2013年1月24日木曜日

奈良先端科学技術大学院大学准教授中嶋琢也氏―省エネ調光ガラス実現

 紫外線が当たると青色になり、電気を流すと無色になる。調光ガラスと呼ぶ特殊なガラスを、従来より10分の1以下の消費電力で実現したのが奈良先端科学技術大学院大学准教授の中嶋琢也(35)だ。優秀な若手研究者と周囲からはみられているが、本人の研究に対する姿勢は人一倍厳しい。ビルの空調効率などを上げ、大幅な省エネ実現につなげるのが目標だ。
 中嶋が扱うのは、電気と光に反応して色が変わる「フォトクロミック材料」だ。分子構造などを工夫して様々な性能を引き出す研究競争が繰り広げられているホットな分野だ。
 色の変化をもたらすのは「ターアリーレン」という分子だ。これを使って横1センチメートル、縦4センチで厚さが2ミリのガラスを作製。実験すると、電気を流して50秒ほどで青色から無色になった。電気を流すと雪崩が起きたように、次々と分子の反応が連鎖する。これが今回の性能を実現した要因だ。従来は電子1つに対して1つの分子が反応するだけだった。
 「5つ目くらいの分子で、考えていたような結果が出た」。中嶋は今回の研究成果を淡々と振り返る。微小な分子が多数集まった超分子に関する知識を生かし、実験がもくろみ通りにいったからだ。
 中嶋は学部から大学院に飛び級で入学。博士課程も期間を短縮し、わずか25歳で学位を取得するなど研究者としてエリートコースを歩んできた。今回もそつなく研究をこなして成果を出したと思われそうだが、中嶋は「楽をした研究はあまり成果が出ない」と断言する。冷静な受け答えの中に、強い執念を感じさせる。
 中嶋の研究手法は明快だ。原理を追究し、解明した理論に沿って新材料を合成する。材料の物性を評価して理論との整合性を詰める。たとえ優れた材料ができても手放しで喜ぶことなく、「なぜそうなるのか」と突き詰める。原理の追究と実験をひたすら繰り返す日々で、単純作業も多い。しかし、証拠を1つ1つ挙げて犯人を追い詰める警察小説のような過程が好きだという。
 2004年、九州大学で学位を取って間もない中嶋は、隣の研究室にいた河合壯の奈良先端大教授就任に合わせて一緒に移った。「学年トップクラスの最優秀な学生。自身がカバーしきれない超分子という専門分野を持っている」と中嶋に目を付け、引き入れた。
 河合の専門は光化学で、約20年前に光で着色したフォトクロミック材料が、電気を流すと無色になるのを見つけた先駆者だ。中嶋は光を扱う物理化学が苦手だったが、論文を必死に読み込むなどして河合に食らいついた。それを大学院時代に取り組んだ超分子に関する知識と融合させた。
 中嶋は「野球でいうと、今のところコツコツとヒットを打ち続けている感じかな」とこれまでの成果を分析する。ただ、「いつかホームランを打ってやる」との情熱も胸に秘めている。

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