2013年5月16日木曜日

スパコン京――「戦略的利用で性能発揮を」、総合科技会議が事後評価

後継機へ課題生かす
 政府の総合科学技術会議(議長・安倍晋三首相)は13日、国の大型研究開発の事後評価などを議論する専門調査会を開いた。理化学研究所のスーパーコンピューター「京」の検証を開始。7月までに評価結果をまとめるが、出席者からは高い計算能力を生かした「戦略的な利用を促すべきだ」などの注文が付いた。
 京は毎秒1京回(京は1兆の1万倍)の演算ができる世界最高水準の性能を持つ。新薬開発から地震・津波の予測まで幅広い利用が期待できる。
 2006年度に事業に着手。12年度までの予算は約1111億円で、12年9月に本格稼働した。世界性能ランキングで11年6月に1位を獲得したが、1年後に2位に転落。現在は米クレイ、IBMのスパコンに次ぐ3位だ。
 専門調査会では理研を所管する文部科学省が、京について今年3月までに100件の利用が採択されたと報告。利用企業はトヨタ自動車や竹中工務店、大日本住友製薬など46社に上る。データを細かく分け、並列台数を多くした超並列処理などの技術的課題を解決し、卓越した成果を創出したと評価した。
 ただ出席した委員からは使い方に工夫が必要だとの声が出た。京を使って0・3京以上の大規模計算をするのは2週間に2日程度。委員からは「1京の演算ができる性能を発揮する使い方をすべきだ。民主的にみんなで小分けで使うと開発した意味がない」との指摘が出た。
 戦略的に利用する仕組みを決めるための指針が必要だとの意見もあった。消費電力について「必ずしも省電力できなかったのではないか」との声も上がった。
 文科省は14年度から、京の100倍の計算能力を有する後継機を開発する方針だ。専門調査会は9月から後継機の事前評価も始める。京の検証作業で問題点を洗い出し、後継機開発に生かすことが求められる。

NEC、冷却電力半減、データセンター向け技術、冷媒活用

 NECはデータセンター向けの新たな省電力技術を開発した。コンピューターの冷却に費やす電力を半減できる。エアコンに使う冷媒でCPU(中央演算処理装置)の熱を取り除く。水を巡らして冷やす従来方式と組み合わせ、今年度中の実用化を目指す。
 データセンターは年率約10%で市場が成長しているが、消費電力の削減が大きな課題だった。一般に電力の約半分はコンピューターなどの冷却に使っている。
 新技術は冷媒の代替フロンを入れた容器をCPUの隣に設ける。CPUが発熱すると、冷媒が気化して熱を奪う。その後、CPUから離れた場所で冷媒は液体に戻り、熱をうまく運び出す。
 気体と液体の変化を巧みに生かす「相変化冷却」と呼ぶ方式を取り入れたのが特徴だ。
 さらにCPU以外の電子部品もよく冷やすため、コンピューターの構造を工夫し風を通りやすくした。この冷却に使うファンの消費電力に限れば、約7割減らせる。
 すべての対策を水冷を中心とする既存技術と組み合わせれば、全体の冷却電力はほぼ半分にできる。
 データセンターでは冷却に使う電力が多いと、設置できるコンピューターの数に制約が出てくる。新技術を使えば、フロアに設置できるコンピューターの数を約2倍にできる。
 精密機器に影響を与えない安定した地盤やセキュリティー環境が整った場所がどこにでもあるわけではなく、1カ所で多くのコンピューターを動かせる利点は大きい。
 コンピューターの計算速度とデータの処理量が飛躍的に高まるにつれて、消費電力も大きく膨らんでいる。例えば日本が世界に誇るスーパーコンピューター「京」では、1年間に費やす電力が90ギガ(ギガは10億)ワット時と2万5000世帯分にも相当するとの試算がある。

サムスン、アップル、スマホ、国内で決戦、ドコモの端末戦略左右

 スマートフォン(スマホ)で世界首位に立つ韓国サムスン電子の日本市場での存在感が高まりそうだ。NTTドコモはサムスンの新型機種を特に販売に力を入れる戦略スマホと定め、ソフトバンクなどが扱う国内トップのアップル「iPhone(アイフォーン)」に対抗する。サムスンが日本でシェアを拡大できるかどうかは、ドコモのiPhone導入の行方を左右することにもなりそうだ。
 「ツートップは自信を持ってお薦めするドコモの顔だ」。15日、夏商戦向け新商品を発表したドコモの加藤薫社長は記者会見終了までに「ツートップ」という言葉を10回近く発し、2つの新スマホを持ち上げた。
 ツートップは23日発売のサムスン「ギャラクシーS4」と17日発売のソニー「エクスペリアA(エース)」。ドコモは販促費を重点配分して他のスマホより価格を引き下げiPhoneにぶつける。加藤社長が特に説明に時間を割いたのがギャラクシーだ。
 サムスンが「iPhoneキラー」と位置付ける旗艦機種。鮮明なフルハイビジョン(HD)映像を表示できる5インチの有機ELパネルを世界で初採用。顔の動きで動画を自動再生・一時停止したり、画面に触れずに指をかざすだけで操作したりできる機能など持てる技術を詰め込んだ。
 主要市場でのギャラクシーS4の販売はこれからで実績はまだないが「iPhone5に対して優位。スマホ初心者にも使いやすい」(調査会社MM総研の横田英明取締役)と商品力を評価する声は多い。
 ドコモにはiPhoneに真っ向勝負を挑める機種が必要だ。iPhoneを扱うソフトバンクとKDDI(au)への顧客流出が続いているためだ。通信会社を乗り換えられるMNP(番号持ち運び制度)で、2012年度には転出の超過数が過去最悪の140万件に膨らんだ。
 ドコモ自身もiPhone導入を検討するが、販売ノルマなどアップルの条件が障害となって成り行きは流動的。そこで様々なメーカーの機種を等しく扱ってきた従来の販売戦略を転換、ツートップを対抗馬として明確に打ち出すことにした。
 ただ日本でアップルは依然強い。12年度の国内スマホ市場でのシェアは35・9%。サムスンは5位にとどまる。サムスンはここ数年で着実に存在感を高めているとはいえ、ドコモの新戦略が功を奏するかは予断を許さない。
 ツートップ戦略をもってしても顧客流出が止まらない場合、ドコモは厳しい条件をのんででもiPhone導入を迫られる。逆に流出を抑えられればアップルとの交渉で優位に立てると同時に、iPhoneなしでの独自路線という選択肢も含め戦略の自由度は増す。

手のひら、ディスプレーに、東大が技術、素早く動いても表示

 東京大学の石川正俊教授や篠田裕之教授らは手のひらなどをディスプレー代わりに情報を表示できる技術を開発した。高速で撮影するカメラで2ミリ秒ごとに位置を確認し、手が素早く動いても画像を遅延なく表示する。映像に合わせて超音波で手のひらに刺激も与えられる。将来は手のひらを押して情報を入力する技術と組み合わせて、携帯端末を持たずにコンピューターを操作する新技術として実用化を目指す。
 装置は2台の高速カメラと画像を投影するプロジェクター、手のひらの触覚を刺激する超音波発振機などからなる。高速カメラで手のひらや紙など表示したい物の位置を立体的に特定し、プロジェクターで画像を投影する。
 今回は「7」など特定の部位に超音波を当て刺激が感じられるようにした。
 これまでのプロジェクターで映像を表示する技術は静止した物に使う程度。移動する物に遅延無く、投影するのは難しかった。新技術なら動く物でもディスプレーになる。
 工場や事務所内に装置を設置すれば、情報端末を使わずに遠隔地のコンピューターから情報を自在に入手できる環境に変えられる。企業と協力して実用化を目指す。

太陽光発電用シリコン、砂漠の砂から生産、弘前大研究所、低コストで。


 砂漠などに大量に存在する二酸化ケイ素(シリカ)から太陽光発電用の太陽電池の材料に使う高純度シリコンを低コストで生産する新しい技術を、弘前大学の北日本新エネルギー研究所(青森市)が開発した。アフリカのサハラ砂漠に近いアルジェリアのオラン科学技術大学と連携し、今秋から実証実験を始める。
 同研究所の伊高健治准教授らの研究グループが、砂から精製したシリカを、るつぼの中でセ氏1800度程度の高温で炭素還元してシリコンを取り出すことで不純物の割合を少なくする方法にめどをつけた。
 サハラ砂漠の砂に含まれるシリカからシリコンを大量生産し、サハラ砂漠に建設する太陽光発電所で発電した電気を抵抗の少ない超電導直流電線を使って欧州などへ送る「サハラソーラーブリーダー計画」の一環。
 科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)の助成を受け、2010年から弘前大や中部大学などが共同で進めている。
 計画を主導する東京大学大学院の鯉沼秀臣客員教授は「大量の電気を低コストで生産、世界中でその電気を融通し合うシステムが可能になる」と話している。

日本版GPS活用へ協議会、「経済効果4兆円」流れ変わる

 全地球測位システム(GPS)の日本版で正確な位置情報サービスを提供できる「準天頂衛星」の産業利用に向け、7月にも産官学の協議会が発足する。ソフトバンクモバイルや三菱電機など約200社が参加、2016年にも社会実証試験が始まる。企業が知恵を持ち寄りながら、ビジネスへの道筋をつける。
 「高精度衛星測位サービス利用促進協議会」の設立は15日、都内で開かれた「衛星測位と地理空間情報(G空間)フォーラム」で明らかになった。経済産業省の武藤寿彦宇宙産業室長は「準天頂衛星の利用は企業から意見が出ることで急激に拡大する」と企業に積極的な参加を呼びかけた。
 内閣府の宇宙戦略室や経済産業省、文部科学省などのほか、宇宙関連の研究をする大学教授らも参加。「海外展開」や「利用環境」など課題ごとに4つの作業部会を設け、アジアでの通信インフラの利用環境や必要な法整備などを議論し、政府に提言していく。
 準天頂衛星は日本列島などの真上を8の字を描いて旋回し位置情報を地上におろす。現在のGPSでは約10メートルある誤差が十数センチになる見込みで、より正確なカーナビゲーションシステム、飛行機の運用、建機の制御、防災などへの応用が進むとみられる。
 これまでに位置情報や受信の精度などを調べる技術実証試験を終えた。全国で均一に高い精度で測位データを得られることなどが確認できた。
 準天頂衛星は今でこそ政府の重要施策だが、1基あたり300億円以上とされる巨額投資にかねて省庁や民間企業は及び腰だった。それが一転、内閣府が11年に引き取ると整備計画が加速。経済官庁が水面下で動いて経済波及効果が「日本を含めたアジアで約4兆円」と訴えるなどして流れが変わった。専門家も「産業界からの強い働きかけで(協議会設立が)実現した」と分析する。
 「GPS依存」からの脱却を求める意見もある。GPSの測位データは無料で使えるが、いつまでそれが続くか分からない。安全保障の観点からも早く7基体制を確立し、独自にデータを取得する必要性も指摘される。
 海外では中国や欧州、ロシアなどが独自の測位衛星計画を進める。準天頂衛星をうまくビジネスにするには受信機の普及や斬新なアプリケーションが必要になる。運用の前提となる4号機まで滞りなく開発することも欠かせない。

リチウムイオンキャパシタ――JMエナジー、EV向け照準

2倍のエネ放蓄電 可能に
 JSR子会社のJMエナジー(山梨県北杜市)は従来製品と比べて約2倍の高エネルギーを放蓄電できるリチウムイオンキャパシタを開発した。現在は産業機械の補助電源としての用途が中心だが、高電圧が必要な電気自動車(EV)や鉄道向けにも搭載が可能になる。パッケージの小型化につながるため、自然エネルギーの小口蓄電など成長分野での用途拡大が期待されている。
 JR中央本線の小淵沢駅から東に約10キロ離れた山あいに、JMエナジー本社はある。同社は2008年11月、この地で他社に先駆けてリチウムイオンキャパシタの製造工場を立ち上げた。
 機械の補助バッテリーとして一般的に使われている電気二重層キャパシタは、急速な充放電が可能でほとんど劣化しない特徴を持つ。ただ、自己放電が多く、エネルギー密度が小さいのが課題で、大量に電気をためる蓄電装置はリチウムイオン電池が主流となっていた。
 同社は高いエネルギー密度が可能なリチウムイオン電池と電気二重層キャパシタの特性を併せ持つリチウムイオンキャパシタに注目。生産コストを抑え、リチウムイオンキャパシタの量産に成功した。
 JMエナジーの宮部五郎社長は「耐久性や安全性が高く、メンテナンスフリーを実現できるため、医療機器や停電補償装置として採用が進んでいる」と指摘。同社は現在、金属の容器で包んだ角型で年12万セル、ラミネートで密封したラミネート型で年30万セルの生産能力を持つ。
 ただEVやハイブリッドカーへの本格採用を目指すには、さらにエネルギー密度を高める必要がある。そこで同社は正極材に使う活性炭と負極材に使う炭素素材をより低抵抗な新素材に作り替え、今年に入り新製品を開発した。
 新製品の角型のエネルギー密度は1キログラム当たり16ワット時、ラミネート型は同20ワット時。同社の従来品と比べて約2倍の高エネルギーを放蓄電できるようにした。瞬発力を示す出力は他社製品の約3倍で、急速な放蓄電も可能になったという。
 新製品は量産車にも採用される可能性が出てきた。アイドリングストップ時のエンジン起動に必要な電気を蓄える部材として使われる電気二重層キャパシタと比べ、約4~5倍のエネルギー密度があるため、代替需要が見込めるからだ。
 これまで顧客は放蓄電量に合わせて複数のリチウムイオンキャパシタを専用のセルモジュールに組み込んで利用していたが、新製品は必要なセル数が従来の2分の1で済み、コスト削減効果が見込める。さらにパッケージを小型化することで、太陽光・風力を使った外灯の蓄電など自然エネルギー分野にも用途が広がる。
 同社は約8億円を投じ、今年6月にもリチウムイオンキャパシタの研究棟の増設を完了させる。製品の評価装置も新たに導入する予定で、「高機能な製品開発を加速させる」(宮部社長)考えだ。
 ▼リチウムイオンキャパシタ キャパシタはコンデンサーの別名。化学変化ではなく、正極と負極に電子が吸着することで電気を蓄えられる電気二重層キャパシタと、リチウムイオン電池の特性を組み合わせた蓄電装置。正極に活性炭、負極にリチウムイオンを吸収した炭素素材を使用。繰り返しの急速充放電が可能で、通常のキャパシタと比べ、エネルギー密度が高い。

新薬や新材料研究に活用、光・量子ビーム技術融合――文科省新事業

小型加速器も開発
 文部科学省は光技術と量子ビーム技術を融合した新たな研究開発事業に乗り出す。電磁波を利用する光技術と、中性子やイオンを使う量子ビーム技術の知見を統合し、物質の構造や反応などを解明する。小型加速器の開発にも着手。得られた成果を手掛かりに新薬や新材料の開発につなげる。
 同省は従来、光技術と量子ビーム技術を別々に研究してきた。光を増幅したレーザーは情報通信や建築加工に応用。量子ビームは物質・材料の解析に有効だ。ただ近年は両技術の役割が重なりつつあり、融合の必要性が指摘されていた。
 今後3~5年かけてレーザーのほか、中性子やイオン、電子、放射光など複数の光・量子ビームを利用し、新原理の解明を目指す。事業数は3~6件程度で1件あたり年間最大1億円を投じる。5月下旬に委託先を決め、6月末にも事業を始める。
 レーザーや放射光などのそれぞれの波長やパルス幅の違いを利用し、物質の反応を解析する事業などを想定。人の視覚システムが解明できれば新薬開発が期待できる。光合成の過程を解明できればエネルギーの変換・貯蔵のための超微細部品の研究開発に役立つ。
 短時間で大きなエネルギーを発するパワーレーザーで超高圧状態にした上で、電子で作った放射光を当てて物質の反応を解析する事業も想定される。従来の技術では実現できない超高圧下の新たな物質材料が創出できる可能性がある。
 文科省は量子ビームの新たな加速器の開発も始める。従来の加速器は茨城県東海村の「J―PARC(大強度陽子加速器施設)」や兵庫県播磨科学公園都市の「SPring―8(大型放射光施設)」など大型の施設が多かった。研究室規模で使用できる小型加速器を開発する。
 光科学施設を含め他の施設に持ち運び可能な小型加速器を作り、光・量子ビーム技術の融合を効率的に進める。メーカーなど産業界の研究者も容易に利用できる解析ソフトを備えたシステムも開発する。このほか各施設の共用や人材交流も進める。先端的な光技術・量子技術を複数備える研究者を育成し、イノベーション創出を強力に推進していく方針だ。

iPSから造血幹細胞、東大、マウスで治療効果。

 東京大学の中内啓光教授らはマウスの体内を使い、人間のiPS細胞から血液のもとになる造血幹細胞を作ることに成功した。別のマウスへの移植で治療効果があることも確認した。白血病など血液の難病の治療法研究に役立つ。米科学誌(電子版)で14日発表した。
 iPS細胞をマウスに移植するとできるテラトーマ(奇形腫)という良性腫瘍に着目。細胞の増殖を促すたんぱく質などとともに人のiPS細胞をマウスの皮下に投与し、腫瘍の中で造血幹細胞が育ちやすくした。
 腫瘍から骨髄に集まった造血幹細胞を採取し、人為的に造血幹細胞を壊した別のマウスに移植した。マウスは致死量の放射線を浴びていたが、移植後も生き延びた。骨髄に集まった造血幹細胞はリンパ球などすべての血液細胞を生産していた。
 iPS細胞を体外で人工的に培養する従来の手法では十分に働く造血幹細胞を作るのが難しかった。ただ、今回の成果を治療に生かすにはブタなどの大きな動物で造血幹細胞を大量に作る技術などの確立が必要になる。
 テラトーマを人間の体内で作るのは倫理的に問題がある。当面はiPS細胞から病態を再現した造血幹細胞を作り、血液難病の発症の仕組みや治療法の研究に生かす。

ソニー――4Kテレビ用超解像技術、フルHDも高精細に

 ソニーは6月からフルハイビジョンの約4倍の解像度を持つ「4K」の液晶テレビの販売を本格化する。苦戦が続くソニーのテレビ事業にとって4Kテレビは再生の切り札。通常のフルハイビジョン映像でも4Kに近い画質で楽しむことができる超解像技術を活用し、ライバル各社に差を付ける戦略だ。
 「ソニーが持つ15年以上にわたるテレビの高画質化ノウハウのすべてを投入した」。テレビ事業部で4Kテレビの開発を担当する飯田譲司エンジニアリングマネジャーは、6月1日に発売する4Kテレビ「KD―65X9200A」を見ながら強調する。
 ソニーは昨年11月に84型の4Kテレビを発売したことを手始めに、6月から65型と55型の2機種の販売を始める。4Kとは1000の単位を意味し、水平方向の画素数が約4000のために名付けられた。解像度がフルハイビジョンの約4倍のため、従来はぼやけていた画像が鮮明に見えるようになった。
 4Kテレビについて、4Kコンテンツの不足が普及を遅らせるとの見方もある。しかし、ソニーの4Kテレビ「X9200Aシリーズ」の特徴は通常の映像でも4Kに近い鮮明な画質に高めて楽しめること。それを実現したのが同シリーズに搭載した超解像エンジン「4K・X―リアリティ・プロ」だ。
 4Kよりも画質が劣るフルハイビジョンの映像をどう4Kの画質に高めるのか。ソニーでは「データベース型照合置換」という技術を採用する。
 ソニーは映画や放送部門が4Kの映像データを大量に保有しており、4Kの映像信号波形をフルハイビジョンに劣化させた場合の波形の変化パターンを数千種類持っている。この変換パターンを逆方向で利用するのがデータベース型技術のミソだ。
 具体的にはフルハイビジョンの映像信号波形が入力されたら、まずノイズを低減する処理を施した後、変化パターンを蓄積したデータベースで照合。4K映像として撮影した場合に持つとみなす映像信号波形を作り出し、被写体の輪郭や質感などを復元して鮮明な映像を実現する。
 国内のライバルメーカーも超解像技術を導入したとしているが、ソニーによると、データベース型は同社独自の技術。他社は半導体などによる演算型の技術を採用しているという。データベース型のメリットは4K映像の再現性が高いうえ、処理速度が速く、エンジンに組み込んだ半導体への負担が少ないため、コストを圧縮できる点にある。
 液晶テレビの世界市場は2012年に初めて前年割れとなったため、各社は4Kテレビで消費意欲を高める狙いだ。ソニーのほか、東芝やシャープといった日本メーカーに加え、韓国のLG電子や中国の海信集団(ハイセンス)や創維集団(スカイワース)などが発売。50型で1万1000元(約16万円)の低価格商品も登場している。
 ソニーは超解像技術を使った製品投入により、低価格を特徴とする中国メーカーとは違いをアピールする。テレビの歴史は高画質化と大画面化の歴史でもあり、4Kの次はハイビジョンの16倍の解像度を持つ「8K」も控える。飯田エンジニアリングマネジャーは「低品位の映像を高品位に向上させる超解像技術の精度を高めていきたい」と意気込む。

北陸先端大など、細菌3D模型、5時間で造形

 北陸先端科学技術大学院大学の川上勝准教授らは、複雑な構造をした細菌の3次元(3D)模型を短時間で作る技術を開発した。顕微鏡写真や想像図をもとにCG(コンピューターグラフィックス)画像を作り、3Dプリンターで作製する。立体模型を手掛かりに化学物質を合成すれば、新薬開発につながる。
 大阪市立大学の宮田真人教授、3D模型作製ベンチャーのスタジオミダス(埼玉県上尾市・中村昇太社長)との共同成果。細胞内に寄生して肺炎の原因にもなる細菌のマイコプラズマの3D模型を作製した。実際のマイコプラズマは長さが1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル程度だが、作製した3D模型は約20センチメートルで重さ約50グラムある。
 模型の作製には市販価格が十数万円の安価な3Dプリンターを使った。ABS樹脂製で材料費は1000円以下。5時間で完成した。従来は専門メーカーに注文してから納品まで1カ月以上かかり、価格も40万~50万円程度になるとみられる。
 マイコプラズマは動物や植物の細胞に比べてはるかに小さい。外観は顕微鏡で観察されているが、正確な内部構造はわかってない。マイコプラズマの生態を長年研究する宮田教授らが作った想像図をもとにチームでCGを作製。川上准教授らが印刷の向き、部品構成など3D印刷に適した設計図をパソコンで作りデータを入力した。
 川上准教授は公開データから複雑な構造のたんぱく質の3D模型も作っている。今後は、想像図から生物や生体物質の3D模型を作り、創薬などの研究に役立てる。