2011年7月8日金曜日

先端分野、進む産学連携――シャープ、日東電工

シャープ 京大と省エネ住宅実験  日東電工 阪大に有機EL研究所
 環境・エネルギーやエレクトロニクス産業が集積する関西で産学連携の先端研究が加速している。シャープや京都大など25機関が大規模な省エネ住宅の実証実験に乗り出すほか、日東電工などが大阪大に有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)の研究所を設立する。これまで一般的だった人的な交流にとどまらず、双方が深く関与した長期的な取り組みが目立つ。連携で先端技術が開花すれば関西経済の浮揚にもつながりそうだ。
 京都府と大阪府、奈良県にまたがるけいはんな学研都市で今秋にも省エネ住宅の普及をにらんだ産学連携の実証実験が始まる。太陽電池と蓄電池、電力使用を制御するシステムを組み込んだモデル住宅を10戸建設、実際に人が住み込んで電力の削減効果を検証する。
25機関が参加
 実証実験はシャープ、オムロン、京大、同志社大学、京都府のほか関西電力など25機関が参加する「けいはんなエコシティ次世代エネルギー・社会システム実証プロジェクト推進協議会」が中心となって進める。
 省エネ住宅は東日本大震災以降に急速に関心が高まっているが、実際にどの程度のエネルギー削減効果が出るかは未知数の状況。実証実験ではこうした実際のデータの不足を補うと共に、生活に不便を感じることなく電力消費を減らせるシステムの構築を狙う。スマートグリッド(次世代伝送網)の核にしたい考え。
 阪大では、吹田キャンパス(大阪府吹田市)でこのほど完成したテクノアライアンス棟に企業の研究所設立が相次ぐ。日東電工の「先端技術協働研究所」は1540平方メートルの延べ床面積を持ち、クリーンルームなどを含む多数の実験設備を導入して20人体制で秋から本格稼働する。
 「研究開発の幅を広げたい」。同社の藤村保夫研究開発本部長は狙いを語る。大学との共同研究は従来も取り組んできたが、本格的な研究施設を大学内に設けるのは初めて。「腰を据えて連携を進める」と意気込む。
 研究対象は薄膜太陽電池や、照明やディスプレー技術として有望視される有機ELの製造プロセスの開発。多彩なシート材料を持つ同社の技術に大学の知識を融合し、高効率の生産技術開発や製品の性能向上を目指す。
 カネカも同棟内に「基盤技術協働研究所」を1日に開設した。阪大教授や院生も加えた11人体制で7月中旬以降に本格稼働する。有機EL、高効率化合物太陽電池など4つのテーマについて基礎研究を進める。浅田正博RD推進部長は「根源的競争力は基盤技術。阪大の知識や設備を生かし新しい原理の発見につなげたい」と期待を寄せる。
開発の加速狙う
 パナソニックやシャープなどが本社を置く関西は新エネや省エネ、ディスプレーの関連産業が集積する。大学や研究機関の持つ専門知識やノウハウを取り込りこむことで、企業は先進的なシステムや材料、生産技術の開発の加速を狙う。
 神戸市が企業誘致を進めるポートアイランド地区では、理化学研究所が富士通と共同で開発を進める次世代スーパーコンピューター「京」が来年11月にも本格稼働する見通し。理研は、京について稼働当初から民間企業にも利用を開放することを決めている。
 スパコン研究者の育成を目指す兵庫県立大学のシミュレーション学科も京の隣の建物に位置する。大学、企業の研究者が相次ぎ訪れることとなり、新たな産学連携の拠点として注目を浴びる可能性もある。
【表】関西の産学連携の主な事例   
実施主体   研究開発のテーマ
京都大学、大阪ガス   間伐材を利用した冷暖房システム
京都大学、トヨタ自動車、パナソニックなど   リチウムイオン電池などの次世代蓄電池
立命館大学、クリスタル光学(滋賀県大津市)など   レアメタルの少ないガラス研磨材
大阪府立大、シャープなど   室内での野菜栽培
京都大学、パナソニック、テルモなど   次世代医療機器
神戸大学、篠田プラズマ(神戸市)など   医療などに使うフィルム型の紫外線光源

2011年7月7日木曜日

東京大学地震研究所教授古村孝志氏――地震・津波予測を可視化

動画なら直感的に理解
 国内観測史上最大のマグニチュード(M)9・0を記録した東日本大震災。東京大学地震研究所教授の古村孝志は、コンピューターを使ったシミュレーション(模擬実験)技術を生かして巨大地震や津波の発生過程を分析、可視化した。この技術を紀伊半島や四国沖で想定される東海・東南海・南海の連動地震の予測にも役立てる。
 古村研究室のパソコンの画面には、関西以西の西日本の立体地図が表示されている。古村がキーボードを操作すると、紀伊半島から四国沖南方にかけての広い海域で巨大地震が発生、10メートル超の津波が現れ、高知や和歌山の沿岸に押し寄せた。
 これはすべて古村が自作した動画。東日本大震災後の学会で公開し、注目された。「ただ予測データを示すだけでなく、動画を作って見せれば、自分もほかの人も地震・津波の現実を実感して理解できる」と古村は話す。
 北海道大学の学生だったころ、パソコンが流通し始めた。プログラムを作る技術を持っていた古村はパソコンと運動方程式を駆使し、地震などの自然現象を模擬することに興味を持った。研究者になって最初の5年間は、このシミュレーション技術の高度化に取り組んだ。当時はコンピューターの性能が低かったこともあり、なかなか実用レベルの研究が難しかったが「地味でも独自の楽しさはあった」という。
 そんな下積み時代に終止符を打ったのが、1995年の阪神大震災。高速道路の高架が倒壊するなど悲惨な被害を目の当たりにした古村は「不完全でもいい。とにかく、人々に地震が起きた仕組みを説明しないといけない」と奮起。東大地震研の研究者と共同で地震波のデータを分析。阪神大震災のシミュレーションに取り組んだ。
 阪神大震災では、震源の活断層帯の分布と震度7を記録した地域が食い違った。古村らのシミュレーションでは、六甲山脈の固い地盤と、南方の海面下で急激に深くなる地形の影響で、震度7の「震災の帯」が神戸市の市街地に出現した様子がはっきりと示された。コンピューターの性能向上も、研究を後押しした。
 それから16年後、今度は東北沖で「想定外」の巨大地震が起き、多くの人命や財産が失われた。M9の巨大地震を想定できなかった多くの地震学者と同様、古村も「自然が残したメッセージを謙虚に見る必要がある」と話す。例えば、津波が陸地に運んだ堆積物などを調べることで過去の巨大地震を知り、予測に生かすという試みだ。
 今、古村が主に取り組んでいるのが東海、東南海、南海地震が連動して起こる巨大地震の研究だ。文科省の委託を受け、地震、津波の規模や被害を予測する。この巨大地震についても古村は「より南方の海溝寄りで津波地震が起き、4連動になるのでは」とみている。東日本大震災でも宮城県沖や福島県沖などの沿岸部に加え、沖合で大きな津波を伴う地震が起きたためだ。
 4連動の地震が起きれば、3連動に比べ1・5~2倍の最大12メートル程度の津波が西日本を襲う可能性がある。予想浸水域などのハザードマップも見直しも必至だ。政府の中央防災会議の専門委員会の委員も務める古村は震災後、多忙を極めるが「今仕事をせずにいつやるのか」と自らを励まし、地震・津波との戦いに挑む。
=敬称略
(草塩拓郎)
主な業績
地下モデル修正 異分野とも協力
 地震動データを解析し、強い揺れや津波を模擬することが専門。2002年以降は地球シミュレータなどのスーパーコンピューターを使い、東南海、南海地震などを予測。得た知見を地下構造モデルの修正に生かした。
 08年以降は文科省の委託を受け、東北大や京大、名大と共同で東海、東南海、南海地震の揺れや津波の規模、被害の予測研究を実施。防災に生かすため、堆積物や建築といった異分野の研究者や、ガス・水道などのライフライン関連の事業者と協力して研究を進めている。
 ふるむら・たかし 1963年、富山県出身。92年北海道大学大学院博士課程修了。96年北海道教育大学助教授、2000年東京大学地震研究所助教授、08年から現職。

JAXA、電波天文衛星、開発中止へ

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6日までに、2012年の打ち上げを目指していた電波天文衛星「アストロG」の開発中止を決めた。巨大ブラックホールなどから来る電波をとらえるアンテナの精度を高めることが難しくなったため。近く、文部科学省の宇宙開発委員会に報告して正式決定する。
 アストロGは1997年に打ち上げた電波天文衛星「はるか」の後継機。ブラックホールの構造の解明や、高速のガスがブラックホールから吹き出す「ジェット」の詳細な観測を目指していた。
 開発研究を進めていたが、口径約10メートルの大型アンテナの開発が難航していた。目標の観測精度を達成するためには大幅な追加予算が必要とわかり、開発の継続は難しいと判断した。総開発費は143億円。

豊橋技科大、粒子混合で新技術、透明な樹脂を導電体に

 豊橋技術科学大学の武藤浩行准教授は6日、絶縁体の樹脂を電気が流れるよう改良する新技術を開発したと発表した。樹脂の粒子と導電体の粒子をそれぞれ正と負に帯電させて混ぜる。成形すると透明性を保ったままどの方向にも電気が流れる材料を作れる。様々な異種原料同士の組み合わせに応用できるという。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトの成果。電機や食品メーカー6社と応用に向けた共同開発に着手した。
 今回、電気がよく流れるアクリル樹脂を作ることに成功した。樹脂の微粒子を陽イオンの分散剤、導電性があるカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)を陰イオンの分散剤に入れてそれぞれを正と負に帯電させた。両者を純水中で混ぜると樹脂の表面にナノチューブが均質に付着した。
 この粒子を型に入れて加熱圧縮すると導電性材料になる。黒色のナノチューブの配合量は、樹脂に対して1万分の1以下と少ないため透明性を保つ。新技術は他の粒子同士にも応用でき、例えば砂糖を塩で覆ったような調味料の作製も可能だという。

有機エレ、実用化の研究拠点、山形大、基礎と両輪体制

山形大学は、山形県米沢市内に有機エレクトロニクス分野の実用化研究拠点を建設する。2013年春の本格稼働を見込む。同大は今春、基礎研究を担う「有機エレクトロニクス研究センター」を開設したばかり。結城章夫学長は会見で「基礎研究から産業化まで踏み込むことで世界的戦略拠点づくりが大きく前進する」と強調した。
 新拠点は「有機エレクトロニクスイノベーションセンター」(仮称)。米沢オフィス・アルカディア(米沢市)内に整備する。約1万平方メートルの敷地に延べ床面積約3800平方メートルの研究棟を建設。空気清浄度が極めて高い「クラス10000」のクリーンルームを核に、実験室や事業化支援室などを設ける。土地代も含めた総投資額は約16億円。
 主な研究テーマは同大が強みとする有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)のほか、有機太陽電池、有機トランジスタなど。従来の真空蒸着方式に代わり、量産に向く印刷技術を応用した次世代有機デバイスの製造プロセスの確立などに取り組む。
 昨年来構想を詰めてきたが、経済産業省の「イノベーション拠点立地支援事業」に今月1日付で採択された。施設整備費の約3分の2の補助が確定し、早ければ年内にも着工する見通し。
 今春開設の有機エレクトロニクス研究センターには有機EL研究の第一人者、城戸淳二教授ら国内外の一流研究者が結集している。同大は両センターを車の両輪と位置付け、基礎研究から実用化研究まで一貫した体制づくりを目指す。

セメントから半導体ガラス、東工大、低エネルギーで電子放出――太陽電池に利用も

有機EL・太陽電池に利用も
 東京工業大学の細野秀雄教授と金聖雄特任准教授らは、電気を通さないセメントから電気が流れる半導体のガラスを作ることに成功した。低いエネルギーで電子を放出する特徴がある。ガラス粉末を溶剤に溶かしたインクを金属の表面に塗ることで、大画面の有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)や太陽電池の電極に利用できると期待している。
 原料は強化セメントの一種であるアルミナセメント。セメントは絶縁体だが、真空装置に入れて結晶を構成するカルシウムとアルミニウム、酸素からなる直径約0・44ナノ(ナノは10億分の1)メートルのカゴの中の酸素イオンを電子に置換。さらに1230度以上で液体にし、急冷することで半導体のガラスができた。
 細野教授らは2003年、セメントから金属と同様に電気が流れる結晶を作ることに成功。昨年は旭硝子と共同で、消費電力が従来より約3割低い蛍光灯の開発に成功している。今回は結晶を高温で溶かした液体に電気が流れる性質を確認し、さらに急冷すると結晶化せずガラス化することを突き止めた。
 このガラスはアルミなど一般の金属より低いエネルギーで電子が外に飛び出す。この性質を利用すれば、少ない電気で光る有機ELのテレビや照明、電気をより多く取り出せる太陽電池を作れ、省エネルギーや創エネルギーに役立つとみられる。
 ガラスを粉砕した微粒子を溶かしたインクを基板に塗布後、熱処理して性能を高める。ガラスは結晶に比べて低温で処理できる。軽量だが熱に弱いプラスチック基板で大画面のテレビや太陽電池を作るのに適している。

2011年7月6日水曜日

次世代火力発電、NOx抑える技術開発、日立が試作機、希釈剤装置不要に

 日立製作所は4日、環境負荷が小さい次世代の火力発電設備で、窒素などの希釈剤を使わずに大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)の発生を抑える技術を開発したと発表した。従来は燃料の主成分である水素の燃焼温度が高くなるほどNOxが増えるため、希釈剤を投入する必要があった。燃料に空気を急速に混ぜ、燃焼温度の上昇を防ぐガスタービン用燃焼器を試作。希釈剤を扱う専用装置が不要になり設備投資が減らせる。
 石炭をガス化してから燃やす石炭ガス化複合発電(IGCC)に、二酸化炭素(CO2)を地下に封じ込める回収・炭素貯留(CCS)技術を組み合わせた火力発電設備への技術活用を想定している。IGCCは石炭ガスでガスタービンを回すとともに蒸気も発電に使う方式で、従来の石炭火力より発電効率が高く、CO2排出量が減る。
 試作したのはガスタービンに組み込む燃焼器で、CCSでCO2を回収した後に使う。燃料ノズルの形状と位置を工夫し、燃料と空気が空気孔内で小さな渦を作り、そこを抜けると混ざり合う仕組みにした。水素の燃焼温度は通常セ氏2000度にのぼりNOxの排出が多いため、従来は大量の希釈剤を投入し温度を下げていた。
 試作機は実験でのNOx発生量が10PPM(PPMは100万分の1)以下となり、国の環境規制値である70PPMを下回ったとしている。燃料の水素濃度はCO2の回収率が高いほど上昇するが、従来は濃度に応じて別々に燃焼器を設置する必要があったという。今回の試作機は1つで幅広い範囲の濃度に対応できる。