日本大学の日台智明准教授らは、敗血症などで肺に水がたまって呼吸困難を起こす肺水腫の治療薬の候補となるたんぱく質の断片(ペプチド)を発見した。敗血症が原因で肺水腫を起こしたモデルマウスに投与して効果を確かめた。ペプチドの投与で細胞が伸びて液体が入る隙間を塞いだとみている。今後、製薬企業と共同で研究を進めたい考えで、5年をメドに実用化を目指す。
研究チームはケガをすると細胞が傷を埋めるように伸びる性質に着目した。血が固まるのに必要なたんぱく質の一部を構成する「F9―AP」と呼ぶペプチドに、細胞の伸びに関わる機能を見つけた。ヒトの扁平(へんぺい)上皮がんの細胞に引っかき傷を作った後にこのペプチドを投与すると、傷を埋める速度が上がった。 次に敗血症のモデルマウスで肺水腫の症状を再現して実験した。毒素で肺水腫を起こしたマウス群にペプチドと偽薬を分けて投与し、1時間後に肺を取り出して重さを測定した。偽薬を投与したマウスは肺に水がたまって重くなっていたが、ペプチドを投与したマウスはもとの重さに戻っていた。 このペプチドはもともと体内に存在する物質のため、安全性は高いという。実験では投与後30分程度から効果があったため、死亡率が高い急性の呼吸窮迫症候群などにも適用できるとみている。今後、さらに大型の動物で安全性と有効性を確かめる。 人間の肺は肺胞と呼ぶ袋状の組織に空気を入れて酸素を取り込む。毛細血管が肺胞を取りまいており、敗血症やアレルギー、心不全などの疾患が血管表面を傷つける。微小な損傷ができると、そこから血液の液体成分が漏れ出す。 液体がたまると肺胞での酸素の取り込みが邪魔される。この状態が肺水腫であり、重症化すると呼吸困難になる。主な治療法は水分を除去する利尿剤などの投与だ。症状を改善する治療薬の開発が求められている。(八木悠介) ▼肺水腫 吸い込んだ空気は気道を通り、最終的に肺の中で肺胞と呼ぶ組織にたどり着く。空気中の酸素は肺胞を通じて周囲の毛細血管に送り込まれる。なんらかの原因で肺胞に水がたまってしまい、毛細血管に十分な酸素を送り込めずに呼吸が苦しくなるのが肺水腫だ。 心臓から全身に血液を送るポンプ機能が低下して血液が肺にたまる「心原性肺水腫」と、外傷や敗血症などで起こる「非心原性肺水腫」の2種類がある。非心原性肺水腫では肺の毛細血管の内側の細胞同士で構成する壁に隙間が生じることが知られる。 軽度の場合は利尿薬で水を取り除いたり、血管を拡張する薬を使ったりする対症療法が主流だ。重症の場合は人工呼吸器を使うが、専門の設備が必要になる。 |
2015年4月17日金曜日
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