京都大学は11日、新型万能細胞(iPS細胞)の作製技術に関する特許が欧州で初めて成立したと発表した。皮膚細胞などに3種類の遺伝子を入れてiPS細胞を作製する基本的な技術が対象。京大は企業に広く特許使用権を供与する方針だ。iPS細胞の研究が活発な欧州で有力技術を1社に独占されずにすみ、再生医療や創薬など関連産業の成長を後押しする。
特許は2005年の国内出願をもとに08年に欧州特許庁に出願、今月7日に正式に成立の通知を受けた。今後、英国やドイツ、フランスなど17カ国で国ごとの特許登録手続きを進める。
今後、企業などとのライセンス契約は京大関連の特許管理会社、iPSアカデミアジャパン(京都市)を通して結ぶ。京大は海外勢が有力な特許を持つ場合に、クロスライセンス交渉などに使える有力な武器を手に入れたことになる。
開発者の山中伸弥・京大教授は記者会見し、「成立した特許の対象は基盤的な技術。今後も(1社に独占されず)多くの企業が(iPS細胞の研究に)参入できるよう知財の確保を進めたい」と述べた。
今回成立したのは「Oct類、Klf類、Myc類の遺伝子などの初期化因子」に関する特許。これら3種の遺伝子や、遺伝子が作るたんぱく質などを使ってiPS細胞を作るかなり広い範囲の技術が対象だ。
京大の松本紘総長は「大学が特許を取得すれば研究者が安心して研究に取り組める」と指摘する。昨年1月には米ベンチャー企業のiPS細胞作製技術の特許が英国で成立。米国でも同社の特許出願が京大の特許成立を阻むとの懸念が出ていた。その後、事業戦略を転換した同社から京大が特許権を譲り受けた経緯がある。
iPS細胞の特許動向を調べる札幌医科大学の石埜正穂・准教授は「今回、広い範囲(の技術)で特許を取得できたことは評価できる」と指摘する。ただ「iPS細胞を応用する治療が実現する際に、どの技術が使われるかは不明。取得した特許の経済価値はまだ分からない」という。
京大はiPS細胞の作製技術などに関する特許を約70件出願済み。国内では3件が成立した。海外では南アフリカ、シンガポールで成立したほかロシアなど旧ソ連9カ国で効力を持つユーラシア特許も取得済みだ。
しかしiPS細胞を応用した創薬や再生医療で将来、大きな市場が見込める米国や欧州では成立していなかった。山中教授と研究競争を繰り広げてきた米国の大学や企業に加え、中国の研究機関なども将来の関連産業の成長を見込み米欧などでの特許取得を狙っている。
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