2013年1月31日木曜日

赤いiPhoneの誘惑、アップル、世界最大・中国移動に急接近


 米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の神話に陰りが見られる中、世界最大の携帯電話会社、中国移動通信集団(チャイナモバイル)にアップルが急接近している。30日に決算を発表したNTTドコモもiPhone販売が焦点だが、中国移動の契約者数はドコモの10倍強の7億件だ。神話を取り戻すために中国移動と組むのか。ティム・クック最高経営責任者(CEO)の視線は中国に向く。
 「2014年をめどに赤いiPhoneが発売されるだろう」。中国の携帯電話業界関係者がささやく。その噂のきっかけとなったのは、クックCEOと奚国華・中国移動董事長が10日に北京の中国移動本社で行った密談だ。中国移動関係者も「iPhoneを巡って交渉したことは確実だ」と打ち明ける。
 クックCEOが中国を訪問するのは2度目。12年3月にも訪問して中国移動トップとiPhoneを巡る交渉を行った。クック氏は故スティーブ・ジョブズ氏がCEOだった頃から何度か訪中しており、中国移動とのiPhone交渉を始めてから5年以上の歳月が経過したという。
 「今回は双方ともに本気だ」。中国の通信業界に詳しい証券アナリストは指摘する。中国移動の香港上場子会社の業績は伸び悩んでおり、その打開策が必要になっている。2012年1~9月の売上高は前年同期比6%増の4085億元(約5兆9千億円)で、純利益は1%増の933億元。1契約あたりの月間収入(ARPU)は70元から67元に低下した。
 なぜ収益が伸び悩んでいるのか。第3世代(3G)サービスで、中国移動は中国が旗振り役を務める独自規格「TD―SCDMA」を採用したため、スマホなどの投入で出遅れたのだ。ライバルの中国聯合網絡通信集団(チャイナユニコム)や中国電信集団(チャイナテレコム)に先行された。
 中国聯通は日本のNTTドコモやソフトバンクと同じ「W―CDMA」であるため、いち早く09年にiPhoneを導入し、シェアを伸ばした。中国の携帯電話市場全体で中国聯通のシェアは22%にすぎないが、3Gに絞ると38%に達する。中国電信はKDDIと同じ「CDMA2000」を採用して、12年にiPhone販売を開始。3Gシェアは18%を占める。
 実はアップルの中国収益も伸び悩んでいる。中国のIT(情報技術)調査会社の易観国際によると、2012年7~9月期のスマホのブランド別シェアでアップルは4・2%の7位。ピーク時の11年4~6月期の7・1%から下落した。並行輸入品などが含まれていないが、一時の勢いはみられない。アップルが明らかにした12年10~12月期の中国売上高も68億ドル(約6200億円)にとどまった。前年同期の41億ドルを上回ったが、12年1~3月期の79億ドルに及ばなかった。iPhoneを受託製造する富士康科技集団(フォックスコン)の関係者は、「iPhone5も中国販売が計画未達だ」と漏らす。
 双方が業績の伸び悩みに対する解決策として提携する可能性が急浮上しているが、中国移動版iPhoneが生まれなかった大きな理由は通信規格の問題だ。アップルはジョブズ氏の研ぎ澄まされた感性で絞り込んだ数少ない商品を大量に生産することでコストダウンを実現して巨額の利益を手にしてきており、当初3GではW―CDMAにしか対応してこなかった。
 中国移動はTD―SCDMAにこだわったため、アップルは対応商品の開発に乗り出さなかった。しかも、第3・9世代(3・9G)や第4世代(4G)とも呼ばれる高速携帯電話サービス「LTE」でも、中国移動はTD―SCDMAの発展型の「TD―LTE」を採用する。現在のLTEの主流はNTTドコモや米AT&Tが採用する「FDD―LTE」。「iPhone5」もFDD―LTEに対応しており、中国移動とアップルには大きな溝が残ったままだ。しかし、米半導体大手関係者によると、3Gと異なり、TD―LTEとFDD―LTEの技術的な違いは大きくなく、半導体チップなどの部品を共通化することができるとの見方を示す。
 このため中国移動の奚董事長はクックCEOに対してTD―LTEを本格的に商用化する14年をターゲットにして中国移動版iPhoneを開発するように強く要請したもよう。その際には中国移動が13年に1800億元を投じて全国100都市以上に20万カ所のLTE基地局を整備する計画も示したという。
 中国移動の申し出に対してクック氏はどう決断するのか。ジョブズ氏は先進性や独創性にこだわったが、現経営陣は業績向上に追われ、その誘惑に勝てそうもない。赤いiPhoneは短期的な業績拡大にはプラスだが、「アップルらしさ」が犠牲になる恐れもある。

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