2011年7月19日火曜日

炎症性腸疾患の新薬第2相治験、東レ、欧州で開始。

 東レは、独自に開発したクローン病などの炎症性腸疾患の治療薬の第2相臨床試験(治験)を欧州で始めた。中~重度の患者約400人に長期間投与し、下痢や腹痛、血便などの症状に改善効果があるか調べる計画。効果が確認されれば2013年にも日本を含めて第3相臨床試験を始め、17年ごろに新薬としての承認を目指す。
 東レが開発したTRK―170は、低分子化合物で口から飲む。炎症性腸疾患の原因といわれるT細胞(白血球)の表面の特定の受容体に結合してT細胞が血管の外に出るのを防ぐ。T細胞が血管の外に出て腸の粘膜に集まると炎症や潰瘍などを起こす。
 09年10月から欧州で実施した第1相臨床試験では、症状が軽い患者18人を含む50人に投与、大きな副作用はなかった。
 炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎とクローン病の総称。患者数は世界で約250万人。10~20代で発症することが多く再発を繰り返す。国内の患者数は09年度で約14万人。現在はステロイドなどが使われている。

iPS細胞の特許出願、米国が半数超す、日本は2位。

 新型万能細胞(iPS細胞)に関する国際特許の出願は、米国が半数以上を占め、日本は米国の半数ながら2位に付けていることが、札幌医科大学の石埜正穂准教授らの分析で分かった。大学や公的研究機関からの出願が約7割とiPS細胞は基礎研究段階にあるが、治療に関する出願も約1割あり、研究の裾野の広がりがみてとれる。
 国際特許を出願し2010年10月~11年4月に公開された123件の動向を分析した。国別では米国が70件。iPS細胞の「生みの親」である京都大学の山中伸弥教授を含む日本勢は32件だった。ほかに韓国とドイツが各4件でシンガポールは3件。フランス、イスラエル、中国、英国はいずれも2件だった。
 機関別では大学や公的研究機関が89件で、企業は28件。出願特許の半数はiPS細胞の作製や選別、培養の工夫など。肝臓や神経など目的の細胞への分化や、がんをもたらす不完全な細胞をどう取り除くかなど、再生医療の実現に欠かせないテーマも16件あった。
 「米国ほど研究資金が豊富ではない日本も健闘している」(石埜准教授)という。

東京沿岸部、冷たくない海風発生、東京都環境研・竹中など観測―埋め立て影響か。

 東京都環境科学研究所と竹中工務店、筑波大学などは、東京都沿岸部で東京湾に突き出し海風を受けやすい「お台場・有明(江東区)」が、「豊洲・東雲(江東区)」よりも気温が高いことを観測で突き止めた。風上にある埋め立て地の影響で海風が暖まり、冷却効果が下がった恐れがある。街並みが局地的な気温上昇につながることを改めて示唆する結果。今後の都市計画に役立ちそうだ。日本ヒートアイランド学会で24日に発表する。
 2009年7月27日~10月1日の南東の風が吹く昼間に、東京都沿岸部32カ所で1分おきに気温を測定。気象庁(千代田区大手町)地域気象観測システム(アメダス)との温度差を測った。
 東京湾に突き出た「お台場・有明」地区は0・1~1・4度低かったが「豊洲・東雲」地区は0・3~2・4度とさらに低かった。海風で冷えるはずの「お台場・有明」の暑さが目立つ理由を、南東方向にある埋め立て地の島が海風の冷気を奪ったと分析している。
 一方、湾岸から離れた「築地(中央区)」地区では0・2~0・5度高かった。豊洲や晴海(中央区)に立つビル群が海風を阻み、気温が上がった可能性がある。

ゴム、磁力で硬く、山形大が新素材開発―最大180倍、鉄粒子混ぜ込む。

 山形大学の三俣哲助教と大学院生の大堀優さんは、ゴムのように軟らかいのに磁石で磁場をかけるとプラスチックのように硬くなる新素材を開発した。ゴムの中に微小な鉄粒子を混ぜ込んだ。磁場の大きさによって元の最大180倍まで硬くなる。地震の揺れを吸収する台や、自動車の振動を抑える材料、機能性家具などに使える見通し。パナソニック電工などと共同開発を進める予定だ。
 ポリウレタン樹脂に直径3マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの鉄粒子を混ぜた。永久磁石で300ミリテスラ(テスラは磁場の強さ)の磁場をかけると、0・1秒後に鉄粒子が直線状に並び硬くなった。
 直径3・5センチメートル、高さ5センチメートルの円柱状にすると、8トン以上の重さに耐えるほどの硬さになるという。磁場を無くすと数十秒かけて元の軟らかさに戻る。海外でも同様の素材の開発が進むが硬さの変化は元の3倍程度。新素材は耐震部材や緩衝材、体重を分散させる家具などに応用できそうだ。

地球誕生時の熱、なお放出、東北大など、素粒子観測で判明。

 地球の内部には、地球が形成された約46億年前の熱がまだ残っている――。東北大学の井上邦雄教授ら国際チームがこんな研究成果をまとめた。岩石などを通過して地球内部から出てくる「反ニュートリノ」という素粒子を観測してわかった。詳細は英科学誌ネイチャー・ジオサイエンスに18日掲載される。
 地球の表面からは約44兆ワットもの熱が宇宙へ放出されている。地球内部の放射性物質が別の物質に変わりながら出す「崩壊熱」が主な熱源と考えられているが、熱の量を直接測ることは難しかった。
 研究チームは、岐阜県飛騨市の地下にある観測施設「カムランド」を使い、ウランやトリウムなどの放射性物質が壊れた際に放出される反ニュートリノを検出し、崩壊熱の量を見積もった。
 7年8カ月分の観測結果から、地球内部の放射性物質の崩壊熱は約21兆ワットだった。地球の表面から出る熱の半分にも満たなかった。
 残りの熱は、約46億年前に地球ができた時に内部にたまった熱と考えるしかないという。
 地球ができた当時の熱を現在でも放出し、内部がゆっくりと冷え続けていることを示す結果と結論づけた。
 研究成果は、地球内部の様子を詳しく知る手掛かりになる。地震や火山噴火がどうして起きるのかメカニズム解明にもつながる。

電源、製品ごと使い分け、京大、住友電工、通信技術を応用。

 京都大学の引原隆士教授と住友電気工業のチームは、電力会社の供給電力以外に太陽電池といった自家発電や蓄電池などの電源を住宅や事業所内で使いこなせるようにする技術を開発した。様々な電源が生む電力に区別する信号を割り当て、電化製品と相性の良い電源を選んで振り分ける。既存の配電網に組み込む電源が増えてもトラブルを防ぐ。節電にも役立つ見込みだ。
 新技術は電力ごとに安定性などの質を色分けし、特徴に合わせた使い分けが実現する。従来の配電網は、一方的に送られてきた電力を使うだけ。機器側で電源を選べず、使わないときはスイッチを切るしかない。
 新技術ならば、安定した電力が必要な医療機器や空調機器には電力会社の供給電力を使い、天候で発電量が変動する太陽電池はパソコンや蓄電池の充電に使うといった利用イメージが描ける。
 引原教授は「通信を電力に応用した技術。原理の確認は終わった。あとは使い方しだいだ。2~3年以内に実用化されるのではないか」と話す。
 通信の世界では情報に送信先の信号を書き込み、膨大な数の端末があっても迷うことなく目的の情報を相手先に届ける。この仕組みを送電に応用した。
 多くの電化製品がつながった配電網を通信網に見立て、それぞれの電化製品が使う電力を必要な分だけ送る。情報通信研究機構の支援を受けて取り組んだ。
 通信網では情報を送信先へ交通整理する装置に「ルーター」がある。研究チームは「電力ルーター」と呼ぶ装置を試作した。電力会社の電力や自家発電になぞらえた電力に、それぞれ送り先を示す信号を付けて送信する実験に成功。電力ルーターが信号を読み取り、その内容に合わせてスイッチを切り替えてそれぞれの電化製品に見立てた装置に送る。
 実験では交流電源の最大17アンペア、200ボルトに対応する仕様で装置を試作。電源と電化製品に見立てた装置を2つずつ電力ルーターとつなぎ、送信先の切り替えができることを確認した。
 試作した装置のスイッチの切り替え速度は1ミリ秒以下。実用化には数十マイクロ(マイクロは100万分の1)秒以下にする必要がある。京大と住友電工は高速切り替えに最適な炭化ケイ素(SiC)製半導体を開発済み。現在のシリコン製半導体と置き換えれば、高速化を実現できる見込みだ。
 電力ルーター同士は通信機能がある。複数台を組み合わせれば、どこから供給された電力かを見極め、電力の安定性に合わせて供給先の電化製品を選べる。将来は地域の電力網などにも応用できる可能性がある。

京大のiPS細胞特許戦略、取得絞り込みに転換、保有のコスト抑える。

 京都大学iPS細胞研究所は、再生医療へ応用を目指す新型万能細胞(iPS細胞)の特許戦略を見直す。研究成果を幅広く特許にしてきたが、取得特許を絞り込む方針に転じる。特許の保有などにかかるコスト負担を一大学で担うのは重すぎるためだ。日本発の成果をどう生かすのか国や企業を含めた日本全体で考える時期に来ている。
 京大は山中伸弥京大教授ら先端研究者を集め、出願した特許を所持し続けるかどうかを判断する基準の策定づくりに着手した。11日には作製技術の特許が欧州で初めて成立したと発表したが、拡大一辺倒の戦略を改める。
 iPS細胞の特許は、再生医療に不可欠と分かれば価値が高まる。ところが現在の研究水準ではまだ治療までの道のりは長く、どの技術が主流になるのかを見通すのは非常に難しい。
 iPS細胞の特許は作製法関連が多い。細胞に加える遺伝子の種類が違うと特許の権利は及ばない。特許をいくつか押さえるだけで将来の臨床応用を有利に運べるほど簡単ではない。
 そうなると相当数の特許を押さえなければならない。だが、大学が膨大な特許を囲い込む戦略は長くは続かない。
 京大は約70件の特許を出願済み。成立した特許権は国内3件。海外は欧州の1件のほか、ロシアなど旧ソ連9カ国で効力を持つユーラシア特許や南アフリカ、シンガポールでそれぞれ1件取得。出願や保有に年間の出費が数千万円にもなる。
 松本紘総長は「特許の維持や申請などの費用は大きい。国などに支援を受けたい」と訴える。山中教授は「知財の専門家をどう(継続して)雇用するのかも今後の課題」と話す。
 iPS細胞ほどの最先端研究となると進歩が早く、技術はすぐに時代遅れになる。今回取得した欧州の特許は2005年の国内出願がもとになったが、権利成立までには長い歳月がかかる。主流から外れた技術を持っているのは無駄だ。必要な特許の絞り込みなどコスト削減が急務となっている。
 京大が特許取得に力を入れてきたのは「企業ではなく大学が特許を保有すれば、誰にでも安価に実施権を提供できる。研究者が安心して研究でき、(結果的に)京大発のiPS細胞の治療応用の実現が近づく」との思いからだった。
 それでも実用化が近づいたときには海外などで特許を巡る訴訟も予想される。京大の特許は米国でも成立する可能性が高いが、権利の抵触や無効を訴えられるリスクが指摘される。特許訴訟1件で数億円の負担が予想されており、大学が対処するには限界が見えている。
 再生医療の普及時は、企業や研究機関は互いのiPS細胞特許を自由に使えるようにする現実的な対応を探るとみられる。
 そのときまでに本当に必要な特許をどれだけそろえておけるのか。特許取得を絞り込む京大は、研究成果の将来の価値を見極めるという新たな課題と向き合う。

レアアース、中国、投機を監視、経産相に商務相表明――輸出枠でも譲歩示唆。

中国訪問中の海江田万里経済産業相は18日、陳徳銘商務相と会談した。経産相はレアアース(希土類)の価格高騰などの問題について改善を要求。これに対し、陳商務相は「輸入インフレを誘導する観点から望ましくない。投機的な動きは取り締まっていきたい」と価格高騰に懸念を示した。
 中国のレアアースの輸出価格は政府の管理強化で、製品によっては昨春に比べ数十倍まで高騰。レアアースは日本で自動車部品などに加工された後、中国に再輸出される事例が多い。陳商務相はレアアースの日本向け輸出価格の高騰が、中国経済にも悪影響を及ぼすとの認識を示した形だ。
 海江田経産相はレアアースの輸出量減少についても改善を要請。中国商務省はレアアースを含む鉄合金を今年下期から新たに輸出枠に含める方針で、2011年通年の輸出枠は前年比で実質縮小になる。陳商務相は「下期の鉄合金の輸出数量を精査し、必要な場合は若干の調整をする」と述べ、輸出枠についても譲歩する考えを示唆した。
 海江田経産相は会談後、記者団に対し「陳商務相はこれまでと比べて一歩踏み込んだ発言をした」と評価した。

レアアースの乱、プリウス直撃―中国江西省の産地、採掘停止

 中国のレアアース(希土類)の今年の輸出枠が前年並みとなった。下期の輸出枠ゼロの観測も浮上していただけに日本側は胸をなで下ろす。だが肝心のトヨタ自動車のハイブリッド車(HV)「プリウス」に不可欠な「ジスプロシウム」の調達はなお難航しそうなのだ。実は唯一の産地、江西省〓(カン)州では採掘が進んでいない。裏には中央政府と地方の深刻な対立がある。有力華僑や政治家を輩出した「客家」の故郷で何が起こっているのか、内情を探った。
 「我々は今、レアアースの採掘を止めている」。江西省〓州の忠部から車で山道を5時間も走ってたどり着く竜南地区。採掘で赤茶けた土が露出したレアアース採掘場の企業関係者は明かす。
計画鉱区に指定
 採掘を停止したのは4月から5月にかけて。中国政府が1月、竜南地区を含む〓州のレアアース鉱区11カ所を「国家計画鉱区」に指定したことがきっかけだ。これまで採掘権は地元企業が保有していたが、中国政府が「環境保護のための管理強化」との名目で奪取に動いたという。
 政府はさらに4月にレアアースの新たな探査や生産の許可を2012年6月末まで発行しないと表明、5月には〓州など中国南部のレアアース生産の80%以上を上位3社に集約する方針を発表した。3社は中国政府が直接管理する国有大手になる見通しで、地元の〓州に緊張が走った。
 「精製や分離などの加工分野だけでなく、採掘分野まで踏み込んできたら自衛するしかない」。〓州の関係者は力を込める。これまで中国五鉱集団や内蒙古包鋼稀土高科技、中国アルミなどが中央から〓州に進出してきたが、いずれも加工分野にとどまっていた。
 上流分野は地元のレアアース採掘会社88社が牛耳っていた。さらに採掘に不可欠な材料である硫酸アンモニウムは地元政府が影響力を持つレアアース採掘最大手、〓州稀土鉱業が一手に手がける。この会社が採掘材料の供給を停止。88社の採掘も中止させた。
 地元企業が突然の生産停止に踏み切ったのは、中央政府や国有企業をけん制する狙いもあるが、「政府の今年の生産枠を守るため」という。すでに今年の生産量は政府枠のギリギリの水準。ある関係者は「これまでは採掘や精製の枠は実質的に関係なく、枠を大きく超えて生産してたが、今春からは守るようになった。違反で摘発された場合は、中国政府につけ込まれる」と理由を漏らす。
 中央に対抗するため、〓州の地元政府も独自の近代化策を講じている。新素材開発などの下流分野に注力する方針で2月には研究所を設立。昭和電工と地元レアアース有力企業との高機能合金生産もその戦略の一環だ。
結束固い客家
 なぜ〓州が焦点となるのか。もともとは「タングステンの都」と呼ばれていたが、最近のあだ名は「レアアース王国」。ハイブリッド車などに必要な高性能磁石の添加剤に使うジスプロシウムなどの重希土類が産出するイオン吸着型レアアース鉱を抱える。重希土類が多い南部にある104鉱区のうち88鉱区は〓州に位置し、生産量は全国の7割を占める。日系商社幹部は「セリウムなどの軽希土類は中国以外の米豪でも生産できるが、ジスプロシウムは中国の〓州だけだ」と話す。
 もう一つの中国のレアアースの産地である内モンゴル自治区。中国政府が直轄する国有企業が独占、国家が直接コントロールできる状態となっているが、主な産品はセリウムなどの軽希土類。海外にも産地があるため、中国が存分に影響力を行使できない。
 それだけに、「中国政府はトヨタなど日本企業の生命線ともいえるジスプロシウムなどを握ることができる〓州を完全に支配下に置きたいはずだ」(中国の非鉄企業幹部)という。しかし〓州は客家の故郷。客家は中華文化の発祥地である黄河中下流域から南部に移動を繰り返し、独自の言語や文化、商習慣を守り持つ人々で結束が固い。
 〓小平氏やシンガポール元首相のリー・クアンユー氏らを輩出し、現在も大物政治家や人民解放軍に人脈を持つとされる。〓州の人口890万人のうち、客家系は95%を占めるという。中国国有企業関係者も客家は利にさとく「一筋縄ではいかない」と漏らす。
 〓州はレアアースなどの生産拡大で経済が急成長。中国社会科学院が10年に発表した中国都市競争力白書では過去5年で競争力が伸びた都市のベスト3位となった。街には世界最大の英国製の時計台もそびえる。
 客家が手がけるレアアース王国と中国政府との戦いの行方は不透明だが、中国の非鉄業界に詳しい証券アナリストは「戦っているように見えるが、レアアースを使って利益や影響力の拡大を狙う点では一致している」と指摘する。仮に両者の対立が収束しても、日本側に安価なレアアースが大量に流れ込むことはまずありえない。
 6月の国内新車販売で4カ月ぶりに首位に返り咲いたプリウス。このままジスプロシウムの生産が滞れば、価格急騰や在庫払底の懸念もある。日本側では代替部材の開発を急ぐべきだとの声が高まっている。

 ▼ジスプロシウム レアアース(希土類)と総称される金属元素の一つ。強力な磁力を持つネオジム磁石の添加剤で、その弱点を補い、高温でも磁力を保持できるようにする。電気自動車やハイブリッド自動車の駆動モーターのような高温にさらされる場面で欠かせない。モーター性能を高めるため、省エネルギー性能の高いエアコンや洗濯機などにも使われる。
 資源として極めて希少であり、ジスプロシウムを多く含有する経済性の高い鉱床は中国南部以外で見つかっていない。

米マサチューセッツ工科大学、太陽熱、簡単に蓄える化合物

 米マサチューセッツ工科大学の研究チームは、太陽の熱エネルギーを簡単に蓄える新しい化合物を開発した。光を当てるだけでよく、熱エネルギーの長期的な保存と輸送が可能になる。太陽は再生可能エネルギー源として期待が高いが、日照時間は限られる。新化合物は熱エネルギーを保存し、必要に応じて放出する安定供給の実現につながる可能性がある。
 新しい化合物は炭素材料のカーボンナノチューブを使い、光が当たると熱を吸収して構造が変わる。温度変化などの刺激を加えると元の構造に戻り、その時に蓄えた熱を放出。蓄熱と放熱を何度も繰り返す。貯蔵できるエネルギーの密度はリチウムイオン電池並み。これまでの蓄熱材と違って繰り返しの利用で劣化せず、希少で高価なレアメタルも使わない。同じ仕組みでより有望な化合物の探索を進めるという。

理研と名大、高い分解能で観察、0.054ナノメートル、原子間より短く。

 理化学研究所と名古屋大学のグループは、世界最高性能の分解性能を持つ光学顕微鏡の開発につながる技術を開発した。エックス線を構成する光子が物質に衝突するとまれに2つの光子に分裂する現象を応用することで実現した。成果は17日付の英科学誌ネイチャー・フィジックス(電子版)に掲載された。
 研究グループは、エックス線を物質に照射すると1千億分の1の確率で光子が2つに分裂する現象に注目。波長が0・112ナノ(ナノは10億分の1)メートルのエックス線をダイヤモンドに照射すると、0・113ナノメートルのエックス線領域の波長を持つ光子と20・6ナノメートルの極端紫外光領域の波長を持つ光子になる。
 極端紫外光の光子を検出することで、一般の物質の原子間距離より短い0・054ナノメートルの分解能でダイヤモンドを観察できたという。光子の分裂の頻度を高めるため、大型放射光施設「SPring―8」を使った。
 物質に当たった光を観察する光学顕微鏡と原理は同じ。光学顕微鏡の分解能はこれまで数百ナノメートルとされていた。

深紫外レーザー光、変換効率6割向上、中央大、結晶配置や接合改良。

 中央大学の庄司一郎教授らは、半導体の微細加工などに使う深紫外レーザー光の変換効率を高める技術を開発した。レーザー光の波長を変換する結晶の配置と接合法を改良し、従来より60%多く変換できることを確かめた。今後の改良で効率をさらに引き上げられるとみている。深紫外光の実用化にはずみをつける成果といえそうだ。
 成果は22日まで米国ハワイ州で開く非線形光学の国際会議で発表する。
 深紫外光は、波長が約200ナノ(ナノは10億分の1)メートル~300ナノメートル。ホウ酸バリウムの結晶に同500ナノメートル前後の緑色レーザー光を通して波長を半分にする。今回、厚さ0・4ミリの結晶を24枚重ね、両端を同0・2ミリの結晶で挟んだ素子を試作し、隣り合う結晶同士が原子レベルで結合するようにした。これまでの素子は、同じ厚さの結晶を2枚張り合わせて作っていた。
 深紫外光はエネルギーが高く、半導体の微細加工に使えるうえ、波長が生物の細胞に作用しやすく、殺菌や有害化学物質の分解にも期待されている。しかし光源の緑色レーザー光の発生効率が低いうえ、深紫外光への変換効率が低いことから産業利用が遅れている。

DNAの脱メチル化、神経幹細胞を形成、生理研がメカニズム。

 自然科学研究機構生理学研究所の等誠司准教授らは脳神経のもととなる神経幹細胞が作られる詳細なメカニズムを突き止めた。特定の遺伝子の働きを抑え込むDNA(デオキシリボ核酸)のメチル化という化学作用を解除する「脱メチル化」と呼ばれるシステムが存在し、幹細胞への成長を促していた。新型万能細胞(iPS細胞)から神経を効率よく作る技術の開発の足がかりになる可能性がある。
 ハエの実験で神経の形成に関係しているのが見つかった「GCM」という遺伝子に着目した。この遺伝子はマウスの体内にもある。初期胚などを使い実験した。
 遺伝子操作でGCMを働かなくすると、胚から神経幹細胞ができる量が10分の1以下に減った。神経幹細胞の形成を促す「Hes5」という遺伝子の働きが抑えられていた。詳しく調べると、Hes5はある時期まで働かないようにメチル化によってブロックされており、脱メチル化するのがGCMだった。人でも同様の仕組みが存在するとみている。
 研究チームはiPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)から神経幹細胞を作る際も似た仕組みがあると推定。今回の成果を活用し、万能細胞から効率よく神経が作れれば、脳の再生医療などにも役立つという。成果は米科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス(電子版)に18日掲載された。

イネ、土壌から鉄有効利用、東大が遺伝子解明。

 東京大学の西沢直子特任教授らはイネが土壌から吸収し、細胞壁に沈着している鉄を溶かして有効利用する際に欠かせない遺伝子を突き止めた。この遺伝子が強くなるよう改良すると、アルカリ性が強くて植物が育ちにくい土壌でもイネがよく育つことも確認した。成果は米専門誌ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(電子版)に掲載された。
 東大のバシル・クーラム特任研究員、東北大の石丸泰寛助教らとの共同研究成果。鉄は植物の生育に不可欠な元素。イネは土壌中の鉄を溶かして吸収するため、ムギネ酸類という物質を根から分泌しているが、いったん吸収した鉄を有効利用する仕組みも存在している。
 研究チームはイネが根などの細胞壁に沈着した鉄を溶かすのに「フェノール性酸」という物質を利用しているのを突き止めた。この物質を細胞の外側に分泌する際に働くのが「PEZ」遺伝子で、細胞膜に存在していた。
 この遺伝子を壊したイネは、フェノール性酸が細胞外に出ていけず、細胞壁に沈着した鉄を溶かし出せなくなった。栄養や水分を運ぶ導管の中の鉄濃度が下がり、地上部に鉄が十分運ばれなくなり、生育も悪くなった。逆にPEZを強く働かせると、本来は育ちにくいアルカリ性の土壌でもよく生育した。
 フェノール性酸はイネ以外でも鉄の利用に重要なことが知られている。ムギやトウモロコシ、人でも働いているという。今回の成果が、イネ以外でPEZに相当する新たな遺伝子の発見につながると期待している。

関西大、光で微細模様、樹脂開発、たんぱく質転写――低コストの加工、有望。

 関西大学の宮田隆志教授らは、光で表面に微細な凹凸をつけられる樹脂素材を開発し、たんぱく質などをスタンプのように転写することに成功した。マイクロチップなどの微小部品の作製に幅広く利用できるとみている。微小部品の作製には大がかりな装置が必要だったが、新技術なら光を当てるだけですむ。低コストの微細加工法として実用化を目指す。
 開発したのは光エネルギーを吸収して収縮する高分子樹脂。光反応性のケイ皮酸ビニルとポリジメチルシロキサンを組み合わせた。樹脂に紫外光を当てると、その部分だけ構造が変わって薄くなる。45マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル間隔の格子模様のフィルターを載せて光を30分当てると、樹脂に凹凸ができ、格子がきれいに浮かび上がった。境界線も鋭かったという。
 こうして作った格子模様の表面をスタンプに見立て、蛍光色素を付けたたんぱく質が入った溶液をインクにしてシリコンウエハーに押しつけた。蛍光顕微鏡で観察すると、スタンプの出っ張った部分のたんぱく質がウエハーに移る一方、くぼんだ部分にたんぱく質は付かず、格子模様をうまく転写できたことが確認できた。
 たんぱく質などで微細模様を描くには、フォトリソグラフィーを使う方法もある。研究グループが開発した新技術と同じように光に反応する樹脂を利用する。ただ、光を当てて固まる性質のため、後で余分な樹脂を酸で洗って取り除くなどの作業が必要。新技術は光を当てる1度の操作だけなので、より簡便で使いやすい方法になる可能性がある。
 応用例としてはたんぱく質の粒をチップ状に並べたマイクロチップや、マイクロ流路などが考えられる。どれほど細かい模様が描けるかを確認し、くっついてきれいにはがれる物質などスタンプとインク選びの相性も調べる。

抗がん剤開発に拍車、遺伝子の後天的制御を標的に、米社が日本で承認。

国内勢も導入へ
 7月1日、米メルク社の日本法人であるMSDが、日本における皮膚T細胞リンパ腫の治療薬「ゾリンザ」の販売承認を獲得した。単なる希少疾患薬(オーファンドラッグ)ではない。最近急速に解明されつつある新しい生命現象、エピジェネティックス(遺伝子の後天的制御)と呼ばれる新たな創薬標的を射抜く、画期的な抗がん剤である。
 エピジェネティックスはバイオテクノロジーにおけるポストゲノム研究の有望株。例えば国立がん研究センターのグループが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染による胃の慢性炎症がエピジェネティックス異常を蓄積し、胃がんを生じることを解明するなど、エピジェネティックスの異常ががんを引き起こすことが続々と報告されている。
 従来の化学抗がん剤はがん細胞が増殖するために必要なたんぱく質や酵素を標的にしてきた。最近では、がん細胞にだけ特異的に生産されるたんぱく質を標的にした抗体医薬や、がんが増殖するために必要なリン酸化酵素を阻害する標的医薬、そして細胞内で老廃物となったたんぱく質を分解する酵素を阻害する新規の抗がん剤まで現れた。
 こうした厳しい抗がん剤開発競争で、ゾリンザが標的とするのは、遺伝子のスイッチを調節するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)だ。ゲノムDNAと結合し、染色体の構造を緩めたり、締めたりする働きがある。これを阻害すると、がんで盛んにスイッチが入っていた増殖関連遺伝子などをオフにし、最終的には細胞死を誘導する。米国では既に2種類の医薬品が発売されており、ゾリンザは日本初のHDAC阻害剤となった。
 今年1月には日本新薬がビダーザというエピジェネティックス新薬を発売している。これは日本で発売されたDNAメチル化酵素阻害剤の第1号だ。前がん状態とも言える骨髄異形成症候群の治療薬である。
 エーザイはMGIファーマを買収し、DNAメチル化阻害剤のダコジェンを獲得、急性骨髄性白血病治療薬として米国で開発を進めていた。今年6月に発表したフェーズ3臨床試験の初期の解析成績は失望に終わったが、投薬した患者を1年間追跡した結果、薬効を証明でき、近く米国で販売申請を行う計画だ。
 こうした実用化の成功がエピジェネティックス抗がん剤開発に拍車を掛ける。今や抗体医薬や標的医薬の次の戦場と言われるまでになった。
 実際、2008年4月、武田薬品工業が抗がん剤開発のベンチャー企業、ミレニアム・ファーマスーティカルズを88億ドルで買収したが、ミレニアムの旧経営陣はその資金でエピジェネティック抗がん剤開発のベンチャー企業、コンステレーション・ファーマシューティカルズを創設した。
 1周遅れが許されないことに気付いた武田やエーザイなど国内大手製薬企業も現在、エピジェネティックス抗がん剤導入に走っている。抗がん剤だけでなく、精神疾患に至る幅広い治療薬開発の可能性も秘めている。エピジェネティックス医薬は、企業の今後の成長性を占う試金石となる。

1万個のセンサー組み込み、橋の劣化状態、即時判定―NTTデータ、解析技術。

 NTTデータは1万個のセンサーのデータを毎秒数十万件の速度で解析処理できるシステムを実用化した。橋に組み込んだ多数のセンサーを使い、コンクリートなどの劣化状態を瞬時に判定できる。米国の金融業界で自動取引システムなどに採用されている技術を応用した。企業や自治体などに売り込み、2015年度末までに200億円の売り上げを目指す。
 設定した条件に基づいて自動的に株式を売買する「アルゴリズム取引」システムなどで実績のある処理手法を採用した。「CEP(複合イベント処理)」と呼ばれる手法で、刻々と変化するデータを、リアルタイムで処理できる。
 今回、橋の劣化状態を判定する既存ソフトの判定ロジックをCEPに組み込み、1万個のセンサーの情報から橋の劣化状態をリアルタイムに判定する実験に成功した。
 NTTデータは今回のシステムを、業務システムのデータを分析して経営戦略に生かす「ビジネスインテリジェンス(BI)」の分野で利用する。大量のデータをリアルタイムで処理できる利点を企業などに売り込む。

スパコン能力7倍、日立、科学技術用に新モデル。

 日立製作所は流体解析や気象予測など科学技術計算に的を置いたスーパーコンピューターシリーズSR16000に、計算能力を引き上げたサーバーモデル「M1」=写真=を加えると発表した。21日から販売する。従来モデルと比べ、サーバーの設置面積当たりで理論上の能力は最大7倍になる。
 M1は計算処理単位である1ノードに、高性能プロセッサー4個、メモリーを最大256ギガ(ギガは10億)バイトまで搭載できる。プロセッサーの発熱をすべて水で冷やす技術に加え、プロセッサーボードの高密度実装技術で、設置面積当たりの能力を引き上げた。
 M1は高エネルギー加速器研究機構の次期スーパーコンピューターシステムの一部に採用された。9月1日から稼働する予定。64ノードを導入し、素粒子や原子核分野のシミュレーションなどに利用する。
 日立はM1を含むSR16000シリーズを、2012年度までの5年間で合計30システム販売する計画。スパコンの開発を巡って、富士通やNECなどとの競合が一段と激しくなっている。

半導体ウエハー、表面状態1秒で観測――東北大が新顕微鏡、微細化に一役。

東北大学の板谷謹悟教授と大見忠弘教授らの研究グループは、半導体の製造工程でのシリコンウエハー表面の状態を高速で観測できる光学顕微鏡システムを開発した。従来、シリコンウエハー表面を観測するには数時間から数十時間かかったが、新システムは1秒程度で原子レベルの配列を把握できる。将来は半導体の製造・検査工程に組み込めるとみられ、微細化・高密度化が進む半導体の品質安定と大量生産を支援するシステムとして期待される。
 既存の光学顕微鏡の部品を改良するとともに、計測方法も工夫してシステムとしてのノウハウを積み上げた。その結果、空気中や水溶液中で化学反応させたシリコンの原子配列の段差などを観察できた。0・1ミリメートル角の範囲で1秒以下という高速の観測を可能にした。
 半導体は、基板となるシリコンウエハーを熱したり化学反応で削ったりしながら回路を形成していく。板谷教授らによると、半導体の微細化が進むなか、製造過程でシリコンウエハー表面に微妙な凹凸やひずみも生じやすく、半導体の性能や品質に影響する恐れもあるという。
 表面の状態を調べるには、電子線を照射しながら表面画像をコンピューターで読み取る「走査性電子顕微鏡」を使う方法などがある。ただ現状の方式は計測に時間がかかるうえに観察範囲も数マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル角と狭く、製造ラインに組み込むのは難しいという。板谷教授らは今回の技術をもとに半導体製造装置メーカーなどと協力して、製造工程に組み込める検査システムとしての実用化を目指す。

電力自給の下水処理、メタウォーター、50~100%賄う――発生メタン活用。

 水処理事業の国内最大手であるメタウォーター(東京・港、木田友康社長)は下水処理向けに、バイオマス発電などを利用して電力を賄うシステムの開発にめどをつけた。特殊樹脂で下水を効率的にろ過するほか、汚泥を発酵させてつくるメタンガスを使い燃料電池で発電する。都市ガスも原料に加えると下水処理に必要な電力の50~100%を供給でき、来春以降に全国の自治体へ売り込む。
 このほど、省エネ型の下水処理技術の開発を目指す国土交通省のモデル事業に選ばれた。国交省から11億円の補助金を得て、大阪市内の下水処理場にパイロットプラントを建設する。1日当たりの処理量は5700立方メートルの見通し。日本下水道事業団と共同で、2012年3月まで実証実験に取り組む。
 下水処理場では通常、家庭などの汚水を沈殿池に一定期間ためて、水と固形物を分離する。固形物と分離した後の水は、さらに微生物を入れて有機物を分解して浄化している。この際、空気を送り込んで微生物の働きを活性化させるため大量の電力が必要。下水道処理施設で使う電力の約3割が空気を送り込む装置で利用されている。一般に下水処理場で使う電力は日本全体の電力供給量の約1%を占めるという。
 メタウォーターのシステムはまず、家庭から出た汚水を貯水槽に入れ、水と汚泥に分離。装置内に浮かせた樹脂の粒の間に水を通すことで、効率的に水を浄化する。汚泥の除去率は66%と従来より20ポイント改善する。樹脂でろ過した水は有機物が少なく、微生物による浄化処理に必要な電力を2割減らせるという。
 こうして前工程で省エネ化したうえで、水と分離した後の汚泥を自家発電に利用する。汚泥槽の中に菌を入れて発酵させ、メタンガスを発生させる。槽に不織布を入れて菌を増殖しやすくするほか、自治体が家庭から回収した生ゴミも加えてメタンガスの発生量を増やす。
 このメタンガスを原料に燃料電池で発電する。大阪市の実証設備の場合、メタンガスだけの発電量能力は25キロ~30キロワット。燃料電池の原料として都市ガスも使えば能力は100キロワットと、実験場となる下水処理設備の電力をほぼ賄える。
 電力不足の長期化が予想されるなか、実証実験で効果を確認して自治体に販売する。新システムは一般の下水処理設備で使う電力の50~100%を供給できる見通し。将来は新興国など海外でも販売する考えだ。
 メタウォーターは富士電機グループと日本ガイシの水事業が統合して08年に発足した。10年度の売上高は09年度比で横ばいの1005億円、営業利益は約2割増の81億円だった。