2013年1月30日水曜日

アラミド繊維―帝人、車向けも幅広く開拓

 帝人が力を入れる高機能繊維のひとつ、アラミド繊維。強度や耐熱性に優れ、火星探査機のパラシュート部品から消防服まで、幅広く使われる。世界の自動車市場の拡大に伴い、ブレーキ摩擦材などでの採用増加も期待がかかる。米デュポンと肩を並べるメーカーとしてナノ(10億分の1)ファイバー化などで技術を磨き市場開拓を進める考えだ。
 2012年8月、地球から遠く離れた火星で、アラミド繊維が活躍した。米航空宇宙局(NASA)が打ち上げた探査機キュリオシティが大気圏を突っ切り、地上の9倍ある重力に耐えたが、そのパラシュートに使われたのだ。
 パラシュートは直径約15メートルで約60キログラムある。探査機本体と、パラシュートをつなぐサスペンション・コード80本に、アラミド繊維が採用された。これは帝人の「テクノーラ」だ。
 アラミド繊維の世界需要は約7万トン(11年、同社推定)。このうち7割を強度の高いパラ系繊維が占め、残りは耐熱性のメタ系だ。帝人はどちらの製品群も取り扱う。パラ系の世界市場では米デュポンとシェアを5割ずつ分けあう2大メーカーの地位を築いており、NASAの採用は品質への信頼を物語る。
 帝人は繊維開発の歴史のなかで高分子をコントロールする技術などを蓄積してきた。アラミド繊維では既存用途だけでなく、技術開発で市場開拓を進める。キュリオシティのような宇宙用途に限らず、新興国ではまだ性能が低いとされる消防服でも日々、実験を重ねて機能を高めようとしている。
 先端の技術力をそそぐ有力な領域が自動車だ。昨年発表した「アラミドナノファイバー」はそのひとつ。直径が数百ナノメートルで、高分子製造と均一な繊維加工の技術を使って開発に成功した。極細糸で薄いシートなどにすれば、高温に弱い樹脂製品と置き換えられる。狙う用途はリチウムイオン2次電池のセパレーター。現在はポリエチレン製フィルムが主流だ。
 「世界で自動車産業が発展する。アラミドも期待できる」と大八木成男社長は言う。アラミドの世界需要は20年に12万トンと予想され、特に自動車関連の市場が膨らみそうだ。現在でも、パラ系用途の4割はブレーキ摩擦材とタイヤ補強材だ。
 ほかに、光ファイバーケーブルの補強材としても使われ、昨年にケーブルの耐圧性が3~5倍に高められるテープ製品も生み出した。素材をどう顧客ニーズに合わせた形に変えるかが、重要な課題となってきている。
 アラミド繊維事業を始めたのは1972年。長時間の耐熱性、難燃性があり高温でも物性が落ちない製品の生産からだった。帝人は70年代前半、レーヨンから撤退するとともに、フィルムや医薬の分野に進出し、経営を多角化していた。
 弾みがついたのが、2000年のオランダ・アコーディス社の事業買収だった。爆発的とはいえないが、徐々に性能が認められ市場が広がるなかで、オランダなどで能力増強へ投資も続けた。
 順風ばかりではない。アラミド繊維などの高機能繊維・複合材料部門は、13年3月期の売上高が1200億円、営業利益は5億円の見通し。それぞれ前期の12%減、92%減となる。欧州などの景気後退のなかで政府などによる防弾、防護用途への支出抑制が響いたようだ。景気の影響を受けやすい用途もある。
 ただ、医薬事業が中心となっている帝人にとって、世界で存在感のあるアラミドは多角化の重要な柱。培った技術を存分に発揮し、焦点を絞った開発で成長につなげる考えだ。

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