2013年1月30日水曜日

オリエンタル酵母、広がる領域――iPS研究や動物園に貢献

 パン作りに欠かせないイースト(酵母)の最大手、オリエンタル酵母工業は1929年に発足した日本初のイースト製造会社。80年余りを経て、いくつもの事業領域を持つ企業に進化した。
 たとえば、2012年のノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥氏が所長を務める京都大学のiPS細胞研究所が使う研究用マウスは3年前から同社が提供している。iPS細胞関連では培養に使えるたんぱく質なども販売している。
 上野動物園(東京・台東)、東武動物公園(埼玉県宮代町)などには飼料も納めている。年商は数億円に上る。東日本大震災のときには被災地の動物園に飼料を配って回り、話題になった。
 何の脈絡もなさそうに見えるこれらの事業はすべてイーストから派生している。イーストの発酵技術を生かし、1951年に実験動物用の飼料に参入し、80年代にはバイオテクノロジーを本格的に開始した。
 同社の主力事業はイーストや「フラワーペースト」と呼ばれる菓子パン向けクリーム。10年12月の上場廃止以降、業績の詳細は公開していないが、バイオ事業などの副業は年商約600億円のうち、4分の1程度とみられる。50年以上を費やし、イーストから派生した堅実な多角化路線が国内の食品市場が縮小するいま、業績を下支えしている。
 事業の多角化は難しい。国内の食品、飲料メーカーでも事業領域を広げるM&A(合併・買収)が活発だが、「大きな相乗効果が出た成功事例はあまり見かけない」(食品メーカー幹部)のが現状だ。
 味の素はアミノ酸を応用して食品や飼料、医薬品、半導体用フィルムまで生産している。昨年10月、アサヒグループホールディングスにカルピスを920億円で売却した。カルピスは乳酸菌が中核技術の会社。思うように相乗効果が出せず、見切った格好だ。カルピス売却はコア技術であるアミノ酸への「特化」を意味する。
 中核技術に磨きをかけることは、時間がかかる。ただ、その道の「オンリーワン」になれば得られる果実は少なくない。デフレ、原材料高など厳しい時代だからこそ、地道な戦略が必要だ。

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