2011年7月14日木曜日

鉄系超電導材、臨界温度更新の可能性、東北大など模擬実験、結晶構造を改良。

 東北大学の中山耕輔助教と高橋隆教授らは、電気抵抗ゼロの超電導現象が生じる臨界温度が、これまでの記録を更新する可能性があることを突き止めた。結晶構造を改良して超電導を阻害する電子状態を取り除けば、臨界温度は絶対温度150度(セ氏零下123度)まで高まる可能性があるという。
 米ボストン大学、中国科学院物理研究所との共同成果。内容は英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載した。
 鉄系と呼ぶ超電導材の電子状態を角度分解光電子分光と呼ぶ技術で詳しく解析した。その結果、この超電導材料の臨界温度は同26度だが、同150度あたりまで超電導を担う電子が不足し、超電導になりにくくしている状態を見つけた。
 コンピューターシミュレーション(模擬実験)によって、材料の結晶構造を改良して電子不足の状態を除けることがわかった。今後、共同研究者の中国科学院でシミュレーションした材料の合成に着手する。
 超電導材の臨界温度は銅酸化物系の同135度が最高記録。銅酸化物系では同300度(セ氏27度)の室温まで電子不足らしい状態が確認されているが、室温超電導材はまだできていない。

ノーベル賞シンポ、「触媒研究、強化を」、根岸氏ら一致。

ノーベル賞シンポジウム「化学の未来」(帝人グループ特別協賛)を都内で開催した。2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸英一・米パデュー大学特別教授も参加したパネル討論会では、日本のお家芸とされ、幅広い産業を支える基盤技術ともいえる触媒の研究を強化すべきだとする見解で一致した。
 討論会には科学技術振興機構の北沢宏一理事長と、東京大学名誉教授でもある柴崎正勝・微生物化学研究会常務理事も参加した。
 様々な化学反応を促進させる触媒を効果的に使うと、副産物がほとんどできずに目的の化合物を効率的に量産することができる。根岸氏は「総合的な意味でのグリーンケミストリー(環境に負荷をかけない化学)が可能になる」と語った。
 北沢氏は「今後の再生可能エネルギーの普及とともに、電気を蓄える方法が今まで以上に求められるようになる」と述べ、触媒をうまく使いこなせば「電気を化学物質の形に変えて蓄積する『電気化学工業』が実現するだろう」と将来像を語った。
 柴崎氏は薬草由来のインフルエンザ治療薬「タミフル」を化学合成だけで安価に量産できる独自開発の作製法を紹介。タミフルに耐性を持つウイルスが増えていることを受け、耐性ウイルスに効く今後の「新タミフル」の開発でも「触媒がカギを握る」と強調した。製薬産業において「日本の触媒技術を使って他国ではできない薬の候補物質をそろえておけば、業界の発展になる」とした。
 一方で、「日本は触媒を使う成熟産業は強いが、新産業創出では米国にかなり差をつけられている」と指摘。北沢氏は技術力をテコに産業競争力を高めていくには「基礎から応用まで研究の全体像を見渡すことのできるリーダーを育成しなければならない」と課題として挙げた。
 根岸氏は米国で若手研究者だった時、所属研究室の教授とは異なる独自テーマを探さざるを得ない状況に追い込まれたことがノーベル賞につながる転機となった経験から、「日本も若手の独自研究を後押しするシステムの強化がもっと必要」と提案した。