2011年7月20日水曜日

金属2種、樹脂で密着、大成プラス、高機能携帯向け採用。

 金属、樹脂の成型品を製造する大成プラス(東京・中央、大隅光悟朗社長)は2種類の金属を樹脂を使って密着する技術を実用化した。接着剤を使わず、レーザー加工もしないため製造工程の短縮、コスト減につながる。すでに海外メーカーが年内に販売するスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)で採用を決定。今後、自動車や飛行機の部品向けにも利用拡大を目指す。
 金属を特殊な液体に浸すと表面に細かい凹凸ができる。これをプラスチックと一緒に射出成型機で一体加工すると、凹凸に樹脂が入り、2つの金属を密着させることができる。スマホでは強度が必要な側面にステンレスを使い、軽さが求められる内部には亜鉛やマグネシウムの合金を使う。2つの金属を樹脂で接着した部品を中国の工場で作ってメーカーに納める。

三井物産と米ダウ、サトウキビからプラスチック、植物樹脂、最大規模の工場。

ブラジルで合弁 1600億円投資、15年量産
 三井物産は米化学大手ダウ・ケミカルと合弁で、サトウキビからプラスチックを作り出す世界最大規模の植物樹脂コンビナートをブラジルに建設する。石油化学樹脂と同等かそれ以下のコストで量産し、環境負荷の低い素材として世界で売り込む。総事業費は20億ドル(1600億円)を超える見通しで、2015年に年35万トンの量産に入る。原油価格の高騰や消費者の環境意識の高まりで石化樹脂から植物樹脂へのシフトが進むと見て大型投資に踏み切る。
 ブラジルで原料サトウキビの農園運営から、汎用樹脂のバイオポリエチレンやその他の植物化学品を一貫で合弁生産するコンビナートにする計画。ダウが全額出資している現地の事業会社「SVAA」に三井物産が2億ドル(約160億円)出資し、折半出資の合弁会社に切り替える。19日に両社が基本合意した。
 ブラジルのミナスジェライス州に13年以降、年産能力24万キロリットルのバイオエタノール工場を複数、建設する。15年にはこのエタノールを原料に、年産能力35万トンの植物樹脂工場を建設する。植物樹脂工場としては世界最大規模となる。
 一連の化学品量産の総事業費は20億ドルを超える見通しで、三井物産も比率に応じて追加負担する予定。
 植物樹脂の生産コストは石化樹脂の1・5~2倍とされるが、ダウは反応技術の改良と大量生産でコストを下げ、石化樹脂と同等かそれ以下のコストで生産するメドをつけた。強度や耐久性も一般的な石化樹脂とほぼ同等という。
 植物樹脂は生産過程で二酸化炭素(CO2)を排出しない環境素材として食品容器や自動車、家電分野で利用が広がりつつある。三井物産はブラジルで量産する植物樹脂を南米や北米に生産拠点を持つ日本の自動車、電機メーカーなどにも供給する考えだ。
 調査会社によると、現在年30万トンの世界の植物樹脂市場は20年には300万トンに増える見通し。量産で価格が下がれば、普及に一段と弾みがつきそうだ。
 サトウキビ由来の植物樹脂はブラジルの石化大手ブラスケムなどが生産しているが、原料のサトウキビから一貫生産する大規模コンビナートの建設は初めて。日本企業では、三菱化学がタイで国営石油会社と植物樹脂の生産を検討している。
 ▼植物樹脂 植物など再生可能な資源から作るプラスチック。サトウキビやトウモロコシを分解して糖を取り出し、化学合成で樹脂に変える。植物の成長過程で二酸化炭素(CO2)を吸収するため、CO2排出が増えないと見なされる。稲わらや木くずなど非食料の原料から生産する技術も開発が進んでいる。

2011年7月19日火曜日

炎症性腸疾患の新薬第2相治験、東レ、欧州で開始。

 東レは、独自に開発したクローン病などの炎症性腸疾患の治療薬の第2相臨床試験(治験)を欧州で始めた。中~重度の患者約400人に長期間投与し、下痢や腹痛、血便などの症状に改善効果があるか調べる計画。効果が確認されれば2013年にも日本を含めて第3相臨床試験を始め、17年ごろに新薬としての承認を目指す。
 東レが開発したTRK―170は、低分子化合物で口から飲む。炎症性腸疾患の原因といわれるT細胞(白血球)の表面の特定の受容体に結合してT細胞が血管の外に出るのを防ぐ。T細胞が血管の外に出て腸の粘膜に集まると炎症や潰瘍などを起こす。
 09年10月から欧州で実施した第1相臨床試験では、症状が軽い患者18人を含む50人に投与、大きな副作用はなかった。
 炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎とクローン病の総称。患者数は世界で約250万人。10~20代で発症することが多く再発を繰り返す。国内の患者数は09年度で約14万人。現在はステロイドなどが使われている。

iPS細胞の特許出願、米国が半数超す、日本は2位。

 新型万能細胞(iPS細胞)に関する国際特許の出願は、米国が半数以上を占め、日本は米国の半数ながら2位に付けていることが、札幌医科大学の石埜正穂准教授らの分析で分かった。大学や公的研究機関からの出願が約7割とiPS細胞は基礎研究段階にあるが、治療に関する出願も約1割あり、研究の裾野の広がりがみてとれる。
 国際特許を出願し2010年10月~11年4月に公開された123件の動向を分析した。国別では米国が70件。iPS細胞の「生みの親」である京都大学の山中伸弥教授を含む日本勢は32件だった。ほかに韓国とドイツが各4件でシンガポールは3件。フランス、イスラエル、中国、英国はいずれも2件だった。
 機関別では大学や公的研究機関が89件で、企業は28件。出願特許の半数はiPS細胞の作製や選別、培養の工夫など。肝臓や神経など目的の細胞への分化や、がんをもたらす不完全な細胞をどう取り除くかなど、再生医療の実現に欠かせないテーマも16件あった。
 「米国ほど研究資金が豊富ではない日本も健闘している」(石埜准教授)という。

東京沿岸部、冷たくない海風発生、東京都環境研・竹中など観測―埋め立て影響か。

 東京都環境科学研究所と竹中工務店、筑波大学などは、東京都沿岸部で東京湾に突き出し海風を受けやすい「お台場・有明(江東区)」が、「豊洲・東雲(江東区)」よりも気温が高いことを観測で突き止めた。風上にある埋め立て地の影響で海風が暖まり、冷却効果が下がった恐れがある。街並みが局地的な気温上昇につながることを改めて示唆する結果。今後の都市計画に役立ちそうだ。日本ヒートアイランド学会で24日に発表する。
 2009年7月27日~10月1日の南東の風が吹く昼間に、東京都沿岸部32カ所で1分おきに気温を測定。気象庁(千代田区大手町)地域気象観測システム(アメダス)との温度差を測った。
 東京湾に突き出た「お台場・有明」地区は0・1~1・4度低かったが「豊洲・東雲」地区は0・3~2・4度とさらに低かった。海風で冷えるはずの「お台場・有明」の暑さが目立つ理由を、南東方向にある埋め立て地の島が海風の冷気を奪ったと分析している。
 一方、湾岸から離れた「築地(中央区)」地区では0・2~0・5度高かった。豊洲や晴海(中央区)に立つビル群が海風を阻み、気温が上がった可能性がある。

ゴム、磁力で硬く、山形大が新素材開発―最大180倍、鉄粒子混ぜ込む。

 山形大学の三俣哲助教と大学院生の大堀優さんは、ゴムのように軟らかいのに磁石で磁場をかけるとプラスチックのように硬くなる新素材を開発した。ゴムの中に微小な鉄粒子を混ぜ込んだ。磁場の大きさによって元の最大180倍まで硬くなる。地震の揺れを吸収する台や、自動車の振動を抑える材料、機能性家具などに使える見通し。パナソニック電工などと共同開発を進める予定だ。
 ポリウレタン樹脂に直径3マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの鉄粒子を混ぜた。永久磁石で300ミリテスラ(テスラは磁場の強さ)の磁場をかけると、0・1秒後に鉄粒子が直線状に並び硬くなった。
 直径3・5センチメートル、高さ5センチメートルの円柱状にすると、8トン以上の重さに耐えるほどの硬さになるという。磁場を無くすと数十秒かけて元の軟らかさに戻る。海外でも同様の素材の開発が進むが硬さの変化は元の3倍程度。新素材は耐震部材や緩衝材、体重を分散させる家具などに応用できそうだ。

地球誕生時の熱、なお放出、東北大など、素粒子観測で判明。

 地球の内部には、地球が形成された約46億年前の熱がまだ残っている――。東北大学の井上邦雄教授ら国際チームがこんな研究成果をまとめた。岩石などを通過して地球内部から出てくる「反ニュートリノ」という素粒子を観測してわかった。詳細は英科学誌ネイチャー・ジオサイエンスに18日掲載される。
 地球の表面からは約44兆ワットもの熱が宇宙へ放出されている。地球内部の放射性物質が別の物質に変わりながら出す「崩壊熱」が主な熱源と考えられているが、熱の量を直接測ることは難しかった。
 研究チームは、岐阜県飛騨市の地下にある観測施設「カムランド」を使い、ウランやトリウムなどの放射性物質が壊れた際に放出される反ニュートリノを検出し、崩壊熱の量を見積もった。
 7年8カ月分の観測結果から、地球内部の放射性物質の崩壊熱は約21兆ワットだった。地球の表面から出る熱の半分にも満たなかった。
 残りの熱は、約46億年前に地球ができた時に内部にたまった熱と考えるしかないという。
 地球ができた当時の熱を現在でも放出し、内部がゆっくりと冷え続けていることを示す結果と結論づけた。
 研究成果は、地球内部の様子を詳しく知る手掛かりになる。地震や火山噴火がどうして起きるのかメカニズム解明にもつながる。

電源、製品ごと使い分け、京大、住友電工、通信技術を応用。

 京都大学の引原隆士教授と住友電気工業のチームは、電力会社の供給電力以外に太陽電池といった自家発電や蓄電池などの電源を住宅や事業所内で使いこなせるようにする技術を開発した。様々な電源が生む電力に区別する信号を割り当て、電化製品と相性の良い電源を選んで振り分ける。既存の配電網に組み込む電源が増えてもトラブルを防ぐ。節電にも役立つ見込みだ。
 新技術は電力ごとに安定性などの質を色分けし、特徴に合わせた使い分けが実現する。従来の配電網は、一方的に送られてきた電力を使うだけ。機器側で電源を選べず、使わないときはスイッチを切るしかない。
 新技術ならば、安定した電力が必要な医療機器や空調機器には電力会社の供給電力を使い、天候で発電量が変動する太陽電池はパソコンや蓄電池の充電に使うといった利用イメージが描ける。
 引原教授は「通信を電力に応用した技術。原理の確認は終わった。あとは使い方しだいだ。2~3年以内に実用化されるのではないか」と話す。
 通信の世界では情報に送信先の信号を書き込み、膨大な数の端末があっても迷うことなく目的の情報を相手先に届ける。この仕組みを送電に応用した。
 多くの電化製品がつながった配電網を通信網に見立て、それぞれの電化製品が使う電力を必要な分だけ送る。情報通信研究機構の支援を受けて取り組んだ。
 通信網では情報を送信先へ交通整理する装置に「ルーター」がある。研究チームは「電力ルーター」と呼ぶ装置を試作した。電力会社の電力や自家発電になぞらえた電力に、それぞれ送り先を示す信号を付けて送信する実験に成功。電力ルーターが信号を読み取り、その内容に合わせてスイッチを切り替えてそれぞれの電化製品に見立てた装置に送る。
 実験では交流電源の最大17アンペア、200ボルトに対応する仕様で装置を試作。電源と電化製品に見立てた装置を2つずつ電力ルーターとつなぎ、送信先の切り替えができることを確認した。
 試作した装置のスイッチの切り替え速度は1ミリ秒以下。実用化には数十マイクロ(マイクロは100万分の1)秒以下にする必要がある。京大と住友電工は高速切り替えに最適な炭化ケイ素(SiC)製半導体を開発済み。現在のシリコン製半導体と置き換えれば、高速化を実現できる見込みだ。
 電力ルーター同士は通信機能がある。複数台を組み合わせれば、どこから供給された電力かを見極め、電力の安定性に合わせて供給先の電化製品を選べる。将来は地域の電力網などにも応用できる可能性がある。

京大のiPS細胞特許戦略、取得絞り込みに転換、保有のコスト抑える。

 京都大学iPS細胞研究所は、再生医療へ応用を目指す新型万能細胞(iPS細胞)の特許戦略を見直す。研究成果を幅広く特許にしてきたが、取得特許を絞り込む方針に転じる。特許の保有などにかかるコスト負担を一大学で担うのは重すぎるためだ。日本発の成果をどう生かすのか国や企業を含めた日本全体で考える時期に来ている。
 京大は山中伸弥京大教授ら先端研究者を集め、出願した特許を所持し続けるかどうかを判断する基準の策定づくりに着手した。11日には作製技術の特許が欧州で初めて成立したと発表したが、拡大一辺倒の戦略を改める。
 iPS細胞の特許は、再生医療に不可欠と分かれば価値が高まる。ところが現在の研究水準ではまだ治療までの道のりは長く、どの技術が主流になるのかを見通すのは非常に難しい。
 iPS細胞の特許は作製法関連が多い。細胞に加える遺伝子の種類が違うと特許の権利は及ばない。特許をいくつか押さえるだけで将来の臨床応用を有利に運べるほど簡単ではない。
 そうなると相当数の特許を押さえなければならない。だが、大学が膨大な特許を囲い込む戦略は長くは続かない。
 京大は約70件の特許を出願済み。成立した特許権は国内3件。海外は欧州の1件のほか、ロシアなど旧ソ連9カ国で効力を持つユーラシア特許や南アフリカ、シンガポールでそれぞれ1件取得。出願や保有に年間の出費が数千万円にもなる。
 松本紘総長は「特許の維持や申請などの費用は大きい。国などに支援を受けたい」と訴える。山中教授は「知財の専門家をどう(継続して)雇用するのかも今後の課題」と話す。
 iPS細胞ほどの最先端研究となると進歩が早く、技術はすぐに時代遅れになる。今回取得した欧州の特許は2005年の国内出願がもとになったが、権利成立までには長い歳月がかかる。主流から外れた技術を持っているのは無駄だ。必要な特許の絞り込みなどコスト削減が急務となっている。
 京大が特許取得に力を入れてきたのは「企業ではなく大学が特許を保有すれば、誰にでも安価に実施権を提供できる。研究者が安心して研究でき、(結果的に)京大発のiPS細胞の治療応用の実現が近づく」との思いからだった。
 それでも実用化が近づいたときには海外などで特許を巡る訴訟も予想される。京大の特許は米国でも成立する可能性が高いが、権利の抵触や無効を訴えられるリスクが指摘される。特許訴訟1件で数億円の負担が予想されており、大学が対処するには限界が見えている。
 再生医療の普及時は、企業や研究機関は互いのiPS細胞特許を自由に使えるようにする現実的な対応を探るとみられる。
 そのときまでに本当に必要な特許をどれだけそろえておけるのか。特許取得を絞り込む京大は、研究成果の将来の価値を見極めるという新たな課題と向き合う。

レアアース、中国、投機を監視、経産相に商務相表明――輸出枠でも譲歩示唆。

中国訪問中の海江田万里経済産業相は18日、陳徳銘商務相と会談した。経産相はレアアース(希土類)の価格高騰などの問題について改善を要求。これに対し、陳商務相は「輸入インフレを誘導する観点から望ましくない。投機的な動きは取り締まっていきたい」と価格高騰に懸念を示した。
 中国のレアアースの輸出価格は政府の管理強化で、製品によっては昨春に比べ数十倍まで高騰。レアアースは日本で自動車部品などに加工された後、中国に再輸出される事例が多い。陳商務相はレアアースの日本向け輸出価格の高騰が、中国経済にも悪影響を及ぼすとの認識を示した形だ。
 海江田経産相はレアアースの輸出量減少についても改善を要請。中国商務省はレアアースを含む鉄合金を今年下期から新たに輸出枠に含める方針で、2011年通年の輸出枠は前年比で実質縮小になる。陳商務相は「下期の鉄合金の輸出数量を精査し、必要な場合は若干の調整をする」と述べ、輸出枠についても譲歩する考えを示唆した。
 海江田経産相は会談後、記者団に対し「陳商務相はこれまでと比べて一歩踏み込んだ発言をした」と評価した。

レアアースの乱、プリウス直撃―中国江西省の産地、採掘停止

 中国のレアアース(希土類)の今年の輸出枠が前年並みとなった。下期の輸出枠ゼロの観測も浮上していただけに日本側は胸をなで下ろす。だが肝心のトヨタ自動車のハイブリッド車(HV)「プリウス」に不可欠な「ジスプロシウム」の調達はなお難航しそうなのだ。実は唯一の産地、江西省〓(カン)州では採掘が進んでいない。裏には中央政府と地方の深刻な対立がある。有力華僑や政治家を輩出した「客家」の故郷で何が起こっているのか、内情を探った。
 「我々は今、レアアースの採掘を止めている」。江西省〓州の忠部から車で山道を5時間も走ってたどり着く竜南地区。採掘で赤茶けた土が露出したレアアース採掘場の企業関係者は明かす。
計画鉱区に指定
 採掘を停止したのは4月から5月にかけて。中国政府が1月、竜南地区を含む〓州のレアアース鉱区11カ所を「国家計画鉱区」に指定したことがきっかけだ。これまで採掘権は地元企業が保有していたが、中国政府が「環境保護のための管理強化」との名目で奪取に動いたという。
 政府はさらに4月にレアアースの新たな探査や生産の許可を2012年6月末まで発行しないと表明、5月には〓州など中国南部のレアアース生産の80%以上を上位3社に集約する方針を発表した。3社は中国政府が直接管理する国有大手になる見通しで、地元の〓州に緊張が走った。
 「精製や分離などの加工分野だけでなく、採掘分野まで踏み込んできたら自衛するしかない」。〓州の関係者は力を込める。これまで中国五鉱集団や内蒙古包鋼稀土高科技、中国アルミなどが中央から〓州に進出してきたが、いずれも加工分野にとどまっていた。
 上流分野は地元のレアアース採掘会社88社が牛耳っていた。さらに採掘に不可欠な材料である硫酸アンモニウムは地元政府が影響力を持つレアアース採掘最大手、〓州稀土鉱業が一手に手がける。この会社が採掘材料の供給を停止。88社の採掘も中止させた。
 地元企業が突然の生産停止に踏み切ったのは、中央政府や国有企業をけん制する狙いもあるが、「政府の今年の生産枠を守るため」という。すでに今年の生産量は政府枠のギリギリの水準。ある関係者は「これまでは採掘や精製の枠は実質的に関係なく、枠を大きく超えて生産してたが、今春からは守るようになった。違反で摘発された場合は、中国政府につけ込まれる」と理由を漏らす。
 中央に対抗するため、〓州の地元政府も独自の近代化策を講じている。新素材開発などの下流分野に注力する方針で2月には研究所を設立。昭和電工と地元レアアース有力企業との高機能合金生産もその戦略の一環だ。
結束固い客家
 なぜ〓州が焦点となるのか。もともとは「タングステンの都」と呼ばれていたが、最近のあだ名は「レアアース王国」。ハイブリッド車などに必要な高性能磁石の添加剤に使うジスプロシウムなどの重希土類が産出するイオン吸着型レアアース鉱を抱える。重希土類が多い南部にある104鉱区のうち88鉱区は〓州に位置し、生産量は全国の7割を占める。日系商社幹部は「セリウムなどの軽希土類は中国以外の米豪でも生産できるが、ジスプロシウムは中国の〓州だけだ」と話す。
 もう一つの中国のレアアースの産地である内モンゴル自治区。中国政府が直轄する国有企業が独占、国家が直接コントロールできる状態となっているが、主な産品はセリウムなどの軽希土類。海外にも産地があるため、中国が存分に影響力を行使できない。
 それだけに、「中国政府はトヨタなど日本企業の生命線ともいえるジスプロシウムなどを握ることができる〓州を完全に支配下に置きたいはずだ」(中国の非鉄企業幹部)という。しかし〓州は客家の故郷。客家は中華文化の発祥地である黄河中下流域から南部に移動を繰り返し、独自の言語や文化、商習慣を守り持つ人々で結束が固い。
 〓小平氏やシンガポール元首相のリー・クアンユー氏らを輩出し、現在も大物政治家や人民解放軍に人脈を持つとされる。〓州の人口890万人のうち、客家系は95%を占めるという。中国国有企業関係者も客家は利にさとく「一筋縄ではいかない」と漏らす。
 〓州はレアアースなどの生産拡大で経済が急成長。中国社会科学院が10年に発表した中国都市競争力白書では過去5年で競争力が伸びた都市のベスト3位となった。街には世界最大の英国製の時計台もそびえる。
 客家が手がけるレアアース王国と中国政府との戦いの行方は不透明だが、中国の非鉄業界に詳しい証券アナリストは「戦っているように見えるが、レアアースを使って利益や影響力の拡大を狙う点では一致している」と指摘する。仮に両者の対立が収束しても、日本側に安価なレアアースが大量に流れ込むことはまずありえない。
 6月の国内新車販売で4カ月ぶりに首位に返り咲いたプリウス。このままジスプロシウムの生産が滞れば、価格急騰や在庫払底の懸念もある。日本側では代替部材の開発を急ぐべきだとの声が高まっている。

 ▼ジスプロシウム レアアース(希土類)と総称される金属元素の一つ。強力な磁力を持つネオジム磁石の添加剤で、その弱点を補い、高温でも磁力を保持できるようにする。電気自動車やハイブリッド自動車の駆動モーターのような高温にさらされる場面で欠かせない。モーター性能を高めるため、省エネルギー性能の高いエアコンや洗濯機などにも使われる。
 資源として極めて希少であり、ジスプロシウムを多く含有する経済性の高い鉱床は中国南部以外で見つかっていない。

米マサチューセッツ工科大学、太陽熱、簡単に蓄える化合物

 米マサチューセッツ工科大学の研究チームは、太陽の熱エネルギーを簡単に蓄える新しい化合物を開発した。光を当てるだけでよく、熱エネルギーの長期的な保存と輸送が可能になる。太陽は再生可能エネルギー源として期待が高いが、日照時間は限られる。新化合物は熱エネルギーを保存し、必要に応じて放出する安定供給の実現につながる可能性がある。
 新しい化合物は炭素材料のカーボンナノチューブを使い、光が当たると熱を吸収して構造が変わる。温度変化などの刺激を加えると元の構造に戻り、その時に蓄えた熱を放出。蓄熱と放熱を何度も繰り返す。貯蔵できるエネルギーの密度はリチウムイオン電池並み。これまでの蓄熱材と違って繰り返しの利用で劣化せず、希少で高価なレアメタルも使わない。同じ仕組みでより有望な化合物の探索を進めるという。

理研と名大、高い分解能で観察、0.054ナノメートル、原子間より短く。

 理化学研究所と名古屋大学のグループは、世界最高性能の分解性能を持つ光学顕微鏡の開発につながる技術を開発した。エックス線を構成する光子が物質に衝突するとまれに2つの光子に分裂する現象を応用することで実現した。成果は17日付の英科学誌ネイチャー・フィジックス(電子版)に掲載された。
 研究グループは、エックス線を物質に照射すると1千億分の1の確率で光子が2つに分裂する現象に注目。波長が0・112ナノ(ナノは10億分の1)メートルのエックス線をダイヤモンドに照射すると、0・113ナノメートルのエックス線領域の波長を持つ光子と20・6ナノメートルの極端紫外光領域の波長を持つ光子になる。
 極端紫外光の光子を検出することで、一般の物質の原子間距離より短い0・054ナノメートルの分解能でダイヤモンドを観察できたという。光子の分裂の頻度を高めるため、大型放射光施設「SPring―8」を使った。
 物質に当たった光を観察する光学顕微鏡と原理は同じ。光学顕微鏡の分解能はこれまで数百ナノメートルとされていた。

深紫外レーザー光、変換効率6割向上、中央大、結晶配置や接合改良。

 中央大学の庄司一郎教授らは、半導体の微細加工などに使う深紫外レーザー光の変換効率を高める技術を開発した。レーザー光の波長を変換する結晶の配置と接合法を改良し、従来より60%多く変換できることを確かめた。今後の改良で効率をさらに引き上げられるとみている。深紫外光の実用化にはずみをつける成果といえそうだ。
 成果は22日まで米国ハワイ州で開く非線形光学の国際会議で発表する。
 深紫外光は、波長が約200ナノ(ナノは10億分の1)メートル~300ナノメートル。ホウ酸バリウムの結晶に同500ナノメートル前後の緑色レーザー光を通して波長を半分にする。今回、厚さ0・4ミリの結晶を24枚重ね、両端を同0・2ミリの結晶で挟んだ素子を試作し、隣り合う結晶同士が原子レベルで結合するようにした。これまでの素子は、同じ厚さの結晶を2枚張り合わせて作っていた。
 深紫外光はエネルギーが高く、半導体の微細加工に使えるうえ、波長が生物の細胞に作用しやすく、殺菌や有害化学物質の分解にも期待されている。しかし光源の緑色レーザー光の発生効率が低いうえ、深紫外光への変換効率が低いことから産業利用が遅れている。

DNAの脱メチル化、神経幹細胞を形成、生理研がメカニズム。

 自然科学研究機構生理学研究所の等誠司准教授らは脳神経のもととなる神経幹細胞が作られる詳細なメカニズムを突き止めた。特定の遺伝子の働きを抑え込むDNA(デオキシリボ核酸)のメチル化という化学作用を解除する「脱メチル化」と呼ばれるシステムが存在し、幹細胞への成長を促していた。新型万能細胞(iPS細胞)から神経を効率よく作る技術の開発の足がかりになる可能性がある。
 ハエの実験で神経の形成に関係しているのが見つかった「GCM」という遺伝子に着目した。この遺伝子はマウスの体内にもある。初期胚などを使い実験した。
 遺伝子操作でGCMを働かなくすると、胚から神経幹細胞ができる量が10分の1以下に減った。神経幹細胞の形成を促す「Hes5」という遺伝子の働きが抑えられていた。詳しく調べると、Hes5はある時期まで働かないようにメチル化によってブロックされており、脱メチル化するのがGCMだった。人でも同様の仕組みが存在するとみている。
 研究チームはiPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)から神経幹細胞を作る際も似た仕組みがあると推定。今回の成果を活用し、万能細胞から効率よく神経が作れれば、脳の再生医療などにも役立つという。成果は米科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス(電子版)に18日掲載された。

イネ、土壌から鉄有効利用、東大が遺伝子解明。

 東京大学の西沢直子特任教授らはイネが土壌から吸収し、細胞壁に沈着している鉄を溶かして有効利用する際に欠かせない遺伝子を突き止めた。この遺伝子が強くなるよう改良すると、アルカリ性が強くて植物が育ちにくい土壌でもイネがよく育つことも確認した。成果は米専門誌ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(電子版)に掲載された。
 東大のバシル・クーラム特任研究員、東北大の石丸泰寛助教らとの共同研究成果。鉄は植物の生育に不可欠な元素。イネは土壌中の鉄を溶かして吸収するため、ムギネ酸類という物質を根から分泌しているが、いったん吸収した鉄を有効利用する仕組みも存在している。
 研究チームはイネが根などの細胞壁に沈着した鉄を溶かすのに「フェノール性酸」という物質を利用しているのを突き止めた。この物質を細胞の外側に分泌する際に働くのが「PEZ」遺伝子で、細胞膜に存在していた。
 この遺伝子を壊したイネは、フェノール性酸が細胞外に出ていけず、細胞壁に沈着した鉄を溶かし出せなくなった。栄養や水分を運ぶ導管の中の鉄濃度が下がり、地上部に鉄が十分運ばれなくなり、生育も悪くなった。逆にPEZを強く働かせると、本来は育ちにくいアルカリ性の土壌でもよく生育した。
 フェノール性酸はイネ以外でも鉄の利用に重要なことが知られている。ムギやトウモロコシ、人でも働いているという。今回の成果が、イネ以外でPEZに相当する新たな遺伝子の発見につながると期待している。

関西大、光で微細模様、樹脂開発、たんぱく質転写――低コストの加工、有望。

 関西大学の宮田隆志教授らは、光で表面に微細な凹凸をつけられる樹脂素材を開発し、たんぱく質などをスタンプのように転写することに成功した。マイクロチップなどの微小部品の作製に幅広く利用できるとみている。微小部品の作製には大がかりな装置が必要だったが、新技術なら光を当てるだけですむ。低コストの微細加工法として実用化を目指す。
 開発したのは光エネルギーを吸収して収縮する高分子樹脂。光反応性のケイ皮酸ビニルとポリジメチルシロキサンを組み合わせた。樹脂に紫外光を当てると、その部分だけ構造が変わって薄くなる。45マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル間隔の格子模様のフィルターを載せて光を30分当てると、樹脂に凹凸ができ、格子がきれいに浮かび上がった。境界線も鋭かったという。
 こうして作った格子模様の表面をスタンプに見立て、蛍光色素を付けたたんぱく質が入った溶液をインクにしてシリコンウエハーに押しつけた。蛍光顕微鏡で観察すると、スタンプの出っ張った部分のたんぱく質がウエハーに移る一方、くぼんだ部分にたんぱく質は付かず、格子模様をうまく転写できたことが確認できた。
 たんぱく質などで微細模様を描くには、フォトリソグラフィーを使う方法もある。研究グループが開発した新技術と同じように光に反応する樹脂を利用する。ただ、光を当てて固まる性質のため、後で余分な樹脂を酸で洗って取り除くなどの作業が必要。新技術は光を当てる1度の操作だけなので、より簡便で使いやすい方法になる可能性がある。
 応用例としてはたんぱく質の粒をチップ状に並べたマイクロチップや、マイクロ流路などが考えられる。どれほど細かい模様が描けるかを確認し、くっついてきれいにはがれる物質などスタンプとインク選びの相性も調べる。

抗がん剤開発に拍車、遺伝子の後天的制御を標的に、米社が日本で承認。

国内勢も導入へ
 7月1日、米メルク社の日本法人であるMSDが、日本における皮膚T細胞リンパ腫の治療薬「ゾリンザ」の販売承認を獲得した。単なる希少疾患薬(オーファンドラッグ)ではない。最近急速に解明されつつある新しい生命現象、エピジェネティックス(遺伝子の後天的制御)と呼ばれる新たな創薬標的を射抜く、画期的な抗がん剤である。
 エピジェネティックスはバイオテクノロジーにおけるポストゲノム研究の有望株。例えば国立がん研究センターのグループが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染による胃の慢性炎症がエピジェネティックス異常を蓄積し、胃がんを生じることを解明するなど、エピジェネティックスの異常ががんを引き起こすことが続々と報告されている。
 従来の化学抗がん剤はがん細胞が増殖するために必要なたんぱく質や酵素を標的にしてきた。最近では、がん細胞にだけ特異的に生産されるたんぱく質を標的にした抗体医薬や、がんが増殖するために必要なリン酸化酵素を阻害する標的医薬、そして細胞内で老廃物となったたんぱく質を分解する酵素を阻害する新規の抗がん剤まで現れた。
 こうした厳しい抗がん剤開発競争で、ゾリンザが標的とするのは、遺伝子のスイッチを調節するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)だ。ゲノムDNAと結合し、染色体の構造を緩めたり、締めたりする働きがある。これを阻害すると、がんで盛んにスイッチが入っていた増殖関連遺伝子などをオフにし、最終的には細胞死を誘導する。米国では既に2種類の医薬品が発売されており、ゾリンザは日本初のHDAC阻害剤となった。
 今年1月には日本新薬がビダーザというエピジェネティックス新薬を発売している。これは日本で発売されたDNAメチル化酵素阻害剤の第1号だ。前がん状態とも言える骨髄異形成症候群の治療薬である。
 エーザイはMGIファーマを買収し、DNAメチル化阻害剤のダコジェンを獲得、急性骨髄性白血病治療薬として米国で開発を進めていた。今年6月に発表したフェーズ3臨床試験の初期の解析成績は失望に終わったが、投薬した患者を1年間追跡した結果、薬効を証明でき、近く米国で販売申請を行う計画だ。
 こうした実用化の成功がエピジェネティックス抗がん剤開発に拍車を掛ける。今や抗体医薬や標的医薬の次の戦場と言われるまでになった。
 実際、2008年4月、武田薬品工業が抗がん剤開発のベンチャー企業、ミレニアム・ファーマスーティカルズを88億ドルで買収したが、ミレニアムの旧経営陣はその資金でエピジェネティック抗がん剤開発のベンチャー企業、コンステレーション・ファーマシューティカルズを創設した。
 1周遅れが許されないことに気付いた武田やエーザイなど国内大手製薬企業も現在、エピジェネティックス抗がん剤導入に走っている。抗がん剤だけでなく、精神疾患に至る幅広い治療薬開発の可能性も秘めている。エピジェネティックス医薬は、企業の今後の成長性を占う試金石となる。

1万個のセンサー組み込み、橋の劣化状態、即時判定―NTTデータ、解析技術。

 NTTデータは1万個のセンサーのデータを毎秒数十万件の速度で解析処理できるシステムを実用化した。橋に組み込んだ多数のセンサーを使い、コンクリートなどの劣化状態を瞬時に判定できる。米国の金融業界で自動取引システムなどに採用されている技術を応用した。企業や自治体などに売り込み、2015年度末までに200億円の売り上げを目指す。
 設定した条件に基づいて自動的に株式を売買する「アルゴリズム取引」システムなどで実績のある処理手法を採用した。「CEP(複合イベント処理)」と呼ばれる手法で、刻々と変化するデータを、リアルタイムで処理できる。
 今回、橋の劣化状態を判定する既存ソフトの判定ロジックをCEPに組み込み、1万個のセンサーの情報から橋の劣化状態をリアルタイムに判定する実験に成功した。
 NTTデータは今回のシステムを、業務システムのデータを分析して経営戦略に生かす「ビジネスインテリジェンス(BI)」の分野で利用する。大量のデータをリアルタイムで処理できる利点を企業などに売り込む。

スパコン能力7倍、日立、科学技術用に新モデル。

 日立製作所は流体解析や気象予測など科学技術計算に的を置いたスーパーコンピューターシリーズSR16000に、計算能力を引き上げたサーバーモデル「M1」=写真=を加えると発表した。21日から販売する。従来モデルと比べ、サーバーの設置面積当たりで理論上の能力は最大7倍になる。
 M1は計算処理単位である1ノードに、高性能プロセッサー4個、メモリーを最大256ギガ(ギガは10億)バイトまで搭載できる。プロセッサーの発熱をすべて水で冷やす技術に加え、プロセッサーボードの高密度実装技術で、設置面積当たりの能力を引き上げた。
 M1は高エネルギー加速器研究機構の次期スーパーコンピューターシステムの一部に採用された。9月1日から稼働する予定。64ノードを導入し、素粒子や原子核分野のシミュレーションなどに利用する。
 日立はM1を含むSR16000シリーズを、2012年度までの5年間で合計30システム販売する計画。スパコンの開発を巡って、富士通やNECなどとの競合が一段と激しくなっている。

半導体ウエハー、表面状態1秒で観測――東北大が新顕微鏡、微細化に一役。

東北大学の板谷謹悟教授と大見忠弘教授らの研究グループは、半導体の製造工程でのシリコンウエハー表面の状態を高速で観測できる光学顕微鏡システムを開発した。従来、シリコンウエハー表面を観測するには数時間から数十時間かかったが、新システムは1秒程度で原子レベルの配列を把握できる。将来は半導体の製造・検査工程に組み込めるとみられ、微細化・高密度化が進む半導体の品質安定と大量生産を支援するシステムとして期待される。
 既存の光学顕微鏡の部品を改良するとともに、計測方法も工夫してシステムとしてのノウハウを積み上げた。その結果、空気中や水溶液中で化学反応させたシリコンの原子配列の段差などを観察できた。0・1ミリメートル角の範囲で1秒以下という高速の観測を可能にした。
 半導体は、基板となるシリコンウエハーを熱したり化学反応で削ったりしながら回路を形成していく。板谷教授らによると、半導体の微細化が進むなか、製造過程でシリコンウエハー表面に微妙な凹凸やひずみも生じやすく、半導体の性能や品質に影響する恐れもあるという。
 表面の状態を調べるには、電子線を照射しながら表面画像をコンピューターで読み取る「走査性電子顕微鏡」を使う方法などがある。ただ現状の方式は計測に時間がかかるうえに観察範囲も数マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル角と狭く、製造ラインに組み込むのは難しいという。板谷教授らは今回の技術をもとに半導体製造装置メーカーなどと協力して、製造工程に組み込める検査システムとしての実用化を目指す。

電力自給の下水処理、メタウォーター、50~100%賄う――発生メタン活用。

 水処理事業の国内最大手であるメタウォーター(東京・港、木田友康社長)は下水処理向けに、バイオマス発電などを利用して電力を賄うシステムの開発にめどをつけた。特殊樹脂で下水を効率的にろ過するほか、汚泥を発酵させてつくるメタンガスを使い燃料電池で発電する。都市ガスも原料に加えると下水処理に必要な電力の50~100%を供給でき、来春以降に全国の自治体へ売り込む。
 このほど、省エネ型の下水処理技術の開発を目指す国土交通省のモデル事業に選ばれた。国交省から11億円の補助金を得て、大阪市内の下水処理場にパイロットプラントを建設する。1日当たりの処理量は5700立方メートルの見通し。日本下水道事業団と共同で、2012年3月まで実証実験に取り組む。
 下水処理場では通常、家庭などの汚水を沈殿池に一定期間ためて、水と固形物を分離する。固形物と分離した後の水は、さらに微生物を入れて有機物を分解して浄化している。この際、空気を送り込んで微生物の働きを活性化させるため大量の電力が必要。下水道処理施設で使う電力の約3割が空気を送り込む装置で利用されている。一般に下水処理場で使う電力は日本全体の電力供給量の約1%を占めるという。
 メタウォーターのシステムはまず、家庭から出た汚水を貯水槽に入れ、水と汚泥に分離。装置内に浮かせた樹脂の粒の間に水を通すことで、効率的に水を浄化する。汚泥の除去率は66%と従来より20ポイント改善する。樹脂でろ過した水は有機物が少なく、微生物による浄化処理に必要な電力を2割減らせるという。
 こうして前工程で省エネ化したうえで、水と分離した後の汚泥を自家発電に利用する。汚泥槽の中に菌を入れて発酵させ、メタンガスを発生させる。槽に不織布を入れて菌を増殖しやすくするほか、自治体が家庭から回収した生ゴミも加えてメタンガスの発生量を増やす。
 このメタンガスを原料に燃料電池で発電する。大阪市の実証設備の場合、メタンガスだけの発電量能力は25キロ~30キロワット。燃料電池の原料として都市ガスも使えば能力は100キロワットと、実験場となる下水処理設備の電力をほぼ賄える。
 電力不足の長期化が予想されるなか、実証実験で効果を確認して自治体に販売する。新システムは一般の下水処理設備で使う電力の50~100%を供給できる見通し。将来は新興国など海外でも販売する考えだ。
 メタウォーターは富士電機グループと日本ガイシの水事業が統合して08年に発足した。10年度の売上高は09年度比で横ばいの1005億円、営業利益は約2割増の81億円だった。

2011年7月15日金曜日

携帯新放送「モバキャス」来春開始、「30センチのアンテナ」が波紋。

 NTTドコモ子会社のジャパン・モバイルキャスティング(東京・港、永松則行社長)は14日、2012年春に始まる携帯端末向け新放送のサービス概要を発表した。名称は「モバキャス」。「ワンセグ」の13倍のチャンネルを約10倍の画質で楽しめる。スマートフォン(高機能携帯電話)の拡大をにらみ、ドコモと総務省が華々しく推進してきた新事業だが、「東京スカイツリー」から効率的に電波を発信する設備計画のもろさが露呈するなど雲行きは怪しい。
 「フェンシング・ケータイ」――。携帯電話業界では今、新放送対応のアンテナを搭載したスマートフォンの試作機がこう揶揄(やゆ)されている。屋内で電波を受けるためのアンテナが、まるでフェンシングの剣のように見えるからだ。
 その長さは実に30センチメートル。ドコモや携帯電話機メーカーの開発陣は「30センチ問題」に対応するために試行錯誤を繰り返す。「イヤホン型のアンテナを使ってもらう」(ドコモ幹部)など代替策や、先端をコイル状に巻いたアンテナ、充電器に長いアンテナを取り付けるなどの案もある。
 新放送は生中継に加え、就寝中などにコンテンツをダウンロードし、スマートフォンに番組を蓄えておく「蓄積放送」が強み。ただそのためには屋内で電波を受信する必要がある。ドコモ子会社は東京スカイツリーで全世帯の3分の1に当たる1600万世帯をカバーする計画だ。
 永松社長は「出力が高い大電力方式なので多くの世帯をカバーできる」と説明するが、「ギャップフィラー」と呼ばれる補助な中継アンテナやWiFi無線の活用といった設備面の追加投資は必須とみられる。
 「だから言ったのに……」。昨年新放送の設備運営の総務省への申請を巡りドコモと争ったKDDIの幹部はこう漏らす。電波問題の原因はドコモの設備設計の甘さにある。
 昨年総務省に提出した事業計画で、KDDIは約770億円を投じて中小型局865局を整備するとした。一方、ドコモ側は設備投資を440億円に抑え、東京スカイツリーを軸に既存の放送局を活用して全国を125局でカバーする。設備レンタル料や利用者料金を抑えるためともいえるが、技術者出身のKDDIの小野寺正会長(当時社長)は総務省の公開説明会で「屋内で使う発想がなさすぎる」と皮肉った。
 設備申請を許可した総務省も、事業者認定を大学教授らで構成する電波監理審議会に委任。ドコモ側に軍配を上げた電監審はコストなどを算定基準としたが、「専門家不在の組織が多数決で決めた」(通信業界関係者)との指摘は根強く残る。
 総務省は8月にもジャパン・モバイルキャスティングから設備を借りて放送事業に参入する企業の参入募集を開始する。ソフトバンクグループや学習塾のナガセなどが参入に意欲を示すが、「枠が埋まらない可能性もある」(証券アナリスト)との声もある。
 KDDI幹部は「参入するメリットがない」と話すなど他の通信事業者との溝も埋まっていない。
 かつて携帯端末向け有料放送の先駆けといわれ、東芝などが主体となり04年にサービスを開始した「モバイル放送(モバHO!)」は加入目標の200万人に対し約10万人にとどまり、09年3月にサービスを終了する末路をたどった。米国でクアルコムが進めた「フローTV」も同社が撤退するなど、無料が中心となってきたネットサービス時代に有料放送の利用者確保は厳しい。「モバHO!」と同じ轍(てつ)を踏まないような知恵が必要になっている。

 ▼携帯端末向け新放送 24日に停止する地上アナログ放送の空き電波を使って2012年春に始まるサービス。現行の「ワンセグ」の約13倍のチャンネル数が使え、映像の画質も約10倍に高められる。スポーツや音楽ライブを生放送で楽しめるほか、端末にコンテンツを蓄積することもできる。雑誌やアプリなど映像以外のコンテンツを配信できるほか、簡易ブログ「ツイッター」などとも連携する。

試薬セット、タンパク質合成容易、ジーンフロンティアなど開発、短時間で高純度に。

 カネカ子会社のジーンフロンティア(千葉県柏市)は簡単にタンパク質を合成できる試薬セットを東京大学と共同開発し、販売を始めた。遺伝子を反応液に加えるだけで簡単に高純度のタンパク質を合成できるという。試薬を使った創薬支援サービス事業も展開し、研究所やバイオ医薬品メーカー向けに売り込む。5年後に10億円の売り上げを目指す。
 試薬セット「PUREfrex」=写真=は試験管内で反応液に遺伝子を加えるだけで短時間にタンパク質を合成できる。反応液の製造過程で生じる不純物が従来の試薬セットに比べ少なく、効率良く、かつ高純度のタンパク質をつくれる。
 ジーンフロンティアはこの試薬を利用して一度に多くの種類のタンパク質を短期間で解析できる技術も開発。各タンパク質にどのような結合特性があるのかなどを探れるため、創薬支援サービスとして提供する。

骨髄提供者の免疫細胞、患者臓器の攻撃抑制―感染症リスク低減に期待。

 骨髄移植や臓器移植の場合、患者の免疫システムが体内に入ってきた提供者の骨髄や臓器を異物と認識する免疫反応と、患者の体内に入った提供者の免疫細胞が患者の体そのものを異物と認識する免疫反応の両方が起き、ともに移植の際のリスクとなる。
 骨髄移植の際には提供者の免疫細胞が患者の臓器を攻撃する「移植片対宿主病」などが発症するため、これを防ぐために免疫抑制剤を投与する。ただ現在の一般的な免疫抑制剤は幅広く免疫を抑制するため、感染症にかかりやすくなるほか、白血病を再発しやすくなるとされる。
 新薬候補は提供者由来の免疫細胞と患者の臓器の間でのみ免疫抑制の機能が働く。白血球の型が一致しない提供者からの移植片対宿主病のリスクを下げつつ、骨髄移植後の感染症や再発のリスクを小さくすることが期待できる。
 こうした免疫抑制剤はなく、製品化できれば世界で初めてになる見通し。骨髄移植に加え、臓器移植でも使われるようになればさらに市場拡大が見込めるとみている。

渋谷工業、皮膚疾患の小型治療器、名古屋市立大と共同開発、往診に持ち運びも。

渋谷工業は皮膚治療を専門とする名古屋市立大学の森田明理教授と共同で、アトピー性皮膚炎など皮膚疾患の小型治療器=写真=を開発した。医療機器の商社などを通じ、17日に発売する。人体への影響が少ない波長の紫外線を当てる仕組みで、患部が狭い患者の治療に向くという。1台の重さは約1・5キログラムで携帯も可能。往診にも利用できる。
 新製品「TARNAB(ターナブ)」は手で機器を握りやすくするためドーナツ状にした。紫外線の光を出す部分の面積は16平方センチメートル。皮膚の敏感さは個人差があり、光を当てる時間を1~120秒の間で調整できる。価格は1台400万円。初年度に100台の販売を目指す。
 すでに薬事法で定められた登録認証機関から医療機器の認証を取得した。厚生労働省から保険の適用を受けられるよう申請済みで、最短で8月上旬には認められる見通しとしている。
 これまでの治療器の多くは半身や全身に光を当てる大型の機器が主流で、持ち運びが難しかった。患部が狭い場合には患部以外を黒い布で覆い、光を遮るなどの工夫が必要だったという。

骨髄提供者の免疫細胞、患者臓器の攻撃抑制―レグイミューン、米で第1相治験。

 創薬ベンチャーのレグイミューン(東京・港、森田晴彦代表取締役)は白血病治療などでの骨髄移植の際、提供者の骨髄に含まれる免疫細胞が患者の臓器を異物と認識して攻撃するのを抑えられる新薬候補について、米国で第1相臨床試験(治験)を始める。感染症の病原菌などに対する免疫力は弱めないのが特徴。2015年末までの販売を目指し、ピーク時に年間400億円以上の売上高を見込む。
 新薬候補「RGI2001(開発番号)」の薬効成分は「αガラクトシルセラミド」という物質で、「リポソーム」と呼ばれる脂質のカプセルに封じ込めた。これにより薬効成分を免疫の抑制にかかわる「抑制性抗原提示細胞」に集中的に送り込め、提供者の免疫細胞による患者体内での免疫反応が起きにくくなる。
 この仕組みにより、RGI2001を投与した患者に骨髄移植をすると、骨髄提供者由来の免疫細胞は患者の臓器と接触してもほとんど攻撃しなくなるという。
 今月下旬から第1相治験に入り、12年12月末までに前期第2相治験を終える計画。この治験は約50人の患者を対象として同社が単独で実施。治験で得たデータを基に国内外の大手製薬会社と交渉し、開発・販売権を譲渡したい考えだ。
 同社は昨年中に米国で治験入りすることを目指していたが、米食品医薬品局(FDA)から治験方法の変更を求められ、約1年間延期した。今回はFDAがすでに治験入りを許可したという。
 レグイミューンはキリンビールで医薬開発事業に携わった森田社長が06年に設立。リポソーム化したαガラクトシルセラミドが特定の異物に対してだけ免疫反応を抑制することは理化学研究所の石井保之チームリーダーらが発見し、同社が特許の実施権を得た。石井氏は同社社外取締役も務める。同社はRGI2001のほかにも3つの医薬候補を開発中。前臨床段階にあるワクチン候補「RGI4000」はアステラスと共同開発契約を結んでいる。
 ▼免疫の抑制 体内では異物を受け入れて攻撃しないようにする免疫の抑制と、攻撃して排除しようとする免疫の活性化が同時に起きる。異物情報が抑制性の「抗原提示細胞」を通じて免疫細胞に伝えられると免疫は抑制に向かい、一般的な「抗原提示細胞」を経て伝えられると免疫は活性化する。通常は後者の割合が大きく、抑制は起きていないようにみえる。
 新薬候補の薬効成分である「αガラクトシルセラミド」は抗原提示細胞の能力を向上する効果があるとされる。リポソーム化により集中的に抑制性抗原提示細胞に届き、活性化より抑制の割合が高くなる仕組みだ。

高エネ研、電子含む金属酸化物の膜、100原子層積み重ね技術――室温超電導へ期待。

 高エネルギー加速器研究機構の組頭広志教授らは、電子を大量に含むバナジウム酸ストロンチウムと呼ばれる金属酸化物の膜を100原子層積み重ねる技術を開発した。冷やさないで電気抵抗がゼロになる室温超電導の手がかりになる成果と期待される。
 東京大学の尾嶋正治教授と日本学術振興会の吉松公平特別研究員らとの共同成果。内容は15日付の米科学誌サイエンスに掲載された。
 積層膜の作製にレーザー分子線エピタキシーと呼ぶ技術を用いた。装置内の不純物を極限まで除去、基板と膜の材料の最適な組み合わせ、精密な温度制御などによって酸化物の膜を原子層1枚ずつ積めるようにした。
 銅酸化物は膜を重ねるにつれ、より高い温度で超電導を示すが、これまで4枚以上積むことが難しかった。組頭教授は、「今回の技術を銅酸化物に応用すれば、室温超電導が実現する可能性もある」と言う。

多発性硬化症、悪化防ぐ仕組み解明――阪大など、たんぱく質分泌促す。

 大阪大学の馬場義裕特任准教授、理化学研究所などは難病の多発性硬化症の悪化を抑えるメカニズムを解明した。過剰な免疫反応を抑える役目の細胞で重要な役割を果たすたんぱく質を見つけた。新たな治療法の開発につながる成果という。
 多発性硬化症は脳や脊髄(せきずい)、視神経などに炎症が起こり、運動まひや感覚障害などを起こす疾患。国内の患者は約1万2000人。特定疾患に指定されている。
 これまでに過剰な免疫の働きを抑える細胞「制御性B細胞」が疾病の悪化を抑えるたんぱく質を出すことは知られていた。だが詳細なメカニズムは不明だった。
 研究チームは多発性硬化症と似た症状を起こすマウスで実験した。制御性B細胞の中にあるたんぱく質「STIM」に注目。このたんぱく質のないマウスでは症状が悪化した。STIMは細胞内のカルシウム濃度を調節することで、悪化を防ぐたんぱく質の分泌を促していた。

ハエの腸の左右非対称、細胞にねじれる力――東京理科大、仕組み解明。

 東京理科大学の松野健治教授らは、ショウジョウバエが胚の段階で、腸に左右非対称性が生まれる仕組みを解明した。腸を構成する上皮細胞がねじれて傘の柄のような形ができるが、細胞の形がゆがむことでねじれる力が生み出されていた。人の腸でも同じ仕組みが働いている可能性があるという。臓器の形を制御する技術の足がかりになり、将来の臓器再生にも役立つと期待している。成果は米科学誌サイエンスに15日掲載された。
 動物は外見が左右対称でも内臓の器官は非対称のケースが多い。ショウジョウバエは受精卵から成長した胚の段階で、人の小腸・大腸に相当する「後腸」ができ、角度が90度ねじれることで傘の柄のような左右非対称な形を作る。
 研究チームは後腸を構成する上皮細胞の個々の形を測定し、腸がねじれる前は細胞が左右にゆがんでいるのを見つけた。左右の手のように似ているが重ならない形ができていた。ひずみはねじれた後に解消し、細胞の形も安定した六角形に戻った。形のゆがみがねじれを生む力になるのは、コンピューターによる模擬計算でも再現できた。

産総研、薄膜半導体、性能100倍、インクジェット印刷法を開発――大画面表示に道。

産業技術総合研究所は従来に比べ100倍以上高性能な有機薄膜半導体を製造できるインクジェット印刷法を開発した。これまで困難だった大画面の電子ペーパーなどに必要な性能レベルを達成しており、今後製品開発を加速できるとみている。
 高エネルギー加速器研究機構との共同研究成果で、英科学誌ネイチャー(電子版)に掲載された。
 インクジェット印刷法は半導体材料の微小な液滴をインクのように基板に吹き付けて薄膜をつくる製造法。新技術は半導体材料の液滴の前に、材料の結晶化を促す液滴を吹き付ける2段階方式にしたのが特徴で、「ダブルショットインクジェット印刷法」と呼ぶ。
 従来は薄膜が多結晶やアモルファスだったが、新手法は高品質な単結晶の製造を可能にした。薄膜トランジスタ(TFT)を製造したところ、電子の移動度という性能が従来印刷法の100倍以上で、有機TFTとしては世界最高性能になったという。
 それだけ動作速度が向上し、表示装置なら大画面化につながる。ポスターサイズの電子ペーパーを可能にするレベルという。今後、金属配線などの印刷法と組み合わせ、表示装置用の高性能な駆動回路パネルの試作などを進める。

がん患者の細胞、体外3D環境で増殖――大阪府立成人病センター、治療効果の予測も。

 大阪府立成人病センターの井上正宏部長らは、患者から採取したがん細胞を、体外の3次元環境で増殖する手法を開発した。この細胞を使えば個人ごとに異なる抗がん剤や放射線の治療効果を、事前に細胞レベルで予測することも可能。患者に最適な治療法選択などに役立つとみている。
 患者のがん組織を採取してフィルターに通し、バラバラにならなかった断片を集めて培養した。がん細胞だけが丸くなり他の細胞と区別できた。がん細胞は、約2週間以上生き、増えた。胚性幹細胞(ES細胞)の培養に使う栄養や増殖因子入りの培地を使うとよく増えることも分かった。大腸と肺、ぼうこうのがん細胞で確認した。
 患者から採取したがん細胞の培養は難しく、従来はフィルターを通ったバラバラの細胞を選んで培養していた。しかし正常細胞が混入したり、途中でがん細胞が不安定になり大半が死んでしまったりする課題があった。特別な条件で増殖した「がん細胞株」を使うこともあるが、培養を繰り返すとがん細胞の性質が失われてしまうという。
 新手法は患者のがん細胞をそのまま培養・増殖できるため、がんの研究・治療に広く役立つ。がん細胞をマウスに移植すれば、患者の状態も再現可能。効果のない治療を回避でき、患者負担の軽減や治療費の節約につながるとみている。
 成果は米科学アカデミー紀要に掲載された。

マイクロ波活用の新波浪計、穏やかな海でも観測――東大が開発、周波数を自動解析

年間稼働率 9割に向上
 東京大学の林昌奎教授は、マイクロ波を使った新型波浪計を開発した。海面で反射したマイクロ波の周波数を自動解析し、海の波高や波の向き、速度を算出する。波が低い穏やかな海でも観測できるため、従来型のレーダーでは5割以下にとどまっていた年間稼働率を9割に引き上げられるという。半年後をメドに実用化し、自治体向けに売り込む。
 開発したのは2台のパラボラアンテナを組み合わせたレーダー。海面での反射波がレーダーに向かって動けば周波数は高く、レーダーと逆方向に動けば低くなる。2台のアンテナを組み合わせることで、波の東西南北の向きを判別できる。
 このレーダーで数分間継続して観測することで、風が吹いて立つさざ波など海面の波と波長が異なるノイズを自動的に取り除ける。周波数のほか、反射波の強さも解析し、海面の平均潮位を算出できる。
 波浪観測用のレーダーはマイクロ波で海面の写真を撮影する画像レーダーを使うのが一般的。このレーダーは解像度が低いため、波高が30センチ以下の穏やかな天候では、風で起きるさざ波で反射波が増幅されて誤差が大きくなった。晴天時には使いにくく、年間稼働率が低く普及が遅れていた。
 林教授らは神奈川県平塚市の沖合に新型波浪計の実験機を作り、性能試験を進めている。今後はメーカーと交渉して装置の量産化を目指し、総務省に波浪計の設置許可を申請する。レーダーの価格はアンテナと送受信装置、データの解析装置を含め1台あたり1000万円強と、従来の海底設置式の波浪計に比べ3分の1程度に抑えられる見通し。
 安価で稼働率が高い新型波浪計が普及すれば、平常時の波高観測や台風の高潮、地震で発生した津波の観測に役立つ。

磁気構造材料の電気抵抗増減、九工大・ロシア准教授ら実証試験。

無限HDD実現へ新理論 らせん磁性・電子が干渉
 日本とロシアの理論物理学者が計算で求めた磁性材料の新しい理論が話題になっている。ハードディスク駆動装置(HDD)の容量を無限大にできる可能性があるからだ。候補の磁性材料はすでに何種類か見つかっており、高密度記録が本当に可能かどうか、国内の共同研究者が実証試験に着手する。
 新理論を唱えたのは、九州工業大学の岸根順一郎准教授とウラル州立大学のアレキサンダー・オブチニコフ准教授ら。特殊な磁気構造の材料に外部から磁力を与えると、磁力の増加に伴って電気抵抗が極端に増減する新しい物理現象が起きるという。現在の記録媒体は情報を「1」「0」の2種類の信号(ビット)で蓄えるが、「新理論によれば無限ビットを実現できる可能性がある」(岸根准教授)
 この新しい現象は、電子の回転でできる微小な磁石(スピン)がらせん状に並んでつながった「カイラル磁性結晶」と呼ぶ材料で生じる。結晶中の原子の間隔は10分の数ナノ(ナノは10億分の1)メートルで、原子が数百個並んだ数十ナノメートルの周期でらせん状の磁性が現れる。
 らせんの進行方向と垂直な方向から磁力を与えると、磁力の増加に伴ってらせんの周期が広がる。らせんと同じ方向に電子を流すと、らせん磁性の周期と電子の波の周期が干渉。電子が定常波という状態になって進みにくくなり、電気抵抗が極端に増える。磁力をさらに高めて干渉が弱まると、電子が再び流れやすくなって抵抗が下がる仕組みだ。
 今回、岸根准教授らは磁性材料に与える磁力を数十ガウス(ガウスは磁力の大きさ)から数百ガウスまで増やしていくと、電気抵抗の高いピークが繰り返し現れることを理論計算で示した。数百ガウスの磁力はホワイトボードに張る磁石程度に低く、実用的にも扱いやすい。
 カイラル磁性は、材料自体の結晶構造がらせん状だと現れる。らせん状の結晶構造を持つ材料は水晶など自然にも数多く存在する。しかし磁性がないために新理論を適用できない。それでも「心配はいらない。カイラル磁性結晶はすでに合成されている。あとは共同研究者が理論を実証するだけだ」と岸根准教授は実用化に自信を持つ。
 人工のカイラル磁性結晶は、マンガン・シリコンなど少なくとも6種類が合成されている。同結晶を実際に合成した青山学院大学の秋光純教授や広島大学の井上克也教授らが岸根准教授のチームに加わっている。同チームは年内にも、フランスのラウエ・ランジュバン研究所や大阪府立大学で実証試験を始める予定だ。
 今回の理論計算の内容は米物理学会の論文誌フィジカル・レビュー・レターズ(電子版)に7月1日付で掲載された。実社会と距離がありがちな基礎物理学の研究成果ではあるが、具体的な用途を期待して学界以外からも注目を集めている。ロシアの新聞イズベスチヤには、オブチニコフ准教授のインタビュー記事が掲載された。
 無限の情報を小さなHDDなどに詰め込める新技術。果たしてそんな技術が実現できるのか。それをどうしたら使いこなせるのか。商品化になじむ技術なのか。疑問は果てしなく広がるが、さまざまな可能性を秘めた新理論といえそうだ。

半導体検査、速度2倍、アドバンテスト、NAND型向け。

 半導体検査装置大手のアドバンテストは、NAND型フラッシュメモリー向けの新型検査装置を発売した。工程別に2機種を用意。検査速度を従来比で2倍以上に高めたほか、同時に検査できる数を増やすことで検査コストを半分程度に抑えることができる。次世代のNAND型フラッシュメモリー向けでの需要を見込む。
 新型検査装置のうち、ウエハーの状態で検査する「HA5100CELL」では、動作周波数は競合製品に比べて2倍以上の100メガ(メガは100万)ヘルツを実現。同時に4枚のウエハー、チップでは6144個のNAND型フラッシュメモリーを検査できる。パッケージ後向けの「T5773」では、動作周波数は最大200メガヘルツで同時に768個のNAND型フラッシュメモリーを検査できる。
 NAND型フラッシュメモリーは、スマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット端末などの登場で需要が拡大している。さらにデータの転送速度が毎秒400メガビットと従来比で10倍近く高速化する次世代製品も開発されている。アドバンテストでは、次世代NAND型フラッシュメモリー向けの検査装置をいち早く投入することで売上高を拡大する狙いだ。

新エネの可能性風力(上)太陽光より普及の壁高く

 太陽光や風力などでつくった電気の全量買い取りで再生可能エネルギーの導入拡大を狙った再生エネルギー特別措置法案の国会審議が14日始まった。「脱原発依存」を表明した菅首相は成立に強い意欲を示している。
 再生可能エネルギーと言えば太陽光が代表格だが、国内で最も導入余地が大きいのは風力だ。環境省の試算(洋上風力発電を含む)によれば、買い取り制度に技術革新と事業費補助が加わった場合で導入可能量は15億キロワットに達する。大型太陽光発電所などの建設が見込まれる非住宅分野の太陽光発電の10倍以上だ。
 ただ、従来は国が風力発電所の建設費の3分の1を補助する制度があったが、買い取り制度導入と引き換えの形で先行して打ち切られており、シナリオのように買い取り制度と補助金の「併用」になるかどうかは不透明だ。実際、補助打ち切りの影響で、昨年度の風力発電の新規導入量は26万キロワットと09年度比13%減少した。
 風力発電は可能性は豊かだが、導入に向けた壁は結構高い。風車の回転で発生する低周波音が人の健康に悪影響を及ぼす問題もその一例だ。風車に鳥が衝突する「バードストライク」も生態系保全の観点から問題視されている。環境省は出力1万キロワット以上の風力発電所を建設する際に環境アセスメント(事前評価)を義務付ける方針だ。再生可能エネルギー導入促進と環境保全の板挟みになっている状況だ。洋上の場合も立地を巡って漁業者との調整が必要になる可能性がある。
 全量買い取り制度が実現すれば追い風になるが、それで順風満帆というわけにはいかない。風力の可能性を引き出すには規制の見直しや利害調整など環境整備が欠かせない。

富士フイルム、工場間で電力融通体制、東電管内、富士宮の自家発活用。

富士フイルムは、東京電力管内にある拠点間で自家発電の電力を融通できる体制を整えた。今夏義務付けられた使用最大電力の15%削減が難しくなった場合に融通を実施し、東電からの購入電力を減らすことで削減率を確保する。空調や照明などの節電を優先するが、緊急時のリスク対策として、東電の送電線を通じて電力を送る託送契約を同社と結んだ。
 政府の電力使用制限は契約電力500キロワット以上の事業所に15%削減を義務付けており、同社では東電管内で15拠点が対象になっている。同社は15拠点をまとめて合計の使用最大電力を削減する手法をとっている。削減の基準値となる昨夏の使用最大電力は計約5万7000キロワット。
 電力融通に活用するのは、医療用のレントゲンフィルムなどを製造する富士宮工場(静岡県富士宮市)の自家発電設備。天然ガスを燃料とするコージェネレーション(熱電併給)システムがある。発電能力は明らかにしていないが、数万キロワット規模とみられる。
 東電管内ではほかに神奈川工場足柄サイト(神奈川県南足柄市)など2カ所にも自家発電設備があるが、富士宮工場の設備が最も発電余力があるという。
 同社は効果的な節電に向け、東電管内の15拠点のうち、電力使用量の95%を占めている11拠点に、使用量を計測・把握するシステムを導入。拠点ごとの使用電力量を本社や各拠点で逐次把握できる。15拠点合計の使用電力の動きを推定し、猛暑などで通常の節電策を使っても15%削減が難しいと判断した時に電力の融通を実施する。
 富士宮工場は工場で必要な電力の多くを既に自家発電設備で賄っているもよう。このため託送をせずに同工場で自家発電の電力の使用量を増やして東電からの購入電力を減らすという調整は難しいとみられる。
 同社は神奈川県にある研究所に設置している大容量蓄電設備のナトリウム硫黄(NAS)電池も活用し、夜間にためた電力を昼間に使う取り組みも進めている。節電目標を達成しながら生産への影響を避ける方針で、「想定外の事象が起こった場合のリスク対策として」拠点間で電力を融通できる仕組みを構築した。

三菱鉄構エンジ、円盤などで揺れを回転運動に、サーバールーム免震工事3割安。

 三菱重工業子会社で橋梁製造の三菱重工鉄構エンジニアリング(広島市、東完夫社長)は、地震時に部屋全体の揺れを軽減する低コストの免震装置を開発した。床の下部に防振ゴムや揺れを回転運動に変えるボールベアリングなど複数の仕組みを組み合わせたシステムを設置。床自体を補強する従来の一般的な免震工事に比べコストを3割程度抑えられる。東日本大震災後の企業・施設の耐震対策に対応し、サーバールームや美術館向けなどに販売を始めた。
 新免震装置は、揺れを吸収する防振ゴム、揺れでずれた建物と床の位置を戻すバネ、横揺れを軽減する装置、それに特殊機構で構成する。対象となる部屋の床に一定間隔をあけて設置し、部屋の中にある電子機器や物品に伝わる振動を抑える。
 最も重要な役割を担う特殊機構は、揺れを伝える棒状のネジの周りに、上下運動を回転に変えるボールベアリングを取り付けた。変換した回転運動が下部の円盤を回すことで免震。揺れが収まった後は、周りに取り付けたバネが、揺れによって下に沈み込んだ床と装置全体を上に戻す。
 これまでの一般的な部屋の免震は、床自体の鋼材やコンクリートなどの重量を増すことで、揺れの周期を長くして振動を抑えてきた。ただ材料調達から施工までの工費がかさむ課題があった。三菱鉄構エンジの新型免震装置の工費は個別に見積もるため明らかにしていないが、従来手法と比べると一般に3割ほど削減できるという。
 企業のサーバールームなど振動が性能に影響する機器を備えるオフィスや、美術館や骨董品を扱う施設向けに売り込む。コンサートホールの防振などの用途も見込む。主に新しい施設に使うが、既存の施設にも設置できる。5年後をメドに、同装置を含めた免震事業の売上高を現在の2・5倍の年25億円に引き上げる計画だ。
 三菱鉄構エンジは三菱重工グループの橋梁部門などを担う子会社として2006年設立。広島市と千葉県富津市に工場を持ち、10年度の売上高は約260億円。橋梁の技術を生かして免震事業を本格展開する。

2011年7月14日木曜日

鉄系超電導材、臨界温度更新の可能性、東北大など模擬実験、結晶構造を改良。

 東北大学の中山耕輔助教と高橋隆教授らは、電気抵抗ゼロの超電導現象が生じる臨界温度が、これまでの記録を更新する可能性があることを突き止めた。結晶構造を改良して超電導を阻害する電子状態を取り除けば、臨界温度は絶対温度150度(セ氏零下123度)まで高まる可能性があるという。
 米ボストン大学、中国科学院物理研究所との共同成果。内容は英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載した。
 鉄系と呼ぶ超電導材の電子状態を角度分解光電子分光と呼ぶ技術で詳しく解析した。その結果、この超電導材料の臨界温度は同26度だが、同150度あたりまで超電導を担う電子が不足し、超電導になりにくくしている状態を見つけた。
 コンピューターシミュレーション(模擬実験)によって、材料の結晶構造を改良して電子不足の状態を除けることがわかった。今後、共同研究者の中国科学院でシミュレーションした材料の合成に着手する。
 超電導材の臨界温度は銅酸化物系の同135度が最高記録。銅酸化物系では同300度(セ氏27度)の室温まで電子不足らしい状態が確認されているが、室温超電導材はまだできていない。

ノーベル賞シンポ、「触媒研究、強化を」、根岸氏ら一致。

ノーベル賞シンポジウム「化学の未来」(帝人グループ特別協賛)を都内で開催した。2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸英一・米パデュー大学特別教授も参加したパネル討論会では、日本のお家芸とされ、幅広い産業を支える基盤技術ともいえる触媒の研究を強化すべきだとする見解で一致した。
 討論会には科学技術振興機構の北沢宏一理事長と、東京大学名誉教授でもある柴崎正勝・微生物化学研究会常務理事も参加した。
 様々な化学反応を促進させる触媒を効果的に使うと、副産物がほとんどできずに目的の化合物を効率的に量産することができる。根岸氏は「総合的な意味でのグリーンケミストリー(環境に負荷をかけない化学)が可能になる」と語った。
 北沢氏は「今後の再生可能エネルギーの普及とともに、電気を蓄える方法が今まで以上に求められるようになる」と述べ、触媒をうまく使いこなせば「電気を化学物質の形に変えて蓄積する『電気化学工業』が実現するだろう」と将来像を語った。
 柴崎氏は薬草由来のインフルエンザ治療薬「タミフル」を化学合成だけで安価に量産できる独自開発の作製法を紹介。タミフルに耐性を持つウイルスが増えていることを受け、耐性ウイルスに効く今後の「新タミフル」の開発でも「触媒がカギを握る」と強調した。製薬産業において「日本の触媒技術を使って他国ではできない薬の候補物質をそろえておけば、業界の発展になる」とした。
 一方で、「日本は触媒を使う成熟産業は強いが、新産業創出では米国にかなり差をつけられている」と指摘。北沢氏は技術力をテコに産業競争力を高めていくには「基礎から応用まで研究の全体像を見渡すことのできるリーダーを育成しなければならない」と課題として挙げた。
 根岸氏は米国で若手研究者だった時、所属研究室の教授とは異なる独自テーマを探さざるを得ない状況に追い込まれたことがノーベル賞につながる転機となった経験から、「日本も若手の独自研究を後押しするシステムの強化がもっと必要」と提案した。

2011年7月13日水曜日

ヒト染色体の中心、構造を詳細に解明、早大教授ら。

 早稲田大学理工学術院の胡桃坂仁志教授と立和名博昭助教らは、人の染色体の中心部分の構造を世界で初めて詳細に解明した。中心部分は、細胞が分裂するときに染色体が分離する要となる。ダウン症などの病気に深く関わるため、発症メカニズムの解明などに役立つ。成果は英科学誌ネイチャー(電子版)にこのほど掲載された。
 研究チームは、染色体の中心部にある4種類のたんぱく質に注目。遺伝子組み換え技術で大腸菌に人工的に作らせ、DNAと一緒に試験管の中で反応させ結晶を作ることに成功した。結晶を専用施設で解析したところ、DNAが4種類のたんぱく質を包みながら両腕を広げた基本構造をとっていることがわかった。
 両腕があることで、染色体の分離に必要なたんぱく質がくっつき、正常に分離できると考えられるという。これまで染色体の末端の構造はわかっていたが、中心部はわかっていなかった。

光当てウイルス撃退、住友化学が樹脂フィルム。

 住友化学はインフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)などのウイルスを不活性化する樹脂フィルムを開発した。特殊な光触媒を塗布しており、蛍光灯やLED(発光ダイオード)照明の光を受けると威力を発揮する。床やテーブルに張り付けるだけで済むため、一般家庭から病院、商業施設など幅広い分野に「衛生的な内装材」として採用を働き掛ける。
 ポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルムを、接着剤を混ぜた酸化タングステンでコーティングした。酸化タングステンが光触媒の役割を果たし、可視光線を受けると有機物質を強力に分解する。屋外の紫外線を受けてウイルスを不活性化する光触媒はあったが、室内照明で効果を発揮するのは珍しいという。
 アルコール消毒液や熱湯に耐える最も丈夫なウイルスとされる「ガチョウパルボ」を使った実験では、フィルム上にウイルスを置き家庭用LED照明を6時間照射すると99・9%が不活性化した。

東芝、メモリー最先端工場稼動――微細化の壁、越えられるか

 東芝は12日、NAND型フラッシュメモリーを生産する四日市工場(三重県四日市市)で第5棟目となる新たな製造棟を稼働させた。東芝が得意とする微細化技術の粋を集めた世界最先端の工場。ただ、現行メモリーの技術革新は2013年ごろに物理的限界に達する。フラッシュに置き換わる次世代メモリーで、確実な成長軌道を描けるのか。
 「最新技術を導入してし烈な競争に打ち勝つ。(四日市工場を)世界最強のメモリー製造拠点にする」。東芝の佐々木則夫社長は12日、完成記念式典のあいさつで自らを鼓舞するように宣言した。
 新製造棟では、まず線幅24ナノ(ナノは10億分の1)メートルで量産をスタート。7月中には19ナノメートルの量産にも挑む。10ナノメートル台のフラッシュメモリー量産はまだ世界で東芝にしかできない。メモリー世界首位、韓国サムスン電子も技術開発の途上にある。
 半導体回路の線幅を細く加工する微細化技術で先行すれば、半導体1個当たりの面積を小さくできる。同じ素材から生産できる半導体個数が3~4割増え、製造コストが劇的に下がる。
 あらゆる領域でサムスンの後じんを拝している日本のエレクトロニクス産業のなかで、メモリーは技術革新で大きくリードしている唯一の分野と言っても過言ではない。もっと注目を浴びてもいいはずだが、記者会見の“主役”は最先端技術が集まった新製造棟ではなかった。
関心は更地に
 出席者の関心は新製造棟に隣接する手つかずの更地に向いていた。実は、第5製造棟は2期に分けて工場を2つ建設する計画で、今回稼働したのは1期目だ。2期目では、現行のNAND型フラッシュか、置き換わる次世代メモリーの「ポストNAND」の生産が検討されている。そのため「2期目がいつ稼働するか」が注目を集めているのだ。
 東芝の公式見解は、「13年度の建設開始を想定しているが、市況を見極めながら検討するので何も決まっていない」。
 なんとも煮え切らないが、次世代品の量産時期は戦略上最も重要な情報。ポストNAND量産時期を問われ、佐々木社長も「言いたいことはあるが、それは言ってはいけないと言われている」とけむに巻いた。
 NAND型フラッシュ、DRAMが代表するメモリーは1年に1世代ずつ、技術革新が進む。処理高速化、大容量化の原動力になる。だが、これまでのペースだと、あと2~3年で物理的限界にぶつかる。NAND型フラッシュは、線幅が15ナノメートルより細くなると記憶部分がもろくなる。誤作動を起こしやすくなり、データ保存が困難になる。DRAMは20ナノメートルが限界点とされ、いずれも到達時期は13年ごろとみられる。
 さらにこの時期に、インターネット環境の進化やクラウドコンピューティングの浸透によるデータセンターの増設で扱う情報の量が急激に膨れ上がる“ビッグデータ”時代を迎える。技術革新による大容量化が止まってしまうと、ビッグデータ時代を支えるメモリーとしては不適格の烙印(らくいん)を押されてしまう。
サムスンと競争
 「複数ある候補から量産準備をするメモリーが決まった」。6月、サムスンが次世代メモリーを急ピッチで開発しているとの噂が流れた。DRAMやNANDなど電荷蓄積してデータを記憶する現行メモリーとは異なり、「物質の状態が変わるのを利用するメモリー」(関係者)という。収益性の低下を嫌って現行メモリーの増産投資は控えているが、次世代への研究開発はむしろ増やし、「東芝との技術格差をまた逆転する」(サムスン幹部)との意気込みだ。
 東芝も微細化技術のリードを次世代領域でも保つ構えだ。佐々木社長は「微細化はいずれリミットが来る。2期目は最初からポストNANDで始めたいという気持ちでいる」とする。これまでの平面構造のフラッシュから、縦に回路を積み上げた3次元構造に切り替え、超大容量化品を検討しているようだ。実現すれば、1チップ当たり数倍の大容量化が期待できる。
 東芝は、20年までのNAND型フラッシュの市場規模予測を出した。10年からの10年間、年平均成長率が70%とする驚異的な数字だ。成毛康雄執行役常務は「20年にはすべて次世代メモリーに置き換わっているだろう」と予測する。
 これまでのペースとは異なる性能向上、大容量化を求められる次世代メモリー。開発競争に勝ち抜き、クラウド化で爆発する次世代のメモリー市場で“世界最強”の座を奪取できるか。東芝のメモリー事業は大きな節目を迎えている。

日本フネンが間仕切り材、外の光通すコンクリ、光ファイバー活用。

玄関ドア製造大手の日本フネン(徳島県吉野川市、久米徳男社長)は、外部の光が光ファイバーを通し透過するコンクリート製の建材を開発した。絵柄付きのフィルムを張ると反対側の表面に浮かび上がって見えるので、美術館やデザイン性の高いビルの壁や間仕切りに使える。防犯にも役立つとみている。価格は1平方メートルあたり20万円。年間1億円の売り上げを見込んでいる。
 開発した「光透過パネル」=写真=は、表面から裏面に向けて、直径0・25ミリの光ファイバーを横方向に約1ミリ、縦方向に約4ミリの間隔で並べ、コンクリートで固めた。パネルの大きさや厚さは用途に応じて変えられる。
 個々の光ファイバーが光る素子の役割を果たす。例えば、パネルの裏側に絵柄の付いたカラーフィルムを張って光を当てると、絵柄が光ファイバーを通してパネル表面に浮かび上がって見える。コンクリート製のため、鉄筋などで補強すれば壁や床など一般建材としても使えるという。
 邸宅の門扉や塀に防犯用に使うケースも想定する。夜間、外部からは通常の塀にしか見えないが、内部からは外灯に照らされた人の動きが分かる。空港のVIPルームや金融機関の間仕切りなどの用途が考えられる。

日興、塩害向けコンクリ防食剤、塗布で寿命3倍50年、まず五洋建設に納品。

 建築資材の日興(東京・杉並、塩田哲康社長)は、塗布すれば岸壁コンクリートの寿命が3倍の約50年に延びる「防食剤」を開発した。配合成分の分子をきめ細かくすることで塩水が鉄筋に染み込むことを防ぐ。すでに港湾工事を得意する五洋建設への納品が決まった。東日本大震災で被害を受けた海岸部の復興需要も見込んでいて、3年後をメドに年間5億円の販売を目指す。
 防食剤は液体ガラスでつくった。主成分であるケイ酸やシランの配合を工夫して、分子構造を従来品の10分の1にした。分子の“網の目”が細かくなることで、これまで岸壁コンクリートに染み込んでいた塩水を防ぐ仕組み。
 工事費を含めた価格は、塗布面積1平方メートルあたり4900円。五洋建設には年間10万平方メートル分を納める予定。月内には、国土交通省が構築したNETIS(新技術情報提供システム)に登録されるため、販売代理店も積極的に募る。
 日興は1991年の設立。従業員は24人で、2010年8月期の売上高は3億円。電子部品のコーティング剤から建材の塗装材まで約60種類の商品を手がけている。
 コンクリート関連では2004年、凍結防止剤を開発済み。北海道や東北地方などに納めていたが、顧客からは塩害対策を求める声が多かったという。

炭素繊維から板バネ、兵庫工技センターなど、織物の設備を活用。

 兵庫県立工業技術センターは県内の繊維関連企業や同志社大学と、炭素繊維から産業機械用の板バネを作る技術を開発した。兵庫県はワイシャツなどの素材となる布「播州織」の産地。今回、布を織る設備を使って鉄のように硬い素材を作ることに成功した。人件費などコストの低い海外製品との競合が厳しくなっている地場産業の技術革新策として注目される。
 同センターの出先機関である繊維工業技術支援センター(西脇市)と、織布会社の藤邦織物(同)と、縫製を手掛ける宮田布帛(同)が中心となって開発した。宮田布帛がミシンで炭素繊維とポリエチレンの糸をより合わせて1本にまとめ、藤邦織物が布状に織った。
 布に熱と圧力をかけるとポリエチレンが溶けて板状になる。これを8枚重ねると2ミリ弱の厚さでも鉄並みの硬さとなり、鉄の5分の1の軽さの素材が作れるという。
 炭素繊維を板状にした素材はすでに存在するが、摩擦に弱い炭素繊維に対応した設備が新たに必要だった。今回の方法だと、ほとんど既存設備で対応できるという。今後は運搬機器のバネ材としての実用化を目指すほか、将来は自動車部品にも活用したい考えだ。

ガラス並みの強度と光透過、スマホ向けフィルム、昭電、試験プラント完成。

 昭和電工は12日、大分コンビナート(大分市)で建設していた特殊樹脂フィルム「ショウレイアル」の試験プラントが完成したと発表した。ガラス並みの強度と光の透過率を実現できるため、スマートフォン(高機能携帯電話)のタッチパネルの表面保護カバーとしての需要を狙う。
 新プラントは年数十万平方メートルの生産能力をもつ。投資額は7億円強。スマートフォン関連会社への売り込みを強化し、一定の顧客を獲得した段階で本格的な量産設備を建設する。2020年までに年間売上高200億円の事業に育成する計画。
 ショウレイアルはメガネレンズ向けで培った分子設計技術を発展させて開発したフィルム。鉛筆の芯などの硬さを示す数値では5Hと一般的な樹脂フィルムの2倍、厚さは100マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルと、ガラスの半分以下になる。
 4月中旬に都内で開催した商品展示会では、国内外のスマートフォン関連企業200社から問い合わせを受けたという。
 現在、スマートフォンのタッチパネルの表面保護カバーはガラス製が主流で、米コーニングの「ゴリラガラス」と旭硝子の「ドラゴントレイル」の2つのブランドが市場をほぼ二分している。昭和電工と同じく化学メーカーが薄さ、軽さ、加工性などで特徴を出した樹脂フィルムで市場参入を狙っており、今後は激しい競争が予想される。

三菱重、低燃費LNG船を開発、25%効率向上、韓国勢追撃へ。

 三菱重工業は12日、燃費性能を約25%高めた液化天然ガス(LNG)輸送船の開発が完了したと発表した。船体上部に球形のタンクを覆うカバーをとりつけることで、進行方向からの風の抵抗を受けにくくなるほか、船体の強度も高めるために軽量化にもつながった。エンジン機構には燃費を改善した蒸気タービンを採用した。年度内にも初受注を目指す方針で、この分野で先行する韓国勢を追撃する。
 新型LNG運搬船は、球形のタンクを覆う船体一体型のカバーが特徴。進行方向からの風を受け流すことができ、風速8~10メートルの場合で燃費性能が3~4%向上する。カバーの鋼材で船体の強度を維持できるため、船体に使う鋼材重量は従来型に比べて約5%減ったという。鋼材使用量を減らすことで製造コストも下がる。
 LNGの積載量は15万5000立方メートル。船型は従来とほぼ同じだが、タンク形状を工夫したことで積載量を8000立方メートル増やしている。国内外の船主に売り込み、年度内に初受注、来年度以降は年4~5隻の受注を目指す。
 LNGは原油と比べて割安で環境負荷が小さい。東日本大震災後はさらに有望なエネルギー源として注目されており、輸送船の需要も増えている。ただ円高の影響で輸送船の受注競争では韓国大手が先行し、三菱重工など日本勢は燃費性能を武器に巻き返しを図っている。三井造船も新型エンジンを搭載して燃費性能を高めたLNG輸送船を開発している。

浜松の中小21社とスズキ、チタン製プロペラ開発、船外機用、4割軽く。

浜松市の産業支援機関であるはままつ産業創造センターは、同センターの「浜松地域チタン事業化研究会」がチタン製船外機用プロペラ=写真=の製作に成功した。チタンはステンレスに比べて軽く、耐食性にも優れている。加工が難しいため実用化されていなかった。研究会に参加する地元の中小企業21社が中心となり、船外機メーカーのスズキの協力も受けて、短期間で開発した。2年後をめどに製品化したい考えだ。
 浜松地域チタン事業化研究会は、高い溶接技術を持つ増田酸素工業所(増田久雄社長)などが参加している。現在の高機能プロペラはステンレス製が主流。チタン製にすれば強度を維持した上で4割軽くなる。
 増田酸素などはチタン製について部位別にプレス加工し、その後に溶接して組み付ける製造技術を確立した。この技術を使えば、生産に必要な時間が従来の精密鋳造より短縮できる。製造コストは現在、チタン製がステンレス製の3倍程度高い。スズキなどとの協力で強度などを高める一方、価格も低減していく。

C型肝炎から肝がん移行、遺伝子変異、発症率2倍、理研など発見。

 理化学研究所などの共同チームは、C型肝炎が悪化して肝がんになるリスクを高める遺伝子の変異を発見した。日本人のC型肝炎患者を解析し、変異を持つ人は持たない人に比べ肝がんの発症率が約2倍になることが分かった。肝がん発症の仕組みの解明や、新しい診断法の開発につながる可能性がある。
 理研と広島大学、大日本住友製薬などの共同研究成果。詳細は米科学誌ネイチャー・ジェネティクス(電子版)に掲載された。
 肝がんによる死者数は日本で年間約3万人で、うち7割はC型肝炎が原因で発症するといわれる。ただ、C型肝炎が肝がんを引き起こす仕組みは詳しく分かっていない。
 共同チームは、日本人のC型肝炎患者と肝がん患者3312人の遺伝子を解析し、「DEPDC5」という遺伝子に注目。この遺伝子の塩基配列に変異がある人は、変異を持たない人に比べ肝がんの発症率が1・96倍高かった。遺伝子の解析で肝がんの発症のしやすさを予測できるようになる。
 肝がんの組織の中ではDEPDC5遺伝子が活性化していることも確認した。ただ、遺伝子の機能は詳しく分かっていない。今後の解析で機能が分かれば、肝がん発症の仕組みの解明につながる可能性がある。

東京理科大、歯細胞育成、歯以外で―再生新手法、移植後すぐ機能

 東京理科大の辻孝教授と大島正充助教らは、歯の再生医療の新手法を開発した。歯以外の場所で歯と歯周組織を細胞から育て、歯を失った箇所に移植し定着させる。マウス実験で再生歯が移植後すぐでも機能することを確認した。米科学誌「プロスワン」(電子版)に13日掲載された。
 大塚ホールディングスグループで再生医療向け医薬品を手掛けるオーガンテクノロジーズ(東京・千代田)、東北大、東京医科歯科大などとの共同研究。
 歯の再生には、マウス胎児から採取した幹細胞「歯胚」を使った。ここからエナメル質を作る上皮細胞と、象牙質やセメント質などを作る間葉細胞を取り出した。これを集めて再生歯胚を作製。マウス体内の腎臓の中で育てた。円柱状のプラスチック製器具を使い歯を最適な長さに調節しながら成長させた。
 60日後には長さ約2ミリメートルの歯と歯周組織が成長した。大人のマウスから臼歯を抜き、再生歯などを移植した。移植後にすぐかむことができ、40日後にはあごの骨と融合して一体化し、血管や神経も歯に入り込んでいた。
 痛みの刺激が神経を通じて脳に伝わるのも確認した。歯を支える骨がなくなった場合でも、再生した歯や歯周組織が定着させることができた。
 研究チームは、既に同様の手法で歯を抜いた場所に再生歯胚を植え、歯まで育てることに成功している。新手法を開発したことで、体外で器官を育てる技術の足がかりになるとみている。

2011年7月12日火曜日

ゲーム機で原子を立体視、奈良先端大が技術開発

 奈良先端科学技術大学院大(奈良県生駒市)は12日までに、ゲーム機「ニンテンドー3DS」を使って原子構造の立体画像を見ることができる技術を開発したと発表した。これまで一部の研究者に限られていた立体視を、より多くの人が手軽に体験できるようになる。
 画像は、ホームページから3DSのSDカードに、無料でダウンロードできる。同大学院大の大門寛教授(表面物性)は「理科好きが増えてくれたらうれしい」と話している。ファイルは大門教授の研究室のホームページからダウンロードできる。URLはhttp://mswebs.naist.jp/LABs/daimon/index-j.htm

iPS細胞、欧州で特許、京大の作製技術、企業に広く使用権

 京都大学は11日、新型万能細胞(iPS細胞)の作製技術に関する特許が欧州で初めて成立したと発表した。皮膚細胞などに3種類の遺伝子を入れてiPS細胞を作製する基本的な技術が対象。京大は企業に広く特許使用権を供与する方針だ。iPS細胞の研究が活発な欧州で有力技術を1社に独占されずにすみ、再生医療や創薬など関連産業の成長を後押しする。
 特許は2005年の国内出願をもとに08年に欧州特許庁に出願、今月7日に正式に成立の通知を受けた。今後、英国やドイツ、フランスなど17カ国で国ごとの特許登録手続きを進める。
 今後、企業などとのライセンス契約は京大関連の特許管理会社、iPSアカデミアジャパン(京都市)を通して結ぶ。京大は海外勢が有力な特許を持つ場合に、クロスライセンス交渉などに使える有力な武器を手に入れたことになる。
 開発者の山中伸弥・京大教授は記者会見し、「成立した特許の対象は基盤的な技術。今後も(1社に独占されず)多くの企業が(iPS細胞の研究に)参入できるよう知財の確保を進めたい」と述べた。
 今回成立したのは「Oct類、Klf類、Myc類の遺伝子などの初期化因子」に関する特許。これら3種の遺伝子や、遺伝子が作るたんぱく質などを使ってiPS細胞を作るかなり広い範囲の技術が対象だ。
 京大の松本紘総長は「大学が特許を取得すれば研究者が安心して研究に取り組める」と指摘する。昨年1月には米ベンチャー企業のiPS細胞作製技術の特許が英国で成立。米国でも同社の特許出願が京大の特許成立を阻むとの懸念が出ていた。その後、事業戦略を転換した同社から京大が特許権を譲り受けた経緯がある。
 iPS細胞の特許動向を調べる札幌医科大学の石埜正穂・准教授は「今回、広い範囲(の技術)で特許を取得できたことは評価できる」と指摘する。ただ「iPS細胞を応用する治療が実現する際に、どの技術が使われるかは不明。取得した特許の経済価値はまだ分からない」という。
 京大はiPS細胞の作製技術などに関する特許を約70件出願済み。国内では3件が成立した。海外では南アフリカ、シンガポールで成立したほかロシアなど旧ソ連9カ国で効力を持つユーラシア特許も取得済みだ。
 しかしiPS細胞を応用した創薬や再生医療で将来、大きな市場が見込める米国や欧州では成立していなかった。山中教授と研究競争を繰り広げてきた米国の大学や企業に加え、中国の研究機関なども将来の関連産業の成長を見込み米欧などでの特許取得を狙っている。

人工乳首の圧力など工夫、母乳拒否しにくい哺乳瓶、メデラ、日本市場に投入

 スイスの医療機器メーカー、メデラの日本法人(東京・江東)は乳児が母親の乳首から母乳を吸わなくなる「母乳拒否」を起こりにくくする工夫を凝らした人工乳首と哺乳瓶を日本市場に投入した。母乳には子どもの免疫力を強める物質が多く含まれるため、母乳育児への関心が高まりつつある。同社は新製品をテコに日本市場開拓を強化する。
 哺乳瓶の人工乳首は従来の一般的な製品は長さが1センチメートル程度だが、同社の新製品は1・5センチメートル程度に伸ばし、乳児が力を入れて吸わないとミルクが出てこない構造にした。
 人工乳首の中心部には針程度の大きさの穴しか開いておらず、逆さにしても中身は出てこない。
 同社は授乳時の乳児の口の中の圧力や口の開き方など、口の中の動きの研究を重ね、実際に母乳を吸っている感触を得られるような人工乳首にしたという。このため母乳拒否が起こりにくいとみる。
 人工乳首とマルチ蓋の価格は1900円(税別)、150ミリリットルの母乳ボトル付き(マルチ蓋2個入り)は2200円(税別)。日本では大手百貨店や子供用品店などへの販路を開拓する方針。働く女性の母乳育児の障害を取り除ける新たな哺乳瓶として拡販を目指す。
 メデラは1961年の設立。主力製品は「搾乳機」で、病院向けに痰(たん)などの気道吸引器なども手掛ける。日本では搾乳機を中心に、新生児向けの高ビリルビン血症治療用の光線治療システムを販売している。非上場のため売上高などは非公表。従業員は世界で1000人以上いる。
 ▼母乳拒否 乳児が吸う努力をしなくてもミルクが出てくる哺乳瓶を使って、乳児がそれに慣れてしまうと、母親の乳首を吸わなくなる「母乳拒否」という現象。口を大きく開けて乳首を吸わなくても栄養が取れるため、乳児に“怠け癖”がついてしまうことが原因といわれている。

蛍光体ガラス―日電硝、LEDの光変換、耐熱性で樹脂代替狙う

 日本電気硝子が低消費電力などで注目を集める発光ダイオード(LED)の多色化を実現する新素材を開発した。ガラスに蛍光体を混ぜた新しい組み合わせ。普通は樹脂に蛍光体を混ぜて多色化に利用する。耐熱性や耐久性が高いガラスの特性をアピールし、樹脂の置き換えを狙う。
 開発したのは「蛍光体ガラス」。このガラスでLEDを覆うと、通過する光の波長をガラスが変換し、違う色を出せる。青色LEDを光源にして多彩な色を出す「蛍光体方式」と呼ばれる方法だ。
 現在の蛍光体方式のLEDは、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂に蛍光体を混ぜて多色にしている。ただ、LEDの高輝度化が進むにつれ、セ氏150~200度にもなる発熱や強い光にさらされて樹脂が変色してしまう問題が浮上してきた。無機物のガラスは変色せず、輝度や発色性などの性能を長く維持できる。
 ガラスに蛍光体を混ぜ込み、自由自在に成型する――。「プロジェクトを聞いたとき、実現は無理だと思った」と山本茂取締役常務執行役員は打ち明ける。ガラスの成型に必要な高温に「今度は蛍光体が耐えられなくなる」と考えたからだ。これを解決したのは日電硝が研究を続けてきた「低温ガラス」の技術だった。
 例えば、液晶用のガラス基板はセ氏1200~1300度の高温で原料を溶かし、薄板状に成形する。一般的なソーダ石灰ガラスの場合、純粋なものは1700~1800度の高温が必要だ。日電硝は500度以下で柔らかくなる低温ガラスを開発。この技術を蛍光体ガラスに応用し、蛍光体の性能を損なわないで成型加工できるようにした。
 狙った発色や輝度を表現するにはガラスと蛍光体との相性を考えたり、ガラスの中に蛍光体を均一に混ぜ込んだりしなければならない。ここで「粉末ガラス」のノウハウが活躍した。
 同社が粉末状にできるガラスの種類は100種以上。それを多種多様な素材と組み合わせ、500種以上の特殊なガラスを造りだす。粉末ガラスの粒径は1ミクロン単位で制御できる。
 数十種類の蛍光体と粉末ガラスとを調合し、蛍光体ごとに最適な組み合わせを見つけていった。ガラスと蛍光体の密度はどんな組み合わせでもほぼ同じ。そのため、均一に混ざりやすく、ムラのない安定した光を得られるという。
 2010年に青色LEDの光の一部を変換し、白っぽい「疑似白色」に光らせる蛍光体ガラスを初出荷した。低温ガラスと粉末ガラスという別々のルートで続けてきた2つの基礎技術が合わさって初めてできた新製品といえる。「特殊ガラスに特化した日電硝だからこそできた」と山本氏。産業界でガラスは樹脂で代替されることが多かったが、「今度はガラスが逆襲する番」と山本氏は意気込む。
 現在は月数万個にとどまる生産量を、2年後には月数十万個まで増やしたいという。2種類の蛍光体を混ぜ込んだ蛍光体ガラスの開発にも着手した。さまざまな波長の光を組み合わせることで、より自然光に近い白色を出す研究も進んでいる。表現できる色の幅を広げてシェア拡大を目指す。
▼ガラス 原子が不規則に並んだ構造で、一定の温度に加熱すると柔らかくなる「ガラス転移」が起きる。透明で電気を通さず、さびないのが特長。シートや繊維などに成型でき、巻き取りができる超薄膜ガラスもある。組成によって様々な機能を発現し、鉛の入った放射線遮蔽ガラスは東京電力福島第1原子力発電所の事故収束作業で活躍している。

米エモリー大学ワクチンセンター、ワクチン効果示す遺伝子

 米エモリー大学ワクチンセンターの研究グループは、ワクチンの接種効果を示す指標になる遺伝子を発見した。個人差がある接種効果を予測するのに活用できる可能性があるという。
 研究グループは効果が確認されている2種類のインフルエンザワクチンを用いた。それぞれを接種した成人の遺伝子の発現の変化を網羅的に調べた。「CAMK4」という遺伝子の発現が強まっている人は、ワクチンによる免疫反応が乏しく、効きにくい傾向があったという。ワクチンの効果は免疫の反応の程度によって個人差があると考えられており、効果の有無を確認する手法が求められている。

ライス大ナノフォトニクス研、電子顕微鏡、微小製造装置に

 米ライス大学ナノフォトニクス研究所のN・ハラス所長らは、既存の電子顕微鏡を改良してナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズの微細構造物の作製や評価ができる装置を開発した。揮発性材料や環境の変化で性能が劣化しやすい微小素子を装置から出さないで済む。全米科学財団(NSF)から約100万ドル(約8080万円)の研究助成金を受けた。
 電子顕微鏡の中で特に普及している走査型電子顕微鏡(SEM)を改良した。SEMは観察専用の装置だが、真空容器内を改良して電子線で材料の堆積やエッチング、複雑な配線加工をできるようにした。さらに超小型のマニピュレーターを取り付け、らせん構造のDNA(デオキシリボ核酸)より小さい物をつかんで移動させることが可能。電子線が物質に当たって発生する光を使う光学測定もできるという。

変わる日本の科学技術意識調査から(5)産業競争力に強い危機感

アジア勢が追い上げ
 文部科学省の意識調査では、中国や韓国などアジア勢に対する日本の産業競争力について、研究者が強い危機感を持っていることが明らかになった。バイオテクノロジーやものづくりの技術など日本が強みを持つ分野であっても、数年以内に優位を失うとする見方が多く、競争力強化につながる研究戦略が必須と言えそうだ。
 中韓、シンガポール、台湾に対する日本の産業競争力は2015年にどうなるか、という質問に対し、情報通信や医療・バイオ、ものづくりで日本が追い抜かれると懸念する結果が出た。
 ナノテクノロジー・材料やエネルギーなどの分野でも追い上げられ、同等になるとの見方が多かった。
 研究者が日本の競争力が落ちるとみる背景には、国際会議で積極的な発言が目立つなど、中国や韓国の若手が示す研究への貪欲な姿勢がある。神戸大学の中村昭子准教授は「惑星探査や有人宇宙飛行など宇宙開発の分野でも中国の勢いが目立つ」と指摘する。

マイナス244度で超電導状態確認、阪大などカルシウムで

 大阪大学と高輝度光科学研究センターはカルシウムを200万気圧以上の高圧状態にするとセ氏マイナス244度で超電導状態になることを発見した。超電導には極低温が必要だが、今回の記録は単体元素として最も高温という。高圧状態であるためこのまま実用化するのは難しいが、超電導の理解に役立つという。
 研究グループは、ストロンチウムやバリウムなどアルカリ土類金属に分類される元素が、高圧状態で特殊な結晶構造となり、超電導になることに注目。同じアルカリ土類金属で軽いカルシウムも圧力をかけると同じ結晶構造になるとみて研究を進めた。
 大型放射光施設「SPring―8」で200万気圧以上にすると、ストロンチウムなどの元素と同様に結晶構造が変わり、電気抵抗がゼロの超電導状態になっていることを確認した。

自己抗体の生産抑えるたんぱく質、筑波大など、Bリンパ球上で発見

筑波大学の渋谷彰教授らの研究グループは、関節リウマチなど自己免疫病の原因となる自己抗体ができるのを抑えるたんぱく質をマウスの実験で発見した。抗体をつくるBリンパ球の細胞膜上にあり、これに異常があると自己抗体が多くできる。発症の仕組み解明や治療薬開発に役立つと期待している。
 米カリフォルニア大学サンフランシスコ校、東北大学、大阪大学との共同研究成果で、米科学誌ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(電子版)に掲載された。
 発見したのは「DAP12」と「MAIR―II」という2つのたんぱく質の複合体で、細胞外からの刺激を受け、細胞内に信号物質を伝える役目をしている。これまで別の細胞で見つかっていたが、今回Bリンパ球にあることを初めて明らかにした。
 さらに、これらのたんぱく質のどちらかに異常があるマウスは、自己抗体のできる量が5倍多くなることなどを突き止めた。正常な場合は、複合体の信号物質が抗体生産を促す別の信号物質を遮断していると考えられる。

人の染色体、早大、中心構造詳細に、ダウン症など解明に道

 早稲田大学理工学術院の胡桃坂仁志教授と立和名博昭助教らは11日、人の染色体の中心部分の構造を世界で初めて詳細に解明したと発表した。中心部分は、細胞が分裂するときに染色体分離の要となる部位。ダウン症やターナー症候群などの病気に深く関わるため、発症メカニズムの解明などに役立つ。成果は11日に英科学誌ネイチャー(電子版)に掲載された。
 胡桃坂教授らが構造を解明したのは、染色体の中央にあるくびれの部分で「セントロメア」と呼ばれる領域の基本構造。DNA(デオキシリボ核酸)が4種類のたんぱく質を包み込んで、両端を広げているような構造をとっていた。この基本構造が30個ぐらい集まってセントロメアを形成していると考えられるという。
 セントロメアを構成するたんぱく質は量が少ないため、人の染色体から精製して解析することができなかった。研究チームはセントロメアを構成する4種類のたんぱく質に注目。遺伝子組み換え技術で大腸菌に人工的に作らせ、DNAと一緒に試験管の中で反応させ、できた結晶を大型放射光施設「Spring―8」で解析した。
 人の染色体はセントロメアのくびれに紡錘糸がくっつき2つに分離されて、細胞分裂が進む。これまで染色体の末端「テロメア」の構造はわかっていたが、セントロメアはわかっていなかった。

ES細胞、多能性維持の仕組み発見、埼玉医大、がん化回避に期待

 埼玉医科大学の奥田晶彦教授らは、胚性幹細胞(ES細胞)で特定のがん関連遺伝子が働かなくても、様々な細胞に分化できる能力を保てることを突き止めた。細胞培養の条件を工夫すればよいという。この遺伝子は、新型万能細胞(iPS細胞)をがん化させる危険性が指摘されている。万能細胞の医療応用時の安全性向上などに役立つ可能性がある。
 成果は米科学誌「セル・ステムセル」(電子版)に掲載された。ES細胞やiPS細胞の特徴である多能性の維持には、c―Mycというがん関連遺伝子の働きが不可欠と考えられてきた。
 研究チームはマウスES細胞を操作し、この遺伝子が働けない状態にした。通常の方法で培養すると、多能性などES細胞の特性を失って細胞死に至る。
 そこでES細胞に、分化を抑える薬剤を加え培養すると、遺伝子が働かなくても多能性を失わなかった。この遺伝子は分化を抑える役割があり、それを薬剤が代替していた。人のES細胞やiPS細胞でも同様の結果が得られるとみている。
 山中伸弥京都大学教授が開発したiPS細胞作製法では、皮膚細胞などに入れる遺伝子の1つにc―Mycを使う。しかしがん化をもたらす危険性があり、この遺伝子を使わない作製法も開発されている。
 ただ完成したiPS細胞やES細胞の内部ではc―Mycが働いており、細胞が本来持つがん化のリスクはなくせない。今回の手法を応用すれば、がん化を回避して安全性を高められると期待している。

電流流すと微小振動発生、触覚、形状記憶ワイヤで、香川大など技術開発

携帯やカーナビ応用
 香川大学工学部の沢田秀之教授と産業用電子回路開発のエスシーエー(香川県丸亀市、内田啓治社長)は、形状記憶の極細ワイヤを使って指や手のひらで文字などを読み取る技術を開発した。ワイヤに電流パルスを流し、微小振動を触覚として感じるようにした。手袋や自動車のハンドルに貼り付けたり、視覚障害者などが利用する携帯電話に組み込んだりすることで、触覚を利用した新たなデバイスとして応用できる可能性がある。
 沢田教授らが開発したのは、直径50マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル、長さ3ミリの形状記憶ワイヤをアーチ型に丸め、基板に設置した微小振動子。電流を流すと、ワイヤが1~2マイクロメートル縮み、止めると元に戻る。基板に電流の増幅装置をつけて、電流を流す時間などを調節する。1秒間に30回程度オンとオフを繰り返すと、ワイヤの伸縮で指や手のひらでざらざらした触覚として感じるという。
 この微小振動子を複数個並べて、振動子の間に0・4秒ずつ時間差を作って電流を流し始めると、アルファベットなどの文字として認識できるという。ワイヤが細く振動子も小型のため、消費電力は数十ミリワット程度で動かせる。
 グループは自動車のハンドルの表面に振動子を複数個埋め込み、カーナビの動きに連動させて振動子に電流を流すシステムを試作した。カーナビで右折の指示が出ると、ハンドルを握る手に、右に回すのを促すような触覚が生じるという。
 このほか、パソコンなどのタッチパネルの表面に埋めて触覚を感じるディスプレーや、背面に埋めれば握ったままで届いたメールを触って読み取れる携帯電話などに応用できると見ている。
 これまで触覚を感じる素子は多数のピンなどで作ることが多く、モーターなどで動かす必要があった。このため消費電力が大きくなり、応用範囲が限定される原因となっていた。

遺伝子特許、有効性争点に、米の「知財高裁」で近く判決――範囲狭まる動き

「自然の産物」司法省が意見
 遺伝子に特許を与えるのは妥当か――。バイオテクノロジー大国の米国で、こんな裁判が大詰めを迎えている。ここ数年、バイオ分野で「プロパテント(特許重視)」を修正する判決が続いており、関係者の注目は高い。特許に縛られない自由な研究が進むとの期待もあり、裁判の行方は日本や欧州の知的財産政策にも影響を及ぼしそうだ。
 この裁判は研究者や人権団体が有力ベンチャー企業のミリアド・ジェネティック・ラボラトリーズ(ユタ州)をニューヨーク連邦地裁に訴えたことで始まった。同社が保有する乳がんや子宮がんの発症を促す2つの遺伝子「BRCA1」と「同2」の特許としての有効性が争われている。
 原告の主張はこうだ。「遺伝子やDNA(デオキシリボ核酸)は自然の産物で、法律が定める特許の対象にはならない」。米国では、病気の治療などに役立つ機能が分かっていれば遺伝子やその断片にも特許を与えている。これは日本や欧州でもほぼ同様だ。
 同地裁は昨年3月、関連する特許すべてについて「特許として認められない」と判断。これまでの米特許商標庁の方針を根本から否定した。現在、日本の知財高裁に当たる連邦巡回控訴裁判所(CAFC)で審理中で、近く判決が出るとみられている。
 「遺伝子特許の保護を弱める判決が出るのではないか」(米国の特許事務所に勤める弁理士の吉田哲氏)。知財関係者の間では、こんな見方が浮上している。ひとつは、バイオ企業に有利な判決を出してきたプロパテント派の判事が審理から外されたこと。
 もうひとつは司法省が昨年10月、一審の判決をほぼ支持する意見書をCAFCに提出したことだ。「組み換えられていないDNAは自然の産物で特許の対象ではない」とし、それらの遺伝子を分離することも「発明には当たらない」と主張し、関係者に衝撃を与えた。バイオ企業は反発しているが、法律学者や研究者など司法省を支持する動きも広がっている。
 実は今回の裁判の前から、プロパテントの行き過ぎを修正する動きが強まっていた。
 例えば、特許商標庁は昨年4月、ウィスコンシン大学の技術移転機関が保有するヒト胚性幹細胞(ES細胞)の作製法など3つ特許のうち、1つを無効とした。過去に発表された技術から容易に思いつく発明で「進歩性がない」と判断したためだ。
 他の2つについても権利範囲が大幅に狭められた。知財に詳しい政策研究大学院大学の隅蔵康一准教授は「技術的な進歩まで否定され、特許権者にとって厳しい判決だ」と評する。
 バイオ分野でも、技術革新を起こすには複数の特許を組み合わせることが不可欠になっている。権利範囲の広い特許は技術革新の妨げになり、研究者の間では不満が根強い。プロパテントからの軌道修正は、こうした米政府の認識を表しているようだ。
 「今や、世界で最もバイオ特許が取りにくいのは米国」。札幌医科大学の石埜正穂准教授はこう指摘する。石埜准教授によると、再生医療分野の特許は認められにくい傾向にあるという。
 遺伝子特許を巡るCAFCの判決はバイオ関連特許全体に及ぶ可能性が高い。日本の企業や大学の特許戦略にも影響する。米国の知財政策が大きな節目を迎えている様子を予感させる。

燃料電池用新素材、耐酸化性能2倍に、日立金属、長寿命化に貢献

 日立金属は11日、耐酸化性能を2倍に高めた燃料電池セパレーター用の新素材を開発したと発表した。燃料電池の寿命を延ばし、普及の後押しとなる部材として電池メーカーに売り込む。2011年度中に量産を始め、15年度の売り上げは5億円をめざす。
 開発したのは鉄とクロムを主成分とした金属板。鉄を主成分とするため、従来はニッケルやアルミニウムを主成分とする競合品に比べてさびやすいのが弱点だった。合金の比率見直しや内部組織の改良で、1平方センチ当たりのさびの発生量を3000時間で2ミリグラムと従来品の半分に抑えた。導電性や強度も改善した。
 燃料電池はセルと呼ばれる電気をつくり出す部品を積層した構造で、セパレーターはセルを支えるとともにセル同士を電気的に接続する役割を果たす。さびると電気を通さなくなるため、素材の耐酸化性能は燃料電池の寿命に直結する。燃料電池は15年以降に普及期に入るとされているが、長寿命化が課題だった。
 日立金属は金属板だけでなくセパレーターに加工した製品も供給する。既にサンプル出荷を開始しており、顧客に採用を呼び掛けている。

バイオVBのジナリス、PET樹脂を薬品原料に、大腸菌で分解、製造コスト安く

ペットボトル 再資源化の用途拡大
 バイオベンチャーのジナリス(横浜市、西達也社長)は化学品を分解する微生物を使い、使用済みペットボトルなどを再資源化する技術を開発する。ボトルなどの材料に使われるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂から薬品原料を低コストで製造する方法にメドをつけた。廃ボトルの新たなリサイクル用途として注目されそうだ。
 PET樹脂はテレフタル酸類を主原料にしている。ジナリスはこのほど、バイオ医薬品などに使われる遺伝子組み換え技術を活用して、テレフタル酸類を分解する酵素を出す大腸菌をつくり出した。分解によって、医薬品や農薬の原料などになるプロトカテク酸や没食子酸を得られる。
 プロトカテク酸は化学的に分解する方法で製造されており、多段階の反応工程を経るため複数の設備が必要になる。ジナリスの技術は大腸菌にテレフタル酸類を与えるだけで済み、製造コストを従来の1割程度に抑えられる。2日間で培養液1リットルあたりプロトカテク酸50グラムを生産でき、「バイオ技術を使った他の化学品の生産性と遜色ない」(西社長)という。
 今後はこの技術と、PET樹脂をアルカリ性溶液でテレフタル酸類に分解する手法を組み合わせる。同手法が微生物に影響を与えないかどうかなどを検証し、来春をメドに一連のリサイクル技術を完成させる。
 国内で回収された使用済みペットボトルは9割以上が繊維やシートの原料になっている。廃ボトルの樹脂を使って新たなボトルをつくる取り組みもまだ少数派だ。ジナリスの再資源化技術が確立すれば、用途拡大や、より付加価値が高いリサイクルが可能になる。
 ジナリスはまず、テレフタル酸類からプロトカテク酸などを量産する技術について化学メーカーなどと組んで事業化をめざす考えだ。
 同社は2002年設立で、独立系ベンチャーキャピタルの東京大学エッジキャピタルなどが出資している。今回の新事業を成長をテコに、現在数億円程度の売上高を3年以内に10億円以上に拡大することをめざす。

2011年7月11日月曜日

iPS万能性維持、重要なたんぱく質、理研が発見

 理化学研究所のグループは11日、新型万能細胞(iPS細胞)があらゆる細胞に分化できる能力を保つのに重要なたんぱく質を見つけたと発表した。iPS細胞の安定培養などに役立つ成果で、米科学誌ステムセルズ(電子版)に掲載された。
 iPS細胞は通常の培養では万能性が失われてしまうため、特殊な細胞の上で培養する。この細胞から分泌されるたんぱく質「LIF」などの作用で、万能性を保てるのが分かっている。
 理研オミックス基盤研究領域の鈴木治和プロジェクトディレクターらは、マウスのiPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)で実験。LIFのほかに「CCL2」というたんぱく質も、同様の作用があることを突き止めた。iPS細胞ではこの2つのたんぱく質が一緒に働いていた。CCL2は一定の濃度があれば単独でも万能性を維持できる。ヒトのiPS細胞でも同じ仕組みが働いているとみている。
 神経や骨などあらゆる細胞に分化できるiPS細胞は、再生医療への応用が見込まれている。

カイコガのオス、遺伝子が性行動支配、東大、フェロモンDB化へ

 東京大学先端科学技術研究センターの神崎亮平教授と桜井健志特任助教らのグループは、カイコガのオスの交尾行動がひとつの遺伝子で引き起こされることを発見した。メスが放つ性フェロモンとくっつく受容体(たんぱく質)を作る遺伝子が交尾行動まで支配していた。研究グループは、昆虫のフェロモンのデータベース化などを進める計画だ。
 同定した遺伝子は「BmOR1」。オスの触覚の細胞の中に受容体を作る。神崎教授らは、メスが放つ性フェロモン、ボンビコールと受容体がくっつくと、オスがダンスをしてメスに近づき交尾をすると考えた。
 受容体を作るひとつの遺伝子で交尾行動を引き起こすことを確認するため、カイコガにコナガという別のガのフェロモンとくっつく受容体を作る遺伝子を入れ、触覚の細胞に発現させた。遺伝子操作したカイコガのオスとコナガのメスを一緒の容器に入れると、カイコガのオスはコナガのメスに対してダンスをし交尾行動をした。
 オスが同じ種類のメスに交尾行動をするのは、フェロモン受容体の種類で決められているからだと考えられるという。
 昆虫のフェロモンは約200種類ほどある。これらをデータベース化し、薬物などと結合しやすい受容体を遺伝子操作で発現させれば、目的の薬物を見つける生物センサーとして使える可能性がある。

半導体、最先端品にシフト、早期量産で投資回収急ぐ、エルピーダ、東芝

ルピーダ 生産比率、来春5倍
東芝 新工場稼働、6割に
 半導体大手がデータ記憶用半導体であるメモリー分野で、最先端の微細化技術を使った製品への生産シフトを加速する。エルピーダメモリは2012年3月末までに最先端製品の生産比率を現在の約5倍に高める。東芝は7月中旬に最先端品に生産を特化した工場を稼働、9月には6割に高める。早期に最先端製品の量産体制を整え、投資回収を早める。
 DRAMで世界3位のエルピーダは12年3月末までに、広島工場(東広島市)と台湾工場の生産能力に占める回路線幅30ナノ(ナノは10億分の1)メートル以降の最先端品の生産比率を75%に増やす。
 6月末時点の比率はおよそ15%だった。DRAMで世界首位の韓国サムスン電子の最先端品比率は50%とみられ、25ナノメートルの量産開始は早くても今年12月になる見込み。エルピーダは今年中に最先端比率でサムスンを追い抜くことになる。
 エルピーダは5月に世界で初めて25ナノメートルを開発し、微細化技術の開発競争で世界の先頭に立った。同時にDRAMの回路設計を見直し、少ない工程数で生産する手法を確立した。
 これにより現行世代から最先端品に量産をシフトするのにかかる設備投資を従来の3分の1~約4分の1に抑制。韓国や台湾、米国のライバル企業よりも低コストで最先端品を生産できる体制を整えた。
 NAND型フラッシュメモリーで世界2位の東芝は、四日市工場(三重県四日市市)の新工場を最先端品の中核製造棟に位置付け、24ナノメートル、19ナノメートルのフラッシュ量産に乗り出す。これまで最先端品は少量生産にとどめていたが、新工場立ち上げを機に、9月には最先端品の生産比率を一気に60%へ高める。
 東芝はフラッシュの微細化技術開発で世界をけん引し、サムスンに約半年の差を付けている。ただインテルとマイクロン・テクノロジーの米国連合の追い上げなど、競争は激しい。新工場稼働に合わせて最先端品を大量生産し、海外勢に対する優位性を確保する。
 半導体業界で競う韓国や台湾企業に比べて、日本企業は法人税や人件費、水や電力などインフラ費用が高い。円高・ドル安で収益が目減りするなど生産活動には逆風が吹いている。このため利幅の大きな最先端品分野の量産を加速し、収益を安定させる必要があった。

ポリフェノールの合理性

 「フレンチパラドックス」という言葉がある。フランスの逆説という意味だ。1990年代の初め頃から世界中で広まった。
 フランス料理は肉料理が主体だが、それにクリームやバターがたっぷり入ったソースをかける。食べ物に動物性の脂肪が多いから、当然フランスの人たちは動脈硬化になり、心筋梗塞など心臓・血管系の病気が多いと予想される。ところがフランス人が心臓病で死亡する割合は他の西欧諸国に比べて少ないといわれている。脂肪分が多い食事を取っているにもかかわらず心臓病の死亡率が低い、というのがフレンチパラドックスの由来である。
 パラドックスの理由としていわれるのが、赤ワインに多く含まれるポリフェノールだ。実際、フランスの人たちは赤ワインを多く摂取する。これで日本でも赤ワインブームがおきた。ただ、赤ワインを多く飲むことによる肝臓病の増加といったマイナス面もある。
 ポリフェノールには抗酸化作用がある。植物(食物)に含まれる抗酸化物質としてはビタミンCや同Eなどが有名だが、ポリフェノールもそのひとつ。フラボノイド、クマリン、ヒドロキシケイ皮酸などその構造からたくさんの種類がある。このうちフラボノイドの仲間として知られるのは緑茶などに含まれているカテキンで、大豆などに多いイソフラボンである。また、ヒドロキシケイ皮酸の代表的なものとしてはコーヒーポリフェノールがある。
 体の中では活性酸素ができる。活性酸素は細胞にダメージを与え、シミやしわを作るなど皮膚への悪影響のほか、老化や動脈硬化、糖尿病、がんなどの引き金になるといわれる。活性酸素は常にできているが、普通はカタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼといった酵素や、植物由来の抗酸化物質が生成した活性酸素を消している。酵素がよく作られ、食事などから植物由来の抗酸化物質を摂取できる若いうちはいい。それが高齢者になると……。ポリフェノールを取ることは、ある意味では合理的なのかもしれない。
 2010年にお茶の水女子大学生活環境教育センターの近藤和雄教授らが発表した調査では、日本人が飲料から取るポリフェノールとしてはコーヒーの47%が最も多かった(緑茶は16%で第2位)。

携帯の電磁波、評価には時間――WHO「発がん性があるかもしれない」

証拠限定的、冷静に対応
 世界保健機関(WHO)が5月、携帯電話から出る電磁波に「発がん性があるかもしれない」という評価を下した。発がんのリスクはコーヒーや自動車の排ガスと同じ程度。ただ証拠は限定的で、WHOは今後、多角的に調査を続け、4年以上かけて総合評価をまとめるとみられる。
コーヒーと同分類
 評価をまとめたのは、国際がん研究機関(IARC)のタスク会議。同会議は携帯電話と脳腫瘍(神経こう腫、聴神経そう腫)に関する疫学研究、動物実験の結果から、携帯電話が出す電磁波の発がん性を「2B」と評価した。これは危険性を示す5つのランクのうち上から3番目。コーヒーや鉛、ガソリン自動車の排ガスと同程度のリスクだ。
 WHOは欧米で電磁波の健康影響が指摘されたのを受け、1996年から調査を始めた。疫学の分野では約1万人を対象に日本や英、仏、独など13カ国が参加した国際研究と、スウェーデンが独自に実施した成果を採用した。携帯電話の累積通話時間と神経こう腫の発症率を比較。通話時間が1640時間未満の場合は発症率は増えなかったが、それ以上では1・4倍高くなった。スウェーデンの研究でも通話時間が長くなるほど発症率が増加。2000時間以上通話した場合、携帯を使わないグループに比べて3・2倍も高くなった。
 同会議では疫学の結果からは、携帯電話が出す2ギガ(ギガは10億)ヘルツの周波数帯の電磁波に長時間さらされると、神経こう腫の発症につながるかもしれないと判断した。
 一方、動物実験では明確な結論は出なかった。ラットやマウスに2年間にわたり電磁波を当てた実験など40件以上の研究を調べたところ、がんを発症したマウスなどの匹数は当てなかった場合と比べて増えなかったものの、体内にできるがん細胞の数が増えたという実験が1件だけあった。同会議は動物実験の結果からは発がん性があるかどうかは不明確として、発がん性は「限定的な証拠にすぎない」とした。
 疫学調査や動物実験の結果と合わせて総合的に判断し電磁波を「人間に対して発がん性があるかもしれない」と評価した。これは「発がん性がある」としているたばこの煙やベンゼン、「おそらく発がん性がある」のポリ塩化ビフェニール(PCB)などより下のランクで、「発がん性を分類できない」のカフェインやコレステロールより上だ。
第1段階の一部
 ただ、同会議の発表は3段階あるリスク評価のうち、第1段階である「障害性評価」の一部。「リスクを定量的に評価しておらず、冷静に受け止めるべきだ」(総務省)。WHOは今後、神経こう腫と聴神経そう腫以外の脳腫瘍も疫学研究や動物実験を進めるほか、神経こう腫については追加の実験を実施してリスクを定量的に評価する。さらに電磁波による発がん性のリスクを軽減するガイドラインも策定する考えだ。
 WHOは発がんのリスクがあるかどうか最終的に判断する作業はこれまでも慎重に進めてきた。2000年代に実施した送電線などから出る3~3キロヘルツの低周波に関するリスク評価は約10年かかった。経済産業省系の財団法人、電気安全環境研究所電磁界情報センターの大久保千代次・所長は「今回の評価も4年以上かかるのでは」と話す。
 国内でも携帯電話の発がんリスクを調べる動きはある。東京女子医科大学の山口直人教授らは1日当たり20分を超えて携帯電話を使っている人が聴神経そう腫にかかるリスクは、使わない人に比べ2・74倍高いとする論文をまとめた。聴神経そう腫にかかったことがある約800人を対象に国内で実施した疫学調査の結果だ。ただ山口教授は「今回の実験だけで、携帯電話とがんの因果関係は証明できない」と話す。さらに複数回の疫学調査を実施した後、動物実験などと合わせてリスク評価する必要があるためだ。
 携帯電話の電磁波について総合的なリスク評価が発表されるまでは時間がかかりそうだが、どうしても気になる人はイヤホンやマイクを使い、携帯電話を頭部から離して使えば不安も和らぐ。長電話を控えてメールでやり取りする工夫もできる。また携帯電話は電波状況が良いところで通話するほど、出力が抑えられ、出てくる電磁波も弱くなる。仕事や生活と切り離せない道具である以上、リスク評価が確定するまでは冷静に付き合っていくとよいだろう。

宇宙開発、変わる勢力図――戦略の再構築、日本も急務に、独自開発、予算が壁。

 スペースシャトルの引退で、日本の有人宇宙開発は転機を迎える。ISSへ向かう手段は当面、ロシアのソユーズのみになる。約20年にわたりシャトルに依存して有人宇宙開発を続けてきた日本は、「シャトル後」の展望を早急に打ち出す必要がある。
 シャトルに搭乗した日本人宇宙飛行士は、1992年の毛利衛さんをはじめ計7人。シャトル退役後、ソユーズでは6月に古川聡さんを乗せて発射、来年以降も星出彰彦さんらの搭乗予定がある。
 ただ、ISSへの有人飛行をソユーズだけに依存することへの懸念もあり、宇宙航空研究開発機構の立川敬二理事長は「複数の国・地域が打ち上げ能力を持つべきだ」と日本独自の有人宇宙船に意欲を示す。
 日本は、日本人飛行士を月面に送り込む有人宇宙開発の構想を2009年にまとめた。米国の月探査計画に歩調を合わせたが、10年に米国が月探査計画の中止を発表し、構想自体が宙に浮いた格好だ。
 日本単独で有人宇宙開発に乗り出すには、コストが大きくなりすぎるため現実的には厳しい。政府の宇宙開発戦略本部(本部長・菅直人首相)の専門調査会は6月に宇宙政策の提言をまとめたが、予算面に配慮して有人宇宙船について具体的な表現はない。今後、長期展望をどうするのか早急に検討が必要だ。

宇宙開発、変わる勢力図――ロシア、「大国」へ新基地、中国、計画目白押し

米スペースシャトルの退役でISSを往復する唯一の有人宇宙船保有国として存在感が高まるロシア。年内には新たなロケット打ち上げ基地に着工し「宇宙大国」の地位固めを狙う。
 ロシア連邦宇宙局(ロスコスモス)は5日、極東アムール州政府との間でボストーチヌイ基地建設に関する合意文書に署名した。4000億ルーブル(約1兆2000億円)近い総工費を投じ、2015年の稼働を目指す。
 ソユーズを打ち上げる隣国カザフスタンのバイコヌール宇宙基地など他の基地依存を減らし、ロシアの宇宙ロケットの半分近くをボストーチヌイ基地で発射。有人宇宙船を19年までに打ち上げ、繰り返し利用可能な宇宙船の開発も行う予定だ。
 メドベージェフ大統領は宇宙開発を最重要の政策課題の一つに掲げる。1990年代には経済混乱で停滞したが、景気の回復を受け「新たな巨大な国家プロジェクト」(プーチン首相)を始動させる。
 【北京=品田卓】中国は今年後半に宇宙ステーション「天宮1号」を打ち上げるほか、月面基地や火星探査にも動き出した。
 中国独自の宇宙ステーション計画は天宮1号に続き宇宙船の神舟8号を打ち上げ、ドッキングテストをする。12年に神舟9号と10号を上げ、宇宙基地の基礎を築く。16年までに実験室を打ち上げて中規模実験の環境を整え、20年前後には実験モジュールを打ち上げる。
 宇宙開発での成功は国威発揚や軍事的優位にも直結するとあって、中ロ両国は米国への対抗色を強めている。

宇宙開発、変わる勢力図、最後のシャトル打ち上げ、米、陰る威信、民間主導を模索

 スペースシャトルの30年の歴史に終わりを告げる「アトランティス」が8日、打ち上げられた。国際宇宙ステーション(ISS)への日米の有人飛行は当面、ロシアの「ソユーズ」頼み。オバマ大統領が新たに掲げた火星への有人飛行も財政難から不透明さが漂う。「宇宙大国」の存在感を増すロシアに加え、背後に宇宙ステーション計画を持つ中国が迫る。シャトル退役は世界の有人宇宙開発の転換点ともいえる。
 【ケネディ宇宙センター(フロリダ州)=御調昌邦】スペースシャトル退役後の米国は宇宙開発の「新たな時代」(オバマ大統領)を目指す。ISSなど低軌道への輸送は民間企業に任せ、米航空宇宙局(NASA)は火星など非常に遠い「深宇宙」への有人探査を担うが、技術開発や資金確保などの面で課題は多い。
 オバマ大統領は、ブッシュ前政権が打ち出した月への有人再飛行計画を撤回。昨年4月、2030年代半ばの火星軌道への有人飛行計画を掲げた。NASAのボールデン局長は火星や小惑星への探査へ「深宇宙用の有人宇宙船と新たな大型ロケットという2つの重要な要素を追求していく」と意気込む。
 ただ計画には不透明な要素がある。NASAの年間予算は現在、約190億ドル(約1兆5000億円)。オバマ大統領は昨年、5年間で同予算を60億ドル増額する方針を示した。だが、財政赤字問題を背景に米議会では宇宙開発予算の抑制を求める動きも出ている。今後も「聖域」として扱えるかはわからない。
 火星軌道など深宇宙への有人飛行には新技術の開発が不可欠なうえ、20年強も先の計画だ。ブッシュ前政権の月への飛行計画も資金面が課題だった。火星は月と比較にならないほど遠い。
 一方、ISSへの物資や飛行士の輸送は基本的に民間企業に担わせ、打ち上げなどの費用抑制を目指す。昨年12月には著名起業家のイーロン・マスク氏が率いるスペースX社が、民間企業としては初めて大気圏に再突入する宇宙船の飛行を成功させた。
 ただ、民間企業主導の仕組みがうまく機能するか課題は多い。民間への移行が順調に進んだとしても、米国製のロケットと宇宙船で飛行士をISSに送り届けられるのは早くても数年後とみられる。この間は、飛行士の輸送はロシアの「ソユーズ」に頼ることになり、有人宇宙探査で米国の影響力が弱まるのは避けられない。

液晶の苦杯バネに産業転換を

 液晶パネルが利益を生みにくい産業になりつつある。国内メーカーの苦戦が続くほか、最大手の韓国・サムスン電子も先週発表した4~6月期決算でこの分野が赤字になった。
 原因はメーカーの乱立による価格の下落だ。例えば中国ではテレビ用の液晶パネルをつくる新興企業が続々と産声を上げ、今年だけで4~5工場が新たに稼働する。製造装置さえあればだれでも参入できる。それがこの市場の現実になった。
 日本の電機メーカーはすでに事業の見直しを迫られている。シャープは先月、テレビ用の生産を減らし、スマートフォン(高機能携帯電話)などに需要が伸びている中小型液晶パネルに力を入れると発表した。
 すでにテレビ用から撤退した日立製作所も東芝とソニーが進める中小型パネルの事業統合交渉に加わった。技術が優位な時にコスト競争力をつけておこうとの狙いである。
 日本企業は液晶技術の草分けだ。部品や材料産業のすそ野も広く簡単にはこの分野を捨てられない。それだけにあらゆる手を尽くし、巻き返しの機会を狙っていくのが重要だ。
 ただ、これからは技術を磨きコストを下げるだけでは利益を期待できない。中国メーカーなどは自国に成長市場を抱え、今後も力をつけていく。優れた製品を送り出しても息をつく間もなく追いついてきそうだ。
 それは太陽光パネルやリチウムイオン電池など他の分野も同じだろう。価格競争力の戦いになれば日本は不利になり、それを避けるには従来と違う発想の経営が必要になる。
 日立や東芝は最近、IT(情報技術)の粋を集めた環境配慮型都市などに重心を移し、設備投資や企業買収を進めている。個々の技術を強くする一方でそれらを束ね、システムやサービスと一緒に提供して価格競争とは一線を画す。付加価値を高めていく経営モデルの一例である。
 サムスンもこうした方向に注目する。同社首脳は「このままでは10年後は中国に負ける」とし、医療やインフラへの参入に意欲をみせる。
 新しい競争が始まりそうだ。日本には液晶パネルや半導体で韓国と競い、苦杯をなめた歴史がある。今後進む産業の転換では失敗をばねに一歩も二歩も他の国に先んじたい。

2011年7月9日土曜日

原発並み出力の太陽光発電、サウジで実用実験、東大・シャープ

 東京大学とシャープなどは独自開発の太陽光発電システムの大規模な実験をサウジアラビアの砂漠で実施する。日射量などを調べて実験地を決定し、年内にも開始する。5年後をメドに出力100万キロワット級の商用設備を現地に完成させ、原子力や火力に代わる主力エネルギー源を目指す。
 実験するのは太陽光をレンズで集める「集光型」と呼ぶ太陽光発電システム。東大とシャープは光を電気に変える変換効率が42%と世界最高レベルの太陽電池を開発済み。こうした先端技術などの実用化を日揮、Jパワー、日本政策投資銀行と目指している。
 サウジの国立エネルギー研究機関「アブドラ国王原子力・再生可能エネルギー都市(KACARE)」と協力し、まず出力約10万キロワットの実証システムを設けて実験する。改良しながら出力を10倍に拡大していく。
 大半の太陽光発電所は出力が数十万キロワット。原子力発電所1基は100万キロワット前後なので、太陽光発電を主力エネルギーにするには同等かそれ以上の性能が必要になる。また、太陽電池の変換効率が10~20%台と低く、広大な土地に多数並べないと発電量を稼げない。
 共同チームは変換効率が42%の集光型システムなら、少ない太陽電池で大電力を生み出せるとみている。広大な土地の確保が必ずしも必要ではなくなるほか、送電や建設のコストも抑えられ、電気代を既存電力レベルに近づけられるという。
 サウジは石油に代わる資源確保が課題。実験の誘致は太陽光発電の関連産業を集積して育成する狙いもある。共同チームは実験を通じてサウジをはじめ海外企業などにシステムを売り込む考え。
 砂漠での太陽エネルギーの実験としては、アブダビ首長国で太陽の熱を利用する太陽熱発電システムの試みがある。太陽光発電システムの実験も各国が構想を練っているという。

2011年7月8日金曜日

先端分野、進む産学連携――シャープ、日東電工

シャープ 京大と省エネ住宅実験  日東電工 阪大に有機EL研究所
 環境・エネルギーやエレクトロニクス産業が集積する関西で産学連携の先端研究が加速している。シャープや京都大など25機関が大規模な省エネ住宅の実証実験に乗り出すほか、日東電工などが大阪大に有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)の研究所を設立する。これまで一般的だった人的な交流にとどまらず、双方が深く関与した長期的な取り組みが目立つ。連携で先端技術が開花すれば関西経済の浮揚にもつながりそうだ。
 京都府と大阪府、奈良県にまたがるけいはんな学研都市で今秋にも省エネ住宅の普及をにらんだ産学連携の実証実験が始まる。太陽電池と蓄電池、電力使用を制御するシステムを組み込んだモデル住宅を10戸建設、実際に人が住み込んで電力の削減効果を検証する。
25機関が参加
 実証実験はシャープ、オムロン、京大、同志社大学、京都府のほか関西電力など25機関が参加する「けいはんなエコシティ次世代エネルギー・社会システム実証プロジェクト推進協議会」が中心となって進める。
 省エネ住宅は東日本大震災以降に急速に関心が高まっているが、実際にどの程度のエネルギー削減効果が出るかは未知数の状況。実証実験ではこうした実際のデータの不足を補うと共に、生活に不便を感じることなく電力消費を減らせるシステムの構築を狙う。スマートグリッド(次世代伝送網)の核にしたい考え。
 阪大では、吹田キャンパス(大阪府吹田市)でこのほど完成したテクノアライアンス棟に企業の研究所設立が相次ぐ。日東電工の「先端技術協働研究所」は1540平方メートルの延べ床面積を持ち、クリーンルームなどを含む多数の実験設備を導入して20人体制で秋から本格稼働する。
 「研究開発の幅を広げたい」。同社の藤村保夫研究開発本部長は狙いを語る。大学との共同研究は従来も取り組んできたが、本格的な研究施設を大学内に設けるのは初めて。「腰を据えて連携を進める」と意気込む。
 研究対象は薄膜太陽電池や、照明やディスプレー技術として有望視される有機ELの製造プロセスの開発。多彩なシート材料を持つ同社の技術に大学の知識を融合し、高効率の生産技術開発や製品の性能向上を目指す。
 カネカも同棟内に「基盤技術協働研究所」を1日に開設した。阪大教授や院生も加えた11人体制で7月中旬以降に本格稼働する。有機EL、高効率化合物太陽電池など4つのテーマについて基礎研究を進める。浅田正博RD推進部長は「根源的競争力は基盤技術。阪大の知識や設備を生かし新しい原理の発見につなげたい」と期待を寄せる。
開発の加速狙う
 パナソニックやシャープなどが本社を置く関西は新エネや省エネ、ディスプレーの関連産業が集積する。大学や研究機関の持つ専門知識やノウハウを取り込りこむことで、企業は先進的なシステムや材料、生産技術の開発の加速を狙う。
 神戸市が企業誘致を進めるポートアイランド地区では、理化学研究所が富士通と共同で開発を進める次世代スーパーコンピューター「京」が来年11月にも本格稼働する見通し。理研は、京について稼働当初から民間企業にも利用を開放することを決めている。
 スパコン研究者の育成を目指す兵庫県立大学のシミュレーション学科も京の隣の建物に位置する。大学、企業の研究者が相次ぎ訪れることとなり、新たな産学連携の拠点として注目を浴びる可能性もある。
【表】関西の産学連携の主な事例   
実施主体   研究開発のテーマ
京都大学、大阪ガス   間伐材を利用した冷暖房システム
京都大学、トヨタ自動車、パナソニックなど   リチウムイオン電池などの次世代蓄電池
立命館大学、クリスタル光学(滋賀県大津市)など   レアメタルの少ないガラス研磨材
大阪府立大、シャープなど   室内での野菜栽培
京都大学、パナソニック、テルモなど   次世代医療機器
神戸大学、篠田プラズマ(神戸市)など   医療などに使うフィルム型の紫外線光源

2011年7月7日木曜日

東京大学地震研究所教授古村孝志氏――地震・津波予測を可視化

動画なら直感的に理解
 国内観測史上最大のマグニチュード(M)9・0を記録した東日本大震災。東京大学地震研究所教授の古村孝志は、コンピューターを使ったシミュレーション(模擬実験)技術を生かして巨大地震や津波の発生過程を分析、可視化した。この技術を紀伊半島や四国沖で想定される東海・東南海・南海の連動地震の予測にも役立てる。
 古村研究室のパソコンの画面には、関西以西の西日本の立体地図が表示されている。古村がキーボードを操作すると、紀伊半島から四国沖南方にかけての広い海域で巨大地震が発生、10メートル超の津波が現れ、高知や和歌山の沿岸に押し寄せた。
 これはすべて古村が自作した動画。東日本大震災後の学会で公開し、注目された。「ただ予測データを示すだけでなく、動画を作って見せれば、自分もほかの人も地震・津波の現実を実感して理解できる」と古村は話す。
 北海道大学の学生だったころ、パソコンが流通し始めた。プログラムを作る技術を持っていた古村はパソコンと運動方程式を駆使し、地震などの自然現象を模擬することに興味を持った。研究者になって最初の5年間は、このシミュレーション技術の高度化に取り組んだ。当時はコンピューターの性能が低かったこともあり、なかなか実用レベルの研究が難しかったが「地味でも独自の楽しさはあった」という。
 そんな下積み時代に終止符を打ったのが、1995年の阪神大震災。高速道路の高架が倒壊するなど悲惨な被害を目の当たりにした古村は「不完全でもいい。とにかく、人々に地震が起きた仕組みを説明しないといけない」と奮起。東大地震研の研究者と共同で地震波のデータを分析。阪神大震災のシミュレーションに取り組んだ。
 阪神大震災では、震源の活断層帯の分布と震度7を記録した地域が食い違った。古村らのシミュレーションでは、六甲山脈の固い地盤と、南方の海面下で急激に深くなる地形の影響で、震度7の「震災の帯」が神戸市の市街地に出現した様子がはっきりと示された。コンピューターの性能向上も、研究を後押しした。
 それから16年後、今度は東北沖で「想定外」の巨大地震が起き、多くの人命や財産が失われた。M9の巨大地震を想定できなかった多くの地震学者と同様、古村も「自然が残したメッセージを謙虚に見る必要がある」と話す。例えば、津波が陸地に運んだ堆積物などを調べることで過去の巨大地震を知り、予測に生かすという試みだ。
 今、古村が主に取り組んでいるのが東海、東南海、南海地震が連動して起こる巨大地震の研究だ。文科省の委託を受け、地震、津波の規模や被害を予測する。この巨大地震についても古村は「より南方の海溝寄りで津波地震が起き、4連動になるのでは」とみている。東日本大震災でも宮城県沖や福島県沖などの沿岸部に加え、沖合で大きな津波を伴う地震が起きたためだ。
 4連動の地震が起きれば、3連動に比べ1・5~2倍の最大12メートル程度の津波が西日本を襲う可能性がある。予想浸水域などのハザードマップも見直しも必至だ。政府の中央防災会議の専門委員会の委員も務める古村は震災後、多忙を極めるが「今仕事をせずにいつやるのか」と自らを励まし、地震・津波との戦いに挑む。
=敬称略
(草塩拓郎)
主な業績
地下モデル修正 異分野とも協力
 地震動データを解析し、強い揺れや津波を模擬することが専門。2002年以降は地球シミュレータなどのスーパーコンピューターを使い、東南海、南海地震などを予測。得た知見を地下構造モデルの修正に生かした。
 08年以降は文科省の委託を受け、東北大や京大、名大と共同で東海、東南海、南海地震の揺れや津波の規模、被害の予測研究を実施。防災に生かすため、堆積物や建築といった異分野の研究者や、ガス・水道などのライフライン関連の事業者と協力して研究を進めている。
 ふるむら・たかし 1963年、富山県出身。92年北海道大学大学院博士課程修了。96年北海道教育大学助教授、2000年東京大学地震研究所助教授、08年から現職。

JAXA、電波天文衛星、開発中止へ

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6日までに、2012年の打ち上げを目指していた電波天文衛星「アストロG」の開発中止を決めた。巨大ブラックホールなどから来る電波をとらえるアンテナの精度を高めることが難しくなったため。近く、文部科学省の宇宙開発委員会に報告して正式決定する。
 アストロGは1997年に打ち上げた電波天文衛星「はるか」の後継機。ブラックホールの構造の解明や、高速のガスがブラックホールから吹き出す「ジェット」の詳細な観測を目指していた。
 開発研究を進めていたが、口径約10メートルの大型アンテナの開発が難航していた。目標の観測精度を達成するためには大幅な追加予算が必要とわかり、開発の継続は難しいと判断した。総開発費は143億円。

豊橋技科大、粒子混合で新技術、透明な樹脂を導電体に

 豊橋技術科学大学の武藤浩行准教授は6日、絶縁体の樹脂を電気が流れるよう改良する新技術を開発したと発表した。樹脂の粒子と導電体の粒子をそれぞれ正と負に帯電させて混ぜる。成形すると透明性を保ったままどの方向にも電気が流れる材料を作れる。様々な異種原料同士の組み合わせに応用できるという。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトの成果。電機や食品メーカー6社と応用に向けた共同開発に着手した。
 今回、電気がよく流れるアクリル樹脂を作ることに成功した。樹脂の微粒子を陽イオンの分散剤、導電性があるカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)を陰イオンの分散剤に入れてそれぞれを正と負に帯電させた。両者を純水中で混ぜると樹脂の表面にナノチューブが均質に付着した。
 この粒子を型に入れて加熱圧縮すると導電性材料になる。黒色のナノチューブの配合量は、樹脂に対して1万分の1以下と少ないため透明性を保つ。新技術は他の粒子同士にも応用でき、例えば砂糖を塩で覆ったような調味料の作製も可能だという。

有機エレ、実用化の研究拠点、山形大、基礎と両輪体制

山形大学は、山形県米沢市内に有機エレクトロニクス分野の実用化研究拠点を建設する。2013年春の本格稼働を見込む。同大は今春、基礎研究を担う「有機エレクトロニクス研究センター」を開設したばかり。結城章夫学長は会見で「基礎研究から産業化まで踏み込むことで世界的戦略拠点づくりが大きく前進する」と強調した。
 新拠点は「有機エレクトロニクスイノベーションセンター」(仮称)。米沢オフィス・アルカディア(米沢市)内に整備する。約1万平方メートルの敷地に延べ床面積約3800平方メートルの研究棟を建設。空気清浄度が極めて高い「クラス10000」のクリーンルームを核に、実験室や事業化支援室などを設ける。土地代も含めた総投資額は約16億円。
 主な研究テーマは同大が強みとする有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)のほか、有機太陽電池、有機トランジスタなど。従来の真空蒸着方式に代わり、量産に向く印刷技術を応用した次世代有機デバイスの製造プロセスの確立などに取り組む。
 昨年来構想を詰めてきたが、経済産業省の「イノベーション拠点立地支援事業」に今月1日付で採択された。施設整備費の約3分の2の補助が確定し、早ければ年内にも着工する見通し。
 今春開設の有機エレクトロニクス研究センターには有機EL研究の第一人者、城戸淳二教授ら国内外の一流研究者が結集している。同大は両センターを車の両輪と位置付け、基礎研究から実用化研究まで一貫した体制づくりを目指す。

セメントから半導体ガラス、東工大、低エネルギーで電子放出――太陽電池に利用も

有機EL・太陽電池に利用も
 東京工業大学の細野秀雄教授と金聖雄特任准教授らは、電気を通さないセメントから電気が流れる半導体のガラスを作ることに成功した。低いエネルギーで電子を放出する特徴がある。ガラス粉末を溶剤に溶かしたインクを金属の表面に塗ることで、大画面の有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)や太陽電池の電極に利用できると期待している。
 原料は強化セメントの一種であるアルミナセメント。セメントは絶縁体だが、真空装置に入れて結晶を構成するカルシウムとアルミニウム、酸素からなる直径約0・44ナノ(ナノは10億分の1)メートルのカゴの中の酸素イオンを電子に置換。さらに1230度以上で液体にし、急冷することで半導体のガラスができた。
 細野教授らは2003年、セメントから金属と同様に電気が流れる結晶を作ることに成功。昨年は旭硝子と共同で、消費電力が従来より約3割低い蛍光灯の開発に成功している。今回は結晶を高温で溶かした液体に電気が流れる性質を確認し、さらに急冷すると結晶化せずガラス化することを突き止めた。
 このガラスはアルミなど一般の金属より低いエネルギーで電子が外に飛び出す。この性質を利用すれば、少ない電気で光る有機ELのテレビや照明、電気をより多く取り出せる太陽電池を作れ、省エネルギーや創エネルギーに役立つとみられる。
 ガラスを粉砕した微粒子を溶かしたインクを基板に塗布後、熱処理して性能を高める。ガラスは結晶に比べて低温で処理できる。軽量だが熱に弱いプラスチック基板で大画面のテレビや太陽電池を作るのに適している。

2011年7月6日水曜日

次世代火力発電、NOx抑える技術開発、日立が試作機、希釈剤装置不要に

 日立製作所は4日、環境負荷が小さい次世代の火力発電設備で、窒素などの希釈剤を使わずに大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)の発生を抑える技術を開発したと発表した。従来は燃料の主成分である水素の燃焼温度が高くなるほどNOxが増えるため、希釈剤を投入する必要があった。燃料に空気を急速に混ぜ、燃焼温度の上昇を防ぐガスタービン用燃焼器を試作。希釈剤を扱う専用装置が不要になり設備投資が減らせる。
 石炭をガス化してから燃やす石炭ガス化複合発電(IGCC)に、二酸化炭素(CO2)を地下に封じ込める回収・炭素貯留(CCS)技術を組み合わせた火力発電設備への技術活用を想定している。IGCCは石炭ガスでガスタービンを回すとともに蒸気も発電に使う方式で、従来の石炭火力より発電効率が高く、CO2排出量が減る。
 試作したのはガスタービンに組み込む燃焼器で、CCSでCO2を回収した後に使う。燃料ノズルの形状と位置を工夫し、燃料と空気が空気孔内で小さな渦を作り、そこを抜けると混ざり合う仕組みにした。水素の燃焼温度は通常セ氏2000度にのぼりNOxの排出が多いため、従来は大量の希釈剤を投入し温度を下げていた。
 試作機は実験でのNOx発生量が10PPM(PPMは100万分の1)以下となり、国の環境規制値である70PPMを下回ったとしている。燃料の水素濃度はCO2の回収率が高いほど上昇するが、従来は濃度に応じて別々に燃焼器を設置する必要があったという。今回の試作機は1つで幅広い範囲の濃度に対応できる。

2011年7月5日火曜日

米パデュー大学、ハワイ、マグマ垂直上昇ない

 米パデュー大学の研究者らは、ハワイ諸島の地下に従来あるとされていたマグマの垂直上昇の流れがないとする研究を発表した。地震波が地下で散乱する様子を解析したところ、ハワイ諸島西部の上部・下部マントルの間に、幅約800~2000キロメートルにわたって高温物質がたまっていることが明らかになった。
 下部マントルから上がってきたマグマがたまり、その後ハワイ諸島に向かって上昇する可能性が高いという。ハワイ諸島の火山活動の原動力として、これまでは下部マントルから幅が狭いマグマが垂直に上昇していると考えられていた。

遺伝子組み換え植物栽培の工場、ノーステック財団が建設

北海道科学技術総合振興センター(ノーステック財団)は、遺伝子組み換え植物などを人工的に栽培できる「植物工場」を札幌市内に建設する。建設費は10億円で、約6億円を国が補助する。企業に開放し、道産農産物を原料にした医薬品開発に役立ててもらう。
 11月から産業技術総合研究所北海道センターの敷地内で植物工場を建設し、2012年6月に完成させる。延べ床面積は910平方メートル。工場を密閉し、実験的に栽培する植物の花粉が外部に出ないようにする。
 植物工場では、遺伝子組み換え作物の開発や、水耕栽培の収量拡大技術、植物から効率的に医薬成分を抽出する技術を研究する。

糖尿病や動脈硬化、肥満でも進行せず、東大、たんぱく質の働き抑制

 東京大学の宮崎徹教授らは、体の脂肪を溶かすたんぱく質の働きを抑えると、太っていても糖尿病や動脈硬化に進行しないことをマウス実験で突き止めた。肥満に伴う慢性炎症が起こらないため、病気を発症しない。既に発症していても進行を食い止められるとみている。成果は米科学アカデミー紀要(電子版)に5日掲載される。
 このたんぱく質は「AIM」。脂肪細胞がため込んだ脂肪を分解する働きがある。実験用に体内でAIMを作れなくした遺伝子改変マウスを作製した。高カロリー食を与え肥満にさせても、脂肪組織や全身に炎症が起こらなかった。慢性炎症が引き金になり発症する糖尿病や動脈硬化を抑えることができた。
 通常マウスを太らせ糖尿病にすると、血糖値が下がりにくくインスリンも効きにくくなる。改変マウスは肥満度がより高くても血糖値やインスリンの効き目が悪くならず、発症もしなかった。
 宮崎教授は昨年、AIMが脂肪を溶かし肥満を抑えるブレーキとして働くことを解明。しかし、それを上回って太るとAIMの作用がマイナスに転じ、炎症を起こした。宮崎教授は「太り始めはAIMを外から補い、肥満が進んだら逆にAIMを抑える薬を投与すれば病気を防げる」と話す。
 大日本住友製薬と共同研究を始めており、10年後をめどに薬を実用化したい考えだ。

2011年7月4日月曜日

米ブラウン大学、哺乳類と魚類でかみ方に差

米ブラウン大学の研究チームは、食料を摂取する際の舌の使い方が哺乳類と魚類で大きく違っており、これが双方のかみ方の差につながっているとの研究報告をまとめた。脊椎動物は魚類が陸に上がり両生類や哺乳類などに分かれて進化してきたとされるが、進化の過程でかみ方も変わったことを示せたという。
 研究チームは顎と舌の動きを支える筋肉を、魚類と哺乳類でそれぞれ詳しく分析した。哺乳類は歯でかみ砕くために舌の筋肉を使って最適な位置に食料を移す。魚類は工場の組み立てラインのように、舌の上に食料を載せて口内に引き込み、かんで食べることが分かった。

ナノリボンの作り方考案

米ローレンス・バークレー国立研究所の研究チームは、高性能の電子デバイスの材料に有力視されている窒化ホウ素でできたナノリボンの作り方を考案した。同じく有力な材料と見られている炭素原子が1層並んだグラフェンに似ているが、より有利な電気的、光学的性質を持つと期待されている。
 新手法では窒化ホウ素のナノチューブにカリウムの原子をたくさん詰めて、チューブを裂くようにして開く。厚みが原子1個分で長さ数マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル、幅は数百ナノ(ナノは10億分の1)メートルのナノリボンができる。1番細いナノリボンは、幅が20ナノメートルだった。研究チームはさらに効率的なナノリボン作製法を探しており、窒化ホウ素の研究開発の加速に役立てる考え。

東京海洋大学准教授島田浩二氏――減り続ける北極の海氷

気候変動見極めへ観測
 北極の海氷が減り続けている。2007年9月に過去最低の425万平方キロを記録したが、今年はそれに匹敵するペースで減少している。北極海で何が起きているのか、この分野の研究で日本をリードする東京海洋大学の島田浩二准教授に聞いた。
 ――北極海の海氷は減り続けているというが、今年の夏はどうなる。
 「現在の北極は、厚さが2メートル以上ある古い氷が激減している。せいぜい1メートルぐらいの若い氷が多く、若い氷は解けやすい。衛星による観測が始まった1980年代以降、海氷面積が最小になる必要条件がそろっている」
 ――なぜ海氷が減るのか。
 「1998年のエルニーニョで、暖かな海水がベーリング海峡を越えて北極海に入り込んだ。アラスカ沿岸の氷ができにくく、解けるのが早くなった。海水面が現れると太陽熱で気温が上昇。北極海の北米側に低気圧ができやすくなる。一方、冷たいシベリア側は高気圧が居座るため、日付変更線付近で南風が吹き、さらに暖気を引き込むという仕組みがあるからだ」
 「アラスカ沿岸の氷が解けると、風で氷が動いて不安定になる。氷同士がぶつかって強度が落ちると解けやすくなる。固く凍ったアイスクリームは、カップの近くで解けだすとくるくると回るようになる。それと同じ原理だ。北極海の環境は98年以前とは大きく変わってしまった」
 ――地球温暖化との関係は。
 「地球温暖化は気温の上昇を意味するが、北極の氷が解けるのは海の温暖化の影響だ。北極の氷が減ると、地球を冷やすラジエーターの働きが弱まるので、温暖化を加速する」
 ――毎年のように北極で観測している。
 「96年から09年まで14年連続で航海した。“世界で最も北極海に出かけた研究者”の一人だろう。去年行けなかったのは心残り。当てにしていた韓国の砕氷船アラオンが初航海で、観測機器を十分に積めなかった。今年は7月末からアラオンに3週間乗り込む」
 ――なぜ現地におもむくのか。
 「地球を知りたいという好奇心からだ。子供のころのヒーローは探検家の植村直己だった。氷原とか犬ぞりとかにあこがれた。観測とは文字通り“みてはかる”ことだ。理論研究もいいが、観測は重要だ。最近、自分自身が測器だと感じる。北極海の変化が起きる前と現在を、自分の目で見て比べることができる」
 ――日本の北極研究は。
 「非常に手薄で、4、5年前まで個人がばらばらにやっていた。関係者の呼びかけで日本地球惑星科学連合に北極研究のセッションができ、国際シンポジウムも開くようになった。今年度、北極環境研究コンソーシアムが設立され、ようやく体制が整ってきた」
 「07~08年の国際極年では、北極研究の発表数が南極の2倍あった。日本では南極への関心が高いが、北極周辺には南極にはない気候や生態系がある。氷が減るにつれ、北極航路や海底資源など経済がらみのテーマが脚光を浴びている。もう少し目を向けてもいいのではないだろうか」
記者の目
注目度低い北極 研究体制構築を
 南極観測船「しらせ」が新たに建造され、南極をテーマにした映画・ドラマがたびたび制作されるなど、国民の南極への関心は高い。それに比べて北極は、ながらく米ソ冷戦の舞台だったために注目度が低かった。
 しかし、北半球の気象に北極が与える影響は大きい。気候変動の行方を見定めるため、北極の正体をつかむ必要がある。北極海は日本から2週間の航海で到達できる。外国の砕氷船に頼らなくてもすむ研究体制を構築すべきだろう。

アルツハイマー病、進行早める物質特定――理研など、ペプチドの一種

 理化学研究所などの研究チームは、アルツハイマー病の進行を早める原因物質を特定した。脳の組織に蓄積するペプチド(たんぱく質の断片)の一種で、このペプチドが多いと発症年齢が早まることを確かめた。病気の進行の仕組み解明や新しい治療法の開発につながる成果。詳細は4日、米科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス(電子版)に掲載される。
 理研と同志社大学、滋賀医科大学などの共同研究の成果。
 脳細胞が死んで脳が萎縮するアルツハイマー病は、アミロイドベータ(Aβ)というペプチドが脳に蓄積することが発症原因の1つとされる。Aβは長さが異なる複数の種類があり、これまでは主に「Aβ40」と「Aβ42」が研究されてきた。
 研究チームはアルツハイマー病患者の脳を詳しく調べ、よりアミノ酸の数が多い「Aβ43」というペプチドも脳に蓄積していることに注目。Aβ43が過剰にできるマウスを遺伝子組み換えで作ると、アルツハイマー病の症状が急激に進むことを確かめた。Aβ43は脳にたまる蓄積物の「核」になり、他のAβ40やAβ42を蓄積させやすくすることを明らかにした。

レアアースの巨大鉱床、東大など、太平洋海底で発見

 東京大学の加藤泰浩准教授と海洋研究開発機構などは、太平洋でレアアースの巨大鉱床を発見した。海底にある泥にレアアースが高濃度に含まれ、その量は地上の埋蔵量の1000倍はあると推定。現在レアアースの約9割を中国が産出しており、先端機器を製造する日本は多く輸入して依存している。新鉱床を開発すればレアアースの安定供給につながる。
 成果は4日、英科学誌ネイチャー・ジオサイエンスの電子版に掲載される。
 発見した「レアアース資源泥」は、中央太平洋のハワイの東西に広がる海域と、南東太平洋のタヒチの東の2カ所で、合計の面積は約1100万平方キロメートル。水深は3500メートル~6000メートル。
 船から管を海底におろし、泥を吸い上げるといった採掘方法を想定している。弱酸性の溶液により、泥からレアアースを数時間で簡単に分離できる。
 過去に海底探査で試料として保管されていた約80の地点の地層から分布を特定した。海水中にもともと微量含まれるレアアースがゼオライトなどに吸着し、海流に流されて集中的に積もった可能性があるという。
 泥にはレアアースの中でもモーターに使うジスプロシウムや蛍光体に必要なテルビウムなどの「重希土類」が豊富。現在重希土類の産地になっている中国の鉱床よりも高濃度に含まれる。
 この海域は公海なので、採掘には国際海底機構が鉱床として認定し、鉱区を設定する必要がある。今後、研究チームは鉱床として申請する予定。

2011年6月30日木曜日

京都大学特定准教授木村欣司氏――世界一複雑な数式作成

世界一複雑な数式作成 「関の和算」に感銘、墓参り
 “世界一複雑な意味のある数式”を作った。その式は約1000億文字もあり、日本経済新聞朝刊で約1500年分に相当する文字数。とてもここには書き記せないが、16次方程式の解の数を調べられる「判別式」という数式だ。京都大学特定准教授の木村欣司(34)はこの分野で他の追随を許さない。今回の数式を応用すれば、建築物や電子回路などの設計を効率化できる。
 「xの16乗」を含む方程式と考えただけで気が遠くなるが、判別式を使えばその方程式の解が0~16個のうちいくつあるかわかる。判別式を求める計算量は、次数が1つ増えるごとに8倍になるという。木村は計算量を大幅に減らせる計算手法を編み出し、高性能のスーパーコンピューターで計算をなし遂げた。
 早稲田大学で情報科学を専攻し、コンピューターでプログラムを書くことに明け暮れていたが、情報学科教授・広田良吾の研究室に入り数学の世界へ。ここで数式処理ソフトの使い方を一から教わった。大学院博士課程では、数式処理ソフトの開発者である神戸大学教授の野呂正行のもとでソフト制作に打ち込んだ。2人の師匠から教わったアイデアが、木村の計算手法にふんだんに生かされている。
 そしてもう1人の偉大な“師匠”が、江戸時代の数学「和算」を極めた関孝和だ。関は判別式の概念を世界で最初に示した人物として知られる。木村が判別式というテーマを選んだのは、数式処理ソフトの性能を測る指標として判別式の計算が使われていたこともあるが、「判別式の計算は江戸時代から続く和算を発展させることそのもの」という動機もある。
 関はまだ計算機すらなかった時代に、1458次方程式を解く必要がある難問の解法を示すなど、常人離れした才能を持っていた。木村はコンピューターを使って関の解法を追試し、その正確さに改めて感銘を受けたという。2010年に15次方程式の判別式を完成させた際には、関の墓前に報告に向かった。「関孝和に報告するという目標があったからこそ達成できた」と打ち明ける。
 このほど、理化学研究所と富士通のスパコン「京」が世界一の性能と認められた。木村は「京の全ての力を使えば、20次方程式の判別式も求められる」と期待する。だがスパコンの性能向上だけに頼っているわけではない。「今回の計算手法は、まだ理論値より100倍も無駄がある」。より効率的な計算方法を編み出そうと、日々頭をひねっている。
 プライベートでは今年結婚したばかり。妻は大学院で絵画を研究しておおり、「お互いに専門のことは全く分からない」と笑う。そして数学研究の息抜きは何かあるかと聞くと、息抜きも数学という答えだった。計算の理論で煮詰まったときは、コンピューターへの実装について考えて気分転換するのだそうだ。
 次の目標は17次方程式、そしてさらにその先へ。関孝和の背中を追いながら、木村の挑戦はまだまだ続く。
主な業績
アルゴリズムで計算量を大幅減
 コンピューターを使った「数式処理」が専門。数式に数値を当てはめて答えを出す「数値計算」と異なり、数式処理では数式を式のまま変形して答えを導く。誤差のない正確な計算ができる半面、計算量は膨大になり、効率よく計算するアルゴリズム(計算手法)の開発が欠かせない。
 計算量を大幅に減らせるアルゴリズムを考案し、16次方程式の判別式作成に世界で初めて成功した。12~15次方程式の判別式も作成している。建築物の耐震設計、電子回路や自動車部品の設計などでは高次方程式がよく出てくる。判別式を使えば計算を効率化できると期待される。
 ▼判別式 方程式の解の数を調べる式。2次方程式版なら高校数学で習う。2次方程式「ax2+bx+c=0」の判別式は「b2―4ac」で、この値が正なら方程式は2つの実数解を持つ。0なら実数解は1つ、負なら実数解はない。
 きむら・きんじ 1976年、埼玉県出身。99年早稲田大学理工学部卒。04年神戸大学大学院博士課程修了、同年九州大学研究員。06年京都大学助手、07年新潟大学助教。08年京都大学特定講師、09年から現職。

50年後想定、高CO2濃度、コメの高温障害深刻――農環研、実験結果から予測

 早ければ50年後に想定される現在より1・5倍高い二酸化炭素(CO2)濃度では、コシヒカリなど日本を代表するコメの品質が著しく低下することが、農業環境技術研究所の実験で明らかになった。収穫した米粒のうち形が整った米粒の割合(整粒率)は27%と、現在より17ポイント低下し、等級外になったという。同研究所はコメの高温障害を軽減する技術の開発に、今回の研究成果を役立てる。
 同研究所は茨城県つくばみらい市の実験水田に、正8角形状にCO2を放出するチューブを設置。風上からCO2を流して、区画内のCO2濃度を現在より約200PPM(PPMは100万分の1)高い584PPMにした。
 昨年は記録的な猛暑で、試験地における生育期間の日平均気温は平年より1・8度高かった。このため、現在のCO2濃度で育てたコメの整粒率は44%と低く、品質は3等級に届かなかった。今回の試験の結果、高いCO2濃度がコメの品質をさらに低下させることがわかった。

「はやぶさ」の別室から、岩石質の微粒子回収、JAXA、肉眼で確認も

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は小惑星探査機「はやぶさ」のカプセルで、昨年末に開封した小部屋から数百個の微粒子が見つかり、そのうち岩石質の10数個を回収した。0・1ミリメートル以上の大きさで肉眼で確認できるものもあった。はやぶさが2005年に着陸した小惑星イトカワから持ち帰った微粒子である可能性が高いという。
 カプセルはA、B室の小部屋に分かれ、2度のイトカワ着陸時に舞い上がった微粒子をそれぞれ採取した。既にA室からは約1500個の微粒子が見つかり、このうち約50個が初期分析に回された。JAXAは10日からB室からの回収作業に着手した。カプセルを反転させたところ数百個の微粒子が落下。静電気を活用して微粒子10数個を回収した。
 B室は1回目の着陸時に使ったもので、斜めの状態で2回目の時よりも長い時間イトカワに滞在していた。このためB室の内部をさらに細かく調べれば、A室よりも多くの微粒子が出てくる可能性があるとしている。

マウス皮膚細胞→肝細胞、九大、iPS経ず直接作製

 九州大学の鈴木淳史准教授らは、マウスの皮膚細胞から肝臓の細胞を直接作り出す技術を開発した。新型万能細胞(iPS細胞)を経ずに作れるので、がん化の危険性や作製時間・費用などを低減できる期待がある。肝炎や肝硬変などの新たな再生医療法の実現などに役立つ成果。英科学誌ネイチャー(電子版)に30日掲載される。
 皮膚細胞などから目的の細胞を直接作る手法は「ダイレクト・リプログラミング」と呼ばれる。世界で研究が活発化しており、神経や軟骨などを作る技術は既に開発されている。
 研究チームはマウスの皮膚細胞に「Hnf4α」と「Foxa」という肝臓で働く2種類の遺伝子を、レトロウイルスというベクター(遺伝子の運び手)を使って導入した。肝細胞が育ちやすい培養環境を整えたところ、約1カ月で肝細胞が得られた。胎児と大人由来の皮膚細胞でそれぞれ試し、いずれも肝細胞ができた。この細胞を「iHep細胞」と名付けた。
 これまでは皮膚細胞をiPS細胞に変え、さらに肝細胞に分化させる手順が一般的。ただiPS細胞はあらゆる細胞になれる半面、未分化な細胞ががん化する可能性などが指摘されている。
 得られた肝細胞は、本物の細胞と同様のたんぱく質が働き、肝細胞特有の機能も確認できた。増殖も可能。肝細胞が十分に働かず死に至るマウスに、作った肝細胞を移植すると2カ月後でも約40%が生存できた。「1回の移植での成績としては非常によい」(鈴木准教授)と評価。人にも同様の遺伝病があり、本人の皮膚細胞を活用した再生医療の実現につながると期待している。

土中の温暖化ガス、一酸化二窒素、分解する微生物発見――北大・東大、培養にも成功

 北海道大学の石井聡助教と東京大学の妹尾啓史教授らの研究チームは、土壌中でできる温暖化ガスの一酸化二窒素だけを分解して無害な窒素に変える微生物を見つけた。この微生物を取り出して培養することにも成功。水田や畑にまけば、二酸化炭素(CO2)とメタンに次ぐ第3の温暖化ガスである一酸化二窒素の発生を抑えられる可能性がある。
 見つけたのは水田の土壌中に住むハーバスピリダム属というグループに分類される微生物の一種。同属の微生物は一酸化二窒素や硝酸を窒素に変える性質を持つことで知られる。
 研究チームは、まず様々な微生物を含む土を一酸化二窒素の濃度を高めた空気の中に入れ、細胞分裂を阻害する薬品を加えた。すると盛んに細胞分裂していたハーバスピリダム属の微生物だけが阻害剤に反応し、円形から線状に変形した。変形した細胞を1つずつ採取して培養した。
 さらに硝酸を含む空気の中で微生物を培養し、硝酸濃度の変化を測定した。硝酸濃度が低くなった微生物を除外。一酸化二窒素だけを分解する微生物を分離できた。
 この微生物を畑や水田にまいた場合、硝酸の分解が抑制され、肥料のやり過ぎで起こる土壌の酸性化が加速する恐れがあるが、研究チームは「適切な施肥と併用すれば、温暖化も土壌酸性化も抑えられる」(石井助教)と考えている。耕作地以外の自然土壌や、人間の排せつ物を処理する下水処理場などでも使える。
 一酸化二窒素は大気中に微量に存在し、CO2の約300倍という高い温室効果を持つ。温暖化への寄与はCO2の1割程度と見られる。農地への肥料の投入や家畜の排せつ物で大量に発生し、産業革命以降の大気中濃度は上昇傾向にある。
 オゾン層を破壊する性質も持ち、増加が続けばフロンガスを上回るオゾン層破壊物質になる恐れも指摘されている。

2011年6月27日月曜日

東京工業大学教授柏木孝夫氏――海洋バイオマス、突破口に

燃料・地球温暖化に貢献
 東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、政府は今後のエネルギー政策と地球温暖化対策の両面で頭を悩ませている。1つの突破口となりそうなのが、海藻を燃料として使う「海洋バイオマス」だ。4月には産学が協力して事業化を目指す「海洋環境創生機構」が設立された。同機構の会長に就任した東京工業大学の柏木孝夫教授に、今後の展望を聞いた。
 ――海洋バイオマスはエネルギー供給と地球温暖化問題に対し、どのように貢献するのか。
 「海藻からエタノールを抽出できバイオ燃料を生産できる。陸上の植物と同様、光合成で育つため、二酸化炭素(CO2)をうまく供給すれば、海藻の成長を促進できる。火力発電所や製鉄所など大口のCO2排出源の近傍に海藻の培養槽を設ければ、火力発電所などから出るCO2を固定化できる。カーボンニュートラルとなり、地球温暖化問題に貢献する」
 「例えば、6万立方メートル(オリンピックプールの約50倍)の培養槽を使うと、1日当たり360トンの海藻を生産できる。バイオ燃料の生産量は同120トンとなる。海藻の生産過程で固定されるCO2は年1万4500トンとみている」
 ――バイオマスは採算性改善が課題といわれているが。
 「海藻をバイオ燃料として使うだけでは、採算は厳しいと考えている。そこで、育てた海藻の一部や、燃料を得た後の残さを活用し、医薬品や化粧品などの新規材料を生み出す研究を進めている。基礎研究はあらかた終わり、海藻の生産、燃料化、有用物質の抽出といったシステム全体をうまく設計する研究に、注力する時期にきた」
 ――創生機構への参加企業は。
 「竹中工務店、日立製作所や横河電機、昭和シェル石油などが参加している。海洋植物から有用成分を作り出すため、花王も参加している。約20社の協力を得た。国の研究費を申請している。富山市とは実験に関する相談もしている」
 ――被災地の復興に役立つ可能性は。
 「津波で大きな被害を受けた沿岸部の新産業に役立てればと考えている。福島県の東電広野火力発電所の近くは、海洋バイオマスを推進するうえで、条件を満たす場所の1つだと思う」
 ――経済産業省の「再生可能エネルギーの全量買い取りに関するプロジェクトチーム」の有識者メンバーだったが、今後、被災地の再生可能エネルギーの導入はどう進めるべきか。
 「政府は、電力会社に再生可能エネルギーの全量を固定価格で買い取ることを義務づける特別措置法案を国会に提出している。この法案だけでは不十分で、被災地に再生可能エネルギーが集約されるように、事業者へのインセンティブを与える必要がある。グリーンパークを設けて、税制面の優遇措置を設けるのも1つの手。都市部から被災地に資金が流れる仕組みを作ることが必要だ」
記者の目
エネルギー供給
米国と開発競争
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が5月にまとめた報告書によると、バイオエネルギーは世界のエネルギー供給量の約1割を占める。大半は途上国で暖房・調理に木材を使う伝統的バイオマス。科学技術を駆使した近代バイオマスはこれからの分野だ。
 海藻を活用してバイオ燃料を生産する試みは米国で研究が盛んだ。2010年には米エネルギー省の支援のもと商業化に向け3つのプロジェクトが始動した。米国との開発競争に打ち勝てるか、日本の技術力が問われている。