2011年7月13日水曜日

ヒト染色体の中心、構造を詳細に解明、早大教授ら。

 早稲田大学理工学術院の胡桃坂仁志教授と立和名博昭助教らは、人の染色体の中心部分の構造を世界で初めて詳細に解明した。中心部分は、細胞が分裂するときに染色体が分離する要となる。ダウン症などの病気に深く関わるため、発症メカニズムの解明などに役立つ。成果は英科学誌ネイチャー(電子版)にこのほど掲載された。
 研究チームは、染色体の中心部にある4種類のたんぱく質に注目。遺伝子組み換え技術で大腸菌に人工的に作らせ、DNAと一緒に試験管の中で反応させ結晶を作ることに成功した。結晶を専用施設で解析したところ、DNAが4種類のたんぱく質を包みながら両腕を広げた基本構造をとっていることがわかった。
 両腕があることで、染色体の分離に必要なたんぱく質がくっつき、正常に分離できると考えられるという。これまで染色体の末端の構造はわかっていたが、中心部はわかっていなかった。

光当てウイルス撃退、住友化学が樹脂フィルム。

 住友化学はインフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)などのウイルスを不活性化する樹脂フィルムを開発した。特殊な光触媒を塗布しており、蛍光灯やLED(発光ダイオード)照明の光を受けると威力を発揮する。床やテーブルに張り付けるだけで済むため、一般家庭から病院、商業施設など幅広い分野に「衛生的な内装材」として採用を働き掛ける。
 ポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルムを、接着剤を混ぜた酸化タングステンでコーティングした。酸化タングステンが光触媒の役割を果たし、可視光線を受けると有機物質を強力に分解する。屋外の紫外線を受けてウイルスを不活性化する光触媒はあったが、室内照明で効果を発揮するのは珍しいという。
 アルコール消毒液や熱湯に耐える最も丈夫なウイルスとされる「ガチョウパルボ」を使った実験では、フィルム上にウイルスを置き家庭用LED照明を6時間照射すると99・9%が不活性化した。

東芝、メモリー最先端工場稼動――微細化の壁、越えられるか

 東芝は12日、NAND型フラッシュメモリーを生産する四日市工場(三重県四日市市)で第5棟目となる新たな製造棟を稼働させた。東芝が得意とする微細化技術の粋を集めた世界最先端の工場。ただ、現行メモリーの技術革新は2013年ごろに物理的限界に達する。フラッシュに置き換わる次世代メモリーで、確実な成長軌道を描けるのか。
 「最新技術を導入してし烈な競争に打ち勝つ。(四日市工場を)世界最強のメモリー製造拠点にする」。東芝の佐々木則夫社長は12日、完成記念式典のあいさつで自らを鼓舞するように宣言した。
 新製造棟では、まず線幅24ナノ(ナノは10億分の1)メートルで量産をスタート。7月中には19ナノメートルの量産にも挑む。10ナノメートル台のフラッシュメモリー量産はまだ世界で東芝にしかできない。メモリー世界首位、韓国サムスン電子も技術開発の途上にある。
 半導体回路の線幅を細く加工する微細化技術で先行すれば、半導体1個当たりの面積を小さくできる。同じ素材から生産できる半導体個数が3~4割増え、製造コストが劇的に下がる。
 あらゆる領域でサムスンの後じんを拝している日本のエレクトロニクス産業のなかで、メモリーは技術革新で大きくリードしている唯一の分野と言っても過言ではない。もっと注目を浴びてもいいはずだが、記者会見の“主役”は最先端技術が集まった新製造棟ではなかった。
関心は更地に
 出席者の関心は新製造棟に隣接する手つかずの更地に向いていた。実は、第5製造棟は2期に分けて工場を2つ建設する計画で、今回稼働したのは1期目だ。2期目では、現行のNAND型フラッシュか、置き換わる次世代メモリーの「ポストNAND」の生産が検討されている。そのため「2期目がいつ稼働するか」が注目を集めているのだ。
 東芝の公式見解は、「13年度の建設開始を想定しているが、市況を見極めながら検討するので何も決まっていない」。
 なんとも煮え切らないが、次世代品の量産時期は戦略上最も重要な情報。ポストNAND量産時期を問われ、佐々木社長も「言いたいことはあるが、それは言ってはいけないと言われている」とけむに巻いた。
 NAND型フラッシュ、DRAMが代表するメモリーは1年に1世代ずつ、技術革新が進む。処理高速化、大容量化の原動力になる。だが、これまでのペースだと、あと2~3年で物理的限界にぶつかる。NAND型フラッシュは、線幅が15ナノメートルより細くなると記憶部分がもろくなる。誤作動を起こしやすくなり、データ保存が困難になる。DRAMは20ナノメートルが限界点とされ、いずれも到達時期は13年ごろとみられる。
 さらにこの時期に、インターネット環境の進化やクラウドコンピューティングの浸透によるデータセンターの増設で扱う情報の量が急激に膨れ上がる“ビッグデータ”時代を迎える。技術革新による大容量化が止まってしまうと、ビッグデータ時代を支えるメモリーとしては不適格の烙印(らくいん)を押されてしまう。
サムスンと競争
 「複数ある候補から量産準備をするメモリーが決まった」。6月、サムスンが次世代メモリーを急ピッチで開発しているとの噂が流れた。DRAMやNANDなど電荷蓄積してデータを記憶する現行メモリーとは異なり、「物質の状態が変わるのを利用するメモリー」(関係者)という。収益性の低下を嫌って現行メモリーの増産投資は控えているが、次世代への研究開発はむしろ増やし、「東芝との技術格差をまた逆転する」(サムスン幹部)との意気込みだ。
 東芝も微細化技術のリードを次世代領域でも保つ構えだ。佐々木社長は「微細化はいずれリミットが来る。2期目は最初からポストNANDで始めたいという気持ちでいる」とする。これまでの平面構造のフラッシュから、縦に回路を積み上げた3次元構造に切り替え、超大容量化品を検討しているようだ。実現すれば、1チップ当たり数倍の大容量化が期待できる。
 東芝は、20年までのNAND型フラッシュの市場規模予測を出した。10年からの10年間、年平均成長率が70%とする驚異的な数字だ。成毛康雄執行役常務は「20年にはすべて次世代メモリーに置き換わっているだろう」と予測する。
 これまでのペースとは異なる性能向上、大容量化を求められる次世代メモリー。開発競争に勝ち抜き、クラウド化で爆発する次世代のメモリー市場で“世界最強”の座を奪取できるか。東芝のメモリー事業は大きな節目を迎えている。

日本フネンが間仕切り材、外の光通すコンクリ、光ファイバー活用。

玄関ドア製造大手の日本フネン(徳島県吉野川市、久米徳男社長)は、外部の光が光ファイバーを通し透過するコンクリート製の建材を開発した。絵柄付きのフィルムを張ると反対側の表面に浮かび上がって見えるので、美術館やデザイン性の高いビルの壁や間仕切りに使える。防犯にも役立つとみている。価格は1平方メートルあたり20万円。年間1億円の売り上げを見込んでいる。
 開発した「光透過パネル」=写真=は、表面から裏面に向けて、直径0・25ミリの光ファイバーを横方向に約1ミリ、縦方向に約4ミリの間隔で並べ、コンクリートで固めた。パネルの大きさや厚さは用途に応じて変えられる。
 個々の光ファイバーが光る素子の役割を果たす。例えば、パネルの裏側に絵柄の付いたカラーフィルムを張って光を当てると、絵柄が光ファイバーを通してパネル表面に浮かび上がって見える。コンクリート製のため、鉄筋などで補強すれば壁や床など一般建材としても使えるという。
 邸宅の門扉や塀に防犯用に使うケースも想定する。夜間、外部からは通常の塀にしか見えないが、内部からは外灯に照らされた人の動きが分かる。空港のVIPルームや金融機関の間仕切りなどの用途が考えられる。

日興、塩害向けコンクリ防食剤、塗布で寿命3倍50年、まず五洋建設に納品。

 建築資材の日興(東京・杉並、塩田哲康社長)は、塗布すれば岸壁コンクリートの寿命が3倍の約50年に延びる「防食剤」を開発した。配合成分の分子をきめ細かくすることで塩水が鉄筋に染み込むことを防ぐ。すでに港湾工事を得意する五洋建設への納品が決まった。東日本大震災で被害を受けた海岸部の復興需要も見込んでいて、3年後をメドに年間5億円の販売を目指す。
 防食剤は液体ガラスでつくった。主成分であるケイ酸やシランの配合を工夫して、分子構造を従来品の10分の1にした。分子の“網の目”が細かくなることで、これまで岸壁コンクリートに染み込んでいた塩水を防ぐ仕組み。
 工事費を含めた価格は、塗布面積1平方メートルあたり4900円。五洋建設には年間10万平方メートル分を納める予定。月内には、国土交通省が構築したNETIS(新技術情報提供システム)に登録されるため、販売代理店も積極的に募る。
 日興は1991年の設立。従業員は24人で、2010年8月期の売上高は3億円。電子部品のコーティング剤から建材の塗装材まで約60種類の商品を手がけている。
 コンクリート関連では2004年、凍結防止剤を開発済み。北海道や東北地方などに納めていたが、顧客からは塩害対策を求める声が多かったという。

炭素繊維から板バネ、兵庫工技センターなど、織物の設備を活用。

 兵庫県立工業技術センターは県内の繊維関連企業や同志社大学と、炭素繊維から産業機械用の板バネを作る技術を開発した。兵庫県はワイシャツなどの素材となる布「播州織」の産地。今回、布を織る設備を使って鉄のように硬い素材を作ることに成功した。人件費などコストの低い海外製品との競合が厳しくなっている地場産業の技術革新策として注目される。
 同センターの出先機関である繊維工業技術支援センター(西脇市)と、織布会社の藤邦織物(同)と、縫製を手掛ける宮田布帛(同)が中心となって開発した。宮田布帛がミシンで炭素繊維とポリエチレンの糸をより合わせて1本にまとめ、藤邦織物が布状に織った。
 布に熱と圧力をかけるとポリエチレンが溶けて板状になる。これを8枚重ねると2ミリ弱の厚さでも鉄並みの硬さとなり、鉄の5分の1の軽さの素材が作れるという。
 炭素繊維を板状にした素材はすでに存在するが、摩擦に弱い炭素繊維に対応した設備が新たに必要だった。今回の方法だと、ほとんど既存設備で対応できるという。今後は運搬機器のバネ材としての実用化を目指すほか、将来は自動車部品にも活用したい考えだ。

ガラス並みの強度と光透過、スマホ向けフィルム、昭電、試験プラント完成。

 昭和電工は12日、大分コンビナート(大分市)で建設していた特殊樹脂フィルム「ショウレイアル」の試験プラントが完成したと発表した。ガラス並みの強度と光の透過率を実現できるため、スマートフォン(高機能携帯電話)のタッチパネルの表面保護カバーとしての需要を狙う。
 新プラントは年数十万平方メートルの生産能力をもつ。投資額は7億円強。スマートフォン関連会社への売り込みを強化し、一定の顧客を獲得した段階で本格的な量産設備を建設する。2020年までに年間売上高200億円の事業に育成する計画。
 ショウレイアルはメガネレンズ向けで培った分子設計技術を発展させて開発したフィルム。鉛筆の芯などの硬さを示す数値では5Hと一般的な樹脂フィルムの2倍、厚さは100マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルと、ガラスの半分以下になる。
 4月中旬に都内で開催した商品展示会では、国内外のスマートフォン関連企業200社から問い合わせを受けたという。
 現在、スマートフォンのタッチパネルの表面保護カバーはガラス製が主流で、米コーニングの「ゴリラガラス」と旭硝子の「ドラゴントレイル」の2つのブランドが市場をほぼ二分している。昭和電工と同じく化学メーカーが薄さ、軽さ、加工性などで特徴を出した樹脂フィルムで市場参入を狙っており、今後は激しい競争が予想される。

三菱重、低燃費LNG船を開発、25%効率向上、韓国勢追撃へ。

 三菱重工業は12日、燃費性能を約25%高めた液化天然ガス(LNG)輸送船の開発が完了したと発表した。船体上部に球形のタンクを覆うカバーをとりつけることで、進行方向からの風の抵抗を受けにくくなるほか、船体の強度も高めるために軽量化にもつながった。エンジン機構には燃費を改善した蒸気タービンを採用した。年度内にも初受注を目指す方針で、この分野で先行する韓国勢を追撃する。
 新型LNG運搬船は、球形のタンクを覆う船体一体型のカバーが特徴。進行方向からの風を受け流すことができ、風速8~10メートルの場合で燃費性能が3~4%向上する。カバーの鋼材で船体の強度を維持できるため、船体に使う鋼材重量は従来型に比べて約5%減ったという。鋼材使用量を減らすことで製造コストも下がる。
 LNGの積載量は15万5000立方メートル。船型は従来とほぼ同じだが、タンク形状を工夫したことで積載量を8000立方メートル増やしている。国内外の船主に売り込み、年度内に初受注、来年度以降は年4~5隻の受注を目指す。
 LNGは原油と比べて割安で環境負荷が小さい。東日本大震災後はさらに有望なエネルギー源として注目されており、輸送船の需要も増えている。ただ円高の影響で輸送船の受注競争では韓国大手が先行し、三菱重工など日本勢は燃費性能を武器に巻き返しを図っている。三井造船も新型エンジンを搭載して燃費性能を高めたLNG輸送船を開発している。

浜松の中小21社とスズキ、チタン製プロペラ開発、船外機用、4割軽く。

浜松市の産業支援機関であるはままつ産業創造センターは、同センターの「浜松地域チタン事業化研究会」がチタン製船外機用プロペラ=写真=の製作に成功した。チタンはステンレスに比べて軽く、耐食性にも優れている。加工が難しいため実用化されていなかった。研究会に参加する地元の中小企業21社が中心となり、船外機メーカーのスズキの協力も受けて、短期間で開発した。2年後をめどに製品化したい考えだ。
 浜松地域チタン事業化研究会は、高い溶接技術を持つ増田酸素工業所(増田久雄社長)などが参加している。現在の高機能プロペラはステンレス製が主流。チタン製にすれば強度を維持した上で4割軽くなる。
 増田酸素などはチタン製について部位別にプレス加工し、その後に溶接して組み付ける製造技術を確立した。この技術を使えば、生産に必要な時間が従来の精密鋳造より短縮できる。製造コストは現在、チタン製がステンレス製の3倍程度高い。スズキなどとの協力で強度などを高める一方、価格も低減していく。

C型肝炎から肝がん移行、遺伝子変異、発症率2倍、理研など発見。

 理化学研究所などの共同チームは、C型肝炎が悪化して肝がんになるリスクを高める遺伝子の変異を発見した。日本人のC型肝炎患者を解析し、変異を持つ人は持たない人に比べ肝がんの発症率が約2倍になることが分かった。肝がん発症の仕組みの解明や、新しい診断法の開発につながる可能性がある。
 理研と広島大学、大日本住友製薬などの共同研究成果。詳細は米科学誌ネイチャー・ジェネティクス(電子版)に掲載された。
 肝がんによる死者数は日本で年間約3万人で、うち7割はC型肝炎が原因で発症するといわれる。ただ、C型肝炎が肝がんを引き起こす仕組みは詳しく分かっていない。
 共同チームは、日本人のC型肝炎患者と肝がん患者3312人の遺伝子を解析し、「DEPDC5」という遺伝子に注目。この遺伝子の塩基配列に変異がある人は、変異を持たない人に比べ肝がんの発症率が1・96倍高かった。遺伝子の解析で肝がんの発症のしやすさを予測できるようになる。
 肝がんの組織の中ではDEPDC5遺伝子が活性化していることも確認した。ただ、遺伝子の機能は詳しく分かっていない。今後の解析で機能が分かれば、肝がん発症の仕組みの解明につながる可能性がある。

東京理科大、歯細胞育成、歯以外で―再生新手法、移植後すぐ機能

 東京理科大の辻孝教授と大島正充助教らは、歯の再生医療の新手法を開発した。歯以外の場所で歯と歯周組織を細胞から育て、歯を失った箇所に移植し定着させる。マウス実験で再生歯が移植後すぐでも機能することを確認した。米科学誌「プロスワン」(電子版)に13日掲載された。
 大塚ホールディングスグループで再生医療向け医薬品を手掛けるオーガンテクノロジーズ(東京・千代田)、東北大、東京医科歯科大などとの共同研究。
 歯の再生には、マウス胎児から採取した幹細胞「歯胚」を使った。ここからエナメル質を作る上皮細胞と、象牙質やセメント質などを作る間葉細胞を取り出した。これを集めて再生歯胚を作製。マウス体内の腎臓の中で育てた。円柱状のプラスチック製器具を使い歯を最適な長さに調節しながら成長させた。
 60日後には長さ約2ミリメートルの歯と歯周組織が成長した。大人のマウスから臼歯を抜き、再生歯などを移植した。移植後にすぐかむことができ、40日後にはあごの骨と融合して一体化し、血管や神経も歯に入り込んでいた。
 痛みの刺激が神経を通じて脳に伝わるのも確認した。歯を支える骨がなくなった場合でも、再生した歯や歯周組織が定着させることができた。
 研究チームは、既に同様の手法で歯を抜いた場所に再生歯胚を植え、歯まで育てることに成功している。新手法を開発したことで、体外で器官を育てる技術の足がかりになるとみている。