2015年4月17日金曜日

SONY転生デバイスで変える(4)完成品部門揺さぶれ、超短焦点プロジェクターなど表舞台――ヒット不在の中、社内活性化。

壁破り組織の融合狙う
 「平井さん、ちょっとこちらに来ていただけますか」。2013年8月、ソニー厚木テクノロジーセンター(神奈川県厚木市)で開かれた夏祭りに参加した平井一夫社長は、ある技術のデモンストレーションに突然、招かれた。
 そこで平井社長が見せられたのは、キューブ形状の携帯型プロジェクターだ。単なる小さなプロジェクターではない。「超短焦点」と呼ぶソニーの最先端の技術を備え、壁との距離が0センチメートルから投写が可能で、最大50型の映像を見られる。
 実用化すれば、壁や机、外出先など場所を選ばずに映像を気軽に楽しめる新たな映像体験を消費者に提供できる。技術の潜在力を直感した平井社長は、生活空間のなかで新たなAV(音響・映像)体験の創出を目指すコンセプト商品群「ライフスペースUX」の商材に加える判断を下した。
社長に直談判
 ゲリラデモを仕掛けたのは、プロジェクター用デバイスの開発チームだ。コンセプトが斬新なだけに、デバイス側から提案をしたもののセット(最終製品)側が採用をためらう日々が続いた。
 そこで直談判という一計を案じた。ディスプレイデバイス事業部ディスプレイデバイス1部2課の吉永朋朗統括課長は「眠っている技術を使って、ソニーの既存の商品にはない畑違いのプロジェクトを作りたかった」と振り返る。
 デバイス発で新規事業を創出しようという試みが活発になってきている。これまでは「セットの差異化を促す技術の担い手」という裏方を演じてたが、表舞台に躍り出てきた格好だ。
 身にまとうIT(情報技術)機器「ウエアラブル端末」も中長期の展望で仕込む種のひとつだ。メガネやゴーグルなどに簡単に取り付け・取り外しができる「スマートアイグラスアタッチ!」もデバイス発の新商品だ。
 0・23型の超小型有機ELディスプレーを機器の先端部に搭載。メガネにこの機器を装着すると、利用者は約2メートル先に16インチ型ディスプレーと同等の映像を見られる。
 こうした動きの背景には、エレクトロニクス商品のトレンド変化が激しさを増していることがある。ディスプレイデバイス事業部の阿部文明事業部長は「商品形態が正常進化するようでは新しい成長を描きづらくなっている」と話す。従来型のビデオカメラが低迷するなか、身にまとう小型カメラで新市場を創出した米ゴープロが好例だ。
 既存の肥大した組織で新たな挑戦をしようにも、制約が課せられることが少なくない。そこで自由な発想で技術の用途を生み出せるデバイス部門の出番が増えた。
 制約のない自由な発想は、ソニーが3月に新規参入した化粧品分野で発揮された。肌解析システム「ビューティーエクスプローラー」は画像センサーの開発チームがけん引した。ソニーセミコンダクタ(熊本県菊陽町)の上田康弘社長は「グループを見渡して既存の事業部門が手掛けていない成長領域に、デバイスからまず仕掛ける」と強調する。
 4月にはデバイスソリューション事業本部内に新規事業部門を新設した。単発で仕掛けていたこうした新規事業の創出の動きを組織的にサポートし、確実な事業化を後押しする狙いだ。
 ヒット商品が生まれず縮小が続くエレキ商品。この負の流れを断ち切るべく、デバイス発の新規事業の創出でセット部門を揺さぶり、社内を活性化する試みだが、デバイス部門にはもうひとつの役割が期待されている。異なる組織をつなげるという扇の要の役割だ。
技術で横串、課題
 「デバイス発の商品を大きく育てようにもデバイス部門にはそのノウハウがない」。阿部氏はこう指摘する。上流の基礎研究を担う研究開発(R&D)部門からデバイス部門、セット部門までを「技術をもって横串をさしてつなげていくのが課題だ」(鈴木智行副社長)と強調する。
 ソニーは15年度からの3カ年の中期経営計画で「分社化の推進」を組織変革の柱にかかげた。すでにスマートフォンやテレビ、ゲームなどは分社されているが、10月に携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」などを担うビデオ&サウンド事業も分社化され、将来、全事業が分社される計画だ。
 結果責任の明確化や意思決定の迅速化が狙いだが、社内からは危惧の声もあがる。分社された子会社が既存の事業領域のみに集中し、異なる分野への挑戦や新しい市場の創出のような活動が低下するという懸念だ。
 鈴木副社長は「カギは分社化された子会社の経営者が横とつながる姿勢をもつこと」と指摘。「現場の連携を強められるかどうかが、分社の最大の課題だ」と話す。
 かつてのソニーは共同創業者の井深大氏と盛田昭夫氏が「ものづくり」と「ビジネス」で役割分担し、岩間和夫元社長が「技術」で支えた。平井社長は「イノベーションで感動をもたらすことがソニーのミッション」と語る。創業者世代が去った後、イノベーションの新たな仕組みをどう再構築するか。「SONY転生」の絶対条件だ。
(次回は「デジタルBiz&Tech」面に掲載します)
【図・写真】壁に貼り付けられるプロジェクターの小型版(写真上)と、壁に大画面映像を映すプロジェクター(同左下)、眼鏡に装着できる「スマートアイグラスアタッチ!」

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