2013年1月22日火曜日

リチウムイオン電池、寿命4倍、蓄電量維持――ダイソー、接着剤を開発。


 ダイソーはリチウムイオン電池の寿命を4倍以上に延ばす電極用接着剤を開発した。電気を生み出したり導電性を保ったりする物質を電極に付着させる接着剤は酸化などの影響で力が弱まる。同社が独自開発したアクリル系樹脂は酸化に強く、充放電を繰り返しても電池の容量が落ちにくくなる。2014年をメドに販売を始め、エコカーや大型蓄電池向けの需要を開拓する。
 リチウムイオン電池は、リチウムイオンが正極と負極の間を移動することで電池の機能を発揮する。両電極には電気を生み出す「活物質」や電子を通すカーボンなどの「導電助剤」を「バインダー」と呼ぶ接着剤で電極に付着させる。活物質が電極から落ちにくくすることが電池の延命につながる。

 ダイソーは分子構造を工夫して新しい樹脂を開発した。セ氏60度の高温下で、それぞれ1時間かけて充電と放電を繰り返す試験では、従来のバインダーが116サイクルで容量維持率が10%落ちてしまうのに対し、新開発の樹脂は468サイクルまで延ばせたという。

 バインダーは発電時に酸化・還元反応にさらされるため、高い接着力が必要になる。特に酸化反応の起こる正極で、はがれやすく、これまでは分子構造の強固なポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使った溶液が利用されてきた。

 PVDFを使ったバインダーは有機溶剤を媒体にするため、生産には防爆設備などが必要になり、生産コストが高くつく。ダイソーが開発したバインダーは、乳化重合という方法で水の中でアクリル系樹脂を合成する。安全かつコストを抑えて生産できるという。価格はPVDFを使ったバインダーと同水準になるとしている。

 富士経済(東京・中央)によると正極用バインダーの世界市場は16年に10年比3倍超の259億円に拡大する見通し。PVDFの最大手はクレハで、世界市場の7割を握る。ダイソーは電池メーカーなどと組み、エコカーや企業、家庭用大型蓄電池向けの新たな需要を開拓、20%程度のシェア獲得を目指す。

ディスプレー、表示法切り替え、千葉大が材料開発、温度で発色・発光自在に。


フルカラーに対応

 千葉大学は1台で2つの表示方法を切り替えて使う次世代フルカラーディスプレー向けの材料を開発した。電子ペーパーとパソコンなどを想定しており、温度により色と光が変わる材料を活用した。照明の明るさなど周囲の状況に合わせて表示法を選べば、目などへの負担が減らせる。企業に呼びかけて共同研究を進め、ディスプレーの早期実用化を目指す。

 ディスプレーには電子ペーパーなど外からの光を反射し表示する反射型と、画面の後ろに光源がある液晶テレビやパソコンなどの発光型がある。

 中村一希助教と小林範久教授らは、染料に色を引き出す顕色剤という材料がくっついて発色する方式を反射型に採用。発光型を用いる際は、染料と顕色剤が離れて色が消える代わりに、発光材料が光るようにした。

 発色と発光の切り替えを実現する材料を開発、フルカラー化に必要な3原色(赤・青・緑)をそろえた。発色する材料と発光材料を、色ごとに組み合わせた。例えば赤色では、赤い色の染料と顕色剤と、赤い光を出す物質のユーロピウムを合わせた。研究に協力した山田化学工業(京都市、山田新平社長)の染料を利用した。

 温度により発色・発光材料のうち、どちらかが働くように工夫した。実験では材料を樹脂中に混ぜてガラス基板上に薄い膜を作った。この膜を一度加熱して急激に冷やして染料と顕色剤がくっついた状態にすると、赤い色になった。

 加熱後にゆっくり冷やすと、染料と顕色剤が離れ色は消えた。この状態ではユーロピウムが赤い光を放った。この切り替えは何度も繰り返せる。

 同じ原理を利用し、ガラス基板上の1つの膜で青と緑でも色と光の切り替えができた。実際のディスプレーでは、電気を流して温度を変化させる方式を採用する考えだ。

 日中など明るい場所では電子ペーパーで、暗い場所では液晶テレビで見るように表示方法が切り替えられれば、目への負担を減らせる。野外に設置し天候や時間帯によって表示方法を切り替えられる電子広告などへの応用も目指す。

 ▼温度変化で色が変わる材料 サーモクロミック材料と呼ばれ、感熱紙や温度変化を示す塗料などに利用されている。液晶やロイコ染料などが代表的な材料だ。
 ロイコ染料は顕色剤と組み合わせて使う。顕色剤がくっついた状態では色が付き、離れた状態では無色になる。加熱と冷却速度を調節するとロイコ染料と顕色剤のくっつき方が変わるため色も変わる。

東北大の原子分子材料科学高等研究機構――材料研究に数学の視点


 最先端の電子素子や電池、磁性材料などを次々生み出すなど材料に関する研究で世界から注目されてきた東北大学。さらにトップレベルの材料科学を目指して2007年に設立したのが原子分子材料科学高等研究機構(仙台市)だ。11年度からは数学の視点を取り入れる新たな試みで、材料特性を一気に高めようと取り組んでいる。

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 同機構には内閣府総合科学技術会議が選んだ日本を代表する30人の科学者のうち、究極の省エネ型素子を開発する大野英男(58)と、微細加工技術で多機能の素子を開発する江刺正喜(63)が在籍。この両教授を含む100人以上の研究者を擁し、その半数ほどは外国人で、公用語は英語だ。海外からの来訪者も後を絶たない。

 太陽電池は発電効率が1%上がるだけでも大きな省エネ効果があるが、材料の改良で効率向上につなげるには時間がかかる。そこに数学を取り入れて狙いを定めれば、短期間で数倍の効果を出せるかもしれないと、11年度に数学者で教授の小谷元子(53)を副機構長に招いた。翌12年度に小谷が、9割以上が材料科学者という機構のトップに就き改革が本格化した。

 それまでほとんど交流が無かった材料科学者と数学者。取り持つのはインターフェースユニットと呼ぶ、材料と数学の両方に明るい6人の若手研究者のグループだ。材料科学グループ約120人と数学ユニット7人の双方の話を聞き、融合の機会を模索している。

 12年6月にインターフェースユニットに加わった助教の小林幹(34)は、超臨界という特殊な状態を使い材料合成を研究する主任研究者で教授の阿尻雅文(55)と数学ユニットをつなぐ。

 阿尻から「ナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズの微粒子を均一に分散したい」と聞き、東京大学で携わったロボット開発で歩行制御に使った数学の理論を提案した。「凝集した粒子をバラバラにするのは安定を不安定にすること。ロボットを安定に歩かせる理論を逆に使えばいい」と発想。この理論を基に数学ユニットとナノ粒子向けの理論構築を急ぐ。

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 「数学者からこれまでに無い視点で解析手法の提案を受け、研究に拍車がかかる」。日立製作所やソニー、東大でと材料研究の経験豊富な准教授の一杉太郎(41)も刺激を受ける。大手自動車メーカーとリチウムイオン電池用材料などを開発中。材料の実験データについての数学者の解釈を、再び材料開発に生かす好循環ができつつあり、現在、数学者と共同で論文をまとめている。
 いずれも東北大教授で、電子の磁石としての性質(スピン)で省エネ素子を開発するスピントロニクスの国際的な研究者、大野と斉藤英治(41)は12年度から機構に加わった。機構長の小谷が「スピントロニクスと数学は距離が近いと考え、参加を頼んだ」。斉藤は早速、スピンの流れを説明する物理法則を数学者と構築する作業に入った。

 「副機構長として呼ばれた時、数学者にとっても大きなチャンスだと思った」と小谷。「材料科学者と融合できるか不安もあったが、話し合いを重ねて両者はよいムードになった。機構は16年度までの期限付き。それまでに革新的材料を生み出し、延長につなげたい」と意気込む。

超電導ケーブルで送電、省エネへ実用化探る、国内で相次ぎ実験開始。


 発電した電気を無駄なくほぼ100%送れる超電導ケーブルを使った送電実験が国内で相次いで始まった。送電時の電力損失を減らせるので、現在の銅ケーブルなどから置き換えれば大幅な省エネにつながる。超電導技術は日本の得意分野だが、実用化への取り組みは遅れていた。実験を積み重ねることで、既存の送電インフラの更新の一部置き換えを狙う。

 「超電導ケーブルで送った電気を、超電導ケーブル用の線材生産に使う」。頭が混乱しそうな発言の主は住友電気工業の林和彦・超電導製品開発部長だ。同社は今月7日、大阪市内にある自社工場内で超電導送電の実験を始めた。

 関西電力から供給された電気を70メートルの超電導ケーブルを使い、3300ボルト、200~400アンペアで超電導線材の生産工場に送る。「自社の実験データを示しながら、超電導ケーブルを様々な産業分野での採用につなげたい」(林部長)。電気を大量に使うデータセンターや化学・鉄鋼メーカーの工場などが超電導ケーブルを採用すれば、省エネにつながる。実験を通じ事業拡大を目指す。

 超電導ケーブルはセ氏零下196度の液体窒素で冷やすと、電気の流れを妨げる抵抗がゼロになる。銅ケーブルでは送電途中で約5%が熱になり失われてしまうが、超電導ケーブルなら損失をほぼ半分にできる。

 銅ケーブルや住友電工の実験は電気を交流で送る方式だが、直流にすれば損失は約0・5%と、さらに省エネ効果が高まる。太陽光発電とも相性がよい。直流方式の実験も今年、北海道石狩市で始まる見通しだ。

 中部大学の山口作太郎教授を中心に、自治体などが協力。さくらインターネットが運営するデータセンターの近くに大規模太陽光発電所(メガソーラー)を新たに設置し、300~500メートルの超電導ケーブルで電気を送る。太陽光発電で生み出す電気は直流で、コンピューターで使う際も直流。銅ケーブルでは送るときだけ交流にしていた。直流のままなら電気を変換する必要がなく、変換時の発熱などを抑えられる。

 このプロジェクトへの企業の関心も高い。超電導ケーブル、冷凍機、化学、鉄鋼、電機、建設などの企業に参加を呼びかけており、30社以上が参加を検討しているという。国の助成が得られれば、北海道電力の変電所から約2キロメートルのケーブルを使ってデータセンターまで直流で送る実験にもとりかかる計画だ。

 山口教授は「電気抵抗による損失や発熱がなくなれば、空調の費用も減る。データセンター全体で40%以上の省エネになる」と期待を込める。東京電力も昨年10月、横浜市内の変電所で住友電工、前川製作所と共同開発した超電導送電システムを日本で初めて実際の電気系統に接続するなど、動き出している。

 米国やロシア、中国などは日本メーカーの技術も活用し、一足先に超電導送電の実験を始めている。スマートフォン(スマホ)のように、日本勢の役割が主に部品供給にとどまり、製品化や実用化で後れを取る可能性もある。相次ぐ実験をいかに早く実用に結びつけるかが今後の課題になりそうだ。

遺伝子のスイッチ役「エピゲノム」研究、慢性疾患治療に的、東大、糖尿病で成果。


理研は精神疾患

 最先端の遺伝子研究である「エピゲノム」を、糖尿病などの生活習慣病や精神疾患といった慢性化しやすい病気の治療に活用する医学研究が盛んになってきた。遺伝子の働きを「オン」「オフ」にするエピゲノムが、加齢やストレス、食生活の影響を受けやすいことがわかってきたからだ。薬で遺伝子を正常な状態に戻せると専門家はみており、新たな治療法開発を目指す。

 高血糖状態が続くことで腎臓の機能が損なわれてしまう糖尿病性腎症。腎臓の細胞の特定遺伝子にブレーキ役の「メチル基」がくっつきにくくなることが発症のきっかけになっている可能性が高いことを、東京大学先端科学技術研究センターの研究チームが突き止めた。

 藤田敏郎特任教授と丸茂丈史特任講師は血糖値が高い糖尿病性腎症のモデルマウスを使って研究した。腎臓の細胞のDNAを調べたところ、腎機能を衰えさせる遺伝子に、働きを止めるメチル基がくっついておらず、異常に働いていた。
 糖尿病のように血液中の血糖が増えることでメチル基が外れやすくなるとみている。血糖値を下げる薬を与えるとくっつくようになり、遺伝子の働きが止まった。
 藤田特任教授は「メチル基を外さない薬剤があれば、腎症を治すことができるかもしれない」と話す。

 星薬科大学の成田年教授らは、外傷などをきっかけに傷が治った後も激しい痛みが続く神経障害性疼(とう)痛の治療研究に取り組む。マウスの実験では、脊髄の細胞で炎症たんぱく質を作る遺伝子の一部に本来つくはずのメチル基が存在しないことがわかった。神経が傷ついた後に痛みを起こす物質が出てメチル基を外し、痛みを長期化させているとみている。
 成田教授は「傷ができた直後から医療用麻薬などを使い痛みを取れば、メチル基が外れずに痛みが慢性化しない」とみており、動物実験を進めている。

 理化学研究所の加藤忠史チームリーダーらは、双極性障害(そううつ病)を対象に、神経伝達物質セロトニンを正しく運ぶ遺伝子と発症との関連性を調べた。

 片方だけが双極性障害を患う一卵性の双子を対象に、血液細胞のDNAを解析した。患者の「セロトニン運搬遺伝子」の一部にメチル基がくっつき、遺伝子が働いていなかった。発症していない人ではほとんどついておらず、遺伝子は通常通り機能していた。
 子どものころに受けたストレスなどの環境要因が、変化を引き起こした可能性があるという。