2011年7月15日金曜日

磁気構造材料の電気抵抗増減、九工大・ロシア准教授ら実証試験。

無限HDD実現へ新理論 らせん磁性・電子が干渉
 日本とロシアの理論物理学者が計算で求めた磁性材料の新しい理論が話題になっている。ハードディスク駆動装置(HDD)の容量を無限大にできる可能性があるからだ。候補の磁性材料はすでに何種類か見つかっており、高密度記録が本当に可能かどうか、国内の共同研究者が実証試験に着手する。
 新理論を唱えたのは、九州工業大学の岸根順一郎准教授とウラル州立大学のアレキサンダー・オブチニコフ准教授ら。特殊な磁気構造の材料に外部から磁力を与えると、磁力の増加に伴って電気抵抗が極端に増減する新しい物理現象が起きるという。現在の記録媒体は情報を「1」「0」の2種類の信号(ビット)で蓄えるが、「新理論によれば無限ビットを実現できる可能性がある」(岸根准教授)
 この新しい現象は、電子の回転でできる微小な磁石(スピン)がらせん状に並んでつながった「カイラル磁性結晶」と呼ぶ材料で生じる。結晶中の原子の間隔は10分の数ナノ(ナノは10億分の1)メートルで、原子が数百個並んだ数十ナノメートルの周期でらせん状の磁性が現れる。
 らせんの進行方向と垂直な方向から磁力を与えると、磁力の増加に伴ってらせんの周期が広がる。らせんと同じ方向に電子を流すと、らせん磁性の周期と電子の波の周期が干渉。電子が定常波という状態になって進みにくくなり、電気抵抗が極端に増える。磁力をさらに高めて干渉が弱まると、電子が再び流れやすくなって抵抗が下がる仕組みだ。
 今回、岸根准教授らは磁性材料に与える磁力を数十ガウス(ガウスは磁力の大きさ)から数百ガウスまで増やしていくと、電気抵抗の高いピークが繰り返し現れることを理論計算で示した。数百ガウスの磁力はホワイトボードに張る磁石程度に低く、実用的にも扱いやすい。
 カイラル磁性は、材料自体の結晶構造がらせん状だと現れる。らせん状の結晶構造を持つ材料は水晶など自然にも数多く存在する。しかし磁性がないために新理論を適用できない。それでも「心配はいらない。カイラル磁性結晶はすでに合成されている。あとは共同研究者が理論を実証するだけだ」と岸根准教授は実用化に自信を持つ。
 人工のカイラル磁性結晶は、マンガン・シリコンなど少なくとも6種類が合成されている。同結晶を実際に合成した青山学院大学の秋光純教授や広島大学の井上克也教授らが岸根准教授のチームに加わっている。同チームは年内にも、フランスのラウエ・ランジュバン研究所や大阪府立大学で実証試験を始める予定だ。
 今回の理論計算の内容は米物理学会の論文誌フィジカル・レビュー・レターズ(電子版)に7月1日付で掲載された。実社会と距離がありがちな基礎物理学の研究成果ではあるが、具体的な用途を期待して学界以外からも注目を集めている。ロシアの新聞イズベスチヤには、オブチニコフ准教授のインタビュー記事が掲載された。
 無限の情報を小さなHDDなどに詰め込める新技術。果たしてそんな技術が実現できるのか。それをどうしたら使いこなせるのか。商品化になじむ技術なのか。疑問は果てしなく広がるが、さまざまな可能性を秘めた新理論といえそうだ。

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