京都大学iPS細胞研究所は、再生医療へ応用を目指す新型万能細胞(iPS細胞)の特許戦略を見直す。研究成果を幅広く特許にしてきたが、取得特許を絞り込む方針に転じる。特許の保有などにかかるコスト負担を一大学で担うのは重すぎるためだ。日本発の成果をどう生かすのか国や企業を含めた日本全体で考える時期に来ている。 京大は山中伸弥京大教授ら先端研究者を集め、出願した特許を所持し続けるかどうかを判断する基準の策定づくりに着手した。11日には作製技術の特許が欧州で初めて成立したと発表したが、拡大一辺倒の戦略を改める。 iPS細胞の特許は、再生医療に不可欠と分かれば価値が高まる。ところが現在の研究水準ではまだ治療までの道のりは長く、どの技術が主流になるのかを見通すのは非常に難しい。 iPS細胞の特許は作製法関連が多い。細胞に加える遺伝子の種類が違うと特許の権利は及ばない。特許をいくつか押さえるだけで将来の臨床応用を有利に運べるほど簡単ではない。 そうなると相当数の特許を押さえなければならない。だが、大学が膨大な特許を囲い込む戦略は長くは続かない。 京大は約70件の特許を出願済み。成立した特許権は国内3件。海外は欧州の1件のほか、ロシアなど旧ソ連9カ国で効力を持つユーラシア特許や南アフリカ、シンガポールでそれぞれ1件取得。出願や保有に年間の出費が数千万円にもなる。 松本紘総長は「特許の維持や申請などの費用は大きい。国などに支援を受けたい」と訴える。山中教授は「知財の専門家をどう(継続して)雇用するのかも今後の課題」と話す。 iPS細胞ほどの最先端研究となると進歩が早く、技術はすぐに時代遅れになる。今回取得した欧州の特許は2005年の国内出願がもとになったが、権利成立までには長い歳月がかかる。主流から外れた技術を持っているのは無駄だ。必要な特許の絞り込みなどコスト削減が急務となっている。 京大が特許取得に力を入れてきたのは「企業ではなく大学が特許を保有すれば、誰にでも安価に実施権を提供できる。研究者が安心して研究でき、(結果的に)京大発のiPS細胞の治療応用の実現が近づく」との思いからだった。 それでも実用化が近づいたときには海外などで特許を巡る訴訟も予想される。京大の特許は米国でも成立する可能性が高いが、権利の抵触や無効を訴えられるリスクが指摘される。特許訴訟1件で数億円の負担が予想されており、大学が対処するには限界が見えている。 再生医療の普及時は、企業や研究機関は互いのiPS細胞特許を自由に使えるようにする現実的な対応を探るとみられる。 そのときまでに本当に必要な特許をどれだけそろえておけるのか。特許取得を絞り込む京大は、研究成果の将来の価値を見極めるという新たな課題と向き合う。 |
2011年7月19日火曜日
京大のiPS細胞特許戦略、取得絞り込みに転換、保有のコスト抑える。
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