2011年5月27日金曜日

統合失調症、武田、遺伝子の働き解明へ、米団体と連携、IT駆使、新薬開発目指す

 武田薬品工業はIT(情報技術)と最先端の生物学などを組み合わせ、統合失調症の一因とされる遺伝子を特定する研究を米国で始めた。同国の科学者団体の協力を得て患者の遺伝子を解析して体内での働きをシミュレーションし、仕組みを解明する考え。統合失調症は代表的な精神疾患で、世界の大手が治療薬の研究開発を続けている。武田薬品は遺伝子関連の最新技術と知見を総動員して2014年末までに解明を終え、15年からの新薬研究の着手を目指す。
 体内では遺伝子の指示に基づいて作られるたんぱく質から、様々な細胞ができている。遺伝子は他の遺伝子を変化させ、神経伝達物質など体の様々な仕組みを作り出している。遺伝的な要素があるとされる統合失調症では健康状態とは異なる形で遺伝子の「変化のリレー」が起き、発症しているとの見方が有力。
 既存の統合失調症の治療薬は本来は別の疾患向けに研究していた場合もあるとされる。今回は最初から遺伝子に標的を定めて根本治療を目指す。
 研究では米科学者の有力な非営利組織(NPO)のセージ・バイオネットワークス(ワシントン州)と武田薬品の研究者が協力する。まず統合失調症の患者と健康な人から遺伝子サンプルの提供を受け、体内の遺伝情報を正確に示すデータベース作りに入った。患者と健康な人の両方を比べ、どの部分が異なるかなどを確認。患者特有の遺伝子を見つけ、変化のリレーの一部を解明する。
 ただデータベースでは見つけられない、遺伝子同士が働きかけ合う関係が多数あるとみられている。このため武田薬品は次の段階として、コンピューターによるシミュレーションに着手する。ここでもセージ・バイオネットワークスの協力を得る。
 具体的にはDNA(デオキシリボ核酸)やRNAリボ核酸)、たんぱく質の関連性を調べる「ネットワーク生物学」、統計学的な手法を使って遺伝情報を解析する「遺伝統計学」などの最新知識を組み込んで、シミュレーションの前提条件を決定。コンピューターで遺伝子同士の作用の組み合わせを無数に試し、患者の体内で起こっている状態に近い、疾患の予測モデルを作製する。
 同モデルは統合失調症が起きる仕組みを分子レベルで示す解明図となり、登場する遺伝子はすべて発症に関連すると考えられる。武田薬品は特に重要な役割を果たす遺伝子を特定し、それが作り出すたんぱく質を阻害する医薬品の研究開発に入る方針。モデル作製にかかる研究費は約3億円の見込みで、同社が全額負担。モデル完成から1年間は研究成果を独占するが、それ以降は世界の研究者らに無料開放していく考えだ。
人口の1%発症
 ▼統合失調症 世界各国・地域で人口の約1%が発症するとされる。幻聴や妄想などが起きる「陽性症状」と、行動意欲が低下して引きこもりがちになる「陰性症状」がある。
 遺伝的な要素とストレスなどの環境要因が重なって発症するとされている。多くの場合は治療薬を適切に服用することで症状を抑えられるが、発病の仕組みは完全には解明されていない。

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