2015年4月17日金曜日

SONY転生デバイスで変える(1)「ソニー入ってる」照準、画像センサー、業界標準狙う。

スマホ搭載、金額シェア頂点 出荷年2倍、成長の軸
 構造改革から成長へ――。ソニーが生まれ変わろうともがいている。4月からの新たな中期経営計画で「利益重視と成長への投資」をテーマに据え、赤字体質から高収益企業への転換を目指す。看板事業であるエレクトロニクスにも聖域を設けない。長期低迷を脱し、「SONY」のブランドは輝きを取り戻せるか。転生に向けた胎動は始まった。その最前線を追う。(関連記事3面に)
 「資金提供の申し出をお断りします」
 2月。ソニーは約1050億円を投じ、スマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)に搭載するCMOS(相補性金属酸化膜半導体)画像センサーの生産能力を月産8万枚(300ミリメートルウエハー換算)に引き上げる大型の設備投資を決めた。実はこの大型投資を巡り、米アップルが資金提供を提案してきたが、ソニーは自前路線を貫いた。
資金提供断る
 一方、ソニーと反対にアップルの資金提供を受け入れたのはジャパンディスプレイ(JDI)だ。JDIは3月、石川県に高精細の中小型液晶の新工場を建てると発表した。約1700億円の投資額の大半はアップルが負担するとされる。
 画像センサーと液晶パネルというスマホの中核部品を担う両社だが、大口取引先への対応は分かれた。巨額投資のリスクを単独で背負う判断は、画像センサーの競争力の強さに対するソニーの自信の裏返しだ。
 「工場はフル稼働だが、需要に供給が追いついてない」。ソニーのデバイスソリューション事業本部の野本哲夫モバイルイメージングシステム事業部長は悲鳴を上げる。
 ソニーの画像センサーの出荷量は2012年度に3億6000万個だったが、13年度には5億2100万個、14年度は9億個に達した模様。毎年2倍近いペースの伸びだ。「毎夏、中期計画を立てるが、毎回1年前倒しで需要予測が現実になる」(野本氏)
 7日には16年6月末までに月産8万枚としていた2月の増産計画を見直し、約450億円を追加投資して16年9月末までに月産8万7000枚に増強すると発表した。ソニーは16年までに月産7万5000枚としていた中期計画を前倒ししたうえで、生産能力の一段の上積みに踏み切る。
 「成長けん引」。画像センサーを中心とするデバイス事業に平井一夫社長が託した使命だ。17年度にデバイス事業は売上高で最大1兆5000億円(14年度見込みで9500億円)、売上高営業利益率で最大12%(10・5%)を目指す。売り上げ成長では全事業トップで文字通りにけん引役の期待がかかる。
 調査会社のテクノ・システム・リサーチ(東京・千代田)によると、14年のCMOS画像センサーの世界シェア(数量ベース、見込み値)は米オムニビジョンが23・4%と首位で、ソニーは20・7%と2位。だが、金額ベースではソニーが39・5%の首位で、2位のオムニビジョン(16・2%)を突き放す。
 鈴木智行副社長は「2年は競合よりも技術が先行している」と話す。韓国のサムスン電子は最上位機「ギャラクシーSシリーズ」の画像センサーでソニー製を毎回使っていたが、前モデル「S5」で自社製の画像センサーに切り替えた。ただ、最新の「S6」で再びソニー製に戻したほどだ。
中・低価格でも
 高付加価値分野の高い競争力を背景に、数量でも確固たる首位を狙う新たな挑戦が動き出した。
 これまでスマホの高級機向けを中心としていた画像センサーの供給先を中・低価格機に広げる。撮影性能を絞り込んで価格を抑えた廉価版の品ぞろえを拡充。中国など新興国のスマホメーカーに提供する。15年には数量ベースでも30%に達し、首位に立つ見通しだ。
 高画質の画像センサーとして確立したブランドを生かし、中・低価格市場までも席巻する。スマホの中核部品である「電子の目」で「デファクトスタンダード(事実上の標準)」を奪いに行く野心的な戦略だ。
 パソコン時代に米インテルがMPU(超小型演算処理装置)で築いた「インテル・インサイド」のモデルをスマホ時代の画像センサーで「ソニー・インサイド」として確立する。「高付加価値スマホへの依存度の高さが課題」(吉田憲一郎副社長)だったが、中核部品として標準の座を握れば、供給先を分散できるうえ、最終商品のスマホがコモディティー(汎用品)化しても収益性を担保できる。
 かつてソニーは東芝と米IBMとともにMPU「セル」を開発した。デジタル家電がネットワークでつながる時代をにらみ、テレビなどあらゆるデジタル家電に組み込む壮大な構想を描いた。だが、消費電力の高さや高コストがネックとなり、ゲーム機「プレイステーション3」以外の採用が広がらず、大きな損失を招いた。画像センサーは捲土(けんど)重来を期した再挑戦でもある。
 「投資回収は21世紀に入ってから」。ソニー半導体の父である岩間和夫元社長はCCD(電荷結合素子)画像センサーの開発に際し、先行投資を危惧する周囲をこう諭した。画像センサーは今、岩間氏の予言通りに大きな回収期を迎えた。岩間氏の遺産を引き継いだもう一人の「カズオ」である平井社長にも成長に向けた新たな投資の目利き力が問われる。
 星正道が担当します。

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