2011年7月19日火曜日

抗がん剤開発に拍車、遺伝子の後天的制御を標的に、米社が日本で承認。

国内勢も導入へ
 7月1日、米メルク社の日本法人であるMSDが、日本における皮膚T細胞リンパ腫の治療薬「ゾリンザ」の販売承認を獲得した。単なる希少疾患薬(オーファンドラッグ)ではない。最近急速に解明されつつある新しい生命現象、エピジェネティックス(遺伝子の後天的制御)と呼ばれる新たな創薬標的を射抜く、画期的な抗がん剤である。
 エピジェネティックスはバイオテクノロジーにおけるポストゲノム研究の有望株。例えば国立がん研究センターのグループが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染による胃の慢性炎症がエピジェネティックス異常を蓄積し、胃がんを生じることを解明するなど、エピジェネティックスの異常ががんを引き起こすことが続々と報告されている。
 従来の化学抗がん剤はがん細胞が増殖するために必要なたんぱく質や酵素を標的にしてきた。最近では、がん細胞にだけ特異的に生産されるたんぱく質を標的にした抗体医薬や、がんが増殖するために必要なリン酸化酵素を阻害する標的医薬、そして細胞内で老廃物となったたんぱく質を分解する酵素を阻害する新規の抗がん剤まで現れた。
 こうした厳しい抗がん剤開発競争で、ゾリンザが標的とするのは、遺伝子のスイッチを調節するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)だ。ゲノムDNAと結合し、染色体の構造を緩めたり、締めたりする働きがある。これを阻害すると、がんで盛んにスイッチが入っていた増殖関連遺伝子などをオフにし、最終的には細胞死を誘導する。米国では既に2種類の医薬品が発売されており、ゾリンザは日本初のHDAC阻害剤となった。
 今年1月には日本新薬がビダーザというエピジェネティックス新薬を発売している。これは日本で発売されたDNAメチル化酵素阻害剤の第1号だ。前がん状態とも言える骨髄異形成症候群の治療薬である。
 エーザイはMGIファーマを買収し、DNAメチル化阻害剤のダコジェンを獲得、急性骨髄性白血病治療薬として米国で開発を進めていた。今年6月に発表したフェーズ3臨床試験の初期の解析成績は失望に終わったが、投薬した患者を1年間追跡した結果、薬効を証明でき、近く米国で販売申請を行う計画だ。
 こうした実用化の成功がエピジェネティックス抗がん剤開発に拍車を掛ける。今や抗体医薬や標的医薬の次の戦場と言われるまでになった。
 実際、2008年4月、武田薬品工業が抗がん剤開発のベンチャー企業、ミレニアム・ファーマスーティカルズを88億ドルで買収したが、ミレニアムの旧経営陣はその資金でエピジェネティック抗がん剤開発のベンチャー企業、コンステレーション・ファーマシューティカルズを創設した。
 1周遅れが許されないことに気付いた武田やエーザイなど国内大手製薬企業も現在、エピジェネティックス抗がん剤導入に走っている。抗がん剤だけでなく、精神疾患に至る幅広い治療薬開発の可能性も秘めている。エピジェネティックス医薬は、企業の今後の成長性を占う試金石となる。

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