2015年4月21日火曜日

華為技術(下)2つの哲学、頭脳呼び込む――実用技術「半歩先」で顧客密着、目先の利追わず、5G05年から

技術者7万6000人 世界から集結
 中国南部の中核都市、広東省深〓市。「ここで研究できることを中国人として本当に誇りに思う。他の企業ではできない事ができるからね」
 華為技術(ファーウェイ)本社。東京ディズニーランドの約4倍もの広さを誇るこの地に同社自慢の一大研究所がある。通称ホワイトハウス。その豪華施設で男性研究員の一人、甘宏(35)は誇らしげに語ってくれた。
超エリート集団
 米国のホワイトハウスに似せた白亜の建物だ。そこで働くことが許されるのは、17万人いる華為の社員の中でわずか5000人にすぎない。
 超エリート集団と言ってよい。公表してはいない。中国国内、名門25大学の大学院卒でしか、実はその門をたたくことは許されていない。
 湖北省出身の甘宏も、今をときめくスマートフォン大手の小米の創業者、雷軍と同じ名門大、武漢大学を卒業し、華為の仲間入りを果たした。
 入社後は破格の待遇が待っている。新卒の月給は約20万円。一般的な中国の大卒に比べ3倍以上だ。その後も昇給は続き、40歳の技術者なら、年収は1000万円以上になる。1億円プレーヤーも決して珍しくない。
 「朝から晩まで必死に考え、猛烈に働き、業界リーダーになろう」
 施設内には、最新鋭の試験設備がズラリと並ぶ一方、研究所の壁には似つかわしくない派手な赤の横断幕が数多く張られ、技術者を日々鼓舞する。寝袋まで常備する華為はかつて「モーレツ企業」とも評された。
 だが、猛烈に働くだけで、今の華為の成功があるはずはない。
 「なぜうちで5Gの開発が進んだか分かりますか? 華為って、すごい会社だから? 猛烈に働く会社だから? いや、それはどれも違うよ」
 こう語るジョー・ケリー(50)は華為に魅力を感じ、遠いアイルランドから2年前に入社してきた。
 中国では第4世代(4G)の通信サービスの普及が始まったばかり。だが、10年前の2005年、華為ではすでに20年に商用化が期待される第5世代(5G)の開発に向けた検討が始まっていた。
 スマホが4Gから5Gに移行すると、情報の処理速度は一気に100倍に跳ね上がる。その5G開発の先頭を走るのが華為だ。
 「5Gのような20年単位のプロジェクトの開発ができるのも、華為が非上場企業だからさ」
 ジョー・ケリーはそう言い切った。「短期的な配当ばかり要求される上場企業なら、まともな5Gの開発なんて絶対できない」。もともと華為の大手顧客だった英固定通信最大手のBTグループから転職したジョー・ケリーには、そんな華為が羨ましく映った。
報酬で株を譲渡
 創業者で、今もトップとして君臨する最高経営責任者(CEO)の任正非(70)。任の現在の持ち株比率はわずか1・4%にすぎない。1987年の創業以来、上場することなく、残りは全て、任が社員だけに譲渡してきた。今や8万人超の社員が華為の大株主だ。
 だが、任が簡単に株を社員に譲ってきたわけではない。個人の目標の達成度合いに紐付け、達成者のみに株を成功報酬とし、譲渡してきたのだ。
 華為には非上場企業としての強みを最大限生かし、決して小手先ではなく、分かりやすく結果に報いる仕掛けで技術者を研究に駆り立ててきたからこそ、今の華為があると経営陣と技術者らは信じている。
 87年の創業時、たった14人の会社だった華為。それが過去10年間で投じた研究開発費が4兆円に迫る企業に変貌した。毎年の売上高の10%を超える研究開発費比率は、日本の電機大手の2倍の水準だ。今や全従業員17万人の45%、7万6000人は研究開発に関わる技術者だ。
 急成長を果たした華為。だが、それでも任がいまだにこだわりを持ち、技術者だけには力を込める口癖がある。
 「イノベーションはライバルの半歩先でいい。3歩先にまでは行くな。顧客に寄り添い、本当に使えるものだけを皆で作ってくれ」
 5Gなどの新技術に腰を据えて長期的に取り組みながらも、実用化の段階では、顧客のニーズからかけ離れてはならないというのが任の考えだ。
 顧客への密着も華為の研究開発の特徴だ。通信会社などとの共同開発拠点は世界31カ所に広がった。通信技術の新世代への移行が部品の一部やソフトの切り替えだけでできるようにした「シングルラン」と呼ぶ携帯電話基地局の設備。通信会社のコストや手間を大幅に省けるこの製品は、英通信大手ボーダフォンとの共同拠点で生まれた。
 任の思いに共感する世界の技術者たちが今日も華為の門をたたく。14年の1年間、その技術者数は世界で過去最高の6000人に達した。

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