燃料・地球温暖化に貢献
東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、政府は今後のエネルギー政策と地球温暖化対策の両面で頭を悩ませている。1つの突破口となりそうなのが、海藻を燃料として使う「海洋バイオマス」だ。4月には産学が協力して事業化を目指す「海洋環境創生機構」が設立された。同機構の会長に就任した東京工業大学の柏木孝夫教授に、今後の展望を聞いた。
――海洋バイオマスはエネルギー供給と地球温暖化問題に対し、どのように貢献するのか。
「海藻からエタノールを抽出できバイオ燃料を生産できる。陸上の植物と同様、光合成で育つため、二酸化炭素(CO2)をうまく供給すれば、海藻の成長を促進できる。火力発電所や製鉄所など大口のCO2排出源の近傍に海藻の培養槽を設ければ、火力発電所などから出るCO2を固定化できる。カーボンニュートラルとなり、地球温暖化問題に貢献する」
「例えば、6万立方メートル(オリンピックプールの約50倍)の培養槽を使うと、1日当たり360トンの海藻を生産できる。バイオ燃料の生産量は同120トンとなる。海藻の生産過程で固定されるCO2は年1万4500トンとみている」
――バイオマスは採算性改善が課題といわれているが。
「海藻をバイオ燃料として使うだけでは、採算は厳しいと考えている。そこで、育てた海藻の一部や、燃料を得た後の残さを活用し、医薬品や化粧品などの新規材料を生み出す研究を進めている。基礎研究はあらかた終わり、海藻の生産、燃料化、有用物質の抽出といったシステム全体をうまく設計する研究に、注力する時期にきた」
――創生機構への参加企業は。
「竹中工務店、日立製作所や横河電機、昭和シェル石油などが参加している。海洋植物から有用成分を作り出すため、花王も参加している。約20社の協力を得た。国の研究費を申請している。富山市とは実験に関する相談もしている」
――被災地の復興に役立つ可能性は。
「津波で大きな被害を受けた沿岸部の新産業に役立てればと考えている。福島県の東電広野火力発電所の近くは、海洋バイオマスを推進するうえで、条件を満たす場所の1つだと思う」
――経済産業省の「再生可能エネルギーの全量買い取りに関するプロジェクトチーム」の有識者メンバーだったが、今後、被災地の再生可能エネルギーの導入はどう進めるべきか。
「政府は、電力会社に再生可能エネルギーの全量を固定価格で買い取ることを義務づける特別措置法案を国会に提出している。この法案だけでは不十分で、被災地に再生可能エネルギーが集約されるように、事業者へのインセンティブを与える必要がある。グリーンパークを設けて、税制面の優遇措置を設けるのも1つの手。都市部から被災地に資金が流れる仕組みを作ることが必要だ」
記者の目
エネルギー供給
米国と開発競争
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が5月にまとめた報告書によると、バイオエネルギーは世界のエネルギー供給量の約1割を占める。大半は途上国で暖房・調理に木材を使う伝統的バイオマス。科学技術を駆使した近代バイオマスはこれからの分野だ。
海藻を活用してバイオ燃料を生産する試みは米国で研究が盛んだ。2010年には米エネルギー省の支援のもと商業化に向け3つのプロジェクトが始動した。米国との開発競争に打ち勝てるか、日本の技術力が問われている。
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