2011年7月4日月曜日

東京海洋大学准教授島田浩二氏――減り続ける北極の海氷

気候変動見極めへ観測
 北極の海氷が減り続けている。2007年9月に過去最低の425万平方キロを記録したが、今年はそれに匹敵するペースで減少している。北極海で何が起きているのか、この分野の研究で日本をリードする東京海洋大学の島田浩二准教授に聞いた。
 ――北極海の海氷は減り続けているというが、今年の夏はどうなる。
 「現在の北極は、厚さが2メートル以上ある古い氷が激減している。せいぜい1メートルぐらいの若い氷が多く、若い氷は解けやすい。衛星による観測が始まった1980年代以降、海氷面積が最小になる必要条件がそろっている」
 ――なぜ海氷が減るのか。
 「1998年のエルニーニョで、暖かな海水がベーリング海峡を越えて北極海に入り込んだ。アラスカ沿岸の氷ができにくく、解けるのが早くなった。海水面が現れると太陽熱で気温が上昇。北極海の北米側に低気圧ができやすくなる。一方、冷たいシベリア側は高気圧が居座るため、日付変更線付近で南風が吹き、さらに暖気を引き込むという仕組みがあるからだ」
 「アラスカ沿岸の氷が解けると、風で氷が動いて不安定になる。氷同士がぶつかって強度が落ちると解けやすくなる。固く凍ったアイスクリームは、カップの近くで解けだすとくるくると回るようになる。それと同じ原理だ。北極海の環境は98年以前とは大きく変わってしまった」
 ――地球温暖化との関係は。
 「地球温暖化は気温の上昇を意味するが、北極の氷が解けるのは海の温暖化の影響だ。北極の氷が減ると、地球を冷やすラジエーターの働きが弱まるので、温暖化を加速する」
 ――毎年のように北極で観測している。
 「96年から09年まで14年連続で航海した。“世界で最も北極海に出かけた研究者”の一人だろう。去年行けなかったのは心残り。当てにしていた韓国の砕氷船アラオンが初航海で、観測機器を十分に積めなかった。今年は7月末からアラオンに3週間乗り込む」
 ――なぜ現地におもむくのか。
 「地球を知りたいという好奇心からだ。子供のころのヒーローは探検家の植村直己だった。氷原とか犬ぞりとかにあこがれた。観測とは文字通り“みてはかる”ことだ。理論研究もいいが、観測は重要だ。最近、自分自身が測器だと感じる。北極海の変化が起きる前と現在を、自分の目で見て比べることができる」
 ――日本の北極研究は。
 「非常に手薄で、4、5年前まで個人がばらばらにやっていた。関係者の呼びかけで日本地球惑星科学連合に北極研究のセッションができ、国際シンポジウムも開くようになった。今年度、北極環境研究コンソーシアムが設立され、ようやく体制が整ってきた」
 「07~08年の国際極年では、北極研究の発表数が南極の2倍あった。日本では南極への関心が高いが、北極周辺には南極にはない気候や生態系がある。氷が減るにつれ、北極航路や海底資源など経済がらみのテーマが脚光を浴びている。もう少し目を向けてもいいのではないだろうか」
記者の目
注目度低い北極 研究体制構築を
 南極観測船「しらせ」が新たに建造され、南極をテーマにした映画・ドラマがたびたび制作されるなど、国民の南極への関心は高い。それに比べて北極は、ながらく米ソ冷戦の舞台だったために注目度が低かった。
 しかし、北半球の気象に北極が与える影響は大きい。気候変動の行方を見定めるため、北極の正体をつかむ必要がある。北極海は日本から2週間の航海で到達できる。外国の砕氷船に頼らなくてもすむ研究体制を構築すべきだろう。

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