2011年7月13日水曜日

東芝、メモリー最先端工場稼動――微細化の壁、越えられるか

 東芝は12日、NAND型フラッシュメモリーを生産する四日市工場(三重県四日市市)で第5棟目となる新たな製造棟を稼働させた。東芝が得意とする微細化技術の粋を集めた世界最先端の工場。ただ、現行メモリーの技術革新は2013年ごろに物理的限界に達する。フラッシュに置き換わる次世代メモリーで、確実な成長軌道を描けるのか。
 「最新技術を導入してし烈な競争に打ち勝つ。(四日市工場を)世界最強のメモリー製造拠点にする」。東芝の佐々木則夫社長は12日、完成記念式典のあいさつで自らを鼓舞するように宣言した。
 新製造棟では、まず線幅24ナノ(ナノは10億分の1)メートルで量産をスタート。7月中には19ナノメートルの量産にも挑む。10ナノメートル台のフラッシュメモリー量産はまだ世界で東芝にしかできない。メモリー世界首位、韓国サムスン電子も技術開発の途上にある。
 半導体回路の線幅を細く加工する微細化技術で先行すれば、半導体1個当たりの面積を小さくできる。同じ素材から生産できる半導体個数が3~4割増え、製造コストが劇的に下がる。
 あらゆる領域でサムスンの後じんを拝している日本のエレクトロニクス産業のなかで、メモリーは技術革新で大きくリードしている唯一の分野と言っても過言ではない。もっと注目を浴びてもいいはずだが、記者会見の“主役”は最先端技術が集まった新製造棟ではなかった。
関心は更地に
 出席者の関心は新製造棟に隣接する手つかずの更地に向いていた。実は、第5製造棟は2期に分けて工場を2つ建設する計画で、今回稼働したのは1期目だ。2期目では、現行のNAND型フラッシュか、置き換わる次世代メモリーの「ポストNAND」の生産が検討されている。そのため「2期目がいつ稼働するか」が注目を集めているのだ。
 東芝の公式見解は、「13年度の建設開始を想定しているが、市況を見極めながら検討するので何も決まっていない」。
 なんとも煮え切らないが、次世代品の量産時期は戦略上最も重要な情報。ポストNAND量産時期を問われ、佐々木社長も「言いたいことはあるが、それは言ってはいけないと言われている」とけむに巻いた。
 NAND型フラッシュ、DRAMが代表するメモリーは1年に1世代ずつ、技術革新が進む。処理高速化、大容量化の原動力になる。だが、これまでのペースだと、あと2~3年で物理的限界にぶつかる。NAND型フラッシュは、線幅が15ナノメートルより細くなると記憶部分がもろくなる。誤作動を起こしやすくなり、データ保存が困難になる。DRAMは20ナノメートルが限界点とされ、いずれも到達時期は13年ごろとみられる。
 さらにこの時期に、インターネット環境の進化やクラウドコンピューティングの浸透によるデータセンターの増設で扱う情報の量が急激に膨れ上がる“ビッグデータ”時代を迎える。技術革新による大容量化が止まってしまうと、ビッグデータ時代を支えるメモリーとしては不適格の烙印(らくいん)を押されてしまう。
サムスンと競争
 「複数ある候補から量産準備をするメモリーが決まった」。6月、サムスンが次世代メモリーを急ピッチで開発しているとの噂が流れた。DRAMやNANDなど電荷蓄積してデータを記憶する現行メモリーとは異なり、「物質の状態が変わるのを利用するメモリー」(関係者)という。収益性の低下を嫌って現行メモリーの増産投資は控えているが、次世代への研究開発はむしろ増やし、「東芝との技術格差をまた逆転する」(サムスン幹部)との意気込みだ。
 東芝も微細化技術のリードを次世代領域でも保つ構えだ。佐々木社長は「微細化はいずれリミットが来る。2期目は最初からポストNANDで始めたいという気持ちでいる」とする。これまでの平面構造のフラッシュから、縦に回路を積み上げた3次元構造に切り替え、超大容量化品を検討しているようだ。実現すれば、1チップ当たり数倍の大容量化が期待できる。
 東芝は、20年までのNAND型フラッシュの市場規模予測を出した。10年からの10年間、年平均成長率が70%とする驚異的な数字だ。成毛康雄執行役常務は「20年にはすべて次世代メモリーに置き換わっているだろう」と予測する。
 これまでのペースとは異なる性能向上、大容量化を求められる次世代メモリー。開発競争に勝ち抜き、クラウド化で爆発する次世代のメモリー市場で“世界最強”の座を奪取できるか。東芝のメモリー事業は大きな節目を迎えている。

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