2013年1月24日木曜日

山形大、有機エレ研究センター―半導体革命へ頭脳結集


 電機業界で脚光を浴びている有機化合物でできたELやトランジスタ、太陽電池などの有機半導体。代表的なシリコン半導体に比べ軽量で薄く曲げることができる。この分野の世界的研究拠点が、山形大学有機エレクトロニクス研究センター(山形県米沢市)だ。
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 山形大は2011年4月、国や県の補助を受けて約13億円をかけ、工学部の敷地内に5階建てのビルを建設した。フロアごとにEL、トランジスタ、太陽電池部門に分けたほか、共有フロアにはクリーンルームと試作装置を備え、各部門の研究者が自由に使えるようにした。
 「この建物があるのとないのとでは全然違う。同じ建物内に私のような材料系もいれば電気や電子、機械系の研究者もいる。日々顔を合わせて交流することで、新しい発想が生まれたり一緒にプロジェクトを立ち上げたりできる」。世界で初めて白色有機EL素子を開発した副センター長の城戸淳二(53)は胸を張る。
 個々の有機エレ分野を対象にした研究所はあるが、総合的に研究する施設は国内になく、世界的にも珍しいという。山形大で個人的にELを研究してきた城戸の目には「個人商店から総合商社に生まれ変わった」と映る。
 注目すべきなのは施設や設備面だけでない。人材も豊富だ。研究者のドリームチームを結成し研究を加速させる科学技術振興機構(JST)の「地域卓越研究者戦略的結集プログラム」に採択され、3つの研究部門ごとに「世界最先端の頭脳」をスカウトしてきた。
 代表格がトランジスタの部門長に就いた時任静士(54)。20年以上、紙のように薄く曲げられるフレキシブルディスプレーを研究してきたベテランで、NHK放送技術研究所から迎え入れた。
 太陽電池部門は世界的権威であるオーストリア・リンツ大学教授のN・S・サリチフチを招へい。客員研究者として米国の著名な学者2人とも契約し連携を図っている。
 目下の3部門共通の研究テーマは、印刷技術を使いプラスチック基板上で製造する手法の開発。実現すれば、薄くて折り曲げることができるシート状のパソコンや照明、太陽電池などを安価に作れる。すでに一部の電力変換装置回路や有機EL素子の試作に成功している。
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 産学連携の拠点としても注目される。今後成長が見込める分野だけに企業側の視線は熱い。エレクトロニクス関連企業の研究者が常時30人以上、センターに出入りしており、有機EL照明は一部で量産化されている。
 優秀な学生も集まりつつある。これまでは県内か東北地方、遠くても関東地方の志望者にとどまっていたが、最近は有機エレを学ぶために西日本から入学する学生もいるという。「明確な目的を持つ学生は吸収力が高く取り組みも真剣。教え甲斐もある」と城戸。
 今年4月には米沢市内に第2キャンパスとなる有機エレクトロニクスイノベーションセンターもできる。研究センターの基礎研究を実用化につなげる拠点だ。既にシャープや三洋電機などを退職した研究者を十数人採用し、実用研究の体制も整いつつある。「米沢を日本のシリコンバレーに」。城戸がめざす壮大な構想の実現に向け、歯車が動きだした。

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