遺伝子の働きが老化やストレスなどの周辺環境によって変わるエピゲノム。がん発症の仕組みなどを調べる中で、その働きが分かってきた。最新の研究では国民病といわれる糖尿病による腎臓機能低下などとの関わりも明らかになりつつある。
糖尿病による合併症で多いのが腎症だ。一定以上進行してしまうと、薬で血糖値を下げていてもさらに悪化するケースが多いという。東京大学先端科学技術研究センターの藤田敏郎特任教授と丸茂丈史特任講師は、その原因が腎臓の細胞のエピゲノム変化にあるとにらんでいる。 藤田特任教授らは科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)として研究を実施。糖尿病性腎症が、腎臓細胞の特定の遺伝子にメチル基という分子がくっつきにくくなって起こる可能性が高いことを突き止めた。 病気のモデルマウスの腎臓を調べると、尿細管の細胞の遺伝子に通常くっついているはずのメチル基がなかった。この結果、遺伝子が過剰に働き、尿細管の機能を破壊していると考えられるという。マウスに血糖値を下げる薬を投与すると、メチル基がくっつき、遺伝子の働きも抑制できた。 糖尿病では血液中の血糖が増えメチル基が外れてしまうらしい。そこで東大病院と協力し、糖尿病の患者の尿にわずかに混じる腎臓細胞を採取し、エピゲノムの変化を調べる研究を始めた。 病気進行との関係が分かれば、変化したエピゲノムを元の状態に戻す薬や血糖値を下げる薬などを使い、腎症の治療や予防につながる可能性がある。「将来は患者の尿からエピゲノムの状態を調べて腎症の進行度を判定し、患者にあった薬を選べるようにしたい」と藤田特任教授は意気込む。 エピゲノムの仕組みを治療に役立てる試みはがん分野で先行した。がん化を抑える遺伝子にメチル基がくっついて機能を抑制するのを薬で妨げる。既に、白血病の前段階である骨髄異形成症候群向けの薬が日米欧などで使われている。 今注目されているのが精神疾患の分野だ。理化学研究所の加藤忠史チームリーダーらは双極性障害(そううつ病)の患者を対象に、情報伝達物質のセロトニンを正しく運ぶ遺伝子のエピゲノムと発症との関連を調べた。 もともと持っている遺伝子がまったく同じ一卵性の双子で、一方だけが双極性障害を発症しているケースに着目。リンパ球の一種のDNAを解析し、両者の違いをみつけた。 患者ではセロトニンを運ぶ遺伝子の働きが低下していた。メチル基がこの遺伝子の関連箇所にくっついていたためだった。ストレスなどの影響で、メチル基の付き方に差が生じた結果、双子でも発症に違いが起きたと研究チームはみている。 糖尿病や精神疾患などは根治が難しい。エピゲノムに焦点を当てた研究ががん以外でも実を結べば、治療に大きな進歩をもたらしそうだ。 |
2013年1月30日水曜日
CRESTエピゲノムの診断・治療技術
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