2013年1月31日木曜日

日本電気硝子、新ガラス基板、有機ELパネル、連続生産に対応、導電膜付き。



 日本電気硝子はガラス基板の電気を流れやすくする酸化インジウムすず(ITO)の透明導電膜を付着させたロール状の薄型ガラスを開発した。ITO膜は真空状態で形成するため、現在は数メートル角のガラスをフィルムなどと張り合わせてパネルにしている。ITO膜付きのガラス基板ロールで供給すれば有機ELパネルが印刷のように連続生産でき、大幅なコストダウンにつながりそうだ。
 日本電気硝子は自社のロール状の極薄ガラスを活用。真空容器の中にロール状のガラスを入れ、巻き取りながらITO膜を付着させた。薄さ50マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル、幅30センチメートルのガラスで、長さ100メートルまでのロールで供給できる。
 有機ELやタッチパネルの基板素材としては樹脂フィルムも検討されている。しかし、樹脂は耐熱温度が百数十度と低いため、ITO膜の電気抵抗が高くなる傾向がある。導電性を確保するため膜が厚くなり、レアメタル(希少金属)のインジウムの使用量が増えてしまう。さらに、透明性も落ちることもある。
 ガラス基板はセ氏300度前後までの耐熱性がある。セ氏300度で蒸着するとITOの結晶がきれいに並ぶため、電気抵抗が低くて薄い膜を形成できる。
 有機ELは水分に弱く、通気性のある樹脂フィルムでは性能が落ちる恐れがあるが、ガラスは気体を通さないため有機ELの劣化を防げる。絶縁性にも優れる。
 大型の有機ELパネルやタッチパネルの量産技術では、電子部品メーカーなどがインクジェット方式でガラスに炭素や窒素などを印刷して作る製造方法の研究を進めている。印刷方式の製法が実用化されると、連続生産によって有機ELパネルの製造コストが10分の1になるとの試算もある。
 日本電気硝子は電子部品メーカーにサンプル品の販売を始めた。印刷方式による有機ELパネルなどの生産が本格的に始まるとみられる来年から生産量を引き上げる。

NLTテクノロジー、医療用モニター―光透過20%高め鮮明



 中国の複合企業である中国航空技術国際グループとNECが共同出資する液晶パネルメーカー、NLTテクノロジー(川崎市、大井進社長)は今月、新しい医療用モニターの量産を始めた。基板の配線の改良などで光の透過率を大幅に高め、X線画像などがくっきり鮮明に表示できるようにした。日米欧の医療機器メーカーなどの既存顧客のほか、中国の顧客開拓にも取り組む。
 「欧米や日本のメーカーの反応は良い。受注も堅調だ」。モニターの開発を担当するNLTテクノロジーの森山浩明執行役員は、昨年12月に受注を始めた新たな医療用モニターの販売に手応えを感じている。
 医療用モニターはX線や内視鏡で撮影した画像を画面に映し出す。映し出す画像データは撮影した検査室から医師の手元のモニターに送られる。モニター画面の高画質化への要求は高まっており、NLTはパネルの設計とバックライトの光源変更で応えた。
 まずパネルの基板の設計を見直し、明暗をはっきりさせて画像が鮮明に見えるように仕上げた。画面の輝度を高めるため、バックライトの光を遮ってしまう配線を抵抗の低い材料に変えるとともに配線同士の幅を狭くした。基板上のトランジスタも小さくして、背後から光を通すための開口部が大きくなるようにした。パネル全体の光の透過率は従来より20%上がった。
 バックライトの光が放射線状に散逸するのを抑えて黒に深みも持たせた。コントラスト比を1400対1と大幅に高めることに成功した。
 モニターの画像を使って診断する時間が長くなっているなか、バックライトを長寿命にする課題にも応えた。
 バックライトを蛍光管から白色発光ダイオード(LED)に変更。採用した白色LEDは近年の性能向上で7万時間駆動できる。医療用モニターの輝度は1平方メートル当たり1700カンデラとテレビの約3倍の水準が求められるが、明るさと長時間の駆動を両立した。
 NLTは中上位モデルの医療用モニターで世界の3~4割のシェアを握るトップ企業。主に先進国市場で現在の地位を築いたが、今後の販売先に期待しているのが中国市場だ。経済成長に伴って中国でも高水準な医療サービスが求められるようになれば、NLTが得意とする中上位モニターの需要が出てくる可能性がある。
 NLTはNECの子会社のNEC液晶テクノロジーが母体。2011年に中小型液晶パネルの大手メーカー、天馬微電子を傘下に持つ中国航空技術国際グループから7割の出資を受けた。
 天馬微電子は中国全土に販売網を持つ。NLTは営業担当者を中国に駐在させ、中国の医療機器メーカーへの売り込みを強める。「天馬微電子の工場で量産もできる」(森山執行役員)と中国事業の拡大に備える。

ローム系のラピス、マイコン、消費電流を半減、ネット銀認証用、中国に供給。


ロームの子会社の半導体メーカー、ラピスセミコンダクタ(横浜市、岡田憲明社長)は消費電流を従来品の半分に抑えた小型のマイコンを開発した。コイン大の小さな電池でも電子機器を長時間駆動できる。まず中国のネットバンキングの認証に使うトークンの部品として供給する。
 開発したマイコン「ML610Q474ファミリ」は3月から宮城工場(宮城県大衡村)で量産する。サンプル価格は1個200円。
 8ビットのCPU(中央演算処理装置)を備える。内蔵する水晶発振回路や変圧装置などに使う電流を半分にするなどして全体の消費電流を従来の500ナノ(ナノは10億分の1)アンペアから250ナノアンペアに引き下げた。
 これまでは水晶発振回路などが使う電流を抑えると電波や静電気、他の電子回路から発生するノイズの影響を受けて誤作動が起きやすくなる課題があった。ラピスはこのほど横浜市の本社内にノイズを試験・計測する最新の実験室を開設。ノイズを抑制するフィルター(トランジスタ回路)をマイコン内に細かく設定して少ない電流でも安定的に動くことを実験で確認した。
 デジタル回路は通常、動作時に一定周期のクロック信号を出して電流を消費する。新製品ではマイコンを使わない間はクロック信号を止めたり、電圧を調整することで高温時にトランジスタから漏れる電流を減らしたりした。これらの技術の積み重ねで消費電流の大幅削減を実現したという。
 消費電流が少なければ容量が少ない電池でも長い時間動作するため、製品の小型化や電池の調達コストの削減につなげられる。
 ラピスは中国の金融機関の利用者に広がっているトークン向けに供給する。トークンは一度しか認証に使えない使い捨てのパスワードを生成する小型の機器。同社は主に腕時計や電卓向けに低消費電流のマイコンを供給してきたが、中国でトークンの需要が拡大していることを受け、2014年度には1500万個の量産を計画する。将来は腕時計や歩数計、玩具などの需要も見込む。
 ラピスはOKIの半導体事業部門が母体の会社で、ロームが08年に買収した。昨年11月に本社を東京都八王子市から横浜市に移転。八王子にあった光ファイバー通信機器事業は3月1日付で米通信機器メーカー、ネオフォトニクス(カリフォルニア州)に約30億円で売却する。八王子の工場設備を譲渡し、従業員80人も移籍する。

ホンダ―家庭用熱電併給システム、光熱費、年5万円節約



 ガスで発電し、排熱を給湯や暖房に使うホンダの熱電併給システムがじわじわと普及している。納入先のガス会社は同様の働きをする家庭用燃料電池「エネファーム」に注力するが、2011年の東日本大震災以降は販売が上向いている。
 同システムは都市ガスを燃料にエンジンで発電し、その際発生する熱を回収、再利用する仕組み。給湯暖房ユニットと組み合わせると光熱費を年約5万円節約できるという。家庭用を手掛けるのはホンダだけだ。
 03年に商品化し、東京ガスなどガス会社が「エコウィル」の商品名で80万円程度で販売している。11年に全面改良し現行機を発売。33%小型化する一方、発電効率を従来の22・5%から26・3%に高めた。
 ガス会社が09年にエネファームを発売しており、改良当初は販売が伸び悩んだ。だが、「大震災で分散電源への関心が高まった」(大阪ガス)ことから、エコウィルの販売が多い大阪ガスの12年4~12月の販売台数は4033台となり、前年度を上回るペースで推移している。
 ホンダは12年11月に停電時にも使用できる機能が付いたモデルを追加した。12年末までの約10年間の販売台数は計12万4000台。四輪、二輪に次ぐ汎用製品の主力製品として地道に販売する考えだ。
(遠藤淳)
 注文住宅などの城南建設(相模原市、黒羽秀朗社長)が1999年に発売した木造戸建て住宅「檜(ひのき)物語」が好評だ。柱や梁(はり)など主要な建材に強度の高い国産のヒノキを採用。これまでに累計約2万棟を販売した。
 ヒノキはシロアリ被害や経年の腐食に強い高級建材。きめ細かい木目も特徴で、和室などのデザインにそのまま活用すれば高級感を演出できる。
 一方で、建設後の湿度変化によって木が収縮し、割れる恐れがある。あらかじめ切れ込みを入れ「あそび」をもたせて収縮量を調整する手法もあるが、強度が落ちるのが難点。同社は独自の乾燥手法で切れ目を入れずに製材し強度を保つ。
 ヒノキは一般的な集成材に比べ6割程度価格が高くなる。森林組合や製材工場と組み独自の調達経路を開拓、原価を抑えて通常の材木と同等の工費で建設できるようにした。
 販売価格は1480万円(延べ床面積90平方メートル)と大手ハウスメーカーに比べ数割安く抑える。今月26日には、最小限の骨組みで開放的な印象を与える「シースルー階段」などを標準仕様に追加。デザインにこだわる消費者の取り込みにも力を入れている。

再生医療に法規制―iPS細胞など承認制に、厚労省、今国会提出へ



 厚生労働省は人の幹細胞などを使った再生医療の規制を法制化する方針を決めた。人体へのリスクが大きい治療は医療機関が国の承認を受けることなどを義務づける。iPS細胞をもとに作った細胞などを移植する場合に規制を適用する考えで、iPS細胞の実用化に備える。
 30日に開いた有識者らの専門委員会で議論した。2月に開く次回会合で取りまとめ、今国会に提出、成立を目指す。
 導入する規制は3種類で、使う細胞の種類や人体へのリスクに応じて分類する方針。臨床で使われたことがないiPS細胞などは厚労相の事前承認が必要となる。体性幹細胞を使う手法など、安全性がある程度確立したとみなされた治療は第三者委員会の審査を受け、届け出る。
 患者に健康被害が生じた場合は補償する。細胞の培養や加工を担う施設の基準なども定める。
 現在、大学などが実施する再生医療の臨床研究には国の指針がある。一方で、クリニックなどが自由診療で独自の再生医療を実施。安全性や高額費用などが問題視されるケースもある。厚労省は再生医療に法規制を導入し、不信感の広がりを食い止める。
 日本再生医療学会の岡野光夫理事長は、細胞を使う再生医療は高い技術が必要だと指摘。規制法は「安全で効果的な治療法を患者に届けるために前進だ」と評価している。

日本ガイシ、今春ウエハー、セラミックス技術活用、LED・スマホ照準。


 日本ガイシが祖業のセラミックス分野で培った材料技術を武器に、ウエハー事業に今春参入する。狙うのは、発光ダイオード(LED)光源やスマートフォン(スマホ)向けの電子部品などの成長市場だ。排ガス浄化用セラミックスなどの自動車関連に依存する事業構造の見直しに向け、新事業の育成を急ぐ。
 「研究部門が(先端素材である)窒化ガリウムのいいウエハーを作った。生産技術や営業など全社の力をインプットして事業を成功させる」。加藤太郎社長は意気込む。
 窒化ガリウムはLED素子の発光効率を飛躍的に高める素材として注目されている。量産は難しいとされてきたが、同社はセラミックスなどで培った材料技術を発展させた。溶かした半導体材料から結晶を成長させる「液相成長法」を応用し、高品質のウエハーを安価に得られる独自製法を確立した。
 LED研究で著名な名古屋大学大学院工学研究科の天野浩教授らの協力を得て、高輝度化が困難とされる緑色LEDの素子でも、発光効率を既存製品の2倍に引き上げられることを確認した。プロジェクターの光源の小型化や省電力化が可能になるほか、タブレット(多機能携帯端末)やディスプレーのバックライトとしても有望だ。
 3月末までにウエハーを月1000枚以上(2インチ換算)量産できる体制を整備。LED素子メーカー向けに供給する。
 窒化ガリウムウエハーは電力損失が少ない点にも注目が集まる。2014年までに大口径ウエハーの量産体制も整え、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)、産業用機械などのパワー半導体の中核材料として供給する計画だ。19年3月期に窒化ガリウムウエハーで売上高100億円を目指す。
 同社は足元では、世界的な排ガス規制強化を追い風に自動車の排ガス浄化用セラミックスが好調だ。ただ、電力部門は電力会社の設備投資抑制で電力用碍子(がいし)が振るわず、NAS(ナトリウム硫黄)電池も11年の火災事故から新規受注がゼロ。全社の営業利益のほとんどは自動車関連が稼いでおり、ウエハーに寄せる期待は大きい。
 ウエハー戦略では、スマホの成長にうまく乗りたいとの思惑もある。このほど電波を特定の周波数ごとにふるい分ける「SAW(表面弾性波)フィルター」向けに、2種の材料を接合した「複合ウエハー」を試作した。
 「材料を磨き、張り合わせるという、当社のコア技術で強みを発揮できる」(加藤社長)としてさらに高性能化を進め、窒化ガリウムとは別に事業化の準備を進めている。
 新事業立ち上げとあわせて、研究開発投資も増額する。今後3年程度で現状より3割近く多い年150億円規模に引き上げる。ウエハー事業など仕掛かり中の案件に投資するとともに、新テーマの創出・育成を強化する。「ここ数年、テーマを厳選していた」(加藤社長)という研究開発の方針を積極策に転換し、収益基盤の強化を急ぐ。

赤いiPhoneの誘惑、アップル、世界最大・中国移動に急接近


 米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の神話に陰りが見られる中、世界最大の携帯電話会社、中国移動通信集団(チャイナモバイル)にアップルが急接近している。30日に決算を発表したNTTドコモもiPhone販売が焦点だが、中国移動の契約者数はドコモの10倍強の7億件だ。神話を取り戻すために中国移動と組むのか。ティム・クック最高経営責任者(CEO)の視線は中国に向く。
 「2014年をめどに赤いiPhoneが発売されるだろう」。中国の携帯電話業界関係者がささやく。その噂のきっかけとなったのは、クックCEOと奚国華・中国移動董事長が10日に北京の中国移動本社で行った密談だ。中国移動関係者も「iPhoneを巡って交渉したことは確実だ」と打ち明ける。
 クックCEOが中国を訪問するのは2度目。12年3月にも訪問して中国移動トップとiPhoneを巡る交渉を行った。クック氏は故スティーブ・ジョブズ氏がCEOだった頃から何度か訪中しており、中国移動とのiPhone交渉を始めてから5年以上の歳月が経過したという。
 「今回は双方ともに本気だ」。中国の通信業界に詳しい証券アナリストは指摘する。中国移動の香港上場子会社の業績は伸び悩んでおり、その打開策が必要になっている。2012年1~9月の売上高は前年同期比6%増の4085億元(約5兆9千億円)で、純利益は1%増の933億元。1契約あたりの月間収入(ARPU)は70元から67元に低下した。
 なぜ収益が伸び悩んでいるのか。第3世代(3G)サービスで、中国移動は中国が旗振り役を務める独自規格「TD―SCDMA」を採用したため、スマホなどの投入で出遅れたのだ。ライバルの中国聯合網絡通信集団(チャイナユニコム)や中国電信集団(チャイナテレコム)に先行された。
 中国聯通は日本のNTTドコモやソフトバンクと同じ「W―CDMA」であるため、いち早く09年にiPhoneを導入し、シェアを伸ばした。中国の携帯電話市場全体で中国聯通のシェアは22%にすぎないが、3Gに絞ると38%に達する。中国電信はKDDIと同じ「CDMA2000」を採用して、12年にiPhone販売を開始。3Gシェアは18%を占める。
 実はアップルの中国収益も伸び悩んでいる。中国のIT(情報技術)調査会社の易観国際によると、2012年7~9月期のスマホのブランド別シェアでアップルは4・2%の7位。ピーク時の11年4~6月期の7・1%から下落した。並行輸入品などが含まれていないが、一時の勢いはみられない。アップルが明らかにした12年10~12月期の中国売上高も68億ドル(約6200億円)にとどまった。前年同期の41億ドルを上回ったが、12年1~3月期の79億ドルに及ばなかった。iPhoneを受託製造する富士康科技集団(フォックスコン)の関係者は、「iPhone5も中国販売が計画未達だ」と漏らす。
 双方が業績の伸び悩みに対する解決策として提携する可能性が急浮上しているが、中国移動版iPhoneが生まれなかった大きな理由は通信規格の問題だ。アップルはジョブズ氏の研ぎ澄まされた感性で絞り込んだ数少ない商品を大量に生産することでコストダウンを実現して巨額の利益を手にしてきており、当初3GではW―CDMAにしか対応してこなかった。
 中国移動はTD―SCDMAにこだわったため、アップルは対応商品の開発に乗り出さなかった。しかも、第3・9世代(3・9G)や第4世代(4G)とも呼ばれる高速携帯電話サービス「LTE」でも、中国移動はTD―SCDMAの発展型の「TD―LTE」を採用する。現在のLTEの主流はNTTドコモや米AT&Tが採用する「FDD―LTE」。「iPhone5」もFDD―LTEに対応しており、中国移動とアップルには大きな溝が残ったままだ。しかし、米半導体大手関係者によると、3Gと異なり、TD―LTEとFDD―LTEの技術的な違いは大きくなく、半導体チップなどの部品を共通化することができるとの見方を示す。
 このため中国移動の奚董事長はクックCEOに対してTD―LTEを本格的に商用化する14年をターゲットにして中国移動版iPhoneを開発するように強く要請したもよう。その際には中国移動が13年に1800億元を投じて全国100都市以上に20万カ所のLTE基地局を整備する計画も示したという。
 中国移動の申し出に対してクック氏はどう決断するのか。ジョブズ氏は先進性や独創性にこだわったが、現経営陣は業績向上に追われ、その誘惑に勝てそうもない。赤いiPhoneは短期的な業績拡大にはプラスだが、「アップルらしさ」が犠牲になる恐れもある。