2015年4月17日金曜日

SONY転生デバイスで変える(3)機器と人、心交わす日、画像センサー、感情認識に挑む――センシング、事業領域拡大。

車の安全・安心に活用
 スタンリー・キューブリック氏が監督・脚本を務めた映画「2001年宇宙の旅」。この作品に登場する人工知能を備えたコンピューター「HAL9000」が、ソニーの画像センサーの未来を占うヒントになる。
 「画像センサーが果たす究極の役割はHALのようなパーソナルコンシェルジュを身近にすることだ」。ソニーセミコンダクタ(熊本県菊陽町)の上田康弘社長は語る。映画に登場する瞳のような形状をしたHAL9000は人と心を交わす。
 コンピューターが人間と心を交わすために必要な情報を得るキーデバイスとして重要になるのが画像センサーだ。「画像センサー技術を心の状況まで認識できる次元にまで高めたい」(上田氏)。ソニーは「感情センシング」と呼ぶ画像センサーで人の感情をとらえる技術の実用化に向け研究に乗り出した。
 この「センシング」はソニーの画像センサーの事業領域を広げる技術戦略の柱となる。例えば、高速で移動中に物体を正確に捉えたり、暗闇でも対象物を認識したりする。現在はスマートフォン(スマホ)やデジタルカメラなどで肉眼で見える世界を忠実に再現する「イメージング」が主体だが、センシング領域に軸足を広げることで、事業機会を増やす。
 デバイス&マテリアル研究開発本部長の平山照峰業務執行役員SVPは「肉眼では見えない可視光以外の光の波長などを捉えられる進化の道もある」と話す。特殊な光の波長を野菜に当てて、画像センサーで鮮度を判定する世界も夢ではない。
社会課題を解決
 センシング領域でソニーが足元で最も注力するのが車載だ。鈴木智行副社長は「単に画像センサーの部品だけを供給するつもりはない」と語る。暗闇で人を捉える画像認識や悪天候でも鮮明な映像にする画像抽出などのシステムまでも手掛け、「これらを車の制御系に反映させる総合的なソリューションまでを開発したい」という。
 「伝説的なデモンストレーションをありがとう」。昨年10月下旬、ソニーの車載用画像センサーのチームは欧州のある大手自動車メーカーの担当者から称賛された。
 ソニーが用意したのは、車載向けに専用で開発した画像センサーのデモだ。真っ暗闇の部屋にこのセンサーを置き、離れた場所にいる人の顔を映し出す。モニターに真っ暗闇のなかで顔が鮮明に浮かび上がると、驚嘆の声が上がった。車載用の画像センサーは今年12月に量産出荷を始める。
 これまで画像センサーの車載への転用では一定の距離を置いてきたソニーの方針が転換したのは昨年秋だ。車載用の画像センサーに本格参入すると発表し、画像センサー業界内に衝撃を与えた。「ソニーの本気度はどれくらいなのか」。この知らせを聞いた韓国サムスン電子の担当者から日本の取引先に問い合わせが相次いだほどだ。
 車載用の開発に着手したのは2012年夏にさかのぼる。ただ、道のりは平たんではなかった。
 「乗用車は10年、商用車はそれ以上の保証が必要で、簡単にやめられませんよ」。ソニーのイメージングシステム事業部ISビジネス2部の綿谷行展統括部長は、自動車メーカー担当者から疑念をもたれたことがある。
 ソニーは消費者向けエレクトロニクス商品の印象が強い。市場環境の変動が大きく、生まれてすぐに消えた商品も少なくない。人命にかかわる自動車ビジネスに参入する覚悟を問われたわけだ。「本気で臨む。時間はかかるかもしれないが、自動車業界で信頼を高めたい」(綿谷氏)
 自動運転車開発ベンチャーのZMP(東京・文京)にも出資し、画像センサーの応用領域を広げていく。車載イメージングソリューション事業室1課の相沢康正プロダクトプランニングマネジャーは「センシングの技術は車の安心・安全に貢献できる」と話す。技術を社会課題の解決に役立てるという従来のソニーになかった挑戦だ。
競合に先手打つ
 デバイス部門の強みは、将来の技術展望を描き、ライバルに先んじて手を打つというロードマップ戦略を地道に実行している点にある。トランジスタやCCD(電荷結合素子)などの技術の筋を見極めて先行投資し、「技術のソニー」を引っ張った岩間和夫元社長から引き継がれる魂だ。
 今でこそわが世の春のCMOS(相補性金属酸化膜半導体)画像センサーだが、CCDからの切り替えに遅れ、実は最後発の参入だった。逆襲のきっかけとなったのは、光を効率的に受けられ、感度2倍に高められる「裏面照射型」の革新的なCMOS画像センサーだった。アイデアは古くからあったが、量産が難しいとされていた。開発を指揮した平山SVPは「CCDを上回る感度を出す技術はこれしかない」と技術の筋を見極め、十数人で開発に着手した。
 当初は反対の声も少なくなかったが、ソニーには難路に挑む者たちを応援する文化がある。その技術は積層型へと進化しソニーを支える。「トップに立ち続けるには、他社と異なるモノを出さなければならない」と語る平山SVPは今、画像センサーのロードマップを2024年まで描いている。未来を自ら描き、現実化に挑む。攻勢に転じるソニーに求められる気概だ。

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