2011年7月15日金曜日

携帯新放送「モバキャス」来春開始、「30センチのアンテナ」が波紋。

 NTTドコモ子会社のジャパン・モバイルキャスティング(東京・港、永松則行社長)は14日、2012年春に始まる携帯端末向け新放送のサービス概要を発表した。名称は「モバキャス」。「ワンセグ」の13倍のチャンネルを約10倍の画質で楽しめる。スマートフォン(高機能携帯電話)の拡大をにらみ、ドコモと総務省が華々しく推進してきた新事業だが、「東京スカイツリー」から効率的に電波を発信する設備計画のもろさが露呈するなど雲行きは怪しい。
 「フェンシング・ケータイ」――。携帯電話業界では今、新放送対応のアンテナを搭載したスマートフォンの試作機がこう揶揄(やゆ)されている。屋内で電波を受けるためのアンテナが、まるでフェンシングの剣のように見えるからだ。
 その長さは実に30センチメートル。ドコモや携帯電話機メーカーの開発陣は「30センチ問題」に対応するために試行錯誤を繰り返す。「イヤホン型のアンテナを使ってもらう」(ドコモ幹部)など代替策や、先端をコイル状に巻いたアンテナ、充電器に長いアンテナを取り付けるなどの案もある。
 新放送は生中継に加え、就寝中などにコンテンツをダウンロードし、スマートフォンに番組を蓄えておく「蓄積放送」が強み。ただそのためには屋内で電波を受信する必要がある。ドコモ子会社は東京スカイツリーで全世帯の3分の1に当たる1600万世帯をカバーする計画だ。
 永松社長は「出力が高い大電力方式なので多くの世帯をカバーできる」と説明するが、「ギャップフィラー」と呼ばれる補助な中継アンテナやWiFi無線の活用といった設備面の追加投資は必須とみられる。
 「だから言ったのに……」。昨年新放送の設備運営の総務省への申請を巡りドコモと争ったKDDIの幹部はこう漏らす。電波問題の原因はドコモの設備設計の甘さにある。
 昨年総務省に提出した事業計画で、KDDIは約770億円を投じて中小型局865局を整備するとした。一方、ドコモ側は設備投資を440億円に抑え、東京スカイツリーを軸に既存の放送局を活用して全国を125局でカバーする。設備レンタル料や利用者料金を抑えるためともいえるが、技術者出身のKDDIの小野寺正会長(当時社長)は総務省の公開説明会で「屋内で使う発想がなさすぎる」と皮肉った。
 設備申請を許可した総務省も、事業者認定を大学教授らで構成する電波監理審議会に委任。ドコモ側に軍配を上げた電監審はコストなどを算定基準としたが、「専門家不在の組織が多数決で決めた」(通信業界関係者)との指摘は根強く残る。
 総務省は8月にもジャパン・モバイルキャスティングから設備を借りて放送事業に参入する企業の参入募集を開始する。ソフトバンクグループや学習塾のナガセなどが参入に意欲を示すが、「枠が埋まらない可能性もある」(証券アナリスト)との声もある。
 KDDI幹部は「参入するメリットがない」と話すなど他の通信事業者との溝も埋まっていない。
 かつて携帯端末向け有料放送の先駆けといわれ、東芝などが主体となり04年にサービスを開始した「モバイル放送(モバHO!)」は加入目標の200万人に対し約10万人にとどまり、09年3月にサービスを終了する末路をたどった。米国でクアルコムが進めた「フローTV」も同社が撤退するなど、無料が中心となってきたネットサービス時代に有料放送の利用者確保は厳しい。「モバHO!」と同じ轍(てつ)を踏まないような知恵が必要になっている。

 ▼携帯端末向け新放送 24日に停止する地上アナログ放送の空き電波を使って2012年春に始まるサービス。現行の「ワンセグ」の約13倍のチャンネル数が使え、映像の画質も約10倍に高められる。スポーツや音楽ライブを生放送で楽しめるほか、端末にコンテンツを蓄積することもできる。雑誌やアプリなど映像以外のコンテンツを配信できるほか、簡易ブログ「ツイッター」などとも連携する。

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