日本電気硝子が低消費電力などで注目を集める発光ダイオード(LED)の多色化を実現する新素材を開発した。ガラスに蛍光体を混ぜた新しい組み合わせ。普通は樹脂に蛍光体を混ぜて多色化に利用する。耐熱性や耐久性が高いガラスの特性をアピールし、樹脂の置き換えを狙う。
開発したのは「蛍光体ガラス」。このガラスでLEDを覆うと、通過する光の波長をガラスが変換し、違う色を出せる。青色LEDを光源にして多彩な色を出す「蛍光体方式」と呼ばれる方法だ。
現在の蛍光体方式のLEDは、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂に蛍光体を混ぜて多色にしている。ただ、LEDの高輝度化が進むにつれ、セ氏150~200度にもなる発熱や強い光にさらされて樹脂が変色してしまう問題が浮上してきた。無機物のガラスは変色せず、輝度や発色性などの性能を長く維持できる。
ガラスに蛍光体を混ぜ込み、自由自在に成型する――。「プロジェクトを聞いたとき、実現は無理だと思った」と山本茂取締役常務執行役員は打ち明ける。ガラスの成型に必要な高温に「今度は蛍光体が耐えられなくなる」と考えたからだ。これを解決したのは日電硝が研究を続けてきた「低温ガラス」の技術だった。
例えば、液晶用のガラス基板はセ氏1200~1300度の高温で原料を溶かし、薄板状に成形する。一般的なソーダ石灰ガラスの場合、純粋なものは1700~1800度の高温が必要だ。日電硝は500度以下で柔らかくなる低温ガラスを開発。この技術を蛍光体ガラスに応用し、蛍光体の性能を損なわないで成型加工できるようにした。
狙った発色や輝度を表現するにはガラスと蛍光体との相性を考えたり、ガラスの中に蛍光体を均一に混ぜ込んだりしなければならない。ここで「粉末ガラス」のノウハウが活躍した。
同社が粉末状にできるガラスの種類は100種以上。それを多種多様な素材と組み合わせ、500種以上の特殊なガラスを造りだす。粉末ガラスの粒径は1ミクロン単位で制御できる。
数十種類の蛍光体と粉末ガラスとを調合し、蛍光体ごとに最適な組み合わせを見つけていった。ガラスと蛍光体の密度はどんな組み合わせでもほぼ同じ。そのため、均一に混ざりやすく、ムラのない安定した光を得られるという。
2010年に青色LEDの光の一部を変換し、白っぽい「疑似白色」に光らせる蛍光体ガラスを初出荷した。低温ガラスと粉末ガラスという別々のルートで続けてきた2つの基礎技術が合わさって初めてできた新製品といえる。「特殊ガラスに特化した日電硝だからこそできた」と山本氏。産業界でガラスは樹脂で代替されることが多かったが、「今度はガラスが逆襲する番」と山本氏は意気込む。
現在は月数万個にとどまる生産量を、2年後には月数十万個まで増やしたいという。2種類の蛍光体を混ぜ込んだ蛍光体ガラスの開発にも着手した。さまざまな波長の光を組み合わせることで、より自然光に近い白色を出す研究も進んでいる。表現できる色の幅を広げてシェア拡大を目指す。
▼ガラス 原子が不規則に並んだ構造で、一定の温度に加熱すると柔らかくなる「ガラス転移」が起きる。透明で電気を通さず、さびないのが特長。シートや繊維などに成型でき、巻き取りができる超薄膜ガラスもある。組成によって様々な機能を発現し、鉛の入った放射線遮蔽ガラスは東京電力福島第1原子力発電所の事故収束作業で活躍している。
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