2015年4月17日金曜日

iPS細胞、実用化段階へ、京大・東大、特許活用に動く、供与方式、企業利益に配慮。

 再生医療の重要な鍵を握るiPS細胞が研究段階から実用化の領域に進みつつある。研究段階の基本特許では京都大学が世界に先行してきたが、実用化に近づくにつれて東京大学も存在感を高めている。両大学がiPS細胞の実用化を推し進めるため、知財戦略にどのように取り組もうとしているのか。それぞれの動きを探った。(松田省吾)
 「場合によっては1社に特許を独占的にライセンスすることを認める」。京大のiPS細胞関連特許の管理会社、iPSアカデミアジャパン(京都市)は最近、知財戦略を転換した。iPS細胞を使った再生医療事業を企業に促すには、1社に独占的にライセンスして利益を確保しやすくすることも必要になるとみるからだ。
 これまでは特許を1社だけに独占的にライセンスすると他の企業と連携する大学などの研究者が研究できなくなる恐れがあるため、認めてこなかった。iPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥・京大iPS細胞研究所長による多くの研究者に研究の機会を提供したいとの意向が反映している。
ビジネスを意識
 方針を改めたのは、ビジネスを意識する段階に入ったからだ。これまで京大にはiPS細胞そのものの作製に関する特許を世界中で早期に取得することが最重要課題だった。京大は約30カ国・地域でiPS細胞の作製にかかわる基本特許を取得する成果を収めた。
 いまの課題はiPS細胞から目や心臓など再生医療に利用する細胞をつくる特許の取得と活用だ。京大はiPS細胞から心臓や骨格筋などの細胞をつくる特許を日米欧で計6件取得済み。現在、京大iPS細胞研では、再生医療につながる細胞をつくる技術の出願が全体の4割を占めており、主戦場と捉えている。
 これらの特許を使った再生医療の実用化には「企業の力が必要で、事業面で利益がでるようにしなければならない」と白橋光臣社長は話す。ただし、1社に独占させると多くの研究者の研究を妨げる恐れのある特許は引き続き独占的なライセンスは認めない方針だ。
 もっとも、具体的にどうライセンス方式を使い分けるかは簡単ではない。京大は日本製薬工業協会などとも相談しているが、特許の保護と活用を巧みに使い分ける例に挙がるのは米アップルなどIT(情報技術)関連企業ばかり。iPS細胞研の高尾幸成・知財管理室長は「バイオ関連では我々が成功例を作らなければならない」と話す。
 東大も動き出した。東大医科学研究所の中内啓光教授らは東大から独占的ライセンスを受けた、iPS細胞からすい臓や肝臓などの臓器を再生する特許の管理会社、iCELL(東京・港)を09年に設立。さらに昨年には米国での事業開始を視野に臓器再生にかかわる技術の実用化を目指す子会社も設立した。
 今年1月には中内研究室から生まれたiPS細胞を使った臓器再生技術にかかわる基本特許が国内で成立した。ヒトや動物のiPS細胞を動物の体内に入れて、ヒトの移植に使える臓器をつくる技術だ。これまでネズミやブタなどの細胞で成功しており、ヒトの細胞でも期待されている。
 両社を率いる三輪玄二郎社長は「iCELLは中内教授による発明の実用化を目指す技術移転機関(TLO)として設立した」と話す。中内研究室からは再生医療にかかわる10件以上の特許が生まれ、米国企業などからライセンスの依頼が届き始めている。
日米ですみ分け
 iCELLの知財戦略の基本は、競合他社などと相互に特許を利用できるようにするクロスライセンスだ。米ベンチャー企業などが求める特許を供与する代わりに相手からも有望な技術を導入し、日米など地域ですみ分けできるようにする狙いだ。臓器再生などに利用する家畜は輸送の問題があるため、国ごとに企業が分かれるとみる。
 東大と京大はiPS細胞の研究で競争するだけではなく、協力関係にもある。iCELLのグループ会社、メガカリオン(京都市)は中内教授と京大iPS細胞研の江藤浩之教授らの研究成果の事業化を目指す企業。iPS細胞から血小板を量産しようとしており、iPSアカデミアジャパンも出資している。
 メガカリオンでも社長を務める三輪社長は「京大はiPS細胞の基本特許で多くの研究者が利用できる広い土台を作った。我々はその上に乗っており恩恵を受けている」と話す。京大と東大がそれぞれの知財戦略に磨きをかければ、企業が連携できる場がさらに広がることが期待される。

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