2013年1月29日火曜日

CRESTエピゲノムの診断・治療技術



 食生活や老化、ストレスなどの後天的な要因で遺伝子の働きが変わる「エピゲノム」。様々な病気と関係すると考えられ、世界で診断や治療に関する技術の研究が活発になってきた。日本で先頭を走るのが、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」だ。
 「ようやく肝臓のエピゲノムの解読にメドがたった」。国立がん研究センター研究所の金井弥栄・分子病理分野長はこう話す。正常な人の組織ごとにエピゲノムを調べる作業に取り組んでいる。肝臓や胃、大腸、腎臓を担当し、プロジェクト開始から1年余りで肝臓をほぼ解読し終えた。
 がんの手術で摘出された組織の一部を執刀医と患者から提供してもらって解析する。シーケンサーなど専用の解析装置をいくつも使いながら、ゲノムを構成する30億個の塩基にくっつくメチル基やアセチル基など分子の有無を調べる。
 さらに、メチル基やアセチル基が約2万2000個あるといわれる遺伝子のどの部分にくっついているのか、それとも外れているのかを確かめる。メチル基やアセチル基はついたりはずれたりしやすく、どの結合・離脱状態なら正常なのかがはっきりとわかっていない。「かなり高度な解析技術が必要となる」と金井分野長は指摘する。
 プロジェクトの目的のひとつは正常な細胞のエピゲノムを決めることだ。2011年に本格始動した国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(IHEC)にも参加している。
 IHECには日本のほか、欧州連合(EU)、米国、カナダ、韓国などが参加。健康と病気に関係するエピゲノムのうち1000種類の解読を5年間で終えることを目指している。
 日本は肝臓や大腸、胃などの消化器と、血管内皮、胎盤や子宮内膜などを担当する予定。他の国は血液の細胞などが主体だ。IHECの臓器分担のワーキンググループリーダーを務める牛島俊和・同研究所上席副所長は「ユニークな組織の解読に挑んでいるため、注目されているようだ」と話す。
 IHECが取り組んでいるエピゲノム解読手法の国際標準作りでも貢献を目指す。東京大学の白髭(しらひげ)克彦教授らは大阪大学などと共同で、DNAが巻きついているたんぱく質のしっぽの部分に結合するアセチル基やメチル基を高い精度で特定する技術を開発した。ドイツやカナダ、米国のチームに提供し、評価を受けている。
 さらに、ひとつの細胞からDNAをまんべんなく増やして塩基配列を解読する手法も開発中だ。エピゲノム解読に必要な細胞を、現在の1千万~100万個から、1万個程度に引き下げることを狙っている。
 1万個程度の細胞で検査できないと、実際の医療現場では使いづらいという。新技術はIHECが進める国際標準の手法に採用される可能性もあるとみている。白髭教授は「日本発のエピゲノム解析技術が世界中で使われれば、将来、医療応用される場合に有利になる」と意気込む。

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