2015年4月17日金曜日

JFEスチールスチール研究所主任研究員大山伸幸氏――天然ガス、コークス代替

生産効率向上、CO2減
 製鉄業は原料から高品質の鋼をどれだけ効率的に取り出せるかが収益力を左右する。JFEスチールは鉄鉱石の事前処理方法を見直し、コークスの一部を液化天然ガス(LNG)で代替してエネルギー使用量を減らす技術を開発した。中国鉄鋼大手の大量生産を背景にコスト競争は激化している。技術開発で競争力を維持する考えだ。
 鉄は鉄鉱石と石炭由来のコークスを高炉内部で反応させて取り出す。粉状の鉄鉱石をそのまま投入すると内部の熱風の流れを妨げるため、事前に少量のコークスを燃料として混ぜ、焼き固めて焼結鉱にする。
 幅5メートル、長さ数十メートルの巨大なベルトコンベヤー上で燃やされた焼結鉱のうち、高炉に投入できるのは一定の強度がある約8割。約2割が不良品として再び焼結工程に入れられていた。
 「歩留まりを高めるにも二酸化炭素(CO2)排出量を減らすにも、コークスにはこれ以上頼れない」。スチール研究所福山地区で上工程の製造技術を研究する大山伸幸主任研究員は、新技術「Super―SINTER(スーパーシンター)」でLNGを採用した経緯をこう説明する。
 旧川崎製鉄時代の研究で、歩留まりが悪い主因は最適な燃焼温度が維持できていない点である事は判明していた。良質な焼結鉱はセ氏1200~1400度で燃やすと生成するが、自然燃焼に任せる従来法では短時間しか保てず、良質品は2割しか製造できない。
 「気体燃料を原料の上部から吹き込み内部に送り込めば自在に温度制御できるのでは」。大山氏は研究所内で試験装置を製作。粉状の鉱石の隙間にLNGを確実に送り込むため、最適な吹き出し速度やLNGの量、ノズルの形状などを選定した。コークスの使用量は8%減った一方で適正温度維持の時間は約2倍に延びた。CO2排出量は焼結機1台あたり年間6万トン減らせる。
 高熱の鉄鉱石にLNGを吹き付ける方法に、社内からはリスクが高いと懸念する声も上がった。実用化を後押ししたのは2003年に川鉄と旧NKKと経営統合し、「燃焼系の研究に強い」(大山氏)旧NKKの研究部門と知見を共有できたためだ。
 旧NKKの拠点だった東日本製鉄所京浜地区(川崎市)は隣接する東京ガス工場から高炉へLNGを供給するパイプラインがあったことも開発を加速した。実用化第1号機には京浜地区の焼結機が選ばれ、09年に量産に成功。全国4地区の焼結機に順次導入が進んだ。
 さらなる生産効率アップのため、LNGに加え酸素ガスも吹き込む次世代機も14年に開発済み。歩留まりは9割に改善し生産スピードも高まった。良質品も約4割と「理論値に近い」(大山氏)水準に達している。
 世界で採掘される鉄鉱石は今後、粒子が細かく鉄の含有率の低い鉱石がさらに増える見通し。原料の事前処理技術はコスト改善のためにいっそう重要となる。微粉状の鉱石は焼結時間がより多くかかるためだ。大山氏は「造粒方法などさらなる技術開発を続けたい」と語る。原料の低質化に技術開発が間に合うか、時間との争いが続く。(林さや香)
〈施設概要〉
▽設立時期 2003年4月
▽場  所 広島県福山市など全国6カ所
▽人  員 890人
▽事業分野 製銑、製鋼、圧延など上工程の技術開発および鋼材製品開発

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