2013年1月22日火曜日

東北大の原子分子材料科学高等研究機構――材料研究に数学の視点


 最先端の電子素子や電池、磁性材料などを次々生み出すなど材料に関する研究で世界から注目されてきた東北大学。さらにトップレベルの材料科学を目指して2007年に設立したのが原子分子材料科学高等研究機構(仙台市)だ。11年度からは数学の視点を取り入れる新たな試みで、材料特性を一気に高めようと取り組んでいる。

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 同機構には内閣府総合科学技術会議が選んだ日本を代表する30人の科学者のうち、究極の省エネ型素子を開発する大野英男(58)と、微細加工技術で多機能の素子を開発する江刺正喜(63)が在籍。この両教授を含む100人以上の研究者を擁し、その半数ほどは外国人で、公用語は英語だ。海外からの来訪者も後を絶たない。

 太陽電池は発電効率が1%上がるだけでも大きな省エネ効果があるが、材料の改良で効率向上につなげるには時間がかかる。そこに数学を取り入れて狙いを定めれば、短期間で数倍の効果を出せるかもしれないと、11年度に数学者で教授の小谷元子(53)を副機構長に招いた。翌12年度に小谷が、9割以上が材料科学者という機構のトップに就き改革が本格化した。

 それまでほとんど交流が無かった材料科学者と数学者。取り持つのはインターフェースユニットと呼ぶ、材料と数学の両方に明るい6人の若手研究者のグループだ。材料科学グループ約120人と数学ユニット7人の双方の話を聞き、融合の機会を模索している。

 12年6月にインターフェースユニットに加わった助教の小林幹(34)は、超臨界という特殊な状態を使い材料合成を研究する主任研究者で教授の阿尻雅文(55)と数学ユニットをつなぐ。

 阿尻から「ナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズの微粒子を均一に分散したい」と聞き、東京大学で携わったロボット開発で歩行制御に使った数学の理論を提案した。「凝集した粒子をバラバラにするのは安定を不安定にすること。ロボットを安定に歩かせる理論を逆に使えばいい」と発想。この理論を基に数学ユニットとナノ粒子向けの理論構築を急ぐ。

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 「数学者からこれまでに無い視点で解析手法の提案を受け、研究に拍車がかかる」。日立製作所やソニー、東大でと材料研究の経験豊富な准教授の一杉太郎(41)も刺激を受ける。大手自動車メーカーとリチウムイオン電池用材料などを開発中。材料の実験データについての数学者の解釈を、再び材料開発に生かす好循環ができつつあり、現在、数学者と共同で論文をまとめている。
 いずれも東北大教授で、電子の磁石としての性質(スピン)で省エネ素子を開発するスピントロニクスの国際的な研究者、大野と斉藤英治(41)は12年度から機構に加わった。機構長の小谷が「スピントロニクスと数学は距離が近いと考え、参加を頼んだ」。斉藤は早速、スピンの流れを説明する物理法則を数学者と構築する作業に入った。

 「副機構長として呼ばれた時、数学者にとっても大きなチャンスだと思った」と小谷。「材料科学者と融合できるか不安もあったが、話し合いを重ねて両者はよいムードになった。機構は16年度までの期限付き。それまでに革新的材料を生み出し、延長につなげたい」と意気込む。

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