2015年4月17日金曜日

知財立国が危ない、世界標準から立ち遅れた日本

 グローバル化の急速な進展で、国家間の制度を巡る競争が激化している。しかし、知的財産権の分野では、日本企業も国も、世界標準に大きく立ち遅れている。本書は元特許庁長官と科学専門ジャーナリストとの対話を通じて日本の知財戦略の問題点を分かりやすく解説した。
 まず日本の知財裁判の後進性を訴える。(1)企業が知的財産権の侵害を訴えても容易に勝てない(2)勝ったとしても補償金の水準が米国の100分の1と低い(3)判決が出るまでの時間が長い――の3点をあげている。こうした現状を改善し、特許庁は内外の国際企業に魅力的なサービス提供を目指すべきだという。
 特に、中小企業では、独自の技術を開発しても特許が十分に保護されず、容易に模倣されてしまう。その企業だけでなく、日本の産業界全体の損失となる。また、増える模倣品の輸入についても、税関の奮闘にもかかわらず、特許を専門とする弁護士の不足や高い手数料が、大きな制約となっている。これらに対して、中小企業の利益を代弁する「国選弁護人」活用という提案は興味深い。
 スポーツの世界記録は、どの国で達成されても認められるが、発明の審査は属地主義だ。特に日本の裁判所の判決が国際標準とかけ離れていることは、日本企業にとって不利な要因となる。欧州連合(EU)では一つの加盟国で承認された特許は、すべての加盟国で使える。日本もEUなどとの特許の相互認証を進め、「世界共通特許」を目指して取り組む必要がある。
 日本人のノーベル賞受賞者が増えても、独創的な研究成果の特許が日本企業の売上高や利益の増加に貢献していない。研究開発と一体的な経営戦略の不足によるものであり、韓国や台湾企業にも後れている。今後の知財戦略の重要な分野は農業と医療。成長可能性がありながら、国際競争力に乏しい。知財の活用により、富を生み出す源泉とするための改革が求められる。
 財産権が保障されなければ、市場経済は機能しない。本書で指摘される知財戦略の問題点は、他の構造改革の課題と共通している。特許庁長官という知財戦略の重要ポストが1年交代と軽視される官僚人事、司法試験合格者数の抑制に伴う質の高い法曹の不足、大企業内で知財の専門家を育てない日本的な雇用慣行などは日本経済の空洞化をもたらす要因だ。政府の知財戦略本部や、知財を専門とする高等裁判所の存在にもかかわらず、なぜ問題が解決しないのか。続編を期待したい。

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