東京理科大学の松野健治教授らは、ショウジョウバエが胚の段階で、腸に左右非対称性が生まれる仕組みを解明した。腸を構成する上皮細胞がねじれて傘の柄のような形ができるが、細胞の形がゆがむことでねじれる力が生み出されていた。人の腸でも同じ仕組みが働いている可能性があるという。臓器の形を制御する技術の足がかりになり、将来の臓器再生にも役立つと期待している。成果は米科学誌サイエンスに15日掲載された。 動物は外見が左右対称でも内臓の器官は非対称のケースが多い。ショウジョウバエは受精卵から成長した胚の段階で、人の小腸・大腸に相当する「後腸」ができ、角度が90度ねじれることで傘の柄のような左右非対称な形を作る。 研究チームは後腸を構成する上皮細胞の個々の形を測定し、腸がねじれる前は細胞が左右にゆがんでいるのを見つけた。左右の手のように似ているが重ならない形ができていた。ひずみはねじれた後に解消し、細胞の形も安定した六角形に戻った。形のゆがみがねじれを生む力になるのは、コンピューターによる模擬計算でも再現できた。 |
2011年7月15日金曜日
ハエの腸の左右非対称、細胞にねじれる力――東京理科大、仕組み解明。
2011年7月4日月曜日
米ブラウン大学、哺乳類と魚類でかみ方に差
米ブラウン大学の研究チームは、食料を摂取する際の舌の使い方が哺乳類と魚類で大きく違っており、これが双方のかみ方の差につながっているとの研究報告をまとめた。脊椎動物は魚類が陸に上がり両生類や哺乳類などに分かれて進化してきたとされるが、進化の過程でかみ方も変わったことを示せたという。
研究チームは顎と舌の動きを支える筋肉を、魚類と哺乳類でそれぞれ詳しく分析した。哺乳類は歯でかみ砕くために舌の筋肉を使って最適な位置に食料を移す。魚類は工場の組み立てラインのように、舌の上に食料を載せて口内に引き込み、かんで食べることが分かった。
研究チームは顎と舌の動きを支える筋肉を、魚類と哺乳類でそれぞれ詳しく分析した。哺乳類は歯でかみ砕くために舌の筋肉を使って最適な位置に食料を移す。魚類は工場の組み立てラインのように、舌の上に食料を載せて口内に引き込み、かんで食べることが分かった。
2011年6月30日木曜日
マウス皮膚細胞→肝細胞、九大、iPS経ず直接作製
九州大学の鈴木淳史准教授らは、マウスの皮膚細胞から肝臓の細胞を直接作り出す技術を開発した。新型万能細胞(iPS細胞)を経ずに作れるので、がん化の危険性や作製時間・費用などを低減できる期待がある。肝炎や肝硬変などの新たな再生医療法の実現などに役立つ成果。英科学誌ネイチャー(電子版)に30日掲載される。
皮膚細胞などから目的の細胞を直接作る手法は「ダイレクト・リプログラミング」と呼ばれる。世界で研究が活発化しており、神経や軟骨などを作る技術は既に開発されている。
研究チームはマウスの皮膚細胞に「Hnf4α」と「Foxa」という肝臓で働く2種類の遺伝子を、レトロウイルスというベクター(遺伝子の運び手)を使って導入した。肝細胞が育ちやすい培養環境を整えたところ、約1カ月で肝細胞が得られた。胎児と大人由来の皮膚細胞でそれぞれ試し、いずれも肝細胞ができた。この細胞を「iHep細胞」と名付けた。
これまでは皮膚細胞をiPS細胞に変え、さらに肝細胞に分化させる手順が一般的。ただiPS細胞はあらゆる細胞になれる半面、未分化な細胞ががん化する可能性などが指摘されている。
得られた肝細胞は、本物の細胞と同様のたんぱく質が働き、肝細胞特有の機能も確認できた。増殖も可能。肝細胞が十分に働かず死に至るマウスに、作った肝細胞を移植すると2カ月後でも約40%が生存できた。「1回の移植での成績としては非常によい」(鈴木准教授)と評価。人にも同様の遺伝病があり、本人の皮膚細胞を活用した再生医療の実現につながると期待している。
皮膚細胞などから目的の細胞を直接作る手法は「ダイレクト・リプログラミング」と呼ばれる。世界で研究が活発化しており、神経や軟骨などを作る技術は既に開発されている。
研究チームはマウスの皮膚細胞に「Hnf4α」と「Foxa」という肝臓で働く2種類の遺伝子を、レトロウイルスというベクター(遺伝子の運び手)を使って導入した。肝細胞が育ちやすい培養環境を整えたところ、約1カ月で肝細胞が得られた。胎児と大人由来の皮膚細胞でそれぞれ試し、いずれも肝細胞ができた。この細胞を「iHep細胞」と名付けた。
これまでは皮膚細胞をiPS細胞に変え、さらに肝細胞に分化させる手順が一般的。ただiPS細胞はあらゆる細胞になれる半面、未分化な細胞ががん化する可能性などが指摘されている。
得られた肝細胞は、本物の細胞と同様のたんぱく質が働き、肝細胞特有の機能も確認できた。増殖も可能。肝細胞が十分に働かず死に至るマウスに、作った肝細胞を移植すると2カ月後でも約40%が生存できた。「1回の移植での成績としては非常によい」(鈴木准教授)と評価。人にも同様の遺伝病があり、本人の皮膚細胞を活用した再生医療の実現につながると期待している。
土中の温暖化ガス、一酸化二窒素、分解する微生物発見――北大・東大、培養にも成功
北海道大学の石井聡助教と東京大学の妹尾啓史教授らの研究チームは、土壌中でできる温暖化ガスの一酸化二窒素だけを分解して無害な窒素に変える微生物を見つけた。この微生物を取り出して培養することにも成功。水田や畑にまけば、二酸化炭素(CO2)とメタンに次ぐ第3の温暖化ガスである一酸化二窒素の発生を抑えられる可能性がある。
見つけたのは水田の土壌中に住むハーバスピリダム属というグループに分類される微生物の一種。同属の微生物は一酸化二窒素や硝酸を窒素に変える性質を持つことで知られる。
研究チームは、まず様々な微生物を含む土を一酸化二窒素の濃度を高めた空気の中に入れ、細胞分裂を阻害する薬品を加えた。すると盛んに細胞分裂していたハーバスピリダム属の微生物だけが阻害剤に反応し、円形から線状に変形した。変形した細胞を1つずつ採取して培養した。
さらに硝酸を含む空気の中で微生物を培養し、硝酸濃度の変化を測定した。硝酸濃度が低くなった微生物を除外。一酸化二窒素だけを分解する微生物を分離できた。
この微生物を畑や水田にまいた場合、硝酸の分解が抑制され、肥料のやり過ぎで起こる土壌の酸性化が加速する恐れがあるが、研究チームは「適切な施肥と併用すれば、温暖化も土壌酸性化も抑えられる」(石井助教)と考えている。耕作地以外の自然土壌や、人間の排せつ物を処理する下水処理場などでも使える。
一酸化二窒素は大気中に微量に存在し、CO2の約300倍という高い温室効果を持つ。温暖化への寄与はCO2の1割程度と見られる。農地への肥料の投入や家畜の排せつ物で大量に発生し、産業革命以降の大気中濃度は上昇傾向にある。
オゾン層を破壊する性質も持ち、増加が続けばフロンガスを上回るオゾン層破壊物質になる恐れも指摘されている。
見つけたのは水田の土壌中に住むハーバスピリダム属というグループに分類される微生物の一種。同属の微生物は一酸化二窒素や硝酸を窒素に変える性質を持つことで知られる。
研究チームは、まず様々な微生物を含む土を一酸化二窒素の濃度を高めた空気の中に入れ、細胞分裂を阻害する薬品を加えた。すると盛んに細胞分裂していたハーバスピリダム属の微生物だけが阻害剤に反応し、円形から線状に変形した。変形した細胞を1つずつ採取して培養した。
さらに硝酸を含む空気の中で微生物を培養し、硝酸濃度の変化を測定した。硝酸濃度が低くなった微生物を除外。一酸化二窒素だけを分解する微生物を分離できた。
この微生物を畑や水田にまいた場合、硝酸の分解が抑制され、肥料のやり過ぎで起こる土壌の酸性化が加速する恐れがあるが、研究チームは「適切な施肥と併用すれば、温暖化も土壌酸性化も抑えられる」(石井助教)と考えている。耕作地以外の自然土壌や、人間の排せつ物を処理する下水処理場などでも使える。
一酸化二窒素は大気中に微量に存在し、CO2の約300倍という高い温室効果を持つ。温暖化への寄与はCO2の1割程度と見られる。農地への肥料の投入や家畜の排せつ物で大量に発生し、産業革命以降の大気中濃度は上昇傾向にある。
オゾン層を破壊する性質も持ち、増加が続けばフロンガスを上回るオゾン層破壊物質になる恐れも指摘されている。
2011年5月30日月曜日
東京大学助教國枝武和氏――クマムシに魅せられて、「地上最強」の謎に迫る
放射線を浴びても、無酸素状態の宇宙空間に出されても圧力をかけられても大丈夫――。「地上最強」の称号で語られるのは大きさ1ミリメートルにも満たないクマムシだ。周囲の環境の変化を察知すると乾燥して丸まり、生き物なのに死なないモノになる。東京大学助教の國枝武和(40)は、常識外れのクマムシを通じて生命の謎に迫る。
干からびた丸い粒に水を垂らすと、水を吸って膨らむ。体の輪郭が現れ、足がぴくっとする。まるで長い眠りの後のような伸びをした後、クマっぽくのっそのっそと動き出す。どこかコミカルだが、乾燥したモノが生き物に戻る瞬間だ。初めて見た時はあまりの衝撃に、國枝は「残りの研究者人生はこれに賭ける」と決意した。
普段は水の近くで暮らす微生物で、乾燥などで環境が過酷になるとあえて干からびてモノになってやり過ごすクマムシ。生命活動は止まるが仮死状態でもなく、かといって生きているわけでも死んでいるわけでもない。
モノだから、酸素も要らないし凍結させても大丈夫。宇宙空間に出されても平気で、9年間モノだったクマムシもいる。地球上の乾燥を生き抜くためにしては明らかにオーバースペックだが、これが究極の「乾燥耐性」だ。人間には到底できない芸当に國枝は毎回「耐えてくれてエライ」と心の中で応援してしまうという。
出合いは偶然だった。ポスドクとして30代に入り、デートでたまたま立ち寄った書店。当時は彼女だった今の妻がなんとなく早川いくを氏の「へんないきもの」という本を手にとった。「あ、クマムシ、これおもしろいよね」。熱い語りに促されてのぞき込むと、宮崎駿監督の映画「風の谷のナウシカ」の王蟲(おうむ)のような見た目の生き物がいた。かっこいい。最初は強烈な外観にひかれた。
でも、その後も何かがひっかかった。強いとはどういうことなのか。気になって調べて知ったのが乾燥耐性だ。体の生命活動が止まるのだ。
もしも生き物の体をほんの一瞬、止めて中をじっくり観察することができたら――。体内のすべての物質の位置を調べ、反応をシミュレーションできる。生き物の体の中で何が起きているのか、なぜモノの集まりが生き物になるのかが分かるはず。國枝の学生時代からの妄想をかなえてくれる生き物がいたとは。
「クマムシをやります」。研究者が自分の生涯テーマを決める年齢的にギリギリのタイミングでの唐突な宣言だったが、研究室の教授も若手の自発的な提案に「おもしろい、ぜひやったらいい」と後押しした。
とはいえ、手元にクマムシはいない。まずは実物の捕獲だ。「クマムシはどこにでもいる」。本を信じ、自宅のそばや大学構内の三四郎池とあちこちのコケを採って顕微鏡で観察する。でもいるのはほかの動物ばかり。
結局、1匹目が見つかるまで1カ月。いかにも生き物がいなさそうなところを当たるのがミソだった。「ほかの生き物がいるところでは生存競争に負けてしまう」。モノでない時は意外と弱いらしい。
ようやくクマムシの扱いに慣れ、研究成果を発表するようになると、意外に隠れファンが多いことを知る。「実は研究したかった」と異分野の研究者が応援してくれた。國枝が最初に出合ったかっこいいクマムシ以外にかわいいタイプがおり、「モデル生物のミツバチやカエル、ハエと比べればかわいさは断トツ」。強いのにかわいい、見た目でも研究者を魅了するクマムシのおかげで、今は共同研究も増えてきたという。=敬称略
(鴻知佳子)
主な業績
乾燥耐性を解明
放射線防護に道
クマムシの乾燥耐性は200年ほど前から知られていた。だが、小さくて飼いにくいことからしくみの解明は進まず、外見の多彩さの報告という分類学的な研究がほとんど。「ネグレクテッド・アニマル」(無視されてきた生き物)の1つとも言われる。
乾燥耐性は細胞を守るトレハロースの蓄積によるというのが長年の定説だったが、國枝らの研究によってトレハロースの関与は少ないことが分かってきた。強さの源は、細胞自体が丈夫なだけではなく傷を治す修復のしくみがあるからとみている。
クマムシのゲノム解読にも取り組んでおり、得られる知見は細胞の凍結乾燥保存や放射線防護などに役立つ。
くにえだ・たけかず 1971年、東京都出身。93年東大薬学部卒。98年東大大学院薬学系研究科博士課程修了。スイス・バーゼル大学博士後研究員、東大・産学官連携研究員を経て07年から現職。
干からびた丸い粒に水を垂らすと、水を吸って膨らむ。体の輪郭が現れ、足がぴくっとする。まるで長い眠りの後のような伸びをした後、クマっぽくのっそのっそと動き出す。どこかコミカルだが、乾燥したモノが生き物に戻る瞬間だ。初めて見た時はあまりの衝撃に、國枝は「残りの研究者人生はこれに賭ける」と決意した。
普段は水の近くで暮らす微生物で、乾燥などで環境が過酷になるとあえて干からびてモノになってやり過ごすクマムシ。生命活動は止まるが仮死状態でもなく、かといって生きているわけでも死んでいるわけでもない。
モノだから、酸素も要らないし凍結させても大丈夫。宇宙空間に出されても平気で、9年間モノだったクマムシもいる。地球上の乾燥を生き抜くためにしては明らかにオーバースペックだが、これが究極の「乾燥耐性」だ。人間には到底できない芸当に國枝は毎回「耐えてくれてエライ」と心の中で応援してしまうという。
出合いは偶然だった。ポスドクとして30代に入り、デートでたまたま立ち寄った書店。当時は彼女だった今の妻がなんとなく早川いくを氏の「へんないきもの」という本を手にとった。「あ、クマムシ、これおもしろいよね」。熱い語りに促されてのぞき込むと、宮崎駿監督の映画「風の谷のナウシカ」の王蟲(おうむ)のような見た目の生き物がいた。かっこいい。最初は強烈な外観にひかれた。
でも、その後も何かがひっかかった。強いとはどういうことなのか。気になって調べて知ったのが乾燥耐性だ。体の生命活動が止まるのだ。
もしも生き物の体をほんの一瞬、止めて中をじっくり観察することができたら――。体内のすべての物質の位置を調べ、反応をシミュレーションできる。生き物の体の中で何が起きているのか、なぜモノの集まりが生き物になるのかが分かるはず。國枝の学生時代からの妄想をかなえてくれる生き物がいたとは。
「クマムシをやります」。研究者が自分の生涯テーマを決める年齢的にギリギリのタイミングでの唐突な宣言だったが、研究室の教授も若手の自発的な提案に「おもしろい、ぜひやったらいい」と後押しした。
とはいえ、手元にクマムシはいない。まずは実物の捕獲だ。「クマムシはどこにでもいる」。本を信じ、自宅のそばや大学構内の三四郎池とあちこちのコケを採って顕微鏡で観察する。でもいるのはほかの動物ばかり。
結局、1匹目が見つかるまで1カ月。いかにも生き物がいなさそうなところを当たるのがミソだった。「ほかの生き物がいるところでは生存競争に負けてしまう」。モノでない時は意外と弱いらしい。
ようやくクマムシの扱いに慣れ、研究成果を発表するようになると、意外に隠れファンが多いことを知る。「実は研究したかった」と異分野の研究者が応援してくれた。國枝が最初に出合ったかっこいいクマムシ以外にかわいいタイプがおり、「モデル生物のミツバチやカエル、ハエと比べればかわいさは断トツ」。強いのにかわいい、見た目でも研究者を魅了するクマムシのおかげで、今は共同研究も増えてきたという。=敬称略
(鴻知佳子)
主な業績
乾燥耐性を解明
放射線防護に道
クマムシの乾燥耐性は200年ほど前から知られていた。だが、小さくて飼いにくいことからしくみの解明は進まず、外見の多彩さの報告という分類学的な研究がほとんど。「ネグレクテッド・アニマル」(無視されてきた生き物)の1つとも言われる。
乾燥耐性は細胞を守るトレハロースの蓄積によるというのが長年の定説だったが、國枝らの研究によってトレハロースの関与は少ないことが分かってきた。強さの源は、細胞自体が丈夫なだけではなく傷を治す修復のしくみがあるからとみている。
クマムシのゲノム解読にも取り組んでおり、得られる知見は細胞の凍結乾燥保存や放射線防護などに役立つ。
くにえだ・たけかず 1971年、東京都出身。93年東大薬学部卒。98年東大大学院薬学系研究科博士課程修了。スイス・バーゼル大学博士後研究員、東大・産学官連携研究員を経て07年から現職。
登録:
投稿 (Atom)