2011年7月11日月曜日

携帯の電磁波、評価には時間――WHO「発がん性があるかもしれない」

証拠限定的、冷静に対応
 世界保健機関(WHO)が5月、携帯電話から出る電磁波に「発がん性があるかもしれない」という評価を下した。発がんのリスクはコーヒーや自動車の排ガスと同じ程度。ただ証拠は限定的で、WHOは今後、多角的に調査を続け、4年以上かけて総合評価をまとめるとみられる。
コーヒーと同分類
 評価をまとめたのは、国際がん研究機関(IARC)のタスク会議。同会議は携帯電話と脳腫瘍(神経こう腫、聴神経そう腫)に関する疫学研究、動物実験の結果から、携帯電話が出す電磁波の発がん性を「2B」と評価した。これは危険性を示す5つのランクのうち上から3番目。コーヒーや鉛、ガソリン自動車の排ガスと同程度のリスクだ。
 WHOは欧米で電磁波の健康影響が指摘されたのを受け、1996年から調査を始めた。疫学の分野では約1万人を対象に日本や英、仏、独など13カ国が参加した国際研究と、スウェーデンが独自に実施した成果を採用した。携帯電話の累積通話時間と神経こう腫の発症率を比較。通話時間が1640時間未満の場合は発症率は増えなかったが、それ以上では1・4倍高くなった。スウェーデンの研究でも通話時間が長くなるほど発症率が増加。2000時間以上通話した場合、携帯を使わないグループに比べて3・2倍も高くなった。
 同会議では疫学の結果からは、携帯電話が出す2ギガ(ギガは10億)ヘルツの周波数帯の電磁波に長時間さらされると、神経こう腫の発症につながるかもしれないと判断した。
 一方、動物実験では明確な結論は出なかった。ラットやマウスに2年間にわたり電磁波を当てた実験など40件以上の研究を調べたところ、がんを発症したマウスなどの匹数は当てなかった場合と比べて増えなかったものの、体内にできるがん細胞の数が増えたという実験が1件だけあった。同会議は動物実験の結果からは発がん性があるかどうかは不明確として、発がん性は「限定的な証拠にすぎない」とした。
 疫学調査や動物実験の結果と合わせて総合的に判断し電磁波を「人間に対して発がん性があるかもしれない」と評価した。これは「発がん性がある」としているたばこの煙やベンゼン、「おそらく発がん性がある」のポリ塩化ビフェニール(PCB)などより下のランクで、「発がん性を分類できない」のカフェインやコレステロールより上だ。
第1段階の一部
 ただ、同会議の発表は3段階あるリスク評価のうち、第1段階である「障害性評価」の一部。「リスクを定量的に評価しておらず、冷静に受け止めるべきだ」(総務省)。WHOは今後、神経こう腫と聴神経そう腫以外の脳腫瘍も疫学研究や動物実験を進めるほか、神経こう腫については追加の実験を実施してリスクを定量的に評価する。さらに電磁波による発がん性のリスクを軽減するガイドラインも策定する考えだ。
 WHOは発がんのリスクがあるかどうか最終的に判断する作業はこれまでも慎重に進めてきた。2000年代に実施した送電線などから出る3~3キロヘルツの低周波に関するリスク評価は約10年かかった。経済産業省系の財団法人、電気安全環境研究所電磁界情報センターの大久保千代次・所長は「今回の評価も4年以上かかるのでは」と話す。
 国内でも携帯電話の発がんリスクを調べる動きはある。東京女子医科大学の山口直人教授らは1日当たり20分を超えて携帯電話を使っている人が聴神経そう腫にかかるリスクは、使わない人に比べ2・74倍高いとする論文をまとめた。聴神経そう腫にかかったことがある約800人を対象に国内で実施した疫学調査の結果だ。ただ山口教授は「今回の実験だけで、携帯電話とがんの因果関係は証明できない」と話す。さらに複数回の疫学調査を実施した後、動物実験などと合わせてリスク評価する必要があるためだ。
 携帯電話の電磁波について総合的なリスク評価が発表されるまでは時間がかかりそうだが、どうしても気になる人はイヤホンやマイクを使い、携帯電話を頭部から離して使えば不安も和らぐ。長電話を控えてメールでやり取りする工夫もできる。また携帯電話は電波状況が良いところで通話するほど、出力が抑えられ、出てくる電磁波も弱くなる。仕事や生活と切り離せない道具である以上、リスク評価が確定するまでは冷静に付き合っていくとよいだろう。

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