2013年5月16日木曜日

スパコン京――「戦略的利用で性能発揮を」、総合科技会議が事後評価

後継機へ課題生かす
 政府の総合科学技術会議(議長・安倍晋三首相)は13日、国の大型研究開発の事後評価などを議論する専門調査会を開いた。理化学研究所のスーパーコンピューター「京」の検証を開始。7月までに評価結果をまとめるが、出席者からは高い計算能力を生かした「戦略的な利用を促すべきだ」などの注文が付いた。
 京は毎秒1京回(京は1兆の1万倍)の演算ができる世界最高水準の性能を持つ。新薬開発から地震・津波の予測まで幅広い利用が期待できる。
 2006年度に事業に着手。12年度までの予算は約1111億円で、12年9月に本格稼働した。世界性能ランキングで11年6月に1位を獲得したが、1年後に2位に転落。現在は米クレイ、IBMのスパコンに次ぐ3位だ。
 専門調査会では理研を所管する文部科学省が、京について今年3月までに100件の利用が採択されたと報告。利用企業はトヨタ自動車や竹中工務店、大日本住友製薬など46社に上る。データを細かく分け、並列台数を多くした超並列処理などの技術的課題を解決し、卓越した成果を創出したと評価した。
 ただ出席した委員からは使い方に工夫が必要だとの声が出た。京を使って0・3京以上の大規模計算をするのは2週間に2日程度。委員からは「1京の演算ができる性能を発揮する使い方をすべきだ。民主的にみんなで小分けで使うと開発した意味がない」との指摘が出た。
 戦略的に利用する仕組みを決めるための指針が必要だとの意見もあった。消費電力について「必ずしも省電力できなかったのではないか」との声も上がった。
 文科省は14年度から、京の100倍の計算能力を有する後継機を開発する方針だ。専門調査会は9月から後継機の事前評価も始める。京の検証作業で問題点を洗い出し、後継機開発に生かすことが求められる。

NEC、冷却電力半減、データセンター向け技術、冷媒活用

 NECはデータセンター向けの新たな省電力技術を開発した。コンピューターの冷却に費やす電力を半減できる。エアコンに使う冷媒でCPU(中央演算処理装置)の熱を取り除く。水を巡らして冷やす従来方式と組み合わせ、今年度中の実用化を目指す。
 データセンターは年率約10%で市場が成長しているが、消費電力の削減が大きな課題だった。一般に電力の約半分はコンピューターなどの冷却に使っている。
 新技術は冷媒の代替フロンを入れた容器をCPUの隣に設ける。CPUが発熱すると、冷媒が気化して熱を奪う。その後、CPUから離れた場所で冷媒は液体に戻り、熱をうまく運び出す。
 気体と液体の変化を巧みに生かす「相変化冷却」と呼ぶ方式を取り入れたのが特徴だ。
 さらにCPU以外の電子部品もよく冷やすため、コンピューターの構造を工夫し風を通りやすくした。この冷却に使うファンの消費電力に限れば、約7割減らせる。
 すべての対策を水冷を中心とする既存技術と組み合わせれば、全体の冷却電力はほぼ半分にできる。
 データセンターでは冷却に使う電力が多いと、設置できるコンピューターの数に制約が出てくる。新技術を使えば、フロアに設置できるコンピューターの数を約2倍にできる。
 精密機器に影響を与えない安定した地盤やセキュリティー環境が整った場所がどこにでもあるわけではなく、1カ所で多くのコンピューターを動かせる利点は大きい。
 コンピューターの計算速度とデータの処理量が飛躍的に高まるにつれて、消費電力も大きく膨らんでいる。例えば日本が世界に誇るスーパーコンピューター「京」では、1年間に費やす電力が90ギガ(ギガは10億)ワット時と2万5000世帯分にも相当するとの試算がある。

サムスン、アップル、スマホ、国内で決戦、ドコモの端末戦略左右

 スマートフォン(スマホ)で世界首位に立つ韓国サムスン電子の日本市場での存在感が高まりそうだ。NTTドコモはサムスンの新型機種を特に販売に力を入れる戦略スマホと定め、ソフトバンクなどが扱う国内トップのアップル「iPhone(アイフォーン)」に対抗する。サムスンが日本でシェアを拡大できるかどうかは、ドコモのiPhone導入の行方を左右することにもなりそうだ。
 「ツートップは自信を持ってお薦めするドコモの顔だ」。15日、夏商戦向け新商品を発表したドコモの加藤薫社長は記者会見終了までに「ツートップ」という言葉を10回近く発し、2つの新スマホを持ち上げた。
 ツートップは23日発売のサムスン「ギャラクシーS4」と17日発売のソニー「エクスペリアA(エース)」。ドコモは販促費を重点配分して他のスマホより価格を引き下げiPhoneにぶつける。加藤社長が特に説明に時間を割いたのがギャラクシーだ。
 サムスンが「iPhoneキラー」と位置付ける旗艦機種。鮮明なフルハイビジョン(HD)映像を表示できる5インチの有機ELパネルを世界で初採用。顔の動きで動画を自動再生・一時停止したり、画面に触れずに指をかざすだけで操作したりできる機能など持てる技術を詰め込んだ。
 主要市場でのギャラクシーS4の販売はこれからで実績はまだないが「iPhone5に対して優位。スマホ初心者にも使いやすい」(調査会社MM総研の横田英明取締役)と商品力を評価する声は多い。
 ドコモにはiPhoneに真っ向勝負を挑める機種が必要だ。iPhoneを扱うソフトバンクとKDDI(au)への顧客流出が続いているためだ。通信会社を乗り換えられるMNP(番号持ち運び制度)で、2012年度には転出の超過数が過去最悪の140万件に膨らんだ。
 ドコモ自身もiPhone導入を検討するが、販売ノルマなどアップルの条件が障害となって成り行きは流動的。そこで様々なメーカーの機種を等しく扱ってきた従来の販売戦略を転換、ツートップを対抗馬として明確に打ち出すことにした。
 ただ日本でアップルは依然強い。12年度の国内スマホ市場でのシェアは35・9%。サムスンは5位にとどまる。サムスンはここ数年で着実に存在感を高めているとはいえ、ドコモの新戦略が功を奏するかは予断を許さない。
 ツートップ戦略をもってしても顧客流出が止まらない場合、ドコモは厳しい条件をのんででもiPhone導入を迫られる。逆に流出を抑えられればアップルとの交渉で優位に立てると同時に、iPhoneなしでの独自路線という選択肢も含め戦略の自由度は増す。

手のひら、ディスプレーに、東大が技術、素早く動いても表示

 東京大学の石川正俊教授や篠田裕之教授らは手のひらなどをディスプレー代わりに情報を表示できる技術を開発した。高速で撮影するカメラで2ミリ秒ごとに位置を確認し、手が素早く動いても画像を遅延なく表示する。映像に合わせて超音波で手のひらに刺激も与えられる。将来は手のひらを押して情報を入力する技術と組み合わせて、携帯端末を持たずにコンピューターを操作する新技術として実用化を目指す。
 装置は2台の高速カメラと画像を投影するプロジェクター、手のひらの触覚を刺激する超音波発振機などからなる。高速カメラで手のひらや紙など表示したい物の位置を立体的に特定し、プロジェクターで画像を投影する。
 今回は「7」など特定の部位に超音波を当て刺激が感じられるようにした。
 これまでのプロジェクターで映像を表示する技術は静止した物に使う程度。移動する物に遅延無く、投影するのは難しかった。新技術なら動く物でもディスプレーになる。
 工場や事務所内に装置を設置すれば、情報端末を使わずに遠隔地のコンピューターから情報を自在に入手できる環境に変えられる。企業と協力して実用化を目指す。

太陽光発電用シリコン、砂漠の砂から生産、弘前大研究所、低コストで。


 砂漠などに大量に存在する二酸化ケイ素(シリカ)から太陽光発電用の太陽電池の材料に使う高純度シリコンを低コストで生産する新しい技術を、弘前大学の北日本新エネルギー研究所(青森市)が開発した。アフリカのサハラ砂漠に近いアルジェリアのオラン科学技術大学と連携し、今秋から実証実験を始める。
 同研究所の伊高健治准教授らの研究グループが、砂から精製したシリカを、るつぼの中でセ氏1800度程度の高温で炭素還元してシリコンを取り出すことで不純物の割合を少なくする方法にめどをつけた。
 サハラ砂漠の砂に含まれるシリカからシリコンを大量生産し、サハラ砂漠に建設する太陽光発電所で発電した電気を抵抗の少ない超電導直流電線を使って欧州などへ送る「サハラソーラーブリーダー計画」の一環。
 科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)の助成を受け、2010年から弘前大や中部大学などが共同で進めている。
 計画を主導する東京大学大学院の鯉沼秀臣客員教授は「大量の電気を低コストで生産、世界中でその電気を融通し合うシステムが可能になる」と話している。

日本版GPS活用へ協議会、「経済効果4兆円」流れ変わる

 全地球測位システム(GPS)の日本版で正確な位置情報サービスを提供できる「準天頂衛星」の産業利用に向け、7月にも産官学の協議会が発足する。ソフトバンクモバイルや三菱電機など約200社が参加、2016年にも社会実証試験が始まる。企業が知恵を持ち寄りながら、ビジネスへの道筋をつける。
 「高精度衛星測位サービス利用促進協議会」の設立は15日、都内で開かれた「衛星測位と地理空間情報(G空間)フォーラム」で明らかになった。経済産業省の武藤寿彦宇宙産業室長は「準天頂衛星の利用は企業から意見が出ることで急激に拡大する」と企業に積極的な参加を呼びかけた。
 内閣府の宇宙戦略室や経済産業省、文部科学省などのほか、宇宙関連の研究をする大学教授らも参加。「海外展開」や「利用環境」など課題ごとに4つの作業部会を設け、アジアでの通信インフラの利用環境や必要な法整備などを議論し、政府に提言していく。
 準天頂衛星は日本列島などの真上を8の字を描いて旋回し位置情報を地上におろす。現在のGPSでは約10メートルある誤差が十数センチになる見込みで、より正確なカーナビゲーションシステム、飛行機の運用、建機の制御、防災などへの応用が進むとみられる。
 これまでに位置情報や受信の精度などを調べる技術実証試験を終えた。全国で均一に高い精度で測位データを得られることなどが確認できた。
 準天頂衛星は今でこそ政府の重要施策だが、1基あたり300億円以上とされる巨額投資にかねて省庁や民間企業は及び腰だった。それが一転、内閣府が11年に引き取ると整備計画が加速。経済官庁が水面下で動いて経済波及効果が「日本を含めたアジアで約4兆円」と訴えるなどして流れが変わった。専門家も「産業界からの強い働きかけで(協議会設立が)実現した」と分析する。
 「GPS依存」からの脱却を求める意見もある。GPSの測位データは無料で使えるが、いつまでそれが続くか分からない。安全保障の観点からも早く7基体制を確立し、独自にデータを取得する必要性も指摘される。
 海外では中国や欧州、ロシアなどが独自の測位衛星計画を進める。準天頂衛星をうまくビジネスにするには受信機の普及や斬新なアプリケーションが必要になる。運用の前提となる4号機まで滞りなく開発することも欠かせない。

リチウムイオンキャパシタ――JMエナジー、EV向け照準

2倍のエネ放蓄電 可能に
 JSR子会社のJMエナジー(山梨県北杜市)は従来製品と比べて約2倍の高エネルギーを放蓄電できるリチウムイオンキャパシタを開発した。現在は産業機械の補助電源としての用途が中心だが、高電圧が必要な電気自動車(EV)や鉄道向けにも搭載が可能になる。パッケージの小型化につながるため、自然エネルギーの小口蓄電など成長分野での用途拡大が期待されている。
 JR中央本線の小淵沢駅から東に約10キロ離れた山あいに、JMエナジー本社はある。同社は2008年11月、この地で他社に先駆けてリチウムイオンキャパシタの製造工場を立ち上げた。
 機械の補助バッテリーとして一般的に使われている電気二重層キャパシタは、急速な充放電が可能でほとんど劣化しない特徴を持つ。ただ、自己放電が多く、エネルギー密度が小さいのが課題で、大量に電気をためる蓄電装置はリチウムイオン電池が主流となっていた。
 同社は高いエネルギー密度が可能なリチウムイオン電池と電気二重層キャパシタの特性を併せ持つリチウムイオンキャパシタに注目。生産コストを抑え、リチウムイオンキャパシタの量産に成功した。
 JMエナジーの宮部五郎社長は「耐久性や安全性が高く、メンテナンスフリーを実現できるため、医療機器や停電補償装置として採用が進んでいる」と指摘。同社は現在、金属の容器で包んだ角型で年12万セル、ラミネートで密封したラミネート型で年30万セルの生産能力を持つ。
 ただEVやハイブリッドカーへの本格採用を目指すには、さらにエネルギー密度を高める必要がある。そこで同社は正極材に使う活性炭と負極材に使う炭素素材をより低抵抗な新素材に作り替え、今年に入り新製品を開発した。
 新製品の角型のエネルギー密度は1キログラム当たり16ワット時、ラミネート型は同20ワット時。同社の従来品と比べて約2倍の高エネルギーを放蓄電できるようにした。瞬発力を示す出力は他社製品の約3倍で、急速な放蓄電も可能になったという。
 新製品は量産車にも採用される可能性が出てきた。アイドリングストップ時のエンジン起動に必要な電気を蓄える部材として使われる電気二重層キャパシタと比べ、約4~5倍のエネルギー密度があるため、代替需要が見込めるからだ。
 これまで顧客は放蓄電量に合わせて複数のリチウムイオンキャパシタを専用のセルモジュールに組み込んで利用していたが、新製品は必要なセル数が従来の2分の1で済み、コスト削減効果が見込める。さらにパッケージを小型化することで、太陽光・風力を使った外灯の蓄電など自然エネルギー分野にも用途が広がる。
 同社は約8億円を投じ、今年6月にもリチウムイオンキャパシタの研究棟の増設を完了させる。製品の評価装置も新たに導入する予定で、「高機能な製品開発を加速させる」(宮部社長)考えだ。
 ▼リチウムイオンキャパシタ キャパシタはコンデンサーの別名。化学変化ではなく、正極と負極に電子が吸着することで電気を蓄えられる電気二重層キャパシタと、リチウムイオン電池の特性を組み合わせた蓄電装置。正極に活性炭、負極にリチウムイオンを吸収した炭素素材を使用。繰り返しの急速充放電が可能で、通常のキャパシタと比べ、エネルギー密度が高い。

新薬や新材料研究に活用、光・量子ビーム技術融合――文科省新事業

小型加速器も開発
 文部科学省は光技術と量子ビーム技術を融合した新たな研究開発事業に乗り出す。電磁波を利用する光技術と、中性子やイオンを使う量子ビーム技術の知見を統合し、物質の構造や反応などを解明する。小型加速器の開発にも着手。得られた成果を手掛かりに新薬や新材料の開発につなげる。
 同省は従来、光技術と量子ビーム技術を別々に研究してきた。光を増幅したレーザーは情報通信や建築加工に応用。量子ビームは物質・材料の解析に有効だ。ただ近年は両技術の役割が重なりつつあり、融合の必要性が指摘されていた。
 今後3~5年かけてレーザーのほか、中性子やイオン、電子、放射光など複数の光・量子ビームを利用し、新原理の解明を目指す。事業数は3~6件程度で1件あたり年間最大1億円を投じる。5月下旬に委託先を決め、6月末にも事業を始める。
 レーザーや放射光などのそれぞれの波長やパルス幅の違いを利用し、物質の反応を解析する事業などを想定。人の視覚システムが解明できれば新薬開発が期待できる。光合成の過程を解明できればエネルギーの変換・貯蔵のための超微細部品の研究開発に役立つ。
 短時間で大きなエネルギーを発するパワーレーザーで超高圧状態にした上で、電子で作った放射光を当てて物質の反応を解析する事業も想定される。従来の技術では実現できない超高圧下の新たな物質材料が創出できる可能性がある。
 文科省は量子ビームの新たな加速器の開発も始める。従来の加速器は茨城県東海村の「J―PARC(大強度陽子加速器施設)」や兵庫県播磨科学公園都市の「SPring―8(大型放射光施設)」など大型の施設が多かった。研究室規模で使用できる小型加速器を開発する。
 光科学施設を含め他の施設に持ち運び可能な小型加速器を作り、光・量子ビーム技術の融合を効率的に進める。メーカーなど産業界の研究者も容易に利用できる解析ソフトを備えたシステムも開発する。このほか各施設の共用や人材交流も進める。先端的な光技術・量子技術を複数備える研究者を育成し、イノベーション創出を強力に推進していく方針だ。

iPSから造血幹細胞、東大、マウスで治療効果。

 東京大学の中内啓光教授らはマウスの体内を使い、人間のiPS細胞から血液のもとになる造血幹細胞を作ることに成功した。別のマウスへの移植で治療効果があることも確認した。白血病など血液の難病の治療法研究に役立つ。米科学誌(電子版)で14日発表した。
 iPS細胞をマウスに移植するとできるテラトーマ(奇形腫)という良性腫瘍に着目。細胞の増殖を促すたんぱく質などとともに人のiPS細胞をマウスの皮下に投与し、腫瘍の中で造血幹細胞が育ちやすくした。
 腫瘍から骨髄に集まった造血幹細胞を採取し、人為的に造血幹細胞を壊した別のマウスに移植した。マウスは致死量の放射線を浴びていたが、移植後も生き延びた。骨髄に集まった造血幹細胞はリンパ球などすべての血液細胞を生産していた。
 iPS細胞を体外で人工的に培養する従来の手法では十分に働く造血幹細胞を作るのが難しかった。ただ、今回の成果を治療に生かすにはブタなどの大きな動物で造血幹細胞を大量に作る技術などの確立が必要になる。
 テラトーマを人間の体内で作るのは倫理的に問題がある。当面はiPS細胞から病態を再現した造血幹細胞を作り、血液難病の発症の仕組みや治療法の研究に生かす。

ソニー――4Kテレビ用超解像技術、フルHDも高精細に

 ソニーは6月からフルハイビジョンの約4倍の解像度を持つ「4K」の液晶テレビの販売を本格化する。苦戦が続くソニーのテレビ事業にとって4Kテレビは再生の切り札。通常のフルハイビジョン映像でも4Kに近い画質で楽しむことができる超解像技術を活用し、ライバル各社に差を付ける戦略だ。
 「ソニーが持つ15年以上にわたるテレビの高画質化ノウハウのすべてを投入した」。テレビ事業部で4Kテレビの開発を担当する飯田譲司エンジニアリングマネジャーは、6月1日に発売する4Kテレビ「KD―65X9200A」を見ながら強調する。
 ソニーは昨年11月に84型の4Kテレビを発売したことを手始めに、6月から65型と55型の2機種の販売を始める。4Kとは1000の単位を意味し、水平方向の画素数が約4000のために名付けられた。解像度がフルハイビジョンの約4倍のため、従来はぼやけていた画像が鮮明に見えるようになった。
 4Kテレビについて、4Kコンテンツの不足が普及を遅らせるとの見方もある。しかし、ソニーの4Kテレビ「X9200Aシリーズ」の特徴は通常の映像でも4Kに近い鮮明な画質に高めて楽しめること。それを実現したのが同シリーズに搭載した超解像エンジン「4K・X―リアリティ・プロ」だ。
 4Kよりも画質が劣るフルハイビジョンの映像をどう4Kの画質に高めるのか。ソニーでは「データベース型照合置換」という技術を採用する。
 ソニーは映画や放送部門が4Kの映像データを大量に保有しており、4Kの映像信号波形をフルハイビジョンに劣化させた場合の波形の変化パターンを数千種類持っている。この変換パターンを逆方向で利用するのがデータベース型技術のミソだ。
 具体的にはフルハイビジョンの映像信号波形が入力されたら、まずノイズを低減する処理を施した後、変化パターンを蓄積したデータベースで照合。4K映像として撮影した場合に持つとみなす映像信号波形を作り出し、被写体の輪郭や質感などを復元して鮮明な映像を実現する。
 国内のライバルメーカーも超解像技術を導入したとしているが、ソニーによると、データベース型は同社独自の技術。他社は半導体などによる演算型の技術を採用しているという。データベース型のメリットは4K映像の再現性が高いうえ、処理速度が速く、エンジンに組み込んだ半導体への負担が少ないため、コストを圧縮できる点にある。
 液晶テレビの世界市場は2012年に初めて前年割れとなったため、各社は4Kテレビで消費意欲を高める狙いだ。ソニーのほか、東芝やシャープといった日本メーカーに加え、韓国のLG電子や中国の海信集団(ハイセンス)や創維集団(スカイワース)などが発売。50型で1万1000元(約16万円)の低価格商品も登場している。
 ソニーは超解像技術を使った製品投入により、低価格を特徴とする中国メーカーとは違いをアピールする。テレビの歴史は高画質化と大画面化の歴史でもあり、4Kの次はハイビジョンの16倍の解像度を持つ「8K」も控える。飯田エンジニアリングマネジャーは「低品位の映像を高品位に向上させる超解像技術の精度を高めていきたい」と意気込む。

北陸先端大など、細菌3D模型、5時間で造形

 北陸先端科学技術大学院大学の川上勝准教授らは、複雑な構造をした細菌の3次元(3D)模型を短時間で作る技術を開発した。顕微鏡写真や想像図をもとにCG(コンピューターグラフィックス)画像を作り、3Dプリンターで作製する。立体模型を手掛かりに化学物質を合成すれば、新薬開発につながる。
 大阪市立大学の宮田真人教授、3D模型作製ベンチャーのスタジオミダス(埼玉県上尾市・中村昇太社長)との共同成果。細胞内に寄生して肺炎の原因にもなる細菌のマイコプラズマの3D模型を作製した。実際のマイコプラズマは長さが1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル程度だが、作製した3D模型は約20センチメートルで重さ約50グラムある。
 模型の作製には市販価格が十数万円の安価な3Dプリンターを使った。ABS樹脂製で材料費は1000円以下。5時間で完成した。従来は専門メーカーに注文してから納品まで1カ月以上かかり、価格も40万~50万円程度になるとみられる。
 マイコプラズマは動物や植物の細胞に比べてはるかに小さい。外観は顕微鏡で観察されているが、正確な内部構造はわかってない。マイコプラズマの生態を長年研究する宮田教授らが作った想像図をもとにチームでCGを作製。川上准教授らが印刷の向き、部品構成など3D印刷に適した設計図をパソコンで作りデータを入力した。
 川上准教授は公開データから複雑な構造のたんぱく質の3D模型も作っている。今後は、想像図から生物や生体物質の3D模型を作り、創薬などの研究に役立てる。

2013年1月31日木曜日

日本電気硝子、新ガラス基板、有機ELパネル、連続生産に対応、導電膜付き。



 日本電気硝子はガラス基板の電気を流れやすくする酸化インジウムすず(ITO)の透明導電膜を付着させたロール状の薄型ガラスを開発した。ITO膜は真空状態で形成するため、現在は数メートル角のガラスをフィルムなどと張り合わせてパネルにしている。ITO膜付きのガラス基板ロールで供給すれば有機ELパネルが印刷のように連続生産でき、大幅なコストダウンにつながりそうだ。
 日本電気硝子は自社のロール状の極薄ガラスを活用。真空容器の中にロール状のガラスを入れ、巻き取りながらITO膜を付着させた。薄さ50マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル、幅30センチメートルのガラスで、長さ100メートルまでのロールで供給できる。
 有機ELやタッチパネルの基板素材としては樹脂フィルムも検討されている。しかし、樹脂は耐熱温度が百数十度と低いため、ITO膜の電気抵抗が高くなる傾向がある。導電性を確保するため膜が厚くなり、レアメタル(希少金属)のインジウムの使用量が増えてしまう。さらに、透明性も落ちることもある。
 ガラス基板はセ氏300度前後までの耐熱性がある。セ氏300度で蒸着するとITOの結晶がきれいに並ぶため、電気抵抗が低くて薄い膜を形成できる。
 有機ELは水分に弱く、通気性のある樹脂フィルムでは性能が落ちる恐れがあるが、ガラスは気体を通さないため有機ELの劣化を防げる。絶縁性にも優れる。
 大型の有機ELパネルやタッチパネルの量産技術では、電子部品メーカーなどがインクジェット方式でガラスに炭素や窒素などを印刷して作る製造方法の研究を進めている。印刷方式の製法が実用化されると、連続生産によって有機ELパネルの製造コストが10分の1になるとの試算もある。
 日本電気硝子は電子部品メーカーにサンプル品の販売を始めた。印刷方式による有機ELパネルなどの生産が本格的に始まるとみられる来年から生産量を引き上げる。

NLTテクノロジー、医療用モニター―光透過20%高め鮮明



 中国の複合企業である中国航空技術国際グループとNECが共同出資する液晶パネルメーカー、NLTテクノロジー(川崎市、大井進社長)は今月、新しい医療用モニターの量産を始めた。基板の配線の改良などで光の透過率を大幅に高め、X線画像などがくっきり鮮明に表示できるようにした。日米欧の医療機器メーカーなどの既存顧客のほか、中国の顧客開拓にも取り組む。
 「欧米や日本のメーカーの反応は良い。受注も堅調だ」。モニターの開発を担当するNLTテクノロジーの森山浩明執行役員は、昨年12月に受注を始めた新たな医療用モニターの販売に手応えを感じている。
 医療用モニターはX線や内視鏡で撮影した画像を画面に映し出す。映し出す画像データは撮影した検査室から医師の手元のモニターに送られる。モニター画面の高画質化への要求は高まっており、NLTはパネルの設計とバックライトの光源変更で応えた。
 まずパネルの基板の設計を見直し、明暗をはっきりさせて画像が鮮明に見えるように仕上げた。画面の輝度を高めるため、バックライトの光を遮ってしまう配線を抵抗の低い材料に変えるとともに配線同士の幅を狭くした。基板上のトランジスタも小さくして、背後から光を通すための開口部が大きくなるようにした。パネル全体の光の透過率は従来より20%上がった。
 バックライトの光が放射線状に散逸するのを抑えて黒に深みも持たせた。コントラスト比を1400対1と大幅に高めることに成功した。
 モニターの画像を使って診断する時間が長くなっているなか、バックライトを長寿命にする課題にも応えた。
 バックライトを蛍光管から白色発光ダイオード(LED)に変更。採用した白色LEDは近年の性能向上で7万時間駆動できる。医療用モニターの輝度は1平方メートル当たり1700カンデラとテレビの約3倍の水準が求められるが、明るさと長時間の駆動を両立した。
 NLTは中上位モデルの医療用モニターで世界の3~4割のシェアを握るトップ企業。主に先進国市場で現在の地位を築いたが、今後の販売先に期待しているのが中国市場だ。経済成長に伴って中国でも高水準な医療サービスが求められるようになれば、NLTが得意とする中上位モニターの需要が出てくる可能性がある。
 NLTはNECの子会社のNEC液晶テクノロジーが母体。2011年に中小型液晶パネルの大手メーカー、天馬微電子を傘下に持つ中国航空技術国際グループから7割の出資を受けた。
 天馬微電子は中国全土に販売網を持つ。NLTは営業担当者を中国に駐在させ、中国の医療機器メーカーへの売り込みを強める。「天馬微電子の工場で量産もできる」(森山執行役員)と中国事業の拡大に備える。

ローム系のラピス、マイコン、消費電流を半減、ネット銀認証用、中国に供給。


ロームの子会社の半導体メーカー、ラピスセミコンダクタ(横浜市、岡田憲明社長)は消費電流を従来品の半分に抑えた小型のマイコンを開発した。コイン大の小さな電池でも電子機器を長時間駆動できる。まず中国のネットバンキングの認証に使うトークンの部品として供給する。
 開発したマイコン「ML610Q474ファミリ」は3月から宮城工場(宮城県大衡村)で量産する。サンプル価格は1個200円。
 8ビットのCPU(中央演算処理装置)を備える。内蔵する水晶発振回路や変圧装置などに使う電流を半分にするなどして全体の消費電流を従来の500ナノ(ナノは10億分の1)アンペアから250ナノアンペアに引き下げた。
 これまでは水晶発振回路などが使う電流を抑えると電波や静電気、他の電子回路から発生するノイズの影響を受けて誤作動が起きやすくなる課題があった。ラピスはこのほど横浜市の本社内にノイズを試験・計測する最新の実験室を開設。ノイズを抑制するフィルター(トランジスタ回路)をマイコン内に細かく設定して少ない電流でも安定的に動くことを実験で確認した。
 デジタル回路は通常、動作時に一定周期のクロック信号を出して電流を消費する。新製品ではマイコンを使わない間はクロック信号を止めたり、電圧を調整することで高温時にトランジスタから漏れる電流を減らしたりした。これらの技術の積み重ねで消費電流の大幅削減を実現したという。
 消費電流が少なければ容量が少ない電池でも長い時間動作するため、製品の小型化や電池の調達コストの削減につなげられる。
 ラピスは中国の金融機関の利用者に広がっているトークン向けに供給する。トークンは一度しか認証に使えない使い捨てのパスワードを生成する小型の機器。同社は主に腕時計や電卓向けに低消費電流のマイコンを供給してきたが、中国でトークンの需要が拡大していることを受け、2014年度には1500万個の量産を計画する。将来は腕時計や歩数計、玩具などの需要も見込む。
 ラピスはOKIの半導体事業部門が母体の会社で、ロームが08年に買収した。昨年11月に本社を東京都八王子市から横浜市に移転。八王子にあった光ファイバー通信機器事業は3月1日付で米通信機器メーカー、ネオフォトニクス(カリフォルニア州)に約30億円で売却する。八王子の工場設備を譲渡し、従業員80人も移籍する。

ホンダ―家庭用熱電併給システム、光熱費、年5万円節約



 ガスで発電し、排熱を給湯や暖房に使うホンダの熱電併給システムがじわじわと普及している。納入先のガス会社は同様の働きをする家庭用燃料電池「エネファーム」に注力するが、2011年の東日本大震災以降は販売が上向いている。
 同システムは都市ガスを燃料にエンジンで発電し、その際発生する熱を回収、再利用する仕組み。給湯暖房ユニットと組み合わせると光熱費を年約5万円節約できるという。家庭用を手掛けるのはホンダだけだ。
 03年に商品化し、東京ガスなどガス会社が「エコウィル」の商品名で80万円程度で販売している。11年に全面改良し現行機を発売。33%小型化する一方、発電効率を従来の22・5%から26・3%に高めた。
 ガス会社が09年にエネファームを発売しており、改良当初は販売が伸び悩んだ。だが、「大震災で分散電源への関心が高まった」(大阪ガス)ことから、エコウィルの販売が多い大阪ガスの12年4~12月の販売台数は4033台となり、前年度を上回るペースで推移している。
 ホンダは12年11月に停電時にも使用できる機能が付いたモデルを追加した。12年末までの約10年間の販売台数は計12万4000台。四輪、二輪に次ぐ汎用製品の主力製品として地道に販売する考えだ。
(遠藤淳)
 注文住宅などの城南建設(相模原市、黒羽秀朗社長)が1999年に発売した木造戸建て住宅「檜(ひのき)物語」が好評だ。柱や梁(はり)など主要な建材に強度の高い国産のヒノキを採用。これまでに累計約2万棟を販売した。
 ヒノキはシロアリ被害や経年の腐食に強い高級建材。きめ細かい木目も特徴で、和室などのデザインにそのまま活用すれば高級感を演出できる。
 一方で、建設後の湿度変化によって木が収縮し、割れる恐れがある。あらかじめ切れ込みを入れ「あそび」をもたせて収縮量を調整する手法もあるが、強度が落ちるのが難点。同社は独自の乾燥手法で切れ目を入れずに製材し強度を保つ。
 ヒノキは一般的な集成材に比べ6割程度価格が高くなる。森林組合や製材工場と組み独自の調達経路を開拓、原価を抑えて通常の材木と同等の工費で建設できるようにした。
 販売価格は1480万円(延べ床面積90平方メートル)と大手ハウスメーカーに比べ数割安く抑える。今月26日には、最小限の骨組みで開放的な印象を与える「シースルー階段」などを標準仕様に追加。デザインにこだわる消費者の取り込みにも力を入れている。

再生医療に法規制―iPS細胞など承認制に、厚労省、今国会提出へ



 厚生労働省は人の幹細胞などを使った再生医療の規制を法制化する方針を決めた。人体へのリスクが大きい治療は医療機関が国の承認を受けることなどを義務づける。iPS細胞をもとに作った細胞などを移植する場合に規制を適用する考えで、iPS細胞の実用化に備える。
 30日に開いた有識者らの専門委員会で議論した。2月に開く次回会合で取りまとめ、今国会に提出、成立を目指す。
 導入する規制は3種類で、使う細胞の種類や人体へのリスクに応じて分類する方針。臨床で使われたことがないiPS細胞などは厚労相の事前承認が必要となる。体性幹細胞を使う手法など、安全性がある程度確立したとみなされた治療は第三者委員会の審査を受け、届け出る。
 患者に健康被害が生じた場合は補償する。細胞の培養や加工を担う施設の基準なども定める。
 現在、大学などが実施する再生医療の臨床研究には国の指針がある。一方で、クリニックなどが自由診療で独自の再生医療を実施。安全性や高額費用などが問題視されるケースもある。厚労省は再生医療に法規制を導入し、不信感の広がりを食い止める。
 日本再生医療学会の岡野光夫理事長は、細胞を使う再生医療は高い技術が必要だと指摘。規制法は「安全で効果的な治療法を患者に届けるために前進だ」と評価している。

日本ガイシ、今春ウエハー、セラミックス技術活用、LED・スマホ照準。


 日本ガイシが祖業のセラミックス分野で培った材料技術を武器に、ウエハー事業に今春参入する。狙うのは、発光ダイオード(LED)光源やスマートフォン(スマホ)向けの電子部品などの成長市場だ。排ガス浄化用セラミックスなどの自動車関連に依存する事業構造の見直しに向け、新事業の育成を急ぐ。
 「研究部門が(先端素材である)窒化ガリウムのいいウエハーを作った。生産技術や営業など全社の力をインプットして事業を成功させる」。加藤太郎社長は意気込む。
 窒化ガリウムはLED素子の発光効率を飛躍的に高める素材として注目されている。量産は難しいとされてきたが、同社はセラミックスなどで培った材料技術を発展させた。溶かした半導体材料から結晶を成長させる「液相成長法」を応用し、高品質のウエハーを安価に得られる独自製法を確立した。
 LED研究で著名な名古屋大学大学院工学研究科の天野浩教授らの協力を得て、高輝度化が困難とされる緑色LEDの素子でも、発光効率を既存製品の2倍に引き上げられることを確認した。プロジェクターの光源の小型化や省電力化が可能になるほか、タブレット(多機能携帯端末)やディスプレーのバックライトとしても有望だ。
 3月末までにウエハーを月1000枚以上(2インチ換算)量産できる体制を整備。LED素子メーカー向けに供給する。
 窒化ガリウムウエハーは電力損失が少ない点にも注目が集まる。2014年までに大口径ウエハーの量産体制も整え、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)、産業用機械などのパワー半導体の中核材料として供給する計画だ。19年3月期に窒化ガリウムウエハーで売上高100億円を目指す。
 同社は足元では、世界的な排ガス規制強化を追い風に自動車の排ガス浄化用セラミックスが好調だ。ただ、電力部門は電力会社の設備投資抑制で電力用碍子(がいし)が振るわず、NAS(ナトリウム硫黄)電池も11年の火災事故から新規受注がゼロ。全社の営業利益のほとんどは自動車関連が稼いでおり、ウエハーに寄せる期待は大きい。
 ウエハー戦略では、スマホの成長にうまく乗りたいとの思惑もある。このほど電波を特定の周波数ごとにふるい分ける「SAW(表面弾性波)フィルター」向けに、2種の材料を接合した「複合ウエハー」を試作した。
 「材料を磨き、張り合わせるという、当社のコア技術で強みを発揮できる」(加藤社長)としてさらに高性能化を進め、窒化ガリウムとは別に事業化の準備を進めている。
 新事業立ち上げとあわせて、研究開発投資も増額する。今後3年程度で現状より3割近く多い年150億円規模に引き上げる。ウエハー事業など仕掛かり中の案件に投資するとともに、新テーマの創出・育成を強化する。「ここ数年、テーマを厳選していた」(加藤社長)という研究開発の方針を積極策に転換し、収益基盤の強化を急ぐ。

赤いiPhoneの誘惑、アップル、世界最大・中国移動に急接近


 米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の神話に陰りが見られる中、世界最大の携帯電話会社、中国移動通信集団(チャイナモバイル)にアップルが急接近している。30日に決算を発表したNTTドコモもiPhone販売が焦点だが、中国移動の契約者数はドコモの10倍強の7億件だ。神話を取り戻すために中国移動と組むのか。ティム・クック最高経営責任者(CEO)の視線は中国に向く。
 「2014年をめどに赤いiPhoneが発売されるだろう」。中国の携帯電話業界関係者がささやく。その噂のきっかけとなったのは、クックCEOと奚国華・中国移動董事長が10日に北京の中国移動本社で行った密談だ。中国移動関係者も「iPhoneを巡って交渉したことは確実だ」と打ち明ける。
 クックCEOが中国を訪問するのは2度目。12年3月にも訪問して中国移動トップとiPhoneを巡る交渉を行った。クック氏は故スティーブ・ジョブズ氏がCEOだった頃から何度か訪中しており、中国移動とのiPhone交渉を始めてから5年以上の歳月が経過したという。
 「今回は双方ともに本気だ」。中国の通信業界に詳しい証券アナリストは指摘する。中国移動の香港上場子会社の業績は伸び悩んでおり、その打開策が必要になっている。2012年1~9月の売上高は前年同期比6%増の4085億元(約5兆9千億円)で、純利益は1%増の933億元。1契約あたりの月間収入(ARPU)は70元から67元に低下した。
 なぜ収益が伸び悩んでいるのか。第3世代(3G)サービスで、中国移動は中国が旗振り役を務める独自規格「TD―SCDMA」を採用したため、スマホなどの投入で出遅れたのだ。ライバルの中国聯合網絡通信集団(チャイナユニコム)や中国電信集団(チャイナテレコム)に先行された。
 中国聯通は日本のNTTドコモやソフトバンクと同じ「W―CDMA」であるため、いち早く09年にiPhoneを導入し、シェアを伸ばした。中国の携帯電話市場全体で中国聯通のシェアは22%にすぎないが、3Gに絞ると38%に達する。中国電信はKDDIと同じ「CDMA2000」を採用して、12年にiPhone販売を開始。3Gシェアは18%を占める。
 実はアップルの中国収益も伸び悩んでいる。中国のIT(情報技術)調査会社の易観国際によると、2012年7~9月期のスマホのブランド別シェアでアップルは4・2%の7位。ピーク時の11年4~6月期の7・1%から下落した。並行輸入品などが含まれていないが、一時の勢いはみられない。アップルが明らかにした12年10~12月期の中国売上高も68億ドル(約6200億円)にとどまった。前年同期の41億ドルを上回ったが、12年1~3月期の79億ドルに及ばなかった。iPhoneを受託製造する富士康科技集団(フォックスコン)の関係者は、「iPhone5も中国販売が計画未達だ」と漏らす。
 双方が業績の伸び悩みに対する解決策として提携する可能性が急浮上しているが、中国移動版iPhoneが生まれなかった大きな理由は通信規格の問題だ。アップルはジョブズ氏の研ぎ澄まされた感性で絞り込んだ数少ない商品を大量に生産することでコストダウンを実現して巨額の利益を手にしてきており、当初3GではW―CDMAにしか対応してこなかった。
 中国移動はTD―SCDMAにこだわったため、アップルは対応商品の開発に乗り出さなかった。しかも、第3・9世代(3・9G)や第4世代(4G)とも呼ばれる高速携帯電話サービス「LTE」でも、中国移動はTD―SCDMAの発展型の「TD―LTE」を採用する。現在のLTEの主流はNTTドコモや米AT&Tが採用する「FDD―LTE」。「iPhone5」もFDD―LTEに対応しており、中国移動とアップルには大きな溝が残ったままだ。しかし、米半導体大手関係者によると、3Gと異なり、TD―LTEとFDD―LTEの技術的な違いは大きくなく、半導体チップなどの部品を共通化することができるとの見方を示す。
 このため中国移動の奚董事長はクックCEOに対してTD―LTEを本格的に商用化する14年をターゲットにして中国移動版iPhoneを開発するように強く要請したもよう。その際には中国移動が13年に1800億元を投じて全国100都市以上に20万カ所のLTE基地局を整備する計画も示したという。
 中国移動の申し出に対してクック氏はどう決断するのか。ジョブズ氏は先進性や独創性にこだわったが、現経営陣は業績向上に追われ、その誘惑に勝てそうもない。赤いiPhoneは短期的な業績拡大にはプラスだが、「アップルらしさ」が犠牲になる恐れもある。

2013年1月30日水曜日

CRESTエピゲノムの診断・治療技術

 遺伝子の働きが老化やストレスなどの周辺環境によって変わるエピゲノム。がん発症の仕組みなどを調べる中で、その働きが分かってきた。最新の研究では国民病といわれる糖尿病による腎臓機能低下などとの関わりも明らかになりつつある。
 糖尿病による合併症で多いのが腎症だ。一定以上進行してしまうと、薬で血糖値を下げていてもさらに悪化するケースが多いという。東京大学先端科学技術研究センターの藤田敏郎特任教授と丸茂丈史特任講師は、その原因が腎臓の細胞のエピゲノム変化にあるとにらんでいる。
 藤田特任教授らは科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)として研究を実施。糖尿病性腎症が、腎臓細胞の特定の遺伝子にメチル基という分子がくっつきにくくなって起こる可能性が高いことを突き止めた。
 病気のモデルマウスの腎臓を調べると、尿細管の細胞の遺伝子に通常くっついているはずのメチル基がなかった。この結果、遺伝子が過剰に働き、尿細管の機能を破壊していると考えられるという。マウスに血糖値を下げる薬を投与すると、メチル基がくっつき、遺伝子の働きも抑制できた。
 糖尿病では血液中の血糖が増えメチル基が外れてしまうらしい。そこで東大病院と協力し、糖尿病の患者の尿にわずかに混じる腎臓細胞を採取し、エピゲノムの変化を調べる研究を始めた。
 病気進行との関係が分かれば、変化したエピゲノムを元の状態に戻す薬や血糖値を下げる薬などを使い、腎症の治療や予防につながる可能性がある。「将来は患者の尿からエピゲノムの状態を調べて腎症の進行度を判定し、患者にあった薬を選べるようにしたい」と藤田特任教授は意気込む。
 エピゲノムの仕組みを治療に役立てる試みはがん分野で先行した。がん化を抑える遺伝子にメチル基がくっついて機能を抑制するのを薬で妨げる。既に、白血病の前段階である骨髄異形成症候群向けの薬が日米欧などで使われている。
 今注目されているのが精神疾患の分野だ。理化学研究所の加藤忠史チームリーダーらは双極性障害(そううつ病)の患者を対象に、情報伝達物質のセロトニンを正しく運ぶ遺伝子のエピゲノムと発症との関連を調べた。
 もともと持っている遺伝子がまったく同じ一卵性の双子で、一方だけが双極性障害を発症しているケースに着目。リンパ球の一種のDNAを解析し、両者の違いをみつけた。
 患者ではセロトニンを運ぶ遺伝子の働きが低下していた。メチル基がこの遺伝子の関連箇所にくっついていたためだった。ストレスなどの影響で、メチル基の付き方に差が生じた結果、双子でも発症に違いが起きたと研究チームはみている。
 糖尿病や精神疾患などは根治が難しい。エピゲノムに焦点を当てた研究ががん以外でも実を結べば、治療に大きな進歩をもたらしそうだ。

太陽電池向け、集光シート発電量3割増、VBの光エネルギー研、微細な突起、安価型。

 光学部品開発ベンチャーの光エネルギー研究所(茨城県つくば市、尾崎豊社長)は太陽電池の発電量を大幅に高める安価な集光シートを開発した。太陽電池のパネル表面に張り付ければ、様々な角度から来る太陽光を取り込める。実験で太陽電池の発電量が約3割増えるのを確認した。3月からサンプル出荷を始める。1平方メートル当たり7000円で販売する予定だ。
 集光シートは30日から東京都内で開くナノテクノロジー(超微細技術)の国際展示会の「nano tech 2013」に出展する。
 開発したシートは、太陽電池パネルの上に張り付ける。厚さ約100マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの透明シートの表面に、高さ100マイクロ~300マイクロメートルの突起が整然と並んだ構造。シートのどの方向から当たった光も突起がレンズの役割を果たして、シートと垂直方向に曲げて下に通す。
 これにより、太陽電池に集まる光の量が増える。従来の太陽電池は、斜めから当たった光の多くが反射してしまい、有効活用できなかった。
 実験では、シリコンを用いる一般的な太陽電池を使い、1カ月間の発電量を測定した。屋根の上で水平に置いた太陽電池はシートに張ると、通常より発電量が約32%高まった。
 また、太陽電池の水平方向から光を当てた場合の光の吸収率を、コンピューターでシミュレーション(模擬実験)した。シートを張った場合、光の96・2%を吸収できた。シートがない場合は38・7%だった。
 シートの突起は紫外線を当てると固まる樹脂で作った。現在の生産能力は1日当たり約1平方メートル。3月をめどに同250平方メートルに高める計画だ。集光シートのアイデアは従来もあったが、集光効果が高い微細な突起を並べたタイプはなかったという。
 シートは太陽電池のほか、液晶ディスプレーのバックライトなどと組み合わせることも可能。ディスプレーを自然光を取り込める構造にすれば、屋外などでも鮮明な画像が見られる。また、ポスターの裏にシートを張ると、窓から光が差し込んでもポスターが鮮明に見える。

アラミド繊維―帝人、車向けも幅広く開拓

 帝人が力を入れる高機能繊維のひとつ、アラミド繊維。強度や耐熱性に優れ、火星探査機のパラシュート部品から消防服まで、幅広く使われる。世界の自動車市場の拡大に伴い、ブレーキ摩擦材などでの採用増加も期待がかかる。米デュポンと肩を並べるメーカーとしてナノ(10億分の1)ファイバー化などで技術を磨き市場開拓を進める考えだ。
 2012年8月、地球から遠く離れた火星で、アラミド繊維が活躍した。米航空宇宙局(NASA)が打ち上げた探査機キュリオシティが大気圏を突っ切り、地上の9倍ある重力に耐えたが、そのパラシュートに使われたのだ。
 パラシュートは直径約15メートルで約60キログラムある。探査機本体と、パラシュートをつなぐサスペンション・コード80本に、アラミド繊維が採用された。これは帝人の「テクノーラ」だ。
 アラミド繊維の世界需要は約7万トン(11年、同社推定)。このうち7割を強度の高いパラ系繊維が占め、残りは耐熱性のメタ系だ。帝人はどちらの製品群も取り扱う。パラ系の世界市場では米デュポンとシェアを5割ずつ分けあう2大メーカーの地位を築いており、NASAの採用は品質への信頼を物語る。
 帝人は繊維開発の歴史のなかで高分子をコントロールする技術などを蓄積してきた。アラミド繊維では既存用途だけでなく、技術開発で市場開拓を進める。キュリオシティのような宇宙用途に限らず、新興国ではまだ性能が低いとされる消防服でも日々、実験を重ねて機能を高めようとしている。
 先端の技術力をそそぐ有力な領域が自動車だ。昨年発表した「アラミドナノファイバー」はそのひとつ。直径が数百ナノメートルで、高分子製造と均一な繊維加工の技術を使って開発に成功した。極細糸で薄いシートなどにすれば、高温に弱い樹脂製品と置き換えられる。狙う用途はリチウムイオン2次電池のセパレーター。現在はポリエチレン製フィルムが主流だ。
 「世界で自動車産業が発展する。アラミドも期待できる」と大八木成男社長は言う。アラミドの世界需要は20年に12万トンと予想され、特に自動車関連の市場が膨らみそうだ。現在でも、パラ系用途の4割はブレーキ摩擦材とタイヤ補強材だ。
 ほかに、光ファイバーケーブルの補強材としても使われ、昨年にケーブルの耐圧性が3~5倍に高められるテープ製品も生み出した。素材をどう顧客ニーズに合わせた形に変えるかが、重要な課題となってきている。
 アラミド繊維事業を始めたのは1972年。長時間の耐熱性、難燃性があり高温でも物性が落ちない製品の生産からだった。帝人は70年代前半、レーヨンから撤退するとともに、フィルムや医薬の分野に進出し、経営を多角化していた。
 弾みがついたのが、2000年のオランダ・アコーディス社の事業買収だった。爆発的とはいえないが、徐々に性能が認められ市場が広がるなかで、オランダなどで能力増強へ投資も続けた。
 順風ばかりではない。アラミド繊維などの高機能繊維・複合材料部門は、13年3月期の売上高が1200億円、営業利益は5億円の見通し。それぞれ前期の12%減、92%減となる。欧州などの景気後退のなかで政府などによる防弾、防護用途への支出抑制が響いたようだ。景気の影響を受けやすい用途もある。
 ただ、医薬事業が中心となっている帝人にとって、世界で存在感のあるアラミドは多角化の重要な柱。培った技術を存分に発揮し、焦点を絞った開発で成長につなげる考えだ。

東レ、コレが自慢のナノ技術、世界最細の繊維開発、直径150ナノ。

 東レは29日、直径が150ナノ(ナノは10億分の1)メートルと世界で最も微細な繊維(ナノファイバー)を開発したと発表した。高機能の衣料品やフィルター材料などへの利用を見込む。
 開発したのは1本の繊維が長い「長繊維」のポリエステルナノファイバー。ポリマーを糸に加工する際の押し出し口の形や圧力を調節し、従来の最細だった直径300ナノメートルから半減させた。一般の衣料用繊維に比べて直径が100分の1の大きさだという。
 開発したナノファイバーを織物に使うと、重量あたりの表面積が大きいため、汗を多く吸収する。フィルターにすると、繊維の隙間が小さくなるため、細かいものまで分離したりできる。
 半導体や液晶の工場で床を掃いて細かなチリやホコリは除去できる用途も見込む。アパレルなどにサンプル出荷する。

透明導電フィルム、日立化成が量産、タッチパネル用、秋から。

 日立化成は29日、タッチパネル向けの透明導電フィルムを今年10月から量産化すると発表した。スマホ(スマートフォン)やタブレット(高機能携帯端末)向けに販売を進め、2015年度には年60億円規模の売上高を目指す。
 透明導電フィルムは米カンブリオス・テクノロジーズ(カリフォルニア州)と共同開発した。日立化成の感光性フィルムとカンブリオスの銀の導電インクを活用し、折り曲げることができるフィルムを開発した。
 日立化成は山崎事業所(茨城県日立市)で月産数十万平方メートルの生産設備を稼働させている。サンプル出荷を進める中で、一定の受注が見込めると判断。生産能力を拡大し、量産化に乗り出すことを決めた。
 タッチパネルを巡っては、スマホやタブレットに加え、パソコンやテレビなどで今後、採用機器が増えるとみられる。ディスプレイサーチ(東京・港)の調査では、15年のタッチパネル市場は12年比で1・7倍に拡大する。

東レ、コレが自慢のナノ技術、新フィルム、絵柄転写円滑、硬さ異なる樹脂を積層。

 東レは家電や自動車の部品に絵柄や文字を転写する「離型フィルム」の開発品を発表した。フィルム上に印刷層の膜をつくったり、この膜を部品に貼りつけたりする工程が、通常の離型フィルムを使うより円滑にできるという。サンプル出荷を始めており、年度内の正式販売を目指す。
 東レはナノ(10億分の1)レベルの高分子技術を応用。薄いフィルム内に柔らかさが異なる樹脂を積層させた。
 印刷会社はこのフィルムを使えば、塗膜状の印刷層をつくるために溶剤を揮発させる工程で、セ氏80度でも耐えられる。ポリエチレンテレフタレート樹脂で製造したフィルムの場合、50~60度での作業が必要だ。「製造スピード向上につながる」(東レ)とみる。
 さらに、部品会社が新開発フィルムを使って部品に絵柄を貼りつける場合、120度で可能。170度にする必要があるポリカーボネート樹脂などと比べ、熱に弱い部品も取り扱いやすい。
 スマートフォン(スマホ)など小型機器をまず狙う。2015年度に売上高で10億円以上が目標だ。

送電ロス極小の超電導線、古河電工、30年耐久確認。

 古河電気工業は29日、27万5000ボルトの高電圧送電が可能な超電導線の実証実験で、30年間の送電にも耐える耐久性能を確認したと発表した。超電導線は送電時の電力ロスがほとんどなく、スマートグリッド(次世代送電網)のカギとなる技術。高電圧を流す地中送電線などへの導入を視野に開発を進め、2020年前後の実用化を目指す。
 実証実験は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などとの共同で、古河電工の中国子会社で昨年から実施していた。長さが30メートルの超電導線に通常の送電環境下で30年分にあたる高負荷を与えて実験をしたが、部分放電などの製品劣化は見られなかった。
 実験した超電導線は1回線で大規模発電所1基分にあたる150万キロワットの送電が可能。従来のケーブルでは3回線が必要だったが、回線数の削減により、敷設コストは半分程度。また送電ロスも4分の1程度に抑えられるという。
 古河電工は国内の高圧送電網が更新時期を迎える20年前後の実用化を視野に生産技術の開発などを進める。また新興国などの海外インフラへの展開も模索していく。

オリエンタル酵母、広がる領域――iPS研究や動物園に貢献

 パン作りに欠かせないイースト(酵母)の最大手、オリエンタル酵母工業は1929年に発足した日本初のイースト製造会社。80年余りを経て、いくつもの事業領域を持つ企業に進化した。
 たとえば、2012年のノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥氏が所長を務める京都大学のiPS細胞研究所が使う研究用マウスは3年前から同社が提供している。iPS細胞関連では培養に使えるたんぱく質なども販売している。
 上野動物園(東京・台東)、東武動物公園(埼玉県宮代町)などには飼料も納めている。年商は数億円に上る。東日本大震災のときには被災地の動物園に飼料を配って回り、話題になった。
 何の脈絡もなさそうに見えるこれらの事業はすべてイーストから派生している。イーストの発酵技術を生かし、1951年に実験動物用の飼料に参入し、80年代にはバイオテクノロジーを本格的に開始した。
 同社の主力事業はイーストや「フラワーペースト」と呼ばれる菓子パン向けクリーム。10年12月の上場廃止以降、業績の詳細は公開していないが、バイオ事業などの副業は年商約600億円のうち、4分の1程度とみられる。50年以上を費やし、イーストから派生した堅実な多角化路線が国内の食品市場が縮小するいま、業績を下支えしている。
 事業の多角化は難しい。国内の食品、飲料メーカーでも事業領域を広げるM&A(合併・買収)が活発だが、「大きな相乗効果が出た成功事例はあまり見かけない」(食品メーカー幹部)のが現状だ。
 味の素はアミノ酸を応用して食品や飼料、医薬品、半導体用フィルムまで生産している。昨年10月、アサヒグループホールディングスにカルピスを920億円で売却した。カルピスは乳酸菌が中核技術の会社。思うように相乗効果が出せず、見切った格好だ。カルピス売却はコア技術であるアミノ酸への「特化」を意味する。
 中核技術に磨きをかけることは、時間がかかる。ただ、その道の「オンリーワン」になれば得られる果実は少なくない。デフレ、原材料高など厳しい時代だからこそ、地道な戦略が必要だ。

鈴木商店、さびにくい鉄製ネジ開発

 ■鈴木商店 ねじ卸の鈴木商店(静岡県焼津市、鈴木弘朗社長)は特殊な表面処理を施すことで、さびにくくした鉄製ネジを開発した。同程度の性能を持つステンレス製に比べて3割程度安くなるという。独自製品をテコに住宅メーカーや太陽光発電装置の施工会社などに売り込む。
 炭素を配合して強度を上げた鉄を亜鉛で下処理したうえで、表面をニッケルやクロムなどで覆う。生産委託先と共同で実施した試験で、最も高性能の商品の場合、約3000時間と一般的なステンレス製ネジと比べて遜色のないレベルの耐食性を確認したという。

殺菌剤の製造装置、微酸性電解水研究所、食品の殺菌、安全に


流水感覚、人体に優しく
 食品業界で「微酸性電解水」が注目を集めている。食中毒の原因菌に対する殺菌効果がある一方、一般の殺菌剤に比べ人体への悪影響は少ないという。微酸性電解水研究所(神奈川県藤沢市、土井豊彦社長)はその殺菌剤の製造装置を開発する。集団食中毒のニュースが世間を騒がす中、食の安全確保に腐心する食品メーカーに売り込む。
 微酸性電解水は塩酸を電気分解してできる次亜塩素酸を水で薄めてつくる。食中毒の原因となる大腸菌などの細菌やノロウイルスに対する殺菌効果が確認されている。2002年には厚生労働省から殺菌目的で使う食品添加物として認められた。土井社長は「飲んでも大丈夫です」と話す。流水で洗うような感覚で食品や生産設備を洗浄・殺菌できる。大量の水ですすぐ必要がなく、コスト面の利点もある。
 実は土井社長こそが、微酸性電解水の生みの親だ。大学卒業後、大手乳業メーカーで1990年代から研究を始めた。
 食品業界では食品や生産設備の洗浄殺菌に、次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダ)を使うのが一般的だ。塩素系漂白剤やプールの消毒液でわかるように、独特の塩素臭がある。実際、生産現場では食品に臭いが付いたり食感が悪くなったりするといった悩みを抱えていた。有機物と混ざると発がん性物質を生成することがあり、欧州では使用を規制している国もある。
 「殺菌剤としての有効成分だけ取り出せないか」。こう考えて塩酸を電気分解する方法を思い付く。乳業メーカーで実用化までこぎ着けたが、社内での事業展開のスピードに満足できず、「もっと世界に広めたい」と09年に独立した。
装置開発に苦労
 製造装置は電解槽に塩酸の原液をポンプで送り込んだ後、電気分解して次亜塩素酸をつくり、水で薄めて取り出す。原理は単純だが、電解槽の中は高濃度の塩酸で満たされており、「生成方法の研究より装置開発に苦労した」と振り返る。
 独立後も装置開発を続け、11年から本格的に販売を始めた。塩酸が電解槽の外部に漏れにくい構造にしたり、電極に耐食性の高いチタンを使ったりしている。電解槽は1台の装置に2個。万が一、片方が故障した場合にも食品工場の生産への影響を避けるための工夫だ。
 同社では装置の開発と検査を手掛け、部品生産や組み立ては外部の工場に委託する。慶応大学湘南藤沢キャンパスのインキュベーション施設内のオフィスには検査を終えた出荷待ちの装置が並ぶ。価格は微酸性電解水の生産能力が1時間あたり5千リットルの主力商品で950万円。同360リットル(100万円)の卓上装置や2万リットル(2000万円)の大型装置もそろえる。
韓国企業も導入
 コンビニ向けのカット野菜やサンドイッチを生産する食品工場などで採用されている。豆腐工場では出荷前の加熱処理が不要になり「大豆本来の甘みのある豆腐ができると好評だ」(土井社長)という。ボイラーの燃料費を削減できるメリットもある。韓国のビールメーカーにも導入したほか、欧州からも引き合いがある。これまでに100台が売れた。
 12年の売上高は7000万円。13年は倍増する計画だ。手づくりに近い状態から、部品設計の見直しなど量産可能な装置への改良を進めている。
 日本国内では年間100万トンの次亜塩素酸ソーダが消費されているという。これをすべて微酸性電解水に置き換えるのが、土井社長の目標だ。

2013年1月29日火曜日

大同特殊鋼、プリウスの「魔法の粉」増産――スマホに供給へ


新ライン建設、成長分野に、磁力付き合金 HV基幹素材
 国内新車販売でトップを走るトヨタ自動車のハイブリッド車(HV)「プリウス」。この人気車種で使われている大同特殊鋼製の特殊な鉄粉にひそかな注目が集まっている。燃費を良くし製造コストも削減できるためHVには欠かせない素材となっており、新たにスマートフォン(スマホ)への供給も狙う。大同特殊鋼は4月にも増産を始める。韓国など海外勢からも引っ張りだこの“魔法の粉”とは一体何なのか。
 大同の名古屋市内の「築地テクノセンター」。ここにあるビル内の応接室の入り口にはハングル語の案内板がかかっている。国内の自動車メーカーの関係者ばかりではなく、韓国からのビジネスマンも増えているからだ。お目当ては同拠点内で生産している金属製の粉末だ。
 この鉄粉の名称は「金属製磁性粉末」。大同が開発した。鉄にシリコンを3%程度混ぜた磁力付き合金で、直径0・1ミリメートルほどの粉状に加工されている。
 トヨタのプリウスにはバッテリー電圧を上げる電磁石に似た装置(リアクトル)が搭載されているが、昇圧性能を左右する鉄心はこの鉄粉によってつくられている。現行の3代目プリウスは最大電圧が先代の500ボルトから650ボルトへと引き上がった。これは新たなリアクトルがあることで昇圧機能が高まったため。結果としてモーターの小型、高出力化が可能になった。さらにモーターの駆動電流も低減できるため、インバーターの発熱量を抑え部品の小型化が進んだという。
 もともとトヨタは大手鉄鋼メーカーの電磁鋼板を加工することで、リアクトルの鉄心をつくってきた。ただ、その場合は板を切り抜く際に無駄が出るほか組み立てが煩雑。鉄粉ならば金型に入れてプレス成形するだけでよく「3分の2のコストですむ」(大同特殊鋼の大河内敬雄・粉末工場長)という。
 トヨタは、2001年、大同の特許資料からこの技術を“発見”。HV専用鉄粉の開発を持ちかけた。
 とはいえ、もとはパソコン回路向けを想定した技術だ。磁力のバランス、耐久性、耐熱性などHVが求める条件をクリアするには壁があった。プレス成形しても壊れにくい粉の形状にし、熱を帯びないようにひとつひとつの鉄粉を特殊材で覆う。01年に始まった共同開発は途中の中止期も含め、実用化のメドがたったのは08年だった。
 大同の鉄粉を使ったリアクトルは安いだけでなく、磁力特性も板材製より向上している。結果としてリアクトル自身を小さくできるようになったほか、使用電流も少なくすむためモーターなど周辺部品の電線コストも抑えられる。トヨタにとっては原価ダウンと燃費改善という、HVシステムの根底を支える基幹素材だ。09年発売の現行プリウスから全面採用された鉄粉は11年末発売の小型HV「アクア」でも使われている。
 大同の次の課題はさらなるコスト改善とライバルとの競争だ。トヨタは14年度にも次期モデルのプリウスを発売する予定。システム価格をさらに引き下げる方向で部品の最終選定を進めている。JFEスチールなど他の製鉄会社も挽回を目指し新技術の開発を急いでいるもよう。大同特殊鋼は「質の良さをアピールしたい」(大河内工場長)と勝負に挑む構えだ。
 12年はトヨタの国内販売車のうち約4割がプリウスなどのHVだったという。量産効果がコストダウンの最大要因とされるHVシステムだが、今までにない素材や部品の採用もそこに一役買っている。
 最近は他の国内の自動車メーカーのほか、韓国や欧米メーカーからも問い合わせがあるほか、スマホやタブレット端末への供給も始めようとしている。
 大同の粉末はスマホにも重要な素材になり得る。スマホなどの電子機器の電子回路では電圧変換などに使う「インダクタ」と呼ばれる部品を搭載している。大同の粉末を採用したインダクタは酸化鉄が主成分の従来の素材に比べて電流を流しやすい。電圧変換部品であるインダクタのサイズを小さくしてスマホ自体も小型にできる利点がある。
 粉末事業にアクセルを踏む大同。「築地テクノセンター」内の工場に金属粉末の生産ラインを建設中だ。HVやスマホ向けのラインとし、4月には増産を始める。名古屋市内の拠点に約10億円を投資。生産能力を年1万5000トンと従来比で5割程度増やす。
 大同は「まだ社内では小さなビジネスにすぎないが、成長分野だ」(同社幹部)という。粉末事業は連結売上高4500億円(13年3月期見込み)の1%強にとどまる。自動車向け中国事業などが伸び悩む中、特殊鋼低迷の中で成長する数少ない事業だ。
 大同は粉末事業を15年3月期の事業売上高で90億円と現状比5割増やす計画だ。クルマからスマホへ。夢の素材は大きく花開くのか。プリウスに端を発した粉末の波及効果は計り知れない。

火力発電停止最小限に、三菱電が制御システム、宇宙線・静電気に強く。



部品交換も短縮
 三菱電機は信頼性と操作性を大幅に高めた火力発電所制御システムを開発した。制御システムは宇宙線や静電気の影響など不可抗力とされる理由で半年に1回程度は再起動を余儀なくされ、発電は最低でも数時間止まる。新システムは再起動の必要がなく、稼働率が高まる。2013年後半に提供を始める計画。将来は新システムをベースに原子力発電所向け制御システムの展開も目指す。
 発電所制御システム「MELSEP5」は三菱電機にとって、約13年ぶりとなる新システム。
 現行の制御システムは宇宙線や静電気、近隣での工事用機器の影響により、半年に1回程度の頻度で再起動を余儀なくされている。通信機器のデータが一時的に送受信できなくなるためで、システムに異常がない場合でも点検のために数時間は発電が止まっている。
 新システムはデータを一時読み取れなくなっても周辺機器や前後の時間を参考にデータをリカバリーする機能を盛り込んだ。これによって、宇宙線や静電気などの影響で再起動が必要になることはほぼ無くなるという。
 約20年ごとの制御システムの更新にかかる手間も減らす。CPU(中央演算処理装置)や電源など電源系統の基幹部品を「モジュール盤」にまとめ、専用アダプターを介してプラモデルのように組み付けられるようにした。モジュール盤やケーブルを逐一取り外したり、部品交換したりする手間が無くなる。現行モデルでは半年かかる期間が1~2カ月で済む。
 火力発電所には国が定める定期点検期間があり、三菱電機は定期点検を使えば発電所を止める期間は実質ゼロになるとみている。
 操作性では、発電所の異常箇所を末端まで追跡できるように改善した。発電所の運転中に圧力上昇などの警報が出た場合、現在は広い敷地内のどこの場所に異常があるのか正確には分からない。保守担当者は警報を受けて現場に急行。どこに問題があるのか現場で確認することになる。新システムは詳細な設計図を搭載し、警報が鳴った段階で、保守担当者にどこへ急行すべきか連絡することができる。
 新システムの販売価格などは非公開だが、三菱電機は14年以降、年間10件の受注を見込む。同社によると、宇宙線や静電気といったこれまで不可抗力とされている要因による発電所稼働停止を防ぐ機能は世界初という。
 三菱電機は約30年前に火力発電所の電子制御システムに参入。同社が納入したシステムは国内で約60件が稼働中で、日立製作所、東芝に次いで25%程度のシェアを持つ。

リプロセル、アルツハイマー薬、開発用神経細胞、iPSから2種生産。


新薬候補探索、効率的に
 バイオベンチャーのリプロセル(横浜市、横山周史社長)はアルツハイマー病の治療薬開発に使う神経細胞のうち、「グルタミン酸」で神経伝達するものをiPS細胞から安定生産する技術を確立した。4月から製薬会社や大学に供給を始める。もう1つのiPS由来神経細胞と合わせると、アルツハイマー病治療薬候補の探索に必要な神経細胞がそろうことになり、新薬開発の効率が高まるという。
 アルツハイマー病の患者は、アセチルコリンという物質の刺激によって神経伝達をする「コリン作動性神経細胞」と、アミノ酸の一種であるグルタミン酸で神経伝達する「グルタミン酸作動性神経細胞」の両方の細胞に異常が見られることが知られている。
 リプロセルは2010年に、iPS細胞から作り出したコリン作動性神経細胞を発売した。今回発売するグルタミン酸作動性神経細胞と同時に使用すれば、より詳細にかつ迅速にアルツハイマー病の治療薬候補が探索できるようになるという。
 両細胞ともに、正常なヒト神経細胞の特徴を持つ通常型と、アルツハイマー病の患者の神経細胞と同じように細胞内に「アミロイドベータ」というたんぱく質が蓄積しやすい特徴を持つ「アルツハイマー病モデル神経細胞」を品ぞろえする。
 グルタミン酸作動性神経細胞は96サンプル分の試験ができる細胞1セットが20~30万円になる予定。年間売上高としては約2000万円を目指す。

ナノチューブ束ねて糸に、帝人、研究向けに出荷、電子機器の配線用。

 帝人はナノテク炭素材料のカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)を束ねてできた糸を量産する技術を開発した。金属並みに電気をよく伝え、電子回路の配線で一般的な銅の30倍の強度がある。研究向けにサンプル出荷を始めた。電子機器の配線などへの応用を目指す。成果は米科学誌サイエンスに発表した。
 糸のように長いナノチューブ繊維を開発したのは帝人のオランダ子会社であるテイジン・アラミドと、米ライス大学や米空軍の研究所など。
 カーボンナノチューブを強い酸に溶かし、その液を細い穴が開いたノズルを使い水槽に流し込んだ。直径8~10マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルのナノチューブ繊維が毎分10メートルの速度でできた。まず約500メートルまで作れた。
 防弾チョッキなどに使うアラミド繊維の製法を応用し、電気や熱の伝わり方を高め、実用レベルを達成した。

宇宙開発日本はどこへ(上)国産衛星、官製市場に限界―企業の活力生かせるか。

 日本の宇宙開発戦略が問われている。政府は2013年度から5年間の政策を示す宇宙基本計画を新たに始める。日本の宇宙産業を国頼みから企業が主役の成長産業に変えて、20年度には15兆円市場に倍増すると意気込む。欧米やロシアが先を行き、中国やインドが台頭するなか、日本らしい宇宙開発へどう道筋をつけるか。課題を検証する。
 日本版全地球測位システム(GPS)を目指す最初の1基「準天頂衛星」が昨年末、突然、時刻を刻まなくなった。もう一つの時計が壊れたら位置が測れない。深刻な事態だが、運用する宇宙航空研究開発機構(JAXA)は「問い合わせは一件もない」(広報部)。
 それから約1カ月後、遠く宇宙に浮くこの衛星が日本の目玉事業になる。安倍晋三首相は25日、官邸で開いた宇宙開発戦略本部で「宇宙は成長エンジン。防災対策にも活用できる」と強調。準天頂衛星を柱とする新宇宙基本計画を決めた。
 政府は同衛星を17年度までに3基追加し、いずれ7基で米国のGPSから乗り換える。11年にはGPSと併用し、無人農機を数センチ刻みで動かす実験もした。7基体制には約3000億円かかるが、独自の位置情報サービスで日本とアジアで4兆円の経済効果をもくろむ。
 だが、国が笛を吹いても、民間はそう簡単には踊らない。準天頂衛星の実験を進める衛星測位利用推進センターの松岡繁・副本部長は「様子見の企業がいる」と明かす。
 昨年末、中国版GPSサービスがアジア太平洋地域で始まった。中国は独自の衛星16基を運用中。20年には米国のGPSに匹敵する35基に増やす。ロシアは米国に対抗し、欧州も参入をうかがう。日本は2基目以降の打ち上げ予定などがいまだ不透明。松岡氏は「ビジネスにつなげる戦略が必要」と気にかける。
 日本の戦略は企業の役割を描けていないのが最大の問題だ。国内の宇宙関連機器の売り上げ約2600億円の9割は政府が支える。財政難から予算は増えず、ここ8年でロケット関連の撤退企業は54社に上る。国が丸抱えの官製市場では成長は望み薄だ。
 「打ち上げてから使ってくださいではなく、ニーズを衛星の仕様に盛り込み国内産業につなげることが大事」。中須賀真一東京大教授が意見を言ったのは、委員として宇宙基本計画を議論した昨年の内閣府宇宙政策委員会の席上だった。
 日本は海外の商業衛星から毎年約100億円分もの撮影画像を買う。委員会では「国産のいい画像が出てくれば購入を検討したい」と防衛省側が発言。国内の需要を取り込めない国産衛星にやりきれなさが募る。
 日本にも27日に打ち上げた情報収集衛星や、開発に合計464億円をかけ13年度以降に投入するJAXAと経済産業省の衛星2基がある。衛星画像の流通に民間を生かす視点があれば、国内で富を分かち合える。
 宇宙開発は軍事と関わり、米国でも4兆円超と政府の支出は多い。それでも民間の知恵を取り込み、米企業の宇宙船を国際宇宙ステーションに就航させた。「情報が集まりやすい官がその情報をメーカーとユーザーをつなぐのに有効活用する発想を」。宇宙政策委員を務める山川宏京都大教授の訴えは切実だ。

持ち運べる燃料電池、ボンベ1本で運転

 ■産業技術総合研究所 28日、持ち運べる燃料電池システムを開発したと発表した。市販の液化石油ガス(LPG)カセットボンベ1本で24時間連続運転できるという。災害時や野外でも電子機器を使えるようにする。2~3年後の実用化を目指す。
 試作システムは縦23センチメートル、横約25センチメートル、高さ約13センチメートル。重さは5キログラム程度。出力は50ワット。電圧は電池のつなぎ方によって5~36ボルトという。
 微小な固体酸化物形燃料電池を36本入れた。燃料電池をバーナーで燃焼した排ガスで温め、LPGを供給して発電する。2分以内に5ボルトで動く発光ダイオード(LED)ライトを点灯できた。
 従来はLPGをいったん高価な貴金属の触媒を入れた装置で処理する必要があった。今回、電極にナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズの酸化セリウムを採用、LPGから直接発電できるようにした。

曲がるタッチパネル、産総研、実用化急ぐ、カーボンナノチューブ活用。


 産業技術総合研究所は、曲げに強いタッチパネル=写真=を試作した。代表的なナノテクノロジー(超微細技術)素材のカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)を塗ることで、折り曲げても電気を流せる透明フィルムをパネルに使った。丸めて持ち歩けるタッチパネルの実現につながる成果。耐久性などを高め、早期の実用化を目指す。
 新しい導電フィルムはカーボンナノチューブのインクを印刷技術で表面に印刷して作る。高温や真空の状態で製造する現行のインジウムとスズの酸化物を使うフィルムに比べ、製造コストを大幅に減らせるという。衝撃や曲げにも強い。
 このフィルムを隙間ができるようにして2枚張り合わせたタッチパネルを試作。曲げた状態でペンでパネルをなぞり、ペンの軌跡がディスプレーに表示できることを確かめた。

CRESTエピゲノムの診断・治療技術



 食生活や老化、ストレスなどの後天的な要因で遺伝子の働きが変わる「エピゲノム」。様々な病気と関係すると考えられ、世界で診断や治療に関する技術の研究が活発になってきた。日本で先頭を走るのが、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」だ。
 「ようやく肝臓のエピゲノムの解読にメドがたった」。国立がん研究センター研究所の金井弥栄・分子病理分野長はこう話す。正常な人の組織ごとにエピゲノムを調べる作業に取り組んでいる。肝臓や胃、大腸、腎臓を担当し、プロジェクト開始から1年余りで肝臓をほぼ解読し終えた。
 がんの手術で摘出された組織の一部を執刀医と患者から提供してもらって解析する。シーケンサーなど専用の解析装置をいくつも使いながら、ゲノムを構成する30億個の塩基にくっつくメチル基やアセチル基など分子の有無を調べる。
 さらに、メチル基やアセチル基が約2万2000個あるといわれる遺伝子のどの部分にくっついているのか、それとも外れているのかを確かめる。メチル基やアセチル基はついたりはずれたりしやすく、どの結合・離脱状態なら正常なのかがはっきりとわかっていない。「かなり高度な解析技術が必要となる」と金井分野長は指摘する。
 プロジェクトの目的のひとつは正常な細胞のエピゲノムを決めることだ。2011年に本格始動した国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(IHEC)にも参加している。
 IHECには日本のほか、欧州連合(EU)、米国、カナダ、韓国などが参加。健康と病気に関係するエピゲノムのうち1000種類の解読を5年間で終えることを目指している。
 日本は肝臓や大腸、胃などの消化器と、血管内皮、胎盤や子宮内膜などを担当する予定。他の国は血液の細胞などが主体だ。IHECの臓器分担のワーキンググループリーダーを務める牛島俊和・同研究所上席副所長は「ユニークな組織の解読に挑んでいるため、注目されているようだ」と話す。
 IHECが取り組んでいるエピゲノム解読手法の国際標準作りでも貢献を目指す。東京大学の白髭(しらひげ)克彦教授らは大阪大学などと共同で、DNAが巻きついているたんぱく質のしっぽの部分に結合するアセチル基やメチル基を高い精度で特定する技術を開発した。ドイツやカナダ、米国のチームに提供し、評価を受けている。
 さらに、ひとつの細胞からDNAをまんべんなく増やして塩基配列を解読する手法も開発中だ。エピゲノム解読に必要な細胞を、現在の1千万~100万個から、1万個程度に引き下げることを狙っている。
 1万個程度の細胞で検査できないと、実際の医療現場では使いづらいという。新技術はIHECが進める国際標準の手法に採用される可能性もあるとみている。白髭教授は「日本発のエピゲノム解析技術が世界中で使われれば、将来、医療応用される場合に有利になる」と意気込む。

技術立国反撃の年



 安倍政権の閣僚が相次いで、研究機関が集まる茨城県つくば市を視察した。その中で下村博文文部科学相は「イノベーションを作るという意味では、(つくばの)研究機関が果たす役割は大きい」と強調した。
 半導体、液晶、太陽電池などハイテク分野で日本はアジアの攻勢にさらされている。技術立国の土台が揺らいでいるように見えるが、今年は反撃に出る年となりそう。北関東にある企業・研究機関はそのための大きな役割を担う。
 今夏、打ち上げ予定の国産小型ロケット「イプシロン」は、その代表だ。パソコンで点検や発射をこなす世界初の「モバイル管制」に挑む。
 開発には主に、つくば市にある宇宙航空研究開発機構(JAXA)と群馬県富岡市にあるIHIエアロスペースの富岡事業所が取り組んできた。
 従来の固体燃料ロケットに比べて、1トン当たりの打ち上げコストが3割程度安くなる。成功すれば、宇宙ビジネスの国際競争力強化につながる。
 筑波大学発のベンチャー企業、サイバーダイン(つくば市)は、難病や脳卒中、脊髄損傷などによる足の運動障害を改善するための装着型ロボット「HAL」の開発を進める。このほど国立病院機構新潟病院が「HAL」を医療応用するための臨床試験の申請を行った。早ければ4月にも試験が始まる見通しになった。
 その後、スウェーデンのカロリンスカ医科大学など海外でも試験が始まる予定。試験が終わり、医療用ロボットとして国から承認が得られれば、新たな輸出産業に育つ可能性を秘めている。
 昨年12月に高エネルギー加速器研究機構(つくば市)などに属する世界の研究者が技術設計を終えた次世代加速器「ILC(国際リニアコライダー)」もイノベーションの起爆剤になる。日本は今夏にも建設候補地を決め、誘致へ向けた動きを加速する。
 ILCの加速器技術は宇宙誕生の謎を解明する基礎科学だけでなく、医療や新素材など幅広い応用が期待される。
 このように、つくばをはじめ北関東の大学や研究機関には、イノベーションの基になる科学技術の種が眠る。
 山本一太科学技術相が指摘するように「科学技術を産業に結びつける仕組み作り」を急ぎ、技術立国ニッポン復活への歩みを加速する必要がある。

ビデオ活用、仕事と両立――芝浦工業大学大学院田中秀穂氏

田中秀穂 芝浦工業大学大学院 工学マネジメント研究科長
大学院新講義、4月から 「学び直し」容易に
 芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科は4月から、対面授業とビデオ授業を組み合わせたハイブリッド型講義を始める。社会人を大学に呼び込もうと2003年度に発足した専門職大学院制度だが、仕事との両立が難しく学生募集で苦戦する大学院が多い。田中秀穂研究科長に狙いを寄稿してもらった。
 芝浦工業大学の工学マネジメント研究科は、2003年度に日本で最初に開設された技術経営学(MOT、マネジメント・オブ・テクノロジー)の専門職大学院である。MOTとは日本が得意とする科学技術力を生かした製品やビジネスを生み出すのに必要なマネジメントを学ぶ学問領域で、技術系のための経営学修士(MBA)とも称される。
 11年目が始まる今年4月から、私たちは社会人学生がもっと学びやすい環境を整えるために、ハイブリッド型講義という取り組みを始める。インターネットを利用し、いつでも都合のいいときに視聴できるオンデマンド型のビデオ授業と、従来型の教室で行う面接型授業を組み合わせた新たな講義システムだ。
□ □ □
 人生80年の時代になり就労期間が大幅に延びる一方で、知識のライフサイクルは急速に短くなり陳腐化が早まっている。こうした時代には、多くの人がキャリアを2段階で考えざるを得なくなる。もはや、20歳代前半までに受けた高等教育で得た力のみで、40年以上の長期間にわたり社会で活躍し続けることは困難である。キャリア人生の前半で培ったコンピタンス(専門的な能力)を生かしつつ、新たな活力を得て、後半の活動を推進することが重要なのだ。
 キャリア人生の後半に学ぶ必要が生じる学問領域で、最も大きな需要があるのはビジネスやマネジメント領域であろう。例えば、大学で工学を学び技術の現場で就業してきた人が、技術の事業化のリーダーを任されたとする。その場合、学生時代には体系的に学ぶ機会がなかったマネジメント全般を本格的に学ぶ必要が出てくる。そのような需要に応える使命を担うのが、社会人学生を主な対象にしたMOTの専門職大学院である。
 では、専門職大学院による学びの機会の提供は十分であろうか。
 現在、日本にはビジネス・MOT系の専門職大学院が33校あり、うち15が東京都内にある。東北地方には皆無で、北海道、四国、中国地方にはそれぞれ1校しかなく、地域の偏りが著しい。関東地方でもビジネス・MOT系専門職大学院は東京23区内に集中しており、東京都下や神奈川、埼玉などの事業所で就業する社会人には、平日に容易に通学できる大学院がほとんどない。
 しかも専門職大学院の多くでは、平日の授業開始時間は18時30分前後なので、たとえ都心に勤務する社会人でも仕事を時間までに終え通学するのは簡単ではない。
 週末であれば、通学が可能な地域は広がるが、週末の通学だけで専門職修士号を得るだけの十分な学びを達成するには、並はずれた努力が必要となる。
□ □ □
 この状況を改善し、社会人に十分な学びの機会を提供することには大きな意義があるはずだが、残念なことに、さほど工夫があったとは言い難い。そこで、私たちが考えたのがハイブリッド型講義なのである。
 ハイブリッド型講義とは平日夜に開講した講義を録画し、インターネットを使ってオンデマンド配信するメディア授業(通学して受講もできる)と、土曜日は大学に通って受講する従来型の面接授業の組み合わせで一つの講義を構成する講義システムでメディア授業と面接授業の“いいとこ取り”を狙ったといえる。
 これにより、平日は業務が忙しく通学できない場合でも受講ができ、土曜日は必ず通学して面接授業を受けるために、教員と学生が直接、熱のこもった議論を展開できる。学生によるプレゼンテーションや、ビデオ教材、高度なソフトウエアを用いた講義など、多彩で有効な授業形態も可能となる。
□ □ □
 時間割上のハイブリッド型講義の配置イメージを図に示す。例えば火曜日の7時限目に知的財産の講義の1コマ目が開講される。通学した学生は教室で授業を受けるが、講義の様子はビデオ録画されオンデマンドで配信するので、通学できなかった学生は、翌日から金曜日の都合のいい時間にビデオで宿題をこなす。同じ週の土曜日の3時限目には当該講義の2コマ目が開講されるので、全員が通学して受講するという構成である。
 全科目をハイブリッド型講義で開講するわけではないが、核となる科目の多くはハイブリッド型講義とし、ハイブリッド型講義だけでも修了必要単位数を取得できるようにする予定である。
 私たちは、このシステムにより、これまで大学院入学をあきらめていた多くの社会人学生に学びの機会を提供することができると考えている。特に関東の場合、MOTが主たる対象としている技術系社会人は、多摩地区や千葉や埼玉、神奈川などに立地する工場や研究所に勤務している。新たな講義システムが有効な潜在入学者は相当数に上ると推定している。
 社会人の学び直しでは、学習する側の社会人自身の努力が必要なのは当然だ。キャリア形成を所属企業任せにするのではなく、一人ひとりが大学院などで学び直すことの価値を真剣に検討する意識も欠かせない。だが、大学側も、旧態依然の授業システムに甘んじることなく、教育現場にイノベーションを起こし、学びの利便性を高めるための努力をすることが必要であろう。ハイブリッド型講義がその先駆け例となるように頑張りたい。
ポイント
社会人通える
環境づくりを
 研究者ではなく、高度で専門的な職業能力を持つ人材の育成をめざす専門職大学院制度は2003年度に発足した。法曹(法科大学院)、会計、ビジネス・MOT(技術経営)、公共政策、公衆衛生、教職など幅広い分野に185校(2012年度)の大学院が開校しているが、学生数は09年度の2万3381人をピークに減少傾向にある。当初の期待以上に新司法試験合格者が増えない法科大学院が不振であることの影響が大きいが、社会人が通いにくいことも無縁ではない。
 日本の大学の学生は18~22歳が中心で、他の先進国に比べ社会人学生の比率が極端に低い。18~22歳以外の学生の確保は“悲願”でもあるが、それには社会人が通いやすい環境づくりが欠かせない。芝浦工大の取り組みの成否が注目される。

ホンダ、3モーターハイブリッド――車輪駆動、個別に自在

 ホンダが3つのモーターを使う次世代ハイブリッド車(HV)システムを近く実用化する。モーターで後輪を別々に駆動して操作性を高める仕組みだ。クルマが約100年前に誕生して以来、曲がる力をハンドル操作に頼ってきた概念を変える革新技術だ。このシステムを搭載した初のモデルを今年後半に投入する。
 開発中の「スポーツハイブリッドSH―AWD」は車体前部にモーターを搭載し、エンジンと使い分けて燃費性能を高める。これは従来のHVと同じだ。違いは後輪をつなぐ部分に2つのモーターを置き、それぞれを自在に駆動するところにある。
 見せ場はコーナーリング時だ。内側で発生したエネルギーを電気的に回収して外側の車輪に与え、外輪の駆動力を内側より強める仕組み。これにより遠心力をおさえこんで、より安定して曲がることができる。
 外側の後ろ脚を強く蹴って自在に曲がる動物の走りから発想された新技術だ。ジーエス・ユアサコーポレーションとの共同出資会社「ブルーエナジー」が生産するリチウムイオン電池を搭載する見通しで、高出力を実現する。
 V型6気筒エンジンを搭載するHVながらV8以上の走りと4気筒を上回る燃費性能を実現した。伊東孝紳社長は「運転する楽しさが飛躍的に高まる」と自信をみせる。
 最初の搭載車種となるのが高級車ブランド「アキュラ」のRLXのHVモデルで、今年後半に北米で発売する。15年ごろに発売する予定のスーパーカー「アキュラNSX」にも搭載し、往年の名車が3モーターHV専用車として復活する。
 ホンダはこれまで1つのモーターを使うHVを展開し、今秋には次期「フィット」でより低燃費のシステムに刷新する。2つのモーターを使う新システムも北米で販売する「アコード」に搭載。3モーターHVの投入で、車業界に例のない3種類のHVシステムをそろえることになり、ホンダのエコカー戦略が加速する。

レアアースのサマリウム、リサイクル、半日で、岩手大、純度96.9%。

小型モーターの磁石から
 岩手大学の山口勉功教授らは、産業機械や時計の小型モーターの磁石からレアアース(希土類)のサマリウムをリサイクルする技術を開発した。酸化ホウ素を混ぜてセ氏1200度の状態で溶かして置いておくと、素材ごとに分離する性質を利用した。従来の手法に比べて処理時間が半分の半日に短縮する。進んでいないサマリウムのリサイクル技術として有望とみており、実用化を急ぐ。
 新技術はサマリウムと希少金属(レアメタル)のコバルトの合金からサマリウムやコバルトなどを回収するのに使う。同合金の年間生産量は500トン程度で、高い温度でも使用でき、中国からの輸入に頼るネオジムを使わない強力な磁石として注目されている。
 モーターから取り出したサマリウムとコバルトの合金に酸化ホウ素を混ぜ、電炉の中でセ氏1200度で2時間かけて処理する。冷やして取り出した固体は、酸化したホウ素、サマリウムが濃縮した部分、コバルトと鉄、銅などの合金の3つに分かれる。
 サマリウムが濃縮した部分を割って取り出し、塩酸をかけて溶かす。アンモニアで水素イオン濃度(pH)を調整したうえで、化学反応の還元反応を起こすのに使うシュウ酸を加えると、サマリウムが沈殿する。セ氏400~500度で約1時間焼いて乾燥させると、粉状のサマリウム酸化物が回収できる。
 実験では、回収したサマリウムの純度は96・9%、回収率は99・96%になった。従来の硫酸や塩酸などで合金をすべて溶かす手法では、鉄との分離が難しく工程も複雑で、作業にほぼ1日かかった。山口教授は「レアアースとして十分な純度があり原料として利用できる」と話す。また、コバルトも純度99・8%で回収できたという。
 山口教授らは今後、回収装置を大型にした場合でも高い回収率を実現できるか検証するとともに、改良に取り組む。
 ▼サマリウム 銀白色の軟らかい金属で、17種類あるレアアース(希土類)のひとつ。地球の地殻の部分に存在するサマリウムは0・00079%(7・9PPM)ほどしかない。ガリウムやジスプロシウムなどを見つけたフランス人化学者のボアボードランが19世紀末に発見した。
 主に磁石に使われ、ネオジム磁石が開発されるまでは最強とされた。ただネオジム磁石はさびやすく熱にも弱いことから、高い温度での利用ではサマリウム系の磁石が広く使われている。

米サンフランシスコに拠点、電通国際、先端VBと研究、アプリ開発、アジアも視野。

 電通国際情報サービスは米サンフランシスコにIT(情報技術)に関する研究開発拠点を設立した。米国のITベンチャーなどが開発する最新の技術を現地で発掘。電通国際が持つ技術と組み合わせ、新しいサービスやアプリケーション(応用ソフト)の開発を目指す。日本だけでなくアジアでの販売も視野に入れ、米企業との共同開発案件を増やしていく。
 設立したのは「ISIDアメリカ・サンフランシスコオフィス」。同社が研究開発専門の海外拠点を設置するのは初めて。ニューヨークにある現地法人、ISIDアメリカの傘下として位置付ける。代表はISIDアメリカの高橋英昌社長が兼任し、当面は数人体制だが、今後現地の採用を増やしていく予定。
 シリコンバレーに近いサンフランシスコには、ネットやソーシャルメディア、スマートフォン(スマホ)などを活用した最先端のサービスを提供するIT企業が多く集まる。拠点を構えることで、デザインや新たな技術に関する動きを把握し、現地企業と密接にコミュニケーションがとれる体制にする。
 同社はこれまでも米国IT企業の新しいサービスやアプリケーションを日本で販売してきた。カリフォルニアのネット会社、スピギットが開発した社内SNS(交流サイト)は、電通が日本仕様にカスタマイズし、2011年から販売している。日本ではモスフードサービスや全日空が導入した。
 現在進行中の案件も含め、米国企業との共同プロジェクトは30以上に及ぶ。現在は主に日本で販売しているが、今後は中国やタイなど、アジア地域でも積極的に販売していく。
 電通国際はアメリカのほか中国や英国など、海外5カ所に現地法人を構えている。4月にはインドネシアとタイにも開設する予定で、アジアの成長に合わせてグローバル事業の拡大を経営の柱に据える。15年度までに海外での売上高を11年度に比べ6割増の100億円に拡大することを目指している。

新ナノ炭素、量産技術、NEC、燃料電池の性能向上、電気ためやすい円すい状。

 NECは電池の性能を引き上げるとして注目のナノテク炭素材料で新たな素材の量産技術を開発した。これまで応用されていないユニークな円すい状で、電気をためやすい。燃料電池や蓄電部品の性能を大幅に高める。微細な構造に薬剤を閉じ込めて患部に効率よく送り込むDDSにも応用できる見込み。今後3年間で20以上の企業や研究機関に本格的に売り込む。
 量産するのは炭素原子が円すい状につながった材料。大きさは直径2~5ナノ(ナノは10億分の1)メートル、長さ40~50ナノメートル。NECは牛の角(ホーン)に似ているとして「カーボンナノホーン」と呼ぶ。
 NECは15年前に発見したが、高純度で大量に生産する技術の確立は難しかった。近年、燃料電池やDDSなどの用途が期待され始め、ナノ炭素材料の安全性の検証も進んでいることから、技術開発を急いだ。
 新素材は同じ重さならばナノ炭素材料で知られるカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)やフラーレン(球状炭素分子)と比べても表面積が大きい。燃料電池の活性炭の代わりに使うと、取り出せる電気の量を2~3割増やせる。
 高い圧力をかけなくても室温で炭素の固まり(黒鉛)を強い炭酸ガスレーザーで砕いて簡単に作る方法を見つけた。直径10センチメートル程度の固まりから純度95%で安定生産でき、産業応用に道を開く。
 レーザーの強度や炭素の固まりを回す速さを調整し、1日1キログラム以上生産する技術を確立した。数千万円を投じ、筑波研究所(茨城県つくば市)に製造設備を整えた。
 カーボンナノホーンは同社の飯島澄男特別主席研究員らが1998年に発見した。同社が構造や製造に関する基本特許を取得している。
 サンプル価格は1グラム当たり4万5000円。大量購入の場合には数百円台での提供を目指す。関連売上高は10億円規模が目標という。

ISID、サンフランシスコに研究開発拠点を設立

発表日:2013年1月29日
ISID、サンフランシスコに研究開発拠点を設立
~グローバルなオープンイノベーションを加速、先端技術を活用したビジネス開発を強化~



 株式会社電通国際情報サービス(本社:東京都港区、資本金:81億8,050万円、代表取締役社長:釜井 節生、以下ISID)は、米国現地法人(以下ISID アメリカ)のR&D機能強化を図り、グローバル市場に向けたサービス開発を加速するため、ISID アメリカ・サンフランシスコオフィスを設立し、2013年1月より営業を開始しました。ISIDは、同オフィスを当社の研究開発組織であるオープンイノベーション研究所のサテライト拠点としても位置付け、米国IT企業の最先端のテクノロジーを、国内外のISIDグループ、さらには各国の電通グループや顧客企業などにスピーディーに展開していく体制を強化してまいります。


■設立の目的■

 今回拠点を設立するサンフランシスコ・ベイエリア南部には、インターネットやソーシャルメディア、スマートフォンなどを活用した先進サービスを提供するIT企業の多くが本拠を置いています。ISIDでは、これら米国IT企業との協業を図り、最先端のテクノロジーを新たなサービス開発に生かすべく、2010年より調査・研究活動を行ってまいりました。2011年4月に開始した、3カ年の中期経営計画「ISID Open Innovation 2013」では、重要戦略の一つに先端技術を活用した新規ビジネス開発を掲げ、研究開発組織としてオープンイノベーション研究所を設置しました。以降、ISID アメリカとも連携して、米国の先進IT企業との共同プロジェクトを数多く立ち上げ、現在では、位置測位技術やバーチャルリアリティ技術、AR(拡張現実)技術などを用いた新規事業開発や、電通と協調したビッグデータや広告・マーケティング領域の調査・研究活動など、すでに30を超えるプロジェクトに取り組んでいます。

 ISIDでは、このたびのISID アメリカ・サンフランシスコオフィス設立を機に、ISID 国内グループはもとより、海外のグループ各社・拠点が、各国市場のニーズに応じた先進サービスをスピーディーに市場投入できる体制を整え、先端技術を活用したビジネス開発を一層強化してまいります。


■ISID アメリカ・サンフランシスコオフィスの概要■

 (1)名称:ISI-Dentsu of America,Inc.San Francisco office
 (2)代表者:高橋 英昌(ISI-Dentsu of America,Inc.President&CEO)
 (3)所在地:901 Mission Street,Suite 105 San Francisco,CA 94103
 (4)設立:2012年12月
 (5)営業開始:2013年1月


<ご参考情報>

 <電通国際情報サービス(ISID) 会社概要>
  社名:株式会社電通国際情報サービス(略称:ISID)
  代表者:代表取締役社長 釜井 節生
  本社:東京都港区港南2-17-1
  URL:http://www.isid.co.jp
  設立:1975年
  資本金:81億8,050万円
  連結従業員:2,228人(2012年3月31日現在)
  連結売上額:638億6,900万円(2012年3月期)
  事業内容:
   1975年の設立当初から顧客企業のビジネスパートナーとして、コンサルティングからシステムの企画・設計・開発・運用・メンテナンスまで一貫したトータルソリューションを提供してきました。IT Solution Innovatorをビジョンとし、金融機関向けソリューション、製品開発ソリューションをはじめ、グループ経営/連結会計、HRM(人事・給与・就業)、ERP、マーケティング、クラウドサービスなど、幅広い分野で積極的な事業展開を図っております。

日産新連合、トヨタ追撃、燃料電池車、開発費抑え普及急ぐ



 日産自動車―仏ルノー連合、独ダイムラー、米フォード・モーターが燃料電池車の共同開発を決めた。トヨタ自動車と独BMWの提携に続いて新連合が誕生する。日産などは提携で技術開発やコスト削減を加速しトヨタを追撃するほか、日米欧政府に燃料供給のインフラの整備を働きかける。実用化まで遠いとされた燃料電池車だが、大手の戦略提携で普及の時期が前倒しされる可能性が出てきた。(1面参照)
 燃料電池車は従来のガソリン車や電気自動車(EV)とは大きく異なる。EVでも動力を生み出す電気は当面、発電のために石炭などが使われる。燃料電池車は燃料の水素を取り出すために天然ガスを使ったり水を分解させたりするが、化石燃料を使う必要が非常に少ないという意味で環境面で優れる。EVに比べて航続距離の長さや燃料の充填時間の短さなどでガソリン車とは遜色ないというメリットもある。
 課題は車両価格の高さと水素供給のインフラ整備だが、世界大手の提携などで解決に向けて前進する。燃料電池車は10年前まで1台1億円といわれた。最近は急速にコストが下がっている。ハイブリッド車(HV)と駆動系の電気モーターなど多くの部品を共通化できるためだ。ホンダが2015年をメドに500万円以下の量販車を投入する方針を打ち出しているのも、HVでの量産効果を生かせる見通しがあるからだ。
 トヨタとホンダは1990年代から燃料電池車の基礎研究を本格化しており、中核の発電関連装置など幅広い分野で技術力が強い。日産・ルノー、ダイムラー、フォードにとっては新連合を組まなければ、技術開発などで追撃が難しい状況になっていた。
 日産などの新連合は提携でコスト削減を急ぐ。特に中核部品の燃料電池スタック(酸素と水素を反応させて電気を生み出す装置)や水素ボンベなどを共通化することで大幅なコスト削減を見込んでいる。
 「消費者に手ごろな価格で燃料電池車を提供できる。各社単独で開発するより良い成果を出せる」。日産・ルノーと独ダイムラーの共同開発プロジェクトに新たに合流することになったフォードのラジ・ナイール副社長はこうコメントした。
 今回の提携はインフラ整備を加速させるという意味でも重要だ。日産・ルノーとダイムラーは日欧連合にフォードを迎えることで、米国で燃料電池車普及への足がかりを築ける。水素ステーションなどの整備には政府との連携も不可欠だ。米政府との強いパイプをもつフォードと協力すれば、政策面での後押しを受けやすくなるとの読みもある。
 日産などの提携は他社の戦略にも影響を与えそうだ。今後はGMのほか、独フォルクスワーゲン(VW)、韓国の現代自動車などの動きが注目される。新たな陣営作りに着手するか、あるいはトヨタ―BMWなどの連合に接近するかなど今後動きがありそうだ。

2013年1月24日木曜日

次期有人潜水艇、深度1万メートル超え、海洋機構が長期計画。

 海洋研究開発機構が今後15年程度の研究開発目標を盛り込んだ「長期ビジョン」を5年ぶりに改定した。海底下のメタンハイドレートやシェールガスといったエネルギー資源の利用技術を開発する。津波や高波に関する災害情報を常時発信し、防災に役立てる。
 2014年度から5年間の次期中期計画には、新型の深海潜水艇の開発を盛り込む方針。現在の「しんかい6500」を上回る1万1000メートルの深さまで潜れる有人潜水艇の開発に着手する。
 大型探査船「ちきゅう」=写真=を使い、海底下7000~8000メートルのマントル上部まで掘り抜く「マントル掘削」で世界初の成功を目指す。
 海洋機構の年間予算は約400億円。新型潜水艇の開発などを計画通りに進められるかどうかは不透明だ。

京都大学、フォトニック結晶、3次元配線成功

3次元配線に成功
 ■京都大学 野田進教授らは、光を閉じ込めたり増幅したりする「フォトニック結晶」を使って、光のやりとりをする配線を立体的に作り出すことに成功した。省エネルギー動作を可能にする光メモリーの微細化に役立つという。研究成果は英科学誌ネイチャー・フォトニクス(電子版)に掲載された。
 5ミリ角の立方体のシリコン結晶を作製。内部に幅200ナノ(ナノは10億分の1)メートルのフォトニック結晶による配線をつくった。配線を上下方向に引く際、斜め45度と緩やかにし、水平方向と垂直方向の接続部分はわざと突起のように配線に余分な部分を残した。光は波の性質も併せ持つため、突起部分で反射を繰り返して上下方向に光が届く。これまでは配線を垂直に引くと光が漏れ出てしまい、配線を立体的に仕上げることは難しかった。
 配線を立体的にできることで、微細化が容易になる利点がある。光メモリーは従来の電気で起動する半導体に比べて熱が発生しにくい。

超電導ケーブルシステム、住友電工、工場で実証運転、配電網と接続、信頼性を検証




 住友電気工業は22日、大阪製作所(大阪市)で超電導ケーブルの実証運転を始めたと発表した。ケーブルを工場内の配電網と接続してシステムの信頼性などを検証。改良やコスト削減につなげる。電力の供給側の送配電網での超電導ケーブルの実験は進んでいるが、企業の工場といった需要家側で実証試験を実施するのは初めて。
 銅ケーブルは一般に送電ロスが5%発生する。超電導ケーブルを使うと送電ロスを3分の1から2分の1に減らせる。大容量の電力を長距離送る場合ほど省エネ効果が得られるという。データセンターや鉄鋼工場、自動車工場などの基幹ケーブルで利用を見込む。
 企業の省エネ意欲が強いため、大規模な設備投資が必要な電力会社の送電網向け超電導ケーブルよりも、需要が早く立ち上がるとみている。実験成果をもとに企業に提案を積極化し、5年以内の商業化を目指す。
 大阪製作所に導入したシステムは、交流の超電導ケーブル70メートルを敷設。高低差による影響を検証するため、ケーブルの一部は高さ18メートルの建物の壁面に配置した。マイナス約200度に冷却した液体窒素をケーブル内に循環させ、超電導の状態とする。投資額は3億円。
 住友電工は「ビスマス系」と呼ばれる金属材料で強みを持ち、世界で相次ぐ実証試験向けに材料を供給している。昨年10月には東京電力などと共同で電力会社の送配電網に超電導ケーブルをつなぐ国内初の実証試験も始めている。欧州での送電網の実用化に向けた実験にも超電導線を供給している。

遺伝子のスイッチ役「エピゲノム」研究――がん治療薬も登場、創薬競争が本格化。

 エピゲノムはDNAに刻まれたゲノム(全遺伝情報)から生命活動に必要な情報を引き出す仕組みだ。人の体を構成する約60兆個の細胞のゲノムがすべて同じにもかかわらず、皮膚や神経、筋肉などの違いがあるのは、エピゲノムによって遺伝子が「オン」「オフ」になるから。具体的には遺伝子の特定の場所にメチル基などの分子がくっついたり外れたりする化学変化によって起こる。
 ヒトのエピゲノムは、約200種類ある細胞ごとに異なる。このため医学応用につなげるには膨大な情報量を解析しなければならない。シーケンサーと呼ぶ最先端の解析装置などが普及した2000年代半ばから研究が国内外で急速に進んだ。
 まず、がんの分野で先行した。白血病の前段階である骨髄異形成症候群では、がん抑制遺伝子にメチル基がくっつくのを防ぐ薬が開発され、日本を含めて欧米で治療薬として使われている。
 糖尿病などの生活習慣病やうつ病などの精神疾患でも、発症や再発とエピゲノムとの関係が明らかになるにつれ、今後、治療薬の開発競争が本格化する見通し。
 「エピゲノム薬」では目的の臓器や組織にだけ薬剤が到達するようにしなくてはならない。ほかの臓器や組織に作用してしまうと正常なエピゲノムを狂わすことになりかねないからだ。実用化にはドラッグ・デリバリーシステム(DDS)の活用なども欠かせない。

洋上プラントの土台、IHI、中古船を改造――シンガポール勢に対抗。

塗装一度で、費用削減
 IHIは洋上プラントに使われる船の改造事業に乗り出す。中古の大型ばら積み船やタンカーの不要な骨組みや壁材を取り外し、腐食部の塗装などをやり直して中小型洋上プラントの土台に仕上げる。愛知工場(愛知県知多市)の老朽化した溶接・切断機械を更新するほか、塗装の専門治工具も開発。改造コストを抑えてシンガポール勢に対抗する。
 手がけるのは1基あたりの改造の受注額が50億~100億円程度の中小型。全長200~300メートルほどの中古船を愛知工場に持ち込み、船体の補強や一部構造を変更したうえで、洋上プラントを一定の位置に保持する係留装置を取り付ける。採掘した石油や天然ガスを貯蔵するタンクの据え付けなどを含め、7~8カ月かけて洋上プラントの土台に仕上げる。
 中古船の改造はプラント用に新規に土台部分を建造する案件に比べて需要が多いとされる。ただ改造は塗装工程など人手がかかる作業が多いため、人件費の安いシンガポール勢が強かった。
 IHIはこれに対抗するため、1~2年後をメドに塗装の専門治工具を開発。塗装を厚くするため複数回塗り直す必要があった工程を一度で済ませる仕組みとする。また老朽化した溶接・切断の設備を更新することで効率化も進むとみており、全体で2~3割ほどコストを抑える。これによりシンガポール勢とのコスト差をほぼなくせるとみており、納期管理や技術力などで勝るIHIの強みを生かせば受注が確保できると判断した。
 すでに複数の商談が進んでいるとしており、年度内から来年度初めにかけての初受注を目指す方針だ。洋上液化天然ガス(LNG)プラント向けの案件も受注を目指す方針で、改造事業を中心に3~5年後に約500億円の受注を目指す。中古船の改造を手がけることで、得意とするLNG用の高性能タンク「SPBタンク」の受注拡大も期待できるとみている。
 IHIの愛知工場は、リグとよばれる大型の海洋掘削装置の建造を手がけるなど海洋開発分野の専門工場で、SPBタンクも製造している。年6兆円とされる海洋開発分野では日本勢が劣勢にあり、建造受注に占める割合は1%弱とされる。国内造船大手は海洋試掘船やオフショア支援船など海洋開発分野のテコ入れを急いでいるが、IHIも改造需要の開拓で巻き返しを狙う。

5秒で鏡から透明に、調光ミラーシート、切り替え早く、産総研試作。

産業技術総合研究所は23日、窓ガラスに貼って太陽光を遮り冷房効果を高める新型の調光ミラーシートを開発したと発表した。水素ガスを利用し鏡になったり、透明になったりする。5秒で切り替えられる。電気で切り替える従来の調光ガラスに比べて素早い。調光する薄膜も薄く製造コストの大幅削減が期待できる。
 試作した調光ミラーシートは縦37センチ、横26センチ。透明シートの上にマグネシウム合金とパラジウムの2層からなる調光薄膜をつけ、ガラスに貼り付けた。電気分解用の高分子膜に3ボルト程度の電圧をかけ、空気中の水蒸気から水素を発生させて、ガラスと調光薄膜の間にある0・1ミリメートル程度の隙間に流すと、鏡の状態から透明に変化する。
 試作品は約5秒で鏡の状態から透明に変わる。同じ大きさの従来の調光ガラスは30秒ほどかかっていた。1メートル角の場合は10分程度必要だったのが約30秒に短縮できる。
 また従来は調光層が5層あるのが一般的だが、これを2層にした。全体の厚みも100ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下と約10分の1になった。
 試作品は透過率が約40%だが実験室レベルでは60%を達成した。今後、透過率を70%以上に高めて自動車のフロントガラスなどへ応用を目指す。