進行を食い止められるとみている。成果は米科学アカデミー紀要(電子版)に5日掲載される。
このたんぱく質は「AIM」。脂肪細胞がため込んだ脂肪を分解する働きがある。実験用に体内でAIMを作れなくした遺伝子改変マウスを作製した。高カロリー食を与え肥満にさせても、脂肪組織や全身に炎症が起こらなかった。慢性炎症が引き金になり発症する糖尿病や動脈硬化を抑えることができた。
通常マウスを太らせ糖尿病にすると、血糖値が下がりにくくインスリンも効きにくくなる。改変マウスは肥満度がより高くても血糖値やインスリンの効き目が悪くならず、発症もしなかった。
宮崎教授は昨年、AIMが脂肪を溶かし肥満を抑えるブレーキとして働くことを解明。しかし、それを上回って太るとAIMの作用がマイナスに転じ、炎症を起こした。宮崎教授は「太り始めはAIMを外から補い、肥満が進んだら逆にAIMを抑える薬を投与すれば病気を防げる」と話す。
大日本住友製薬と共同研究を始めており、10年後をめどに薬を実用化したい考えだ。
このたんぱく質は「AIM」。脂肪細胞がため込んだ脂肪を分解する働きがある。実験用に体内でAIMを作れなくした遺伝子改変マウスを作製した。高カロリー食を与え肥満にさせても、脂肪組織や全身に炎症が起こらなかった。慢性炎症が引き金になり発症する糖尿病や動脈硬化を抑えることができた。
通常マウスを太らせ糖尿病にすると、血糖値が下がりにくくインスリンも効きにくくなる。改変マウスは肥満度がより高くても血糖値やインスリンの効き目が悪くならず、発症もしなかった。
宮崎教授は昨年、AIMが脂肪を溶かし肥満を抑えるブレーキとして働くことを解明。しかし、それを上回って太るとAIMの作用がマイナスに転じ、炎症を起こした。宮崎教授は「太り始めはAIMを外から補い、肥満が進んだら逆にAIMを抑える薬を投与すれば病気を防げる」と話す。
大日本住友製薬と共同研究を始めており、10年後をめどに薬を実用化したい考えだ。
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