2015年4月17日金曜日

太平洋セメント中央研究所第3研究部増田賢太氏――空洞の微粒子、スマホに

断熱に優れ薄型化に貢献
 太平洋セメントは、中が空洞になっている極小微粒子の開発に成功した。原料を溶かした液体を加熱すると、水分が蒸発して微粒子ができる仕組みを応用。高い精度の空洞微粒子を作り出した。スマートフォン(スマホ)の基板に塗布すれば空気膜をつくり、バッテリーの発熱から基板を保護できる。他にも様々な利用法が期待できる。
 中が空洞の新しい微粒子を開発したのは、太平洋セメント中央研究所(千葉県佐倉市)第3研究部資源VCチームの増田賢太リーダーだ。
 微粒子の直径は1~10マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル。酸化アルミニウム、二酸化ケイ素を主成分とするアルミノシリケートなどで作られる。様々な無機酸化物を原料にできる。膜厚は100ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下で、凹凸のない、きれいな球状になっている。
 中が空洞の微粒子で、ここまで小さく平滑な素材を作ることは難しい。一般的な微粒子は二酸化ケイ素を含む頁岩(けつがん)と呼ばれる岩石を砕いて粉にしたものを原料とするケースが多い。
 熱を加えると、中に含まれる有機物が燃えてガスが発生し、風船のように膨らむことで中が空洞になる。ただし、膨らむ過程で穴があいたり、表面に凹凸が出ることが難題だ。穴があくと強度が下がり、性能の劣化につながってしまう。直径も小さいもので20マイクロメートル、膜厚は1000ナノメートル以上の粒子しか作れない。
 「今までにない小さくて平滑な粒子は作れないか」。増田氏が着目したのが「噴霧熱分解法」と呼ぶ製法だった。同製法の特徴は丸くて平滑な微粒子を作り出せること。もともとは、空洞ではなく、中が詰まった粒子を作る製法の一つだ。
 原料を含んだ水溶液を霧吹きのように炉の中にふき込む。炉の内部の熱により、水溶液中の成分が析出する仕組みだ。増田氏は同製法をベースに、炉の熱や水溶液の成分といった条件を変えた。実験当初は条件を変えても中身の詰まった粒子しか作れなかったという。試行錯誤を重ねながら最適な条件を見つけ出し、2014年10月、ついに空洞の極小微粒子を作り出すことに成功した。
 「モバイル機器での展開ができないか」。増田氏は電子材料分野での展開を見込む。例えば、スマホやタブレット端末の電子基板に微粒子を塗膜する。粒子1個あたりの空気の割合は80%以上だ。
 競合他社の粒子は60%以下のため、太平洋セメントの方が断熱性能に優れ、基板を熱から守ることができる。直径が1~10マイクロメートルと小さく、端末の薄型化に役立つ。フィルムに微粒子を混ぜて使うことも可能という。
 将来は船舶や鉄道車両に使うプラスチック、複合材料の添加剤向けも視野に入れる。15年度からサンプル提供し、量産技術の確立にも取り組む。
 太平洋セメントは、セメントを構成するカルシウムやケイ素といった素材の微粒子技術を生かし、新分野への展開を加速している。中央研究所は太平洋セメントの既存事業であるセメントやコンクリート以外に、資源・環境分野で新事業を展開するための研究開発を担ってきた。パワー半導体に使う炭化ケイ素などの研究実績を残している。

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