壁破り組織の融合狙う
「平井さん、ちょっとこちらに来ていただけますか」。2013年8月、ソニー厚木テクノロジーセンター(神奈川県厚木市)で開かれた夏祭りに参加した平井一夫社長は、ある技術のデモンストレーションに突然、招かれた。
そこで平井社長が見せられたのは、キューブ形状の携帯型プロジェクターだ。単なる小さなプロジェクターではない。「超短焦点」と呼ぶソニーの最先端の技術を備え、壁との距離が0センチメートルから投写が可能で、最大50型の映像を見られる。
実用化すれば、壁や机、外出先など場所を選ばずに映像を気軽に楽しめる新たな映像体験を消費者に提供できる。技術の潜在力を直感した平井社長は、生活空間のなかで新たなAV(音響・映像)体験の創出を目指すコンセプト商品群「ライフスペースUX」の商材に加える判断を下した。
社長に直談判
ゲリラデモを仕掛けたのは、プロジェクター用デバイスの開発チームだ。コンセプトが斬新なだけに、デバイス側から提案をしたもののセット(最終製品)側が採用をためらう日々が続いた。
そこで直談判という一計を案じた。ディスプレイデバイス事業部ディスプレイデバイス1部2課の吉永朋朗統括課長は「眠っている技術を使って、ソニーの既存の商品にはない畑違いのプロジェクトを作りたかった」と振り返る。
デバイス発で新規事業を創出しようという試みが活発になってきている。これまでは「セットの差異化を促す技術の担い手」という裏方を演じてたが、表舞台に躍り出てきた格好だ。
身にまとうIT(情報技術)機器「ウエアラブル端末」も中長期の展望で仕込む種のひとつだ。メガネやゴーグルなどに簡単に取り付け・取り外しができる「スマートアイグラスアタッチ!」もデバイス発の新商品だ。
0・23型の超小型有機ELディスプレーを機器の先端部に搭載。メガネにこの機器を装着すると、利用者は約2メートル先に16インチ型ディスプレーと同等の映像を見られる。
こうした動きの背景には、エレクトロニクス商品のトレンド変化が激しさを増していることがある。ディスプレイデバイス事業部の阿部文明事業部長は「商品形態が正常進化するようでは新しい成長を描きづらくなっている」と話す。従来型のビデオカメラが低迷するなか、身にまとう小型カメラで新市場を創出した米ゴープロが好例だ。
既存の肥大した組織で新たな挑戦をしようにも、制約が課せられることが少なくない。そこで自由な発想で技術の用途を生み出せるデバイス部門の出番が増えた。
制約のない自由な発想は、ソニーが3月に新規参入した化粧品分野で発揮された。肌解析システム「ビューティーエクスプローラー」は画像センサーの開発チームがけん引した。ソニーセミコンダクタ(熊本県菊陽町)の上田康弘社長は「グループを見渡して既存の事業部門が手掛けていない成長領域に、デバイスからまず仕掛ける」と強調する。
4月にはデバイスソリューション事業本部内に新規事業部門を新設した。単発で仕掛けていたこうした新規事業の創出の動きを組織的にサポートし、確実な事業化を後押しする狙いだ。
ヒット商品が生まれず縮小が続くエレキ商品。この負の流れを断ち切るべく、デバイス発の新規事業の創出でセット部門を揺さぶり、社内を活性化する試みだが、デバイス部門にはもうひとつの役割が期待されている。異なる組織をつなげるという扇の要の役割だ。
技術で横串、課題
「デバイス発の商品を大きく育てようにもデバイス部門にはそのノウハウがない」。阿部氏はこう指摘する。上流の基礎研究を担う研究開発(R&D)部門からデバイス部門、セット部門までを「技術をもって横串をさしてつなげていくのが課題だ」(鈴木智行副社長)と強調する。
ソニーは15年度からの3カ年の中期経営計画で「分社化の推進」を組織変革の柱にかかげた。すでにスマートフォンやテレビ、ゲームなどは分社されているが、10月に携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」などを担うビデオ&サウンド事業も分社化され、将来、全事業が分社される計画だ。
結果責任の明確化や意思決定の迅速化が狙いだが、社内からは危惧の声もあがる。分社された子会社が既存の事業領域のみに集中し、異なる分野への挑戦や新しい市場の創出のような活動が低下するという懸念だ。
鈴木副社長は「カギは分社化された子会社の経営者が横とつながる姿勢をもつこと」と指摘。「現場の連携を強められるかどうかが、分社の最大の課題だ」と話す。
かつてのソニーは共同創業者の井深大氏と盛田昭夫氏が「ものづくり」と「ビジネス」で役割分担し、岩間和夫元社長が「技術」で支えた。平井社長は「イノベーションで感動をもたらすことがソニーのミッション」と語る。創業者世代が去った後、イノベーションの新たな仕組みをどう再構築するか。「SONY転生」の絶対条件だ。
(次回は「デジタルBiz&Tech」面に掲載します)
【図・写真】壁に貼り付けられるプロジェクターの小型版(写真上)と、壁に大画面映像を映すプロジェクター(同左下)、眼鏡に装着できる「スマートアイグラスアタッチ!」
2015年4月17日金曜日
SONY転生デバイスで変える(3)機器と人、心交わす日、画像センサー、感情認識に挑む――センシング、事業領域拡大。
車の安全・安心に活用
スタンリー・キューブリック氏が監督・脚本を務めた映画「2001年宇宙の旅」。この作品に登場する人工知能を備えたコンピューター「HAL9000」が、ソニーの画像センサーの未来を占うヒントになる。
「画像センサーが果たす究極の役割はHALのようなパーソナルコンシェルジュを身近にすることだ」。ソニーセミコンダクタ(熊本県菊陽町)の上田康弘社長は語る。映画に登場する瞳のような形状をしたHAL9000は人と心を交わす。
コンピューターが人間と心を交わすために必要な情報を得るキーデバイスとして重要になるのが画像センサーだ。「画像センサー技術を心の状況まで認識できる次元にまで高めたい」(上田氏)。ソニーは「感情センシング」と呼ぶ画像センサーで人の感情をとらえる技術の実用化に向け研究に乗り出した。
この「センシング」はソニーの画像センサーの事業領域を広げる技術戦略の柱となる。例えば、高速で移動中に物体を正確に捉えたり、暗闇でも対象物を認識したりする。現在はスマートフォン(スマホ)やデジタルカメラなどで肉眼で見える世界を忠実に再現する「イメージング」が主体だが、センシング領域に軸足を広げることで、事業機会を増やす。
デバイス&マテリアル研究開発本部長の平山照峰業務執行役員SVPは「肉眼では見えない可視光以外の光の波長などを捉えられる進化の道もある」と話す。特殊な光の波長を野菜に当てて、画像センサーで鮮度を判定する世界も夢ではない。
社会課題を解決
センシング領域でソニーが足元で最も注力するのが車載だ。鈴木智行副社長は「単に画像センサーの部品だけを供給するつもりはない」と語る。暗闇で人を捉える画像認識や悪天候でも鮮明な映像にする画像抽出などのシステムまでも手掛け、「これらを車の制御系に反映させる総合的なソリューションまでを開発したい」という。
「伝説的なデモンストレーションをありがとう」。昨年10月下旬、ソニーの車載用画像センサーのチームは欧州のある大手自動車メーカーの担当者から称賛された。
ソニーが用意したのは、車載向けに専用で開発した画像センサーのデモだ。真っ暗闇の部屋にこのセンサーを置き、離れた場所にいる人の顔を映し出す。モニターに真っ暗闇のなかで顔が鮮明に浮かび上がると、驚嘆の声が上がった。車載用の画像センサーは今年12月に量産出荷を始める。
これまで画像センサーの車載への転用では一定の距離を置いてきたソニーの方針が転換したのは昨年秋だ。車載用の画像センサーに本格参入すると発表し、画像センサー業界内に衝撃を与えた。「ソニーの本気度はどれくらいなのか」。この知らせを聞いた韓国サムスン電子の担当者から日本の取引先に問い合わせが相次いだほどだ。
車載用の開発に着手したのは2012年夏にさかのぼる。ただ、道のりは平たんではなかった。
「乗用車は10年、商用車はそれ以上の保証が必要で、簡単にやめられませんよ」。ソニーのイメージングシステム事業部ISビジネス2部の綿谷行展統括部長は、自動車メーカー担当者から疑念をもたれたことがある。
ソニーは消費者向けエレクトロニクス商品の印象が強い。市場環境の変動が大きく、生まれてすぐに消えた商品も少なくない。人命にかかわる自動車ビジネスに参入する覚悟を問われたわけだ。「本気で臨む。時間はかかるかもしれないが、自動車業界で信頼を高めたい」(綿谷氏)
自動運転車開発ベンチャーのZMP(東京・文京)にも出資し、画像センサーの応用領域を広げていく。車載イメージングソリューション事業室1課の相沢康正プロダクトプランニングマネジャーは「センシングの技術は車の安心・安全に貢献できる」と話す。技術を社会課題の解決に役立てるという従来のソニーになかった挑戦だ。
競合に先手打つ
デバイス部門の強みは、将来の技術展望を描き、ライバルに先んじて手を打つというロードマップ戦略を地道に実行している点にある。トランジスタやCCD(電荷結合素子)などの技術の筋を見極めて先行投資し、「技術のソニー」を引っ張った岩間和夫元社長から引き継がれる魂だ。
今でこそわが世の春のCMOS(相補性金属酸化膜半導体)画像センサーだが、CCDからの切り替えに遅れ、実は最後発の参入だった。逆襲のきっかけとなったのは、光を効率的に受けられ、感度2倍に高められる「裏面照射型」の革新的なCMOS画像センサーだった。アイデアは古くからあったが、量産が難しいとされていた。開発を指揮した平山SVPは「CCDを上回る感度を出す技術はこれしかない」と技術の筋を見極め、十数人で開発に着手した。
当初は反対の声も少なくなかったが、ソニーには難路に挑む者たちを応援する文化がある。その技術は積層型へと進化しソニーを支える。「トップに立ち続けるには、他社と異なるモノを出さなければならない」と語る平山SVPは今、画像センサーのロードマップを2024年まで描いている。未来を自ら描き、現実化に挑む。攻勢に転じるソニーに求められる気概だ。
スタンリー・キューブリック氏が監督・脚本を務めた映画「2001年宇宙の旅」。この作品に登場する人工知能を備えたコンピューター「HAL9000」が、ソニーの画像センサーの未来を占うヒントになる。
「画像センサーが果たす究極の役割はHALのようなパーソナルコンシェルジュを身近にすることだ」。ソニーセミコンダクタ(熊本県菊陽町)の上田康弘社長は語る。映画に登場する瞳のような形状をしたHAL9000は人と心を交わす。
コンピューターが人間と心を交わすために必要な情報を得るキーデバイスとして重要になるのが画像センサーだ。「画像センサー技術を心の状況まで認識できる次元にまで高めたい」(上田氏)。ソニーは「感情センシング」と呼ぶ画像センサーで人の感情をとらえる技術の実用化に向け研究に乗り出した。
この「センシング」はソニーの画像センサーの事業領域を広げる技術戦略の柱となる。例えば、高速で移動中に物体を正確に捉えたり、暗闇でも対象物を認識したりする。現在はスマートフォン(スマホ)やデジタルカメラなどで肉眼で見える世界を忠実に再現する「イメージング」が主体だが、センシング領域に軸足を広げることで、事業機会を増やす。
デバイス&マテリアル研究開発本部長の平山照峰業務執行役員SVPは「肉眼では見えない可視光以外の光の波長などを捉えられる進化の道もある」と話す。特殊な光の波長を野菜に当てて、画像センサーで鮮度を判定する世界も夢ではない。
社会課題を解決
センシング領域でソニーが足元で最も注力するのが車載だ。鈴木智行副社長は「単に画像センサーの部品だけを供給するつもりはない」と語る。暗闇で人を捉える画像認識や悪天候でも鮮明な映像にする画像抽出などのシステムまでも手掛け、「これらを車の制御系に反映させる総合的なソリューションまでを開発したい」という。
「伝説的なデモンストレーションをありがとう」。昨年10月下旬、ソニーの車載用画像センサーのチームは欧州のある大手自動車メーカーの担当者から称賛された。
ソニーが用意したのは、車載向けに専用で開発した画像センサーのデモだ。真っ暗闇の部屋にこのセンサーを置き、離れた場所にいる人の顔を映し出す。モニターに真っ暗闇のなかで顔が鮮明に浮かび上がると、驚嘆の声が上がった。車載用の画像センサーは今年12月に量産出荷を始める。
これまで画像センサーの車載への転用では一定の距離を置いてきたソニーの方針が転換したのは昨年秋だ。車載用の画像センサーに本格参入すると発表し、画像センサー業界内に衝撃を与えた。「ソニーの本気度はどれくらいなのか」。この知らせを聞いた韓国サムスン電子の担当者から日本の取引先に問い合わせが相次いだほどだ。
車載用の開発に着手したのは2012年夏にさかのぼる。ただ、道のりは平たんではなかった。
「乗用車は10年、商用車はそれ以上の保証が必要で、簡単にやめられませんよ」。ソニーのイメージングシステム事業部ISビジネス2部の綿谷行展統括部長は、自動車メーカー担当者から疑念をもたれたことがある。
ソニーは消費者向けエレクトロニクス商品の印象が強い。市場環境の変動が大きく、生まれてすぐに消えた商品も少なくない。人命にかかわる自動車ビジネスに参入する覚悟を問われたわけだ。「本気で臨む。時間はかかるかもしれないが、自動車業界で信頼を高めたい」(綿谷氏)
自動運転車開発ベンチャーのZMP(東京・文京)にも出資し、画像センサーの応用領域を広げていく。車載イメージングソリューション事業室1課の相沢康正プロダクトプランニングマネジャーは「センシングの技術は車の安心・安全に貢献できる」と話す。技術を社会課題の解決に役立てるという従来のソニーになかった挑戦だ。
競合に先手打つ
デバイス部門の強みは、将来の技術展望を描き、ライバルに先んじて手を打つというロードマップ戦略を地道に実行している点にある。トランジスタやCCD(電荷結合素子)などの技術の筋を見極めて先行投資し、「技術のソニー」を引っ張った岩間和夫元社長から引き継がれる魂だ。
今でこそわが世の春のCMOS(相補性金属酸化膜半導体)画像センサーだが、CCDからの切り替えに遅れ、実は最後発の参入だった。逆襲のきっかけとなったのは、光を効率的に受けられ、感度2倍に高められる「裏面照射型」の革新的なCMOS画像センサーだった。アイデアは古くからあったが、量産が難しいとされていた。開発を指揮した平山SVPは「CCDを上回る感度を出す技術はこれしかない」と技術の筋を見極め、十数人で開発に着手した。
当初は反対の声も少なくなかったが、ソニーには難路に挑む者たちを応援する文化がある。その技術は積層型へと進化しソニーを支える。「トップに立ち続けるには、他社と異なるモノを出さなければならない」と語る平山SVPは今、画像センサーのロードマップを2024年まで描いている。未来を自ら描き、現実化に挑む。攻勢に転じるソニーに求められる気概だ。
SONY転生デバイスで変える(2)画像センサー総力結集、「積層型」世界初の量産――元「セル」技術者170人担う。
新興国スマホ照準
長崎県諫早市。スマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)に搭載されるCMOS(相補性金属酸化膜半導体)画像センサーの戦略拠点、長崎テクノロジーセンター(長崎TEC)が24時間のフル稼働を続ける。ソニーセミコンダクタ(熊本県菊陽町)の山口宜洋執行役員兼長崎TECプレジデントは「我々のものづくりは絶対にまねできない」と自信を見せる。
2つの顔を持つ
ソニーが2012年10月に携帯電話向けに世界で初めて量産に成功した「積層型」のCMOS画像センサーにその秘密がある。積層型とは光を受ける画像センサーと画像処理チップを重ね合わせる技法だ。
従来は画像センサーと同じチップ上に画像処理用の回路を形成していた。撮影性能を上げる場合には別の画像処理チップを搭載する必要があった。積層型はチップ面積を抑えつつ、高機能な画像処理チップも搭載できる。光をデジタルの画像に変換するアナログな半導体技術と、高速に情報を処理できるデジタルな半導体技術の2つの顔をもつのが積層型CMOS画像センサーだ。
CMOS画像センサーを手掛ける台湾のTSMC(台湾積体電路製造)や韓国のサムスン電子、東芝などの競合は画像処理チップを重ね合わせる積層型の量産には至っていない。他社がソニーのCMOS画像センサー技術に追いつくにはソニーの開発が2年半以上停滞する必要があるという。
山口氏は積層型の技法の難しさをこう例える。「画像センサーの基となる300ミリメートルウエハーを東京ドームとすると、まずドーム全体の芝を約2ミリの薄さに真っ平らに削る。ここで0・7ミリずれるとその時点で製品には使えない」という。「そのうえで、もうひとつのドームを重ね合わせるが、ここでも2ミリ以内に寸分たがわずに合わせる必要がある」
ソニーが唯一、世界で先駆けて積層型を量産できたのは、最先端の画像センサーと大規模集積回路(LSI)の技術を兼ね備えているためだ。光を高画質な画像に変換する画像センサーと処理速度を上げるLSIの生産プロセスは全く異なる。「この異なる技術を高い次元で擦り合わせられる総合力が強みだ」。久留巣敏郎前ソニーセミコンダクタ社長は強調する。
この擦り合わせを支えるのは数奇な運命をたどった長崎TECのファブ3と呼ばれる工場だ。
もともと、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のゲーム機「プレイステーション(PS)」に搭載するLSIを主に生産していた。後に東芝と米IBMと共同開発したMPU(超小型演算処理装置)「セル」の量産拠点に育つ。その後、08年3月に東芝に実質的に譲渡した。さらに画像センサーの需要増に伴い東芝から11年4月に買い戻した。
セルそのものは普及しなかったが、最先端のLSIの開発や生産に携わった技術者たちがソニーに残った。熊本テクノロジーセンター(熊本TEC、熊本県菊陽町)には元セル部隊を中心にした約170人の技術者たちが常駐する。設計・開発から生産までを一貫して手掛ける体制だ。ソニーの鈴木智行副社長は「ソニーの半導体技術の総力を画像センサーに結集させている」と話す。
ライバルも黙ってはいない。「ソニーと同じ半導体製造装置を入れてくれないか」。ある装置メーカーは中国の半導体メーカーからこう打診されたという。巨大な装置産業である半導体では、製造装置にノウハウが凝縮される。メモリーで日本が苦境に追い込まれた理由だ。
「外に出さない」
山口氏は涼しい顔だ。「ライバルが同じ装置を入れてもソニーの画像センサーを再現できない」からだ。ソニーは独自の技術で装置を使いこなす。複雑な工程の一つ一つに独自のノウハウが隠され、生産ラインの全容を把握できる人材は一握りと言われる。「生産技術は外には出さない」(久留巣氏)と強調する。
ソニーは開発・生産以外でもライバルの先手を打ち始めた。
「お世話になりました」。最近、ソニーの画像センサーの取引先にあいさつのメールがよく届く。異動者はエース級の営業員ばかり。行き先は中国だ。ソニーは画像センサーの営業の精鋭を中国に続々と投入している。「中国のスマホメーカーが持つ情報の量と質の高さは段違いだ」(ある取引先)と舌を巻く。
「新興国のスマホメーカーには部品を指名買いする動きが出ている。この動きに対応したい」。デバイスソリューション事業本部の野本哲夫モバイルイメージングシステム事業部長は次の競争をも見据える。生き馬の目を抜く競争が繰り広げられてきた半導体業界。今は独走状態にあるソニーの画像センサー部隊だが、慢心は許されない。
長崎県諫早市。スマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)に搭載されるCMOS(相補性金属酸化膜半導体)画像センサーの戦略拠点、長崎テクノロジーセンター(長崎TEC)が24時間のフル稼働を続ける。ソニーセミコンダクタ(熊本県菊陽町)の山口宜洋執行役員兼長崎TECプレジデントは「我々のものづくりは絶対にまねできない」と自信を見せる。
2つの顔を持つ
ソニーが2012年10月に携帯電話向けに世界で初めて量産に成功した「積層型」のCMOS画像センサーにその秘密がある。積層型とは光を受ける画像センサーと画像処理チップを重ね合わせる技法だ。
従来は画像センサーと同じチップ上に画像処理用の回路を形成していた。撮影性能を上げる場合には別の画像処理チップを搭載する必要があった。積層型はチップ面積を抑えつつ、高機能な画像処理チップも搭載できる。光をデジタルの画像に変換するアナログな半導体技術と、高速に情報を処理できるデジタルな半導体技術の2つの顔をもつのが積層型CMOS画像センサーだ。
CMOS画像センサーを手掛ける台湾のTSMC(台湾積体電路製造)や韓国のサムスン電子、東芝などの競合は画像処理チップを重ね合わせる積層型の量産には至っていない。他社がソニーのCMOS画像センサー技術に追いつくにはソニーの開発が2年半以上停滞する必要があるという。
山口氏は積層型の技法の難しさをこう例える。「画像センサーの基となる300ミリメートルウエハーを東京ドームとすると、まずドーム全体の芝を約2ミリの薄さに真っ平らに削る。ここで0・7ミリずれるとその時点で製品には使えない」という。「そのうえで、もうひとつのドームを重ね合わせるが、ここでも2ミリ以内に寸分たがわずに合わせる必要がある」
ソニーが唯一、世界で先駆けて積層型を量産できたのは、最先端の画像センサーと大規模集積回路(LSI)の技術を兼ね備えているためだ。光を高画質な画像に変換する画像センサーと処理速度を上げるLSIの生産プロセスは全く異なる。「この異なる技術を高い次元で擦り合わせられる総合力が強みだ」。久留巣敏郎前ソニーセミコンダクタ社長は強調する。
この擦り合わせを支えるのは数奇な運命をたどった長崎TECのファブ3と呼ばれる工場だ。
もともと、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のゲーム機「プレイステーション(PS)」に搭載するLSIを主に生産していた。後に東芝と米IBMと共同開発したMPU(超小型演算処理装置)「セル」の量産拠点に育つ。その後、08年3月に東芝に実質的に譲渡した。さらに画像センサーの需要増に伴い東芝から11年4月に買い戻した。
セルそのものは普及しなかったが、最先端のLSIの開発や生産に携わった技術者たちがソニーに残った。熊本テクノロジーセンター(熊本TEC、熊本県菊陽町)には元セル部隊を中心にした約170人の技術者たちが常駐する。設計・開発から生産までを一貫して手掛ける体制だ。ソニーの鈴木智行副社長は「ソニーの半導体技術の総力を画像センサーに結集させている」と話す。
ライバルも黙ってはいない。「ソニーと同じ半導体製造装置を入れてくれないか」。ある装置メーカーは中国の半導体メーカーからこう打診されたという。巨大な装置産業である半導体では、製造装置にノウハウが凝縮される。メモリーで日本が苦境に追い込まれた理由だ。
「外に出さない」
山口氏は涼しい顔だ。「ライバルが同じ装置を入れてもソニーの画像センサーを再現できない」からだ。ソニーは独自の技術で装置を使いこなす。複雑な工程の一つ一つに独自のノウハウが隠され、生産ラインの全容を把握できる人材は一握りと言われる。「生産技術は外には出さない」(久留巣氏)と強調する。
ソニーは開発・生産以外でもライバルの先手を打ち始めた。
「お世話になりました」。最近、ソニーの画像センサーの取引先にあいさつのメールがよく届く。異動者はエース級の営業員ばかり。行き先は中国だ。ソニーは画像センサーの営業の精鋭を中国に続々と投入している。「中国のスマホメーカーが持つ情報の量と質の高さは段違いだ」(ある取引先)と舌を巻く。
「新興国のスマホメーカーには部品を指名買いする動きが出ている。この動きに対応したい」。デバイスソリューション事業本部の野本哲夫モバイルイメージングシステム事業部長は次の競争をも見据える。生き馬の目を抜く競争が繰り広げられてきた半導体業界。今は独走状態にあるソニーの画像センサー部隊だが、慢心は許されない。
SONY転生デバイスで変える(1)「ソニー入ってる」照準、画像センサー、業界標準狙う。
スマホ搭載、金額シェア頂点 出荷年2倍、成長の軸
構造改革から成長へ――。ソニーが生まれ変わろうともがいている。4月からの新たな中期経営計画で「利益重視と成長への投資」をテーマに据え、赤字体質から高収益企業への転換を目指す。看板事業であるエレクトロニクスにも聖域を設けない。長期低迷を脱し、「SONY」のブランドは輝きを取り戻せるか。転生に向けた胎動は始まった。その最前線を追う。(関連記事3面に) 「資金提供の申し出をお断りします」 2月。ソニーは約1050億円を投じ、スマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)に搭載するCMOS(相補性金属酸化膜半導体)画像センサーの生産能力を月産8万枚(300ミリメートルウエハー換算)に引き上げる大型の設備投資を決めた。実はこの大型投資を巡り、米アップルが資金提供を提案してきたが、ソニーは自前路線を貫いた。 資金提供断る 一方、ソニーと反対にアップルの資金提供を受け入れたのはジャパンディスプレイ(JDI)だ。JDIは3月、石川県に高精細の中小型液晶の新工場を建てると発表した。約1700億円の投資額の大半はアップルが負担するとされる。 画像センサーと液晶パネルというスマホの中核部品を担う両社だが、大口取引先への対応は分かれた。巨額投資のリスクを単独で背負う判断は、画像センサーの競争力の強さに対するソニーの自信の裏返しだ。 「工場はフル稼働だが、需要に供給が追いついてない」。ソニーのデバイスソリューション事業本部の野本哲夫モバイルイメージングシステム事業部長は悲鳴を上げる。 ソニーの画像センサーの出荷量は2012年度に3億6000万個だったが、13年度には5億2100万個、14年度は9億個に達した模様。毎年2倍近いペースの伸びだ。「毎夏、中期計画を立てるが、毎回1年前倒しで需要予測が現実になる」(野本氏) 7日には16年6月末までに月産8万枚としていた2月の増産計画を見直し、約450億円を追加投資して16年9月末までに月産8万7000枚に増強すると発表した。ソニーは16年までに月産7万5000枚としていた中期計画を前倒ししたうえで、生産能力の一段の上積みに踏み切る。 「成長けん引」。画像センサーを中心とするデバイス事業に平井一夫社長が託した使命だ。17年度にデバイス事業は売上高で最大1兆5000億円(14年度見込みで9500億円)、売上高営業利益率で最大12%(10・5%)を目指す。売り上げ成長では全事業トップで文字通りにけん引役の期待がかかる。 調査会社のテクノ・システム・リサーチ(東京・千代田)によると、14年のCMOS画像センサーの世界シェア(数量ベース、見込み値)は米オムニビジョンが23・4%と首位で、ソニーは20・7%と2位。だが、金額ベースではソニーが39・5%の首位で、2位のオムニビジョン(16・2%)を突き放す。 鈴木智行副社長は「2年は競合よりも技術が先行している」と話す。韓国のサムスン電子は最上位機「ギャラクシーSシリーズ」の画像センサーでソニー製を毎回使っていたが、前モデル「S5」で自社製の画像センサーに切り替えた。ただ、最新の「S6」で再びソニー製に戻したほどだ。 中・低価格でも 高付加価値分野の高い競争力を背景に、数量でも確固たる首位を狙う新たな挑戦が動き出した。 これまでスマホの高級機向けを中心としていた画像センサーの供給先を中・低価格機に広げる。撮影性能を絞り込んで価格を抑えた廉価版の品ぞろえを拡充。中国など新興国のスマホメーカーに提供する。15年には数量ベースでも30%に達し、首位に立つ見通しだ。 高画質の画像センサーとして確立したブランドを生かし、中・低価格市場までも席巻する。スマホの中核部品である「電子の目」で「デファクトスタンダード(事実上の標準)」を奪いに行く野心的な戦略だ。 パソコン時代に米インテルがMPU(超小型演算処理装置)で築いた「インテル・インサイド」のモデルをスマホ時代の画像センサーで「ソニー・インサイド」として確立する。「高付加価値スマホへの依存度の高さが課題」(吉田憲一郎副社長)だったが、中核部品として標準の座を握れば、供給先を分散できるうえ、最終商品のスマホがコモディティー(汎用品)化しても収益性を担保できる。 かつてソニーは東芝と米IBMとともにMPU「セル」を開発した。デジタル家電がネットワークでつながる時代をにらみ、テレビなどあらゆるデジタル家電に組み込む壮大な構想を描いた。だが、消費電力の高さや高コストがネックとなり、ゲーム機「プレイステーション3」以外の採用が広がらず、大きな損失を招いた。画像センサーは捲土(けんど)重来を期した再挑戦でもある。 「投資回収は21世紀に入ってから」。ソニー半導体の父である岩間和夫元社長はCCD(電荷結合素子)画像センサーの開発に際し、先行投資を危惧する周囲をこう諭した。画像センサーは今、岩間氏の予言通りに大きな回収期を迎えた。岩間氏の遺産を引き継いだもう一人の「カズオ」である平井社長にも成長に向けた新たな投資の目利き力が問われる。 星正道が担当します。 |
KDDI、ファイアーフォックスOS搭載スマホ、消費者手軽にアプリ開発、「おたく向け」高機能な部品
KDDI(au)が2014年12月に発売したスマートフォン(スマホ)「Fx0」は米モジラ財団のOS(基本ソフト)「ファイアーフォックスOS(FxOS)」を搭載した国内初のスマホだ。FxOSは「第3のスマホOS」を狙い、海外で普及が先行する。手軽にアプリ(応用ソフト)をつくれるのも特徴だ。記者が使い勝手を探った。
FxOSはブラウザー(閲覧ソフト)「ファイアーフォックス」を提供する非営利組織のモジラ財団が開発した。スマホOSは米グーグルの「アンドロイド」と米アップルの「iOS」の寡占状態にあるが、海外では13年からFxOS搭載スマホが登場した。現在は十数機種が販売されているが、新興市場向けの数十~100ドル程度の低位機種が大半だ。 KDDIはFx0を「ギーク(おたく)向け」(田中孝司社長)として、海外の既存機種よりも高性能な部品を採用した。4・7型画面や処理能力が高い「クアッドコア」と呼ぶCPU(中央演算処理装置)を搭載し、高速データ通信「LTE」にも対応した。ただ、テレビ視聴の「ワンセグ」や電子マネー、赤外線通信など国内向け機種でおなじみの機能はない。 基本的な使い方はアップルのiPhoneやグーグルのアンドロイド搭載スマホと似ている。ホーム画面には電話やメール、ブラウザー、音楽や動画といったアプリのアイコンが並び、指でタッチすれば起動する。ホーム画面に戻るには画面下のボタンを押せばよい。 日本語入力アプリも備え、指を画面に触れて滑らせる「フリック入力」ができる。実機を試したところ、メールやブラウザー、カメラなどの基本アプリで操作に迷ったり、動作が遅いと感じたりすることは少なかった。 対応アプリは公式のアプリ配信サイトで入手できる。現在、短文投稿の「ツイッター」や無料通話の「LINE」などが公開されている。予定表や歩行者向け道案内、飲食店検索など実用向けアプリもある。iOS版の同じアプリと比較してみたが、画面のデザインや機能は簡素なものの、基本的な使い勝手は大きく変わらなかった。 ただ、後発OSとあってラインアップは貧弱だ。対応アプリの拡充に向けて、FxOS陣営がアプリ開発者向けにアピールしているのが最新ウェブ技術「HTML5」を採用している点だ。 ウェブサイトの構築に使う同じ技術を利用し、手軽にブラウザーだけで機器を動かすアプリを作成できる。「自由度が高く誰でもアプリをつくれる」(KDDI商品企画部の上月勝博氏)という。iOSやアンドロイドで必要な専門的なプログラミング言語を習得する手間が省ける。 さらにKDDIは専門知識のない消費者向けのアプリ開発ツール「Framin」も用意した。 このツールでFx0にダウンロードして、試しに初歩的なアプリをつくってみた。考えたのは、画面に刀の画像を表示し、素早く動かすと刀を振った際の効果音が鳴る仕組みのアプリだ。 まず名称を決め、刀の画像を読み込みアプリの画面に設定する。次に「本体を振ると音を鳴らす」という動作ルールを指定する。最後に動作をテストしたうえでFx0にインストールする。一連の作業は全てタッチ操作だけでツールの指示に従って進められた。 専用サイトでは、より複雑な動きのアプリのつくり方を公開している。2月からは利用者が作成したアプリをサイトに投稿して共有できるようにした。利用者同士の交流を通じてFxOSの普及につなげる狙いだ。 ▼Fx0の主な仕様 ▽高さ139×幅70×厚さ10.5ミリメートル▽重さ148グラム▽バッテリー2370ミリアンペア時▽ディスプレー4.7型IPS液晶(1280×720ドット)▽連続通話時間1010分▽連続待受時間820時間(3G)720時間(LTE)▽メーンカメラ800万画素▽韓国LG電子製▽本体と基本的な通信料込みで月3800円(税別)から |
iPS細胞、実用化段階へ、京大・東大、特許活用に動く、供与方式、企業利益に配慮。
再生医療の重要な鍵を握るiPS細胞が研究段階から実用化の領域に進みつつある。研究段階の基本特許では京都大学が世界に先行してきたが、実用化に近づくにつれて東京大学も存在感を高めている。両大学がiPS細胞の実用化を推し進めるため、知財戦略にどのように取り組もうとしているのか。それぞれの動きを探った。(松田省吾)
「場合によっては1社に特許を独占的にライセンスすることを認める」。京大のiPS細胞関連特許の管理会社、iPSアカデミアジャパン(京都市)は最近、知財戦略を転換した。iPS細胞を使った再生医療事業を企業に促すには、1社に独占的にライセンスして利益を確保しやすくすることも必要になるとみるからだ。
これまでは特許を1社だけに独占的にライセンスすると他の企業と連携する大学などの研究者が研究できなくなる恐れがあるため、認めてこなかった。iPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥・京大iPS細胞研究所長による多くの研究者に研究の機会を提供したいとの意向が反映している。
ビジネスを意識
方針を改めたのは、ビジネスを意識する段階に入ったからだ。これまで京大にはiPS細胞そのものの作製に関する特許を世界中で早期に取得することが最重要課題だった。京大は約30カ国・地域でiPS細胞の作製にかかわる基本特許を取得する成果を収めた。
いまの課題はiPS細胞から目や心臓など再生医療に利用する細胞をつくる特許の取得と活用だ。京大はiPS細胞から心臓や骨格筋などの細胞をつくる特許を日米欧で計6件取得済み。現在、京大iPS細胞研では、再生医療につながる細胞をつくる技術の出願が全体の4割を占めており、主戦場と捉えている。
これらの特許を使った再生医療の実用化には「企業の力が必要で、事業面で利益がでるようにしなければならない」と白橋光臣社長は話す。ただし、1社に独占させると多くの研究者の研究を妨げる恐れのある特許は引き続き独占的なライセンスは認めない方針だ。
もっとも、具体的にどうライセンス方式を使い分けるかは簡単ではない。京大は日本製薬工業協会などとも相談しているが、特許の保護と活用を巧みに使い分ける例に挙がるのは米アップルなどIT(情報技術)関連企業ばかり。iPS細胞研の高尾幸成・知財管理室長は「バイオ関連では我々が成功例を作らなければならない」と話す。
東大も動き出した。東大医科学研究所の中内啓光教授らは東大から独占的ライセンスを受けた、iPS細胞からすい臓や肝臓などの臓器を再生する特許の管理会社、iCELL(東京・港)を09年に設立。さらに昨年には米国での事業開始を視野に臓器再生にかかわる技術の実用化を目指す子会社も設立した。
今年1月には中内研究室から生まれたiPS細胞を使った臓器再生技術にかかわる基本特許が国内で成立した。ヒトや動物のiPS細胞を動物の体内に入れて、ヒトの移植に使える臓器をつくる技術だ。これまでネズミやブタなどの細胞で成功しており、ヒトの細胞でも期待されている。
両社を率いる三輪玄二郎社長は「iCELLは中内教授による発明の実用化を目指す技術移転機関(TLO)として設立した」と話す。中内研究室からは再生医療にかかわる10件以上の特許が生まれ、米国企業などからライセンスの依頼が届き始めている。
日米ですみ分け
iCELLの知財戦略の基本は、競合他社などと相互に特許を利用できるようにするクロスライセンスだ。米ベンチャー企業などが求める特許を供与する代わりに相手からも有望な技術を導入し、日米など地域ですみ分けできるようにする狙いだ。臓器再生などに利用する家畜は輸送の問題があるため、国ごとに企業が分かれるとみる。
東大と京大はiPS細胞の研究で競争するだけではなく、協力関係にもある。iCELLのグループ会社、メガカリオン(京都市)は中内教授と京大iPS細胞研の江藤浩之教授らの研究成果の事業化を目指す企業。iPS細胞から血小板を量産しようとしており、iPSアカデミアジャパンも出資している。
メガカリオンでも社長を務める三輪社長は「京大はiPS細胞の基本特許で多くの研究者が利用できる広い土台を作った。我々はその上に乗っており恩恵を受けている」と話す。京大と東大がそれぞれの知財戦略に磨きをかければ、企業が連携できる場がさらに広がることが期待される。
「場合によっては1社に特許を独占的にライセンスすることを認める」。京大のiPS細胞関連特許の管理会社、iPSアカデミアジャパン(京都市)は最近、知財戦略を転換した。iPS細胞を使った再生医療事業を企業に促すには、1社に独占的にライセンスして利益を確保しやすくすることも必要になるとみるからだ。
これまでは特許を1社だけに独占的にライセンスすると他の企業と連携する大学などの研究者が研究できなくなる恐れがあるため、認めてこなかった。iPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥・京大iPS細胞研究所長による多くの研究者に研究の機会を提供したいとの意向が反映している。
ビジネスを意識
方針を改めたのは、ビジネスを意識する段階に入ったからだ。これまで京大にはiPS細胞そのものの作製に関する特許を世界中で早期に取得することが最重要課題だった。京大は約30カ国・地域でiPS細胞の作製にかかわる基本特許を取得する成果を収めた。
いまの課題はiPS細胞から目や心臓など再生医療に利用する細胞をつくる特許の取得と活用だ。京大はiPS細胞から心臓や骨格筋などの細胞をつくる特許を日米欧で計6件取得済み。現在、京大iPS細胞研では、再生医療につながる細胞をつくる技術の出願が全体の4割を占めており、主戦場と捉えている。
これらの特許を使った再生医療の実用化には「企業の力が必要で、事業面で利益がでるようにしなければならない」と白橋光臣社長は話す。ただし、1社に独占させると多くの研究者の研究を妨げる恐れのある特許は引き続き独占的なライセンスは認めない方針だ。
もっとも、具体的にどうライセンス方式を使い分けるかは簡単ではない。京大は日本製薬工業協会などとも相談しているが、特許の保護と活用を巧みに使い分ける例に挙がるのは米アップルなどIT(情報技術)関連企業ばかり。iPS細胞研の高尾幸成・知財管理室長は「バイオ関連では我々が成功例を作らなければならない」と話す。
東大も動き出した。東大医科学研究所の中内啓光教授らは東大から独占的ライセンスを受けた、iPS細胞からすい臓や肝臓などの臓器を再生する特許の管理会社、iCELL(東京・港)を09年に設立。さらに昨年には米国での事業開始を視野に臓器再生にかかわる技術の実用化を目指す子会社も設立した。
今年1月には中内研究室から生まれたiPS細胞を使った臓器再生技術にかかわる基本特許が国内で成立した。ヒトや動物のiPS細胞を動物の体内に入れて、ヒトの移植に使える臓器をつくる技術だ。これまでネズミやブタなどの細胞で成功しており、ヒトの細胞でも期待されている。
両社を率いる三輪玄二郎社長は「iCELLは中内教授による発明の実用化を目指す技術移転機関(TLO)として設立した」と話す。中内研究室からは再生医療にかかわる10件以上の特許が生まれ、米国企業などからライセンスの依頼が届き始めている。
日米ですみ分け
iCELLの知財戦略の基本は、競合他社などと相互に特許を利用できるようにするクロスライセンスだ。米ベンチャー企業などが求める特許を供与する代わりに相手からも有望な技術を導入し、日米など地域ですみ分けできるようにする狙いだ。臓器再生などに利用する家畜は輸送の問題があるため、国ごとに企業が分かれるとみる。
東大と京大はiPS細胞の研究で競争するだけではなく、協力関係にもある。iCELLのグループ会社、メガカリオン(京都市)は中内教授と京大iPS細胞研の江藤浩之教授らの研究成果の事業化を目指す企業。iPS細胞から血小板を量産しようとしており、iPSアカデミアジャパンも出資している。
メガカリオンでも社長を務める三輪社長は「京大はiPS細胞の基本特許で多くの研究者が利用できる広い土台を作った。我々はその上に乗っており恩恵を受けている」と話す。京大と東大がそれぞれの知財戦略に磨きをかければ、企業が連携できる場がさらに広がることが期待される。
「iPS発明国」の面目、富士フイルムの米社買収――山中教授のライバル創業、医療応用巻き返しなるか
富士フイルムホールディングスが3月30日に買収を発表した米セルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI、ウィスコンシン州)は、iPS細胞製品のデファクト・スタンダード(事実上の標準)を握る可能性があると注目されている存在だ。山中伸弥京都大学教授のライバルが創業者に名を連ね、同社からiPS細胞製品を調達する国内企業も多い。「iPS細胞発明国」の日本だが、医療応用でCDIに後れを取り市場を握られる懸念もあった。買収はその流れを変え、巻き返しの機会となる可能性がある。
CDIの創業者の一人、ウィスコンシン大学のジェームズ・トムソン教授は、2007年には京都大の山中教授と同じタイミングで、別の科学雑誌にヒトiPS細胞が作製できたと発表した。2人はiPS細胞研究を巡る競争の激しさを象徴するライバルとして、米メディアなどにも取り上げられた。12年に山中教授と英国のジョン・ガードン英ケンブリッジ大学名誉教授はiPS細胞の成果でノーベル生理学・医学賞を受賞したが、トムソン教授は逃した。「なぜ」と疑問を口にする研究者もいた。
がんになりにくい細胞
しかしビジネスの世界では、トムソン教授のノウハウを引き継いだCDIが事業を大きく広げた。同社の14年通期の売上高(販売協力を含む)は前年比40%増の約1670万ドル(約20億円)。巨額の研究開発費などのために純損益は3000万ドル(約36億円)の赤字だが、iPS細胞から作った心筋細胞や神経の細胞など製品群は豊富で受注は順調という。注目されるのは積極的な特許戦略とデファクト・スタンダードの構築だ。
CDIがもつ特許の範囲は体の様々な細胞からiPS細胞を作製する技術、iPS細胞から心筋を作る技術など幅広い。中でもウイルスではなくプラスミドと呼ばれる環状DNAを使ってiPS細胞を作る技術は、がんになりにくい安全なiPS細胞を得るのに不可欠とされる。
日本でも再生医療用のiPS細胞は、プラスミドを使って作るのが当然になっている。患者のiPS細胞から作った細胞で薬の副作用や効き目を調べる用途でも、CDI製品は世界で使われている。このままでは「iPS細胞発明国」の日本が事業化で米国にのみ込まれる――。そんな危機感が強まるなかで、富士フイルムが買収を発表した。iPS細胞の医療応用でCDIに技術、国際標準、供給網などの面で日本勢が包囲網を敷かれるのを防げるかもしれない。
「ストック」どう位置付け
もっとも、これですべて安泰というわけではない。富士フイルムはCDIの技術や、昨年、子会社化したジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J―TEC)の細胞シート作製のノウハウなどをフル活用すれば、再生医療用の細胞製品の一大供給インフラを手中にできる可能性がある。その時、山中教授が中心となって治療用のiPS細胞の備蓄を進めている「iPS細胞ストック」の位置づけはどうなるのか、心配する声もある。
iPS細胞ストックは日本人の多くに共通する免疫タイプの細胞を集め、できるだけ多くの人に少ない拒絶反応で利用できるようにするのが狙いだ。国の巨額の支援を受けたiPS関連の最重要プロジェクトの一つでもある。目の難病治療にiPS細胞を使う臨床研究に取り組む理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーも、iPS細胞ストックの細胞の使用を計画している。しかし、今後の治療用製品としての本格的な普及ではCDI製品がリードする可能性もある。CDIは既に、米国人の計19%に移植用として使える免疫タイプのiPS細胞2株を樹立した。
iPS細胞ストックと、事業化の実績があるCDIの細胞をどう使い分けるか。医療現場のニーズをくみつつ、iPS細胞技術を最大限に安全かつ有効に使うにはどうしたらよいのか、国と産業界、患者団体などが連携して考えていかなければならない。
CDIの創業者の一人、ウィスコンシン大学のジェームズ・トムソン教授は、2007年には京都大の山中教授と同じタイミングで、別の科学雑誌にヒトiPS細胞が作製できたと発表した。2人はiPS細胞研究を巡る競争の激しさを象徴するライバルとして、米メディアなどにも取り上げられた。12年に山中教授と英国のジョン・ガードン英ケンブリッジ大学名誉教授はiPS細胞の成果でノーベル生理学・医学賞を受賞したが、トムソン教授は逃した。「なぜ」と疑問を口にする研究者もいた。
がんになりにくい細胞
しかしビジネスの世界では、トムソン教授のノウハウを引き継いだCDIが事業を大きく広げた。同社の14年通期の売上高(販売協力を含む)は前年比40%増の約1670万ドル(約20億円)。巨額の研究開発費などのために純損益は3000万ドル(約36億円)の赤字だが、iPS細胞から作った心筋細胞や神経の細胞など製品群は豊富で受注は順調という。注目されるのは積極的な特許戦略とデファクト・スタンダードの構築だ。
CDIがもつ特許の範囲は体の様々な細胞からiPS細胞を作製する技術、iPS細胞から心筋を作る技術など幅広い。中でもウイルスではなくプラスミドと呼ばれる環状DNAを使ってiPS細胞を作る技術は、がんになりにくい安全なiPS細胞を得るのに不可欠とされる。
日本でも再生医療用のiPS細胞は、プラスミドを使って作るのが当然になっている。患者のiPS細胞から作った細胞で薬の副作用や効き目を調べる用途でも、CDI製品は世界で使われている。このままでは「iPS細胞発明国」の日本が事業化で米国にのみ込まれる――。そんな危機感が強まるなかで、富士フイルムが買収を発表した。iPS細胞の医療応用でCDIに技術、国際標準、供給網などの面で日本勢が包囲網を敷かれるのを防げるかもしれない。
「ストック」どう位置付け
もっとも、これですべて安泰というわけではない。富士フイルムはCDIの技術や、昨年、子会社化したジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J―TEC)の細胞シート作製のノウハウなどをフル活用すれば、再生医療用の細胞製品の一大供給インフラを手中にできる可能性がある。その時、山中教授が中心となって治療用のiPS細胞の備蓄を進めている「iPS細胞ストック」の位置づけはどうなるのか、心配する声もある。
iPS細胞ストックは日本人の多くに共通する免疫タイプの細胞を集め、できるだけ多くの人に少ない拒絶反応で利用できるようにするのが狙いだ。国の巨額の支援を受けたiPS関連の最重要プロジェクトの一つでもある。目の難病治療にiPS細胞を使う臨床研究に取り組む理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーも、iPS細胞ストックの細胞の使用を計画している。しかし、今後の治療用製品としての本格的な普及ではCDI製品がリードする可能性もある。CDIは既に、米国人の計19%に移植用として使える免疫タイプのiPS細胞2株を樹立した。
iPS細胞ストックと、事業化の実績があるCDIの細胞をどう使い分けるか。医療現場のニーズをくみつつ、iPS細胞技術を最大限に安全かつ有効に使うにはどうしたらよいのか、国と産業界、患者団体などが連携して考えていかなければならない。
知財立国が危ない、世界標準から立ち遅れた日本
グローバル化の急速な進展で、国家間の制度を巡る競争が激化している。しかし、知的財産権の分野では、日本企業も国も、世界標準に大きく立ち遅れている。本書は元特許庁長官と科学専門ジャーナリストとの対話を通じて日本の知財戦略の問題点を分かりやすく解説した。
まず日本の知財裁判の後進性を訴える。(1)企業が知的財産権の侵害を訴えても容易に勝てない(2)勝ったとしても補償金の水準が米国の100分の1と低い(3)判決が出るまでの時間が長い――の3点をあげている。こうした現状を改善し、特許庁は内外の国際企業に魅力的なサービス提供を目指すべきだという。
特に、中小企業では、独自の技術を開発しても特許が十分に保護されず、容易に模倣されてしまう。その企業だけでなく、日本の産業界全体の損失となる。また、増える模倣品の輸入についても、税関の奮闘にもかかわらず、特許を専門とする弁護士の不足や高い手数料が、大きな制約となっている。これらに対して、中小企業の利益を代弁する「国選弁護人」活用という提案は興味深い。
スポーツの世界記録は、どの国で達成されても認められるが、発明の審査は属地主義だ。特に日本の裁判所の判決が国際標準とかけ離れていることは、日本企業にとって不利な要因となる。欧州連合(EU)では一つの加盟国で承認された特許は、すべての加盟国で使える。日本もEUなどとの特許の相互認証を進め、「世界共通特許」を目指して取り組む必要がある。
日本人のノーベル賞受賞者が増えても、独創的な研究成果の特許が日本企業の売上高や利益の増加に貢献していない。研究開発と一体的な経営戦略の不足によるものであり、韓国や台湾企業にも後れている。今後の知財戦略の重要な分野は農業と医療。成長可能性がありながら、国際競争力に乏しい。知財の活用により、富を生み出す源泉とするための改革が求められる。
財産権が保障されなければ、市場経済は機能しない。本書で指摘される知財戦略の問題点は、他の構造改革の課題と共通している。特許庁長官という知財戦略の重要ポストが1年交代と軽視される官僚人事、司法試験合格者数の抑制に伴う質の高い法曹の不足、大企業内で知財の専門家を育てない日本的な雇用慣行などは日本経済の空洞化をもたらす要因だ。政府の知財戦略本部や、知財を専門とする高等裁判所の存在にもかかわらず、なぜ問題が解決しないのか。続編を期待したい。
まず日本の知財裁判の後進性を訴える。(1)企業が知的財産権の侵害を訴えても容易に勝てない(2)勝ったとしても補償金の水準が米国の100分の1と低い(3)判決が出るまでの時間が長い――の3点をあげている。こうした現状を改善し、特許庁は内外の国際企業に魅力的なサービス提供を目指すべきだという。
特に、中小企業では、独自の技術を開発しても特許が十分に保護されず、容易に模倣されてしまう。その企業だけでなく、日本の産業界全体の損失となる。また、増える模倣品の輸入についても、税関の奮闘にもかかわらず、特許を専門とする弁護士の不足や高い手数料が、大きな制約となっている。これらに対して、中小企業の利益を代弁する「国選弁護人」活用という提案は興味深い。
スポーツの世界記録は、どの国で達成されても認められるが、発明の審査は属地主義だ。特に日本の裁判所の判決が国際標準とかけ離れていることは、日本企業にとって不利な要因となる。欧州連合(EU)では一つの加盟国で承認された特許は、すべての加盟国で使える。日本もEUなどとの特許の相互認証を進め、「世界共通特許」を目指して取り組む必要がある。
日本人のノーベル賞受賞者が増えても、独創的な研究成果の特許が日本企業の売上高や利益の増加に貢献していない。研究開発と一体的な経営戦略の不足によるものであり、韓国や台湾企業にも後れている。今後の知財戦略の重要な分野は農業と医療。成長可能性がありながら、国際競争力に乏しい。知財の活用により、富を生み出す源泉とするための改革が求められる。
財産権が保障されなければ、市場経済は機能しない。本書で指摘される知財戦略の問題点は、他の構造改革の課題と共通している。特許庁長官という知財戦略の重要ポストが1年交代と軽視される官僚人事、司法試験合格者数の抑制に伴う質の高い法曹の不足、大企業内で知財の専門家を育てない日本的な雇用慣行などは日本経済の空洞化をもたらす要因だ。政府の知財戦略本部や、知財を専門とする高等裁判所の存在にもかかわらず、なぜ問題が解決しないのか。続編を期待したい。
太平洋セメント中央研究所第3研究部増田賢太氏――空洞の微粒子、スマホに
断熱に優れ薄型化に貢献
太平洋セメントは、中が空洞になっている極小微粒子の開発に成功した。原料を溶かした液体を加熱すると、水分が蒸発して微粒子ができる仕組みを応用。高い精度の空洞微粒子を作り出した。スマートフォン(スマホ)の基板に塗布すれば空気膜をつくり、バッテリーの発熱から基板を保護できる。他にも様々な利用法が期待できる。 中が空洞の新しい微粒子を開発したのは、太平洋セメント中央研究所(千葉県佐倉市)第3研究部資源VCチームの増田賢太リーダーだ。 微粒子の直径は1~10マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル。酸化アルミニウム、二酸化ケイ素を主成分とするアルミノシリケートなどで作られる。様々な無機酸化物を原料にできる。膜厚は100ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下で、凹凸のない、きれいな球状になっている。 中が空洞の微粒子で、ここまで小さく平滑な素材を作ることは難しい。一般的な微粒子は二酸化ケイ素を含む頁岩(けつがん)と呼ばれる岩石を砕いて粉にしたものを原料とするケースが多い。 熱を加えると、中に含まれる有機物が燃えてガスが発生し、風船のように膨らむことで中が空洞になる。ただし、膨らむ過程で穴があいたり、表面に凹凸が出ることが難題だ。穴があくと強度が下がり、性能の劣化につながってしまう。直径も小さいもので20マイクロメートル、膜厚は1000ナノメートル以上の粒子しか作れない。 「今までにない小さくて平滑な粒子は作れないか」。増田氏が着目したのが「噴霧熱分解法」と呼ぶ製法だった。同製法の特徴は丸くて平滑な微粒子を作り出せること。もともとは、空洞ではなく、中が詰まった粒子を作る製法の一つだ。 原料を含んだ水溶液を霧吹きのように炉の中にふき込む。炉の内部の熱により、水溶液中の成分が析出する仕組みだ。増田氏は同製法をベースに、炉の熱や水溶液の成分といった条件を変えた。実験当初は条件を変えても中身の詰まった粒子しか作れなかったという。試行錯誤を重ねながら最適な条件を見つけ出し、2014年10月、ついに空洞の極小微粒子を作り出すことに成功した。 「モバイル機器での展開ができないか」。増田氏は電子材料分野での展開を見込む。例えば、スマホやタブレット端末の電子基板に微粒子を塗膜する。粒子1個あたりの空気の割合は80%以上だ。 競合他社の粒子は60%以下のため、太平洋セメントの方が断熱性能に優れ、基板を熱から守ることができる。直径が1~10マイクロメートルと小さく、端末の薄型化に役立つ。フィルムに微粒子を混ぜて使うことも可能という。 将来は船舶や鉄道車両に使うプラスチック、複合材料の添加剤向けも視野に入れる。15年度からサンプル提供し、量産技術の確立にも取り組む。 太平洋セメントは、セメントを構成するカルシウムやケイ素といった素材の微粒子技術を生かし、新分野への展開を加速している。中央研究所は太平洋セメントの既存事業であるセメントやコンクリート以外に、資源・環境分野で新事業を展開するための研究開発を担ってきた。パワー半導体に使う炭化ケイ素などの研究実績を残している。 |
水がたまり呼吸困難に、肺水腫薬、候補の物質、日大、5年メド実用化、細胞伸び隙間塞ぐ。
日本大学の日台智明准教授らは、敗血症などで肺に水がたまって呼吸困難を起こす肺水腫の治療薬の候補となるたんぱく質の断片(ペプチド)を発見した。敗血症が原因で肺水腫を起こしたモデルマウスに投与して効果を確かめた。ペプチドの投与で細胞が伸びて液体が入る隙間を塞いだとみている。今後、製薬企業と共同で研究を進めたい考えで、5年をメドに実用化を目指す。
研究チームはケガをすると細胞が傷を埋めるように伸びる性質に着目した。血が固まるのに必要なたんぱく質の一部を構成する「F9―AP」と呼ぶペプチドに、細胞の伸びに関わる機能を見つけた。ヒトの扁平(へんぺい)上皮がんの細胞に引っかき傷を作った後にこのペプチドを投与すると、傷を埋める速度が上がった。 次に敗血症のモデルマウスで肺水腫の症状を再現して実験した。毒素で肺水腫を起こしたマウス群にペプチドと偽薬を分けて投与し、1時間後に肺を取り出して重さを測定した。偽薬を投与したマウスは肺に水がたまって重くなっていたが、ペプチドを投与したマウスはもとの重さに戻っていた。 このペプチドはもともと体内に存在する物質のため、安全性は高いという。実験では投与後30分程度から効果があったため、死亡率が高い急性の呼吸窮迫症候群などにも適用できるとみている。今後、さらに大型の動物で安全性と有効性を確かめる。 人間の肺は肺胞と呼ぶ袋状の組織に空気を入れて酸素を取り込む。毛細血管が肺胞を取りまいており、敗血症やアレルギー、心不全などの疾患が血管表面を傷つける。微小な損傷ができると、そこから血液の液体成分が漏れ出す。 液体がたまると肺胞での酸素の取り込みが邪魔される。この状態が肺水腫であり、重症化すると呼吸困難になる。主な治療法は水分を除去する利尿剤などの投与だ。症状を改善する治療薬の開発が求められている。(八木悠介) ▼肺水腫 吸い込んだ空気は気道を通り、最終的に肺の中で肺胞と呼ぶ組織にたどり着く。空気中の酸素は肺胞を通じて周囲の毛細血管に送り込まれる。なんらかの原因で肺胞に水がたまってしまい、毛細血管に十分な酸素を送り込めずに呼吸が苦しくなるのが肺水腫だ。 心臓から全身に血液を送るポンプ機能が低下して血液が肺にたまる「心原性肺水腫」と、外傷や敗血症などで起こる「非心原性肺水腫」の2種類がある。非心原性肺水腫では肺の毛細血管の内側の細胞同士で構成する壁に隙間が生じることが知られる。 軽度の場合は利尿薬で水を取り除いたり、血管を拡張する薬を使ったりする対症療法が主流だ。重症の場合は人工呼吸器を使うが、専門の設備が必要になる。 |
NEDOなど、磁気軸受を搭載した超高効率モーター用分析評価装置を開発
発表日:2015年4月13日
超高効率モーター用分析評価装置を開発
―世界初、省エネに大きく寄与―
NEDOと高効率モーター用磁性材料技術研究組合(MagHEM)(※1)は、モーター電磁損失の分析装置として、磁気軸受(※2)を搭載した超高精度モーター損失分析装置と薄帯状高効率鉄心材料(※3)の応力下磁気特性評価装置を世界で初めて開発しました。
これらの装置を用いて、新規磁性材料の特性を考慮した家電、産業機械、自動車などのモーターの設計および評価を行い、エネルギー損失を従来比25%削減するモーターの実現を目指します。
【用語解説】
※1 高効率モーター用磁性材料技術研究組合(MagHEM)
レアアースに依存しない革新的な高性能磁石の開発、さらにはモーターを駆動するための電気エネルギーの損失を少なくする軟磁性材料の開発を行うと共に、新規磁石、新規軟磁性材料を用いて更なる高効率を達成できるモーターの設計技術を開発することで、次世代自動車や家電、産業機械の心臓部であるモーターの省エネ化において競争力を確保することを目的として、2012年9月25日に設立しました。
※2 磁気軸受
磁気浮上による非接触支持を行います。摩耗がないため潤滑油が不要であり、軸受の寿命は半永久的です。
※3 薄帯状高効率鉄心材料
現在、鉄心に用いている電磁鋼板(厚さ0.3~0.6mm)と比べて非常に薄い薄帯(20μm(0.02mm)程度)として製造され、損失が電磁鋼板の1/4~1/3と小さい高効率の鉄心用材料です。
1.概要
モーターの需要は、家電や産業機械向けに加えて、自動車の電動化(HEV,EV,FCV)に伴い、拡大が予想されています。このような状況の中で、モーターの省エネ化は最重要課題の一つです。産業競争力のある小型・高効率モーターを開発するためには、実機モーター組込時の磁性特性を評価する技術や構造設計技術を開発し、その性能・信頼性評価を確立することは省エネ化を実現するために必要不可欠です
NEDOの「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」において、高効率モーター用磁性材料技術研究組合(MagHEM)は、モーター・磁性材料技術開発センター(※4)において、エネルギー損失を従来モーター比25%削減する高効率モーターを開発するために、高低温減磁試験評価技術と超高精度モーター損失分析評価技術、薄帯状高効率鉄心材料の磁気特性評価技術の開発に取り組みました。
2.今回の成果
(1)超高精度モーター損失分析評価装置
これまでモーターの損失評価の誤差の原因となっていた機械損失の変動要因低減技術として、磁気浮上し、機械摩擦損失の無い磁気軸受を採用しました。磁気軸受の一方にトルク検出器を介して負荷モーターを取り付け、他方に直接供試モーターを取り付ける構造とすることで、供試モーターの取付け性に優れ、供試モーター側には機械的接触部が一切無い構造としました。これにより、高精度に安定したモーター電磁損失の測定が実現し高精度の損失分析が可能となりました。
(2)薄帯状高効率鉄心材料の特性評価装置
次世代のモーター用鉄心素材として期待される薄帯状材料に応力を加えた際の磁気特性を評価する装置を世界で初めて開発しました。
モーターを回すための電磁石部分を構成する鉄心は、現在は厚み0.3~0.6mmの電磁鋼板を積み上げる構造が主流ですが、この鉄心部分には将来、損失が小さいアモルファス材あるいはナノ結晶材と呼ばれる薄帯状材料が適用されると予想されています。一方、モーターの回転力を支えるために、鉄心部分を強固に固定する必要がありますが、保持する力を加えることで鉄心での損失が増加し、素材の特性が活かせない可能性があります。
今回、髪の毛の太さよりも薄い約20μm厚の材料を折り曲げずに圧縮力を加える技術を新規に開発した結果、磁気特性の低下を定量的に評価できるようになりました。今後はこのデータを用いて、高効率な素材特性を活かしたモーターの設計を進めていきます。
3.今後の予定
エネルギーの損失が少ない高性能軟磁性材料の開発、さらにはこれらの新規磁性材料の性能を最大限に生かして更なる高効率を達成できるモーターの開発を行い、エネルギー損失を従来モーター比25%削減する高効率モーターの実現を目指します。
超高効率モーター用分析評価装置を開発
―世界初、省エネに大きく寄与―
NEDOと高効率モーター用磁性材料技術研究組合(MagHEM)(※1)は、モーター電磁損失の分析装置として、磁気軸受(※2)を搭載した超高精度モーター損失分析装置と薄帯状高効率鉄心材料(※3)の応力下磁気特性評価装置を世界で初めて開発しました。
これらの装置を用いて、新規磁性材料の特性を考慮した家電、産業機械、自動車などのモーターの設計および評価を行い、エネルギー損失を従来比25%削減するモーターの実現を目指します。
【用語解説】
※1 高効率モーター用磁性材料技術研究組合(MagHEM)
レアアースに依存しない革新的な高性能磁石の開発、さらにはモーターを駆動するための電気エネルギーの損失を少なくする軟磁性材料の開発を行うと共に、新規磁石、新規軟磁性材料を用いて更なる高効率を達成できるモーターの設計技術を開発することで、次世代自動車や家電、産業機械の心臓部であるモーターの省エネ化において競争力を確保することを目的として、2012年9月25日に設立しました。
※2 磁気軸受
磁気浮上による非接触支持を行います。摩耗がないため潤滑油が不要であり、軸受の寿命は半永久的です。
※3 薄帯状高効率鉄心材料
現在、鉄心に用いている電磁鋼板(厚さ0.3~0.6mm)と比べて非常に薄い薄帯(20μm(0.02mm)程度)として製造され、損失が電磁鋼板の1/4~1/3と小さい高効率の鉄心用材料です。
1.概要
モーターの需要は、家電や産業機械向けに加えて、自動車の電動化(HEV,EV,FCV)に伴い、拡大が予想されています。このような状況の中で、モーターの省エネ化は最重要課題の一つです。産業競争力のある小型・高効率モーターを開発するためには、実機モーター組込時の磁性特性を評価する技術や構造設計技術を開発し、その性能・信頼性評価を確立することは省エネ化を実現するために必要不可欠です
NEDOの「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」において、高効率モーター用磁性材料技術研究組合(MagHEM)は、モーター・磁性材料技術開発センター(※4)において、エネルギー損失を従来モーター比25%削減する高効率モーターを開発するために、高低温減磁試験評価技術と超高精度モーター損失分析評価技術、薄帯状高効率鉄心材料の磁気特性評価技術の開発に取り組みました。
2.今回の成果
(1)超高精度モーター損失分析評価装置
これまでモーターの損失評価の誤差の原因となっていた機械損失の変動要因低減技術として、磁気浮上し、機械摩擦損失の無い磁気軸受を採用しました。磁気軸受の一方にトルク検出器を介して負荷モーターを取り付け、他方に直接供試モーターを取り付ける構造とすることで、供試モーターの取付け性に優れ、供試モーター側には機械的接触部が一切無い構造としました。これにより、高精度に安定したモーター電磁損失の測定が実現し高精度の損失分析が可能となりました。
(2)薄帯状高効率鉄心材料の特性評価装置
次世代のモーター用鉄心素材として期待される薄帯状材料に応力を加えた際の磁気特性を評価する装置を世界で初めて開発しました。
モーターを回すための電磁石部分を構成する鉄心は、現在は厚み0.3~0.6mmの電磁鋼板を積み上げる構造が主流ですが、この鉄心部分には将来、損失が小さいアモルファス材あるいはナノ結晶材と呼ばれる薄帯状材料が適用されると予想されています。一方、モーターの回転力を支えるために、鉄心部分を強固に固定する必要がありますが、保持する力を加えることで鉄心での損失が増加し、素材の特性が活かせない可能性があります。
今回、髪の毛の太さよりも薄い約20μm厚の材料を折り曲げずに圧縮力を加える技術を新規に開発した結果、磁気特性の低下を定量的に評価できるようになりました。今後はこのデータを用いて、高効率な素材特性を活かしたモーターの設計を進めていきます。
3.今後の予定
エネルギーの損失が少ない高性能軟磁性材料の開発、さらにはこれらの新規磁性材料の性能を最大限に生かして更なる高効率を達成できるモーターの開発を行い、エネルギー損失を従来モーター比25%削減する高効率モーターの実現を目指します。
JFEスチールスチール研究所主任研究員大山伸幸氏――天然ガス、コークス代替
生産効率向上、CO2減 製鉄業は原料から高品質の鋼をどれだけ効率的に取り出せるかが収益力を左右する。JFEスチールは鉄鉱石の事前処理方法を見直し、コークスの一部を液化天然ガス(LNG)で代替してエネルギー使用量を減らす技術を開発した。中国鉄鋼大手の大量生産を背景にコスト競争は激化している。技術開発で競争力を維持する考えだ。 鉄は鉄鉱石と石炭由来のコークスを高炉内部で反応させて取り出す。粉状の鉄鉱石をそのまま投入すると内部の熱風の流れを妨げるため、事前に少量のコークスを燃料として混ぜ、焼き固めて焼結鉱にする。 幅5メートル、長さ数十メートルの巨大なベルトコンベヤー上で燃やされた焼結鉱のうち、高炉に投入できるのは一定の強度がある約8割。約2割が不良品として再び焼結工程に入れられていた。 「歩留まりを高めるにも二酸化炭素(CO2)排出量を減らすにも、コークスにはこれ以上頼れない」。スチール研究所福山地区で上工程の製造技術を研究する大山伸幸主任研究員は、新技術「Super―SINTER(スーパーシンター)」でLNGを採用した経緯をこう説明する。 旧川崎製鉄時代の研究で、歩留まりが悪い主因は最適な燃焼温度が維持できていない点である事は判明していた。良質な焼結鉱はセ氏1200~1400度で燃やすと生成するが、自然燃焼に任せる従来法では短時間しか保てず、良質品は2割しか製造できない。 「気体燃料を原料の上部から吹き込み内部に送り込めば自在に温度制御できるのでは」。大山氏は研究所内で試験装置を製作。粉状の鉱石の隙間にLNGを確実に送り込むため、最適な吹き出し速度やLNGの量、ノズルの形状などを選定した。コークスの使用量は8%減った一方で適正温度維持の時間は約2倍に延びた。CO2排出量は焼結機1台あたり年間6万トン減らせる。 高熱の鉄鉱石にLNGを吹き付ける方法に、社内からはリスクが高いと懸念する声も上がった。実用化を後押ししたのは2003年に川鉄と旧NKKと経営統合し、「燃焼系の研究に強い」(大山氏)旧NKKの研究部門と知見を共有できたためだ。 旧NKKの拠点だった東日本製鉄所京浜地区(川崎市)は隣接する東京ガス工場から高炉へLNGを供給するパイプラインがあったことも開発を加速した。実用化第1号機には京浜地区の焼結機が選ばれ、09年に量産に成功。全国4地区の焼結機に順次導入が進んだ。 さらなる生産効率アップのため、LNGに加え酸素ガスも吹き込む次世代機も14年に開発済み。歩留まりは9割に改善し生産スピードも高まった。良質品も約4割と「理論値に近い」(大山氏)水準に達している。 世界で採掘される鉄鉱石は今後、粒子が細かく鉄の含有率の低い鉱石がさらに増える見通し。原料の事前処理技術はコスト改善のためにいっそう重要となる。微粉状の鉱石は焼結時間がより多くかかるためだ。大山氏は「造粒方法などさらなる技術開発を続けたい」と語る。原料の低質化に技術開発が間に合うか、時間との争いが続く。(林さや香) 〈施設概要〉 ▽設立時期 2003年4月 ▽場 所 広島県福山市など全国6カ所 ▽人 員 890人 ▽事業分野 製銑、製鋼、圧延など上工程の技術開発および鋼材製品開発 |
炭素素材、水に均一分散、東北大、細胞培養など応用。
東北大学のアハディアン助教や末永智一主任研究者らは、シート状の炭素素材であるグラフェンを効率良く水に分散させる技術を開発した。人体に有害な薬剤を使わないため、体内に埋め込んで薬を標的の組織に届ける薬物送達システムや、細胞を培養する培地に応用できるという。動物やその細胞で安全性を確かめ、実用化につなげたい考えだ。 研究チームはグラフェンの材料となる黒鉛と、ウシの血液から取れるたんぱく質のアルブミンを濃度を厳密に調整して混合した。そこに超音波を照射し、均一にグラフェンが分散した溶液を調製した。 溶液を乾燥すると表面にナノレベルの凹凸が生じた薄い膜ができた。細胞がしっかり接着するため、培地に向くとみている。高分子ゲルに混ぜて導電性を高め、電気刺激で成長が進む筋細胞を育てることも可能という。 炭素原子が平面に並んだグラフェンは、炭素のかたまりである黒鉛を一層ずつ〓がして作る。従来は効率良くグラフェンを作り、水中に均一に分散させるのが難しかった。 |
疲労度、貼るだけで測定、東海大、ガステックと小型センサー、微量なガスで、ろ紙の色変化。
東海大学の関根嘉香教授はガス検知管製造のガステック(神奈川県綾瀬市)と共同で、体の一部に貼るだけで疲労の度合いが分かる手のひらサイズのセンサーを開発した。皮膚から出る微量なガスをろ紙に集めて色の変化を見る仕組みだ。職場の健康管理などに使えるという。ガステックが年内にも1個数百円程度で製品化する予定だ。
筋肉が疲労すると、代謝産物の乳酸やアンモニアが作られる。乳酸は体内にたまり筋肉痛の原因になるが、アンモニアは皮膚から揮発する。研究チームはこのアンモニアに着目し、筋肉疲労の指標にしようと考えた。
開発したセンサーは大きさ直径約4センチ、厚さ約1センチ。アンモニアの量によって色が変化する試薬を開発し、ろ紙に含ませる。数十マイクロ(マイクロは100万分の1)グラムたまると色が赤から黄色に変わる仕組みだ。皮膚とろ紙が直接触れないようにセンサー内に隙間を作った。
これまでに20~60歳代の健康な40~50人の腕にセンサーを付けて実験した。まず安静時のアンモニア量を測定し、その後、平常時の20%程度心拍数が上がるまでウオーキングをして疲労を模擬した状態にする。運動後のアンモニア量と色の変化をみることで、疲労の度合いを把握できたという。
研究チームはアンモニア以外のガスを調べることで、生活習慣病対策にも展開できるとみている。アルコールの代謝物であるアセトアルデヒドで飲酒履歴を突き止められ、アセトンで脂肪の燃焼の程度を判定できるという。
ヒトの呼気や皮膚から出るガスは、血液並みに重要な生体情報をもつ。呼気を一日のうちに何度も調べるのは面倒だが、皮膚から出るガスの検出は特別な動作をする必要がないことから、負担の少ない検査方法として期待されている。
筋肉が疲労すると、代謝産物の乳酸やアンモニアが作られる。乳酸は体内にたまり筋肉痛の原因になるが、アンモニアは皮膚から揮発する。研究チームはこのアンモニアに着目し、筋肉疲労の指標にしようと考えた。
開発したセンサーは大きさ直径約4センチ、厚さ約1センチ。アンモニアの量によって色が変化する試薬を開発し、ろ紙に含ませる。数十マイクロ(マイクロは100万分の1)グラムたまると色が赤から黄色に変わる仕組みだ。皮膚とろ紙が直接触れないようにセンサー内に隙間を作った。
これまでに20~60歳代の健康な40~50人の腕にセンサーを付けて実験した。まず安静時のアンモニア量を測定し、その後、平常時の20%程度心拍数が上がるまでウオーキングをして疲労を模擬した状態にする。運動後のアンモニア量と色の変化をみることで、疲労の度合いを把握できたという。
研究チームはアンモニア以外のガスを調べることで、生活習慣病対策にも展開できるとみている。アルコールの代謝物であるアセトアルデヒドで飲酒履歴を突き止められ、アセトンで脂肪の燃焼の程度を判定できるという。
ヒトの呼気や皮膚から出るガスは、血液並みに重要な生体情報をもつ。呼気を一日のうちに何度も調べるのは面倒だが、皮膚から出るガスの検出は特別な動作をする必要がないことから、負担の少ない検査方法として期待されている。
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