生きた細胞を加工して失われた身体機能を回復させる「再生医療」が沸き立っている。日本はこれまで基礎研究で先行したが、実用化では世界に後れを取ってきた。この反省から関連の法律が整備され、世界で最も早く製品を実用化できる環境が整った。反転攻勢を狙う企業群には新顔も登場。市場の開花は目前だ。
医療と畑違いも
iPS細胞を使った共同研究契約の締結に関する17日の記者会見。京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長と武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長兼最高経営責任者(CEO)の顔は、場慣れしている2人にしては珍しく上気していた。 「これほど大規模で包括的な共同研究はこれまでにない」(山中所長)。「歴史的な提携。細胞医療は有望だ」(ウェバー社長)
武田が投じる研究費は10年間で200億円。京大は武田に50人の研究員を派遣する。企業の研究所でこれだけ大人数の研究者が働くのは例がない。
産学連携の広がりは水面下でも加速している。4月1日、東京・日本橋のビルの一室に「再生医療イノベーションフォーラム」の小さな看板が掛かった。常駐スタッフ1人に大きめの会議室。日本の再生医療のけん引役を期待されている企業群「RMIT」のヘッドオフィスだ。
再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)は、同分野に関心のある100社以上の企業で構成する。製薬企業だけでなく、日立製作所や川崎重工業、大日本印刷など、医療との関わりが薄かった企業も名を連ねる。
iPS知財囲う
その中でも再生医療の実用化に前のめりになっている企業だけで運営費を出し合い、組織したのがRMIT。新オフィスはパートナーを探す窓口で、まだ仮のオフィスながら「毎日数件、国内外からの問い合わせが入る」(FIRMの横川拓哉運営委員長)
既にRMITでは、川崎市の総合特区内に関連企業の開発拠点を集積させる方針を決めた。国際標準化機構(ISO)でも細胞加工に関してFIRMの代表者が座長を務めることが決まった。目指すは日本発の再生医療の世界標準づくりだ。
ものづくりで培った技術は、細胞加工でも生かされている。例えば日立製作所は、東京女子医科大学などと共同で細胞を短時間でシート状にする自動培養装置の実用化を目指している。
富士フイルムはiPS細胞供給の世界最大手のセルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI)の買収を決めた。CDI社と京都大学が持つ特許を合算すると、iPS細胞関連の主要な知的財産は日本勢が囲い込んだことになる。
実用化で後れを取ってきた日本勢。だが、昨年の医薬品医療機器法(旧薬事法)の施行で、再生医療の早期承認制度が設けられ、以前なら10年以上かかる実用化までの過程が3~4年で済むようになった。武田・京大のように資金面も充実。FIRMなど連携支援の輪も広がる。次は具体的な成果が問われる段階だ。
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